第二十九話「森で捕らえた盗賊を衛兵に引き渡したらとんでもない大金を貰えたので、魔物娘達の新しい服を買おうと思う」
アドリオンを発ってから三週間。
俺達は遂にイステルに到着した。
背の高い城壁に囲まれた都市の正門に進む。
城壁はつい最近魔物に破壊されたのか、所々崩壊している箇所がある。
冒険者が多いアドリオンは魔物に城壁を破壊される事は無かった。
だがイステルは冒険者の数が足りていないのだろう。
周囲にはゴブリンやスケルトンを狩る衛兵の姿がある。
正門には全身に鎧を身に着けた衛兵が立っている。
二人の衛兵が手を上げて静止すると、俺は馬車から降りた。
「冒険者ならギルドカードを提示しろ!」
衛兵に命令され、懐からギルドカードを取り出して提示する。
『Lv.35 Cランク サポーター ラインハルト・シュヴァルツ』
属性:【火】【聖】【地】
魔法:ファイア ファイアショット エンチャント・ファイア ファイアボール フレイム ヘルファイア ヒール ホーリー キュア リジェネレーション アース アースウォール エンチャント・アース ストーン ストーンウォール ストーンシールド ロックストライク ソーンバインド メタモールファシス
召喚獣:Aランク・ブラックドラゴン Aランク・九尾の弧 Cランク・ゴールデンスライム
加護:ソロモン王の加護(言語理解・魔法習得・魔物封印・武器化・全属性魔法効果上昇・全属性魔法耐性上昇・呪い無効) 黒竜の加護(火属性魔法効果上昇) 妖狐の加護(地属性魔法効果上昇)
装備:国宝級・ソロモンの指輪(魔力回復速度上昇)
二人の衛兵が愕然とした表情を浮かべて俺を見つめた。
ギルドカードにソロモン王の名やAランクの魔物の名が明記されているからだろう。
それに、魔物の固有魔法も表示されている。
「もしかして……あなたがアドリオンでソロモン王の加護を授かったという冒険者様ですか!?」
「はい。そうですが……」
「ソロモン王から加護を授かった冒険者様がブラックドラゴンや九尾の狐まで召喚契約を結ばれているとは! これはもしかすると私達は命拾いをしたのかもしれないな……」
背の高い衛兵が相棒を見つめた。
槍を持った二十代程の衛兵が俺を見つめながら何やら嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ラインハルト・シュヴァルツ様! イステルはご覧の通り、魔物の襲撃によって城壁を破壊されておりまして……私達衛兵では太刀打ち出来ない高ランクの魔物が執拗にイステルを襲撃するのです……!」
「魔物が街を襲撃するという事は珍しくありませんが、一体どんな魔物がイステルを襲撃しているんですか?」
「Bランク、火属性のゴブリンロード。それからBランク、雷属性の酒呑童子です」
「え? Bランクの魔物が二体もイステルを狙っているんですか?」
「はい……! それもほぼ同時にイステルに攻撃を仕掛け来るので、私達ではとてもイステルを守り切れそうにありません……!」
ゴブリンの支配者であるゴブリンロード。
Eランク、地属性のゴブリンを従え、集団で村や町を襲撃する。
酒呑童子という魔物も人間に敵対していた筈だ。
生息数は少なく、Cランクのオーガを従える魔物だった気がする。
「オーガを従える魔物とゴブリンの支配者がイステルを襲撃ですか……」
「はい……もしよろしければ、暫くの間イステルに滞在して頂けないでしょうか? シュヴァルツ様はCランクではありますが、アドリオンではBランクのミノタウロスをも討伐したと聞きました!」
「ミノタウロスは仲間の力を借りて何とか討伐出来ましたが、ゴブリンを従えるゴブリンロードとオーガを従える酒呑童子を同時に相手するのは少々無理があるかと……」
俺の言葉を聞いた衛兵は意気消沈したのか、肩を落として俯いた。
冒険者として地域を守りたい気持ちはあるが、今回ばかりは相手が悪い気がする。
