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第三十二話「アナスタシアが『わらわはお稲荷さんを所望するぞい』と言って聞かないので、レーネの歓迎パーティーでお稲荷さんを作ろうと思う」

 レーネを封印した事により、新たな魔法も三種類も習得した。

 風を作り出すウィンド。

 風の塊を飛ばして対象を攻撃するウィンドショット。

 武器に風を纏わせ、攻撃速度を上昇させるエンチャント・ウィンド。


『ラインハルト、弓に風の魔力を込めて。そうすれば矢を放てると思う』


 レーネの指示に従い、左手に持った弓に魔力を込める。

 それから矢を持たない状態で弓を引く。


 瞬間、風の魔力から出来た矢が現れた。

 風の弓は魔力から作り上げた矢を放つマジックアイテムなのだろう。

 空に向かって適当に矢を放つ。


 風の魔力から出来た矢が高速で空を裂くと、市民達が一斉に空を見上げた。

 弓に対して魔力を込めれば、矢を放つための筋力は殆ど必要としない。

 なんと便利な武器だろうか。


 この弓があれば都市の付近に潜むゴブリンやオーガを仕留められるかもしれない。

 城壁に上り、酒呑童子やゴブリンロードに対して矢を射れば確実にダメージを通せる。


「なかなか攻撃力が高そうだな」

「そうじゃの。今度わらわの防御魔法に対して放ってみるのじゃ。破壊力を試すには良いじゃろう?」

「ラインハルトさん、レーネさんが素敵な武器になって良かったですね」


 仲間達がレーネを称賛すると、俺はレーネの武器化を解除した。

 弓が小柄な少女に変わると市民達は愕然とした表情で俺達を見つめた。


 レーネは俺を見上げ、嬉しそうに微笑んでいる。

 レーネの頭を撫でると、彼女はつぶらな瞳を細めて俺に抱き着いた。


「レーネがラインハルトに近付く魔物を倒すの……」

「ありがとう、これからも頼りにしているよ」

「うん! 宿まで連れて行ってあげるから、レーネを元の姿に戻して?」

「わかったよ。レーネ・封印解除」


 レーネがウィンドホースの姿に戻ると、市民は歓喜の声を上げた。

 俺も初めて封印と武器化の力を使った時は感動したものだった。

 勿論、今でも新たな魔物を封印する瞬間は無上の喜びを感じる。


 それから俺達は馬車を走らせ、今日の宿を決めた。

 ゴブリンロードと酒呑童子の事も気になる。

 冒険者達が集まる酒場にでも行って情報収集をしようか。


 久しぶりの宿だ。

 馬車の家での生活も良いが、暫くイステルに滞在して英気を養いたい。

 五人で二部屋借り、まずは部屋割りを決める事にした。


「それじゃ、部屋割りを決めようと思うんだけど……」

「私はラインハルトさんと一緒の部屋にしたいです」

「べ、別に私もラインハルトと一緒の部屋で構わん! か、かか勘違いするなよ!? 決してお前から離れたい訳ではないからなっ!」

「わらわはどちらの部屋でも良いのじゃぞ……?」

「レーネはラインハルトと居たいな」


 仲間達が一斉に俺を見つめると、アナスタシアがエリカの肩に手を置いた。


「お主はわらわと一緒の部屋を使うのじゃ。ラインハルトはレーネに人間としての生き方を教えねばならん。今日は忙しくなるじゃろうからの」

「わかったわ。仕方がないからアナスタシアと同じ部屋で我慢してやろう」


 エリカはいつも通り顎を突き上げ、両手を腰の添えて偉そうに俺を見上げる。

 このポーズも何だか好きになっている自分に気が付く。


「エリカ、部屋は別だけどいつでも会えるんだから機嫌を悪くしないでくれよ」

「別に機嫌なんて悪くない。お前は好きなだけイチャイチャしていろ! 全く……ラインハルトったら全く……!」


 エリカは俺と同じ部屋になれなかった事が気に入らないのだろう。

 些細な事で嫉妬するエリカの性格は正直言って嫌いじゃない。


「荷物を置いたらロビーで集合しよう。まずはゴブリンロードと酒呑童子に関する情報収集をしようと思う。その後にレーネの歓迎パーティーを開こうか」

「ラインハルトや、わらわのお稲荷さんは忘れておらんじゃろうな?」

「大丈夫だよ。ちゃんと用意するから」

「そうかそうか、楽しみにしておるぞ」


 アナスタシアがエリカを部屋に押し込むと、俺達も早速部屋に入った。

 ツインベッドの広々とした空間。

 窓からはイステルの街を見下ろす事が出来る。


「ラインハルトさん、この部屋にはお風呂が無いみたいです」

「確か一階に温泉があった筈だよ」

「温泉って初めてなので、何だか楽しみです!」


 好奇心旺盛で、エリカの様に手のかからない素直なゴールデンスライム。

 フローラはやはり他人を癒すために生まれた存在なのだろう。

 一緒に居るだけで気分が落ち着く。


 闇属性に対して絶大な攻撃力を誇る彼女は、普段はサポート役として活躍している。

 エリカの様に接近戦闘は得意という訳ではなく、回復魔法のみを担当しているのだ。

 時には俺の盾となって魔物の攻撃を受ける。


 エリカは戦いになれば強烈な攻撃魔法で敵を駆逐する。

 エリカは有り余る力で敵をねじ伏せるが、アナスタシアは攻防のバランスが良い。

 ソーンバインドで移動を阻害しつつ、ロックストライクでとどめを刺す。


 徐々にパーティーも充実してきた。

 このパーティーでゴブリンのリーダーとオーガの頭を倒せるだろうか……。


 だが俺は姫殿下と合流するまでに力を付けておくと約束した。

 イステルを守るために、凶悪な魔物を討つために奮闘する時が来た様だ。


「ラインハルトさん、そろそろロビーに向かいましょうか」

「そうだね。レーネもおいで」

「うん!」


 レーネの小さな手を握り、フローラと共に部屋を出る。

 一階のロビーでエリカとアナスタシアと合流し、情報収集のために宿を出る。


 観光客で溢れる温泉街を見て歩きながら、冒険者達が集う酒場を探す。

 度重なるゴブリンロードと酒呑童子の襲撃により、冒険者達は疲労困憊している様だ。


 酒場ではBランクの魔物をいかに討伐するか議論が行われている。

 各冒険者ギルドが結託し、魔物の襲撃の備えて協議を重ねているのだろう。


 俺は酒場のマスターに厨房を借りる許可を取った。

 お稲荷さんを作りたいと頼み込んだら、二時間だけ厨房を借りられる事になった。

 勿論、厨房の使用料は払う。


 正直、出来合いの料理を買った方が安い使用料を払った。

 しかし、仲間にはなるべく手作りの料理を食べて貰いたい。

 特に今日の様なめでたい日には手作りの料理でもてなしたい。

 つくづく自分自身がサポーター向きの冒険者だと実感する。


「アナスタシアは情報収集を頼めるかな?」

「勿論じゃ。わらわに任せるが良い」

「フローラとレーネは俺の手伝いをしてくれるかな?」

「はい! 喜んで」

「レーネもお稲荷さん作る!」


 フローラとレーネは厨房に入り、アナスタシアは冒険者達に聞き込みを始めた。

 俺はエリカを呼び出し、二人で魔物討伐の作戦を練る事にした……。

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