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第三十三話「ゴブリンロードを偵察しに行ったエリカがとんでもない手土産を持って帰ってきた件について」

 エリカと酒場の隅まで移動し、他人には聞かれない様に耳打ちをする。


「正直、この街の冒険者と衛兵でゴブリンロードと酒呑童子を退けられると思う?」

「無理だろうな。敵はゴブリンを従えるBランク、火属性のゴブリンロード。そしてCランク、雷属性のオーガを従えるBランク、雷属性の酒呑童子(しゅてんどうじ)。ここに居る雑魚ではどう考えても太刀打ち出来る筈がない」

「あまり冒険者を挑発する発言はしない様に……」


 エリカが雑魚発言をするや否や、冒険者達がエリカを睨みつけた。

 冒険者として向上心があれば、迷宮都市アドリオンを拠点にするのが一般的だ。

 イステル周辺はアドリオンよりも魔物の生息数が少ない。

 そして平均レベルもランクも低い。


 そんな街が、どういう訳か今回に限ってBランクの魔物に目を付けられている。

 むしろ冒険者のレベルが低いからこそ、魔物は侵略が容易だと判断した可能性もある。


「私が敵を偵察してきてやろうか?」

「本当?」

「ああ。だから……もう少し私と過ごす時間も作ってくれ……最近ラインハルトはアナスタシアの事ばかり見ているから、私は……私は胸のあたりが苦しいぞ……」

「ごめん……だけどくれぐれも気を付けるんだぞ。俺はいつでもエリカの事を想っているよ」

「気を付けろ? お前は私を誰だと思っている。ブラックドラゴンである私がゴブリンを従えるだけの無能に負ける筈がないだろう? それに、オーガとは本来人間を襲う魔物ではない。酒呑童子は見た事が無いから分からないが、イステルを襲撃する理由も理解出来ない」

「え? オーガは人間を襲わない? 俺が所属していたギルドではオーガに殺された冒険者も居るんだけど」

「少なくとも、私が外に居た時代のオーガは人間を助ける存在だった。見た目は恐ろしいから、オーガと積極的に関わろうとする人間は居なかったがな。まぁ安心していろ。まずはゴブリンロードを見つけ出してやる」


 エリカは優しい笑みを浮かべてから、気分を切り替えるために精神を統一した。

 エリカの肉体から強烈な火の魔力がほとばしり、周囲に熱風が吹いた。


 エリカの殺意を込めた本気の魔力に触れるだけで恐怖を感じる。

 ダンジョンで俺を攻撃した時もこんなどぎつい魔力を放っていたな。

 彼女の魔力に触れるだけで、生物的に捕食される側に位置している事を思い出す。


「それでは行ってくる」


 エリカはそう言うと、酒場を飛び出して一気に跳躍した。

 背の高い建物の屋上に飛び乗ると、次々と建物を飛び移り、夜の闇に消えた……。


 それから厨房に入ると、店主が俺の隣に立ち、肩に手を置いた。

 三十五歳程の金髪の爽やかな巨漢。

 とても酒場の店主とは思えない体格をしており、身長は百九十センチを超えている。


「おい小僧。注文が来たら料理を手伝ってくれ!」

「え? 俺が店の料理まで作るんですか!?」

「そうだ! 見ず知らずのお前に厨房を貸してやってるんだからな! それと、あの銀髪の子をホールに立たせてくれ。彼女が店に入ってから注文が殺到してるんだ」


 アナスタシアの美貌に見とれて酒場に入る冒険者が多いのだろう。

 仕事を終えた衛兵達も続々と店内に入ってきた。


 俺は決して働きに来た訳ではない……。

 だがこういう無茶ぶりには五年間も耐えてきた。


「俺はこの酒場の店主、デニス・ディーンだ」

「俺は冒険者のラインハルト・シュヴァルツと申します」

「何だって!? お前がシュヴァルツ!? ソロモン王から加護を授かったという冒険者か?」

「はい、そうですが……」

「この街はお前の話題で持ち切りだぞ! 俺の厨房をラインハルト・シュヴァルツに貸せるとは光栄だ! さぁ仕事をするぞ! まずは焼き鳥を頼む!」

「わかりました、焼き鳥ですね」


 こうして俺はデニスさんと共に厨房で料理を始めた。

 フローラはお稲荷さんを作るためにすし飯を作り始めた。

 アナスタシアはまるでメイドの様なエプロンドレスを身に着け、オーダーを取っている。


 俺達パーティーは何故忠実に勤労しているのだろうか……。

 だがそんな細かい事はどうでもよい。

 腹を減らして料理を待つ冒険者が居るなら、俺が料理を作るだけだ。


 料理を食べて貰い、体力を付けて魔物を狩って貰う。

 それが勇者のサポーターをしていた俺の仕事だった。

 勿論、俺は今でも魔物娘のサポーターである。


「ラインハルト! チャーハンと焼きそば頼む!」

「はい! フローラ、チャーハンを任せても良い?」

「勿論です。ゴールデンスライムのチャーハンにしちゃいますよ!」

「おう、そっちの姉ちゃんもやる気があって良いじゃねぇか! 今日はたっぷり働いて貰うぜ」

「いや……俺達従業員じゃないですから……」


 エリカの帰りを待ちながら冒険者に料理を提供する。

 久しぶりに忙しく厨房で働くのも良いものだ。

 実家で暮らしていた時は週に五日、無給で両親の店の手伝いをしていた。


「デニスさん、後でちゃんと給料貰いますからね」

「勿論だ!」


 ガチムチの店主と共に厨房で奮闘する。

 アナスタシアが次々と注文を取ってくるので、調理の速度が追い付かない。


 チャーハン、焼きそば、オムライス、焼き鳥、しまいには手巻き寿司まで。

 何か簡単に作れて冒険者達を満足させられる料理があれば良いのだが……。


「ラインハルト! 今戻ったぞ」

「エリカ!?」


 エリカが店の入り口で俺を呼ぶと、巨体の魔物が横たわっていた。

 え……?