「そうだ、すっかり忘れかけていましたが、俺達はリヒター盗賊団のリーダーである、ハンナ・リヒターを捕らえました。イステルにはリヒターの引き渡しと、物資の補給のために訪れたのです」
「は……? あのリヒター盗賊団の頭ですか!? まさか! 我々衛兵でも尻尾を掴めなかったハンナ・リヒターを捉えたんですか!?」
「はい」
俺は縛り上げたリヒターを衛兵の前に立たせた。
衛兵が人相書きをとリヒターの顔を何度も見つめると、詰め所から衛兵達が現れた。
イステルの衛兵は今まで余程リヒターに苦しめられていたのだろう。
激昂しながら剣を抜く者も居れば、リヒターの胸倉を掴む者も居る。
「リヒターは討伐禁止種に制定されているシルバーフォックスを狩り、その毛皮を使って九尾の狐をおびき寄せました。盗賊団のメンバーと共に九尾の狐を狩るつもりだったのでしょうが、何とか俺達が阻止しました」
「シュヴァルツ様……あなたはリヒターに懸けられた懸賞金をご存じですか……?」
「懸賞金ですか? というより、リヒターは懸賞金が懸けられる程の罪人だったんですか?」
「はい。七人の市民を殺害し、貴族の屋敷を襲撃して金品を強奪。更にはイステルに魔物をけしかけて市民の生活を脅かし続けた盗賊団の張本人です。リヒターに襲撃された行商人も多く、闇属性を秘める魔物に武具を提供し、旅人や冒険者を襲い続けて略奪行為を繰り返していました」
「そうだったんですか……どうりで俺の仲間を人質に取ったりする訳ですね」
「はい。そしてハンナ・リヒターの懸賞金は500万ゴールドです……」
「はぁぁ!? 500万ゴールドですか!? ミノタウロスの討伐報酬よりも遥かに高いんですが……」
ミノタウロスはダンジョンの地下に生息し、冒険者以外の人間を殺す事はない。
ダンジョンに潜らなければミノタウロスと遭遇する事はないのだ。
だから市民がミノタウロスに殺されたりはしない。
ダンジョンから地上を目指す魔物に関しては衛兵が積極的に討伐する。
ミノタウロスの様に、地下に潜伏し続ける魔物は討伐報酬が安いという訳だ。
リヒターは観念したのか、暴れる事もなく静かに俯いている。
衛兵の詰め所からはミスリル製の立派な鎧を着込んだ男性が現れた。
恐らく彼がイステルの衛兵長なのだろう。
無言でリヒターに手錠を掛けると、俺に対して跪いた。
それから衛兵達も一斉に跪くと、俺は今更ながら大罪人を捕らえた事を理解した。
「私はイステルの衛兵長、マティアス・ロイスと申します。この度はハンナ・リヒターの引き渡し、誠にありがとうございます。これからすぐに懸賞金をお支払い致します」
黒髪を長く伸ばした三十代程の衛兵長は心から嬉しそうに笑みを浮かべた。
まさかリヒターがそこまで悪質な犯罪者だとは思ってもみなかった。
市民達もリヒターの逮捕を知り、熱狂的な拍手を送ってくれた。
エリカは人間に感謝される事が初めてだからか、呆然と市民を見つめている。
アナスタシアは小声で「わらわのお稲荷さんはまだかの?」と呟いた。
フローラは俺の手を握って嬉しそうに微笑んでいる。
「ラインハルトさん、ゴブリンロードと酒呑童子の討伐、挑戦してみませんか? 確かに敵はBランクの魔物ですし、大勢のゴブリンやオーガを従えていると思いますが、私達のパーティーにはAランクのエリカさんとアナスタシアさんが居るんですから!」
「そうだね……ランク的には俺達パーティーの方が勝っているけど。オーガって確かCランクの魔物なんだよ。酒呑童子が大勢のオーガを従えていたら、たとえエリカやアナスタシアでも厳しいんじゃないかな」
「大丈夫です。ラインハルトさんはイフリートにもなれるんですから!」
「外見だけだけどね……ひとまずゴブリンロードと酒呑童子に関する情報も集めてみようか」
それから俺達は大勢の市民から祝福され、イステルに入った……。