 何、あの魔物。

 もしかして、キマイラか……?


「キマイラのステーキを焼いてくれ! ゴブリンロードを偵察していたら襲い掛かってきたんだ」


 エリカの言葉に冒険者達が愕然とした表情を浮かべる。


「キマイラって……確かBランクの魔物だよな!? ゴブリンロードと一緒になって冒険者を襲い続けていた」

「そうだ! Bランク、雷属性のキマイラ! あんな子供がキマイラを討伐だって? しかも、どうやって運んできたんだよ!? 体長四メートルはあるじゃねぇか!」


 まるで巨体のライオンの様な魔物が、心臓に穴が開いた状態で息絶えている。

 まさか、エリカがたった一人でキマイラを仕留めてしまうとは。

 しかもゴブリンロードを偵察するついでに討伐したのだ。


 ありえない……。

 Cランクの中堅冒険者が討伐隊を組んでも倒せるかどうか分からない。

 そんな凶悪な魔物をエリカは「ステーキが食べたい」という理由で狩った。


「何を驚いている? キマイラ程度の魔物は目を瞑ってても一撃で仕留められるぞ」

「冗談だろう? Bランクの称号を持つギルドマスタークラスの冒険者でもやっと討伐出来るレベルの魔物だぞ!? 本当にお嬢ちゃんが倒したのか? 大人に手伝って貰ったんだろう?」

「何を馬鹿な事を言っている? そんなに信じられないなら、私の力を見せてやろう」


 エリカがおもむろに片手でキマイラの死体を持ち上げる。

 巨体の魔物を持ち上げながら、軽々とジャンプし、キマイラの死体を地面に叩きつけた。


 いやいや、ありえないだろ……。

 エリカってこんなに怪力だったのか?


 途方もないエリカの怪力を目にした冒険者達が言葉を失っている。

 俺自身、エリカの身体能力を侮っていた。

 エリカは人間の状態でも最強だったのだ。


「でかしたぞ、エリカ! すぐにステーキを焼くからキマイラを解体してくれ!」

「わかった。おい、誰か刃物を貸してくれ」


 冒険者がエリカにロングソードを渡すと、エリカは強引にキマイラを捌いた。

 何なんだ……これは。


 エリカがBランクの魔物を外で討伐し、軽々とイステルまで運んできた。

 俺は仲間の力を正確に理解していなかったのだろう。

 そもそもAランクの魔物は一体で一国を滅ぼす力を持つ。


 アナスタシアは温厚な性格だから争いを好まない。

 だが、エリカなら大暴れすれば国を落とせるのだろう。

 勿論、翼を片方失ったエリカは、本来の実力を出し切る事は出来ない。


 エリカが肉を切り取ると、デニスさんがステーキを焼き始めた。

 俺はアナスタシアのためにお稲荷さんを完成さる。

 フローラは次々とゴールデンスライムのチャーハンを量産中。

 そしてレーネはサラダを作り、冒険者達に配っている。


「ラインハルト、どうせ私一人ではキマイラの肉を食いきれん。こいつらにも分けてやってくれ」

「良いのか? それじゃありがたく使わせて貰うよ」


 冒険者はエリカの粋な計らいに熱狂的な歓声を上げた。

 酒場に居る冒険者達は俺達パーティーの酒代を全て払うと言ってくれた。


 そうして俺とデニスさんは延々とキマイラの肉を焼き続け、冒険者達に提供した。

 料理を作り終え、パーティーの準備が整うと、俺は遂にデニスさんから解放された。


「ご苦労さん! 最高の働きぶりだったぞ!」

「ありがとうございます。俺も楽しかったですよ。それでは俺達はパーティーを始めますので、厨房は任せますね」

「ああ! もうオーダーは来ないだろう。みんなキマイラの肉で満足しちまってるからな! 俺も後で合流していいか? キマイラをぶっ倒しちまう冒険者の話が聞きたい!」

「勿論良いですよ」


 デニスさんが俺の肩を激しく叩き、嬉しそうに微笑むと、俺達はやっと席に着いた。


「レーネの人間化と、イステル到着を祝して、乾杯!」


 すっかり疲れ果てた俺達は早速パーティーを始めた……。

連載開始から七日経ちました。

ハイペースで更新を続け、文字数が遂に10万字を超えました。

10万字と言えば文庫本換算で約一冊分。

ここまで読み続けて下さった読者の皆様には感謝してもしきれません。

これからも物語にお付き合頂けると光栄です。


この物語の続きが気になる方、楽しいなと思って頂けた方、是非評価をお願いします。

執筆活動の励みになります。

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