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第二十四話「フローラが作ったチャーハンが美味しすぎたので、シュヴァルツ家の家庭料理を伝授しようと思う」

 早速チャーハンの準備を始める。


「フローラ、炊飯器を出してくれるかな」

「炊飯器って、この箱の事ですか?」

「そうだよ」


 箱型の炊飯器の底には火の魔石が嵌っており、魔力を込めれば持続的に加熱出来る。

 ボウルに米を入れ、フローラに米の研ぎ方を教える。

 なかなか飲み込みが早く、彼女は一発で米の研ぎ方をマスターした。


「研いだ米を炊飯器に入れて水をこのラインまで入れてごらん」


 米に見合った分量の水を入れて炊飯器の蓋を閉める。

 それから炊飯器に対して魔力を込めると、箱の表面に文字が浮かび上がった。

 残り四十五分。


「わらわは何かする事はないのかの?」

「アナスタシアは付近に盗賊が居ないか監視しててくれるかな?」

「それくらいはお安い御用じゃ。じゃが、わらわは戦闘はあまり好まんのじゃ」


 エリカはアナスタシアの手を握り、二人で御者台に乗った。

 俺達が料理をしている間に馬車を進めてくれるのだろう。


「全く仕方がない狐だな。敵が居れば私が倒してやるから、お前は手綱でも握っているのだ」

「エリカはぶっきらぼうな口調とは裏腹に、なかなか優しい性格をしているのじゃな」

「べ、別にお前のためなんかじゃないぞ! 私は常にラインハルトのためを思って行動しているだけだからなっ!」

「主の事を想って働くブラックドラゴンも居るのじゃの。やはり長生きはするものじゃ。良い子じゃ良い子じゃ」


 アナスタシアがエリカの頭を撫でると、エリカは恥ずかしそうに顔を隠した。

 なんだかこの二人は相性が良さそうだ。

 あとはウィンドホースも封印出来れば完璧なのだが。

 封印にはまだ時間が掛かりそうだ。


 それから俺はフローラにチャーハンの作り方を伝授した。

 リヒターは観念したのか、力なく座り込んで俺達を見つめている。


 暫く馬車を走らせると、リヒターの手下が襲撃をしてきた。

 敵がエリカの間合いに入った瞬間、強い炎が炸裂して敵を駆逐した。


 高速で走る馬車にエリカの強烈すぎる攻撃魔法。

 馬車に乗り込んでリヒターを奪還するというのはほぼ不可能に近い。


「皆さん! チャーハンが出来ましたよ!」


 鍋を振り続けていたフローラが汗を流しながら御者台の二人を呼んだ。

 エリカとアナスタシアは目を輝かせながら家に入った。


 フローラはチャーハンをアレンジしてゴールデンスライム風に仕上げた。

 目の部分に海苔を付けて表情を作っているのだ。

 米に卵が絡みついた金のパラパラチャーハン。

 まるでゴールデンスライムの様な形をしたチャーハンは何とも可愛らしい。


「これはフローラが作ったのか?」

「はい、アナスタシアさんのお口に合うか分かりませんが、食べてみて下さい……」

「わらわは好き嫌いはないから心配するでない。どんな物でもお主が愛情を込めて作れば最高の料理になるのじゃぞ」

「そう言って貰えて嬉しいです!」


 エリカは二人のやり取りを無視してチャーハンを食べ始めた。

 瞬間、エリカは鋭い三白眼を見開いて愕然とした表情を浮かべた。


「これは……!? 口の中で卵が絡み付いた小さな米が踊り、サイコロ状の肉がアクセントになっていてなかなか旨い! いくらでも食べられるな! い、いや……べべべ別にフローラの料理が最高に美味しいという訳ではないのだ! だがこの料理は全て私が平らげてやろう! 残すと勿体ないからな!」

「エリカさんにも喜んで貰えて嬉しいです!」

「うむ。フローラはラインハルトから料理を教わるべきだな。私のために旨い料理を作れる女になるのだ!」

「そうするつもりですよ。皆さんのために、ラインハルトさんのために……」


 アナスタシアはエリカとフローラを交互に見て俺に耳打ちをした。


「二人は深い信頼の絆によって結ばれているのじゃの」

「どうしてそう思う?」

「エリカは口では強がっていてもフローラと居る時は良い笑顔を見せる。それに、戦闘になれば誰よりも敵の注意を引いて勇敢に仲間を守る。フローラやラインハルトを守るために敵の攻撃を全身に受けたのじゃ……」

「確かに、エリカにはいつも助けられているよ」

「そしてフローラもまたエリカの強さに近付こうと奮闘している様じゃの。ゴールデンスライムにしては随分強い魔力を秘めているみたいじゃ」

「アナスタシアは二人とは仲良くなれそう?」

「勿論じゃ。わらわはこう見えて面倒見が良いのじゃぞ。森でも困っている魔物が居れば助け続けていたからの」


 アナスタシアが俺の手を握ると、彼女の心地良い魔力を感じた。

 地属性の使い手が新たに仲間になったのだ。

 これからは地属性魔法も練習しよう。


「ラインハルト、お主達は一体何処を目指しているのじゃ?」

「俺達の目的地はイスターツ王国、王都ファステンバーグだよ。第一王女からギルドに勧誘されて、王都にある冒険者ギルド・レッドストーンに向かっている途中なんだ」

「旅の途中で仲間を増やして強さを得ようと考えているのじゃな?」

「流石に理解力が高いね。その通りだよ」

「わらわを誰じゃと思っておる? そなたよりも何十倍も生きている九尾の狐なのじゃぞ?」

「そうだったね。見た目が若いから実年齢を忘れていたよ」

「若い姿で居られるのは良い事じゃ。ところで、わらわの容姿は人間の中でも美しい方かの?」


 アナスタシアが問うと、俺は改めて彼女を見た。

 フローラよりも豊かな胸に、綺麗に整った銀髪のミディアムボブ。

 魔物特有の赤と緑のオッドアイは控えめに言ってもかなり美しい。

 低身長だが成熟した肉体に思わず目が行く。


「相当美人だと思うよ」

「そうかそうか! それは良い事じゃ。わらわはずっと人間になりたかったのじゃ。こうして長年の夢も叶って、今日は誠に良い日じゃ」

「アナスタシアさん、私もアナスタシアさんは本当に美しいと思いますよ。ダンジョンで大勢の人間を見てきましたが、アナスタシアさんより綺麗な人なんて居ませんでしたからね」

「そうかそうか、それなら安心して街に入れそうじゃな」


 アナスタシアがフローラの頭を撫でた。

 フローラは心地良さそうに目を瞑り、アナスタシアに抱き着いた。


 アナスタシアの大きな胸の谷間にフローラの顔が埋まっている。

 イステルに着いたらアナスタシアの服も揃えなければならないな。


 食事を終えてから御者台に乗ると、エリカが俺の隣に座った。

 アナスタシアとフローラはリヒターを見張っている。


「ラインハルト……仲間が増えても私と遊ぶ時間は作るのだぞ」

「毎日一緒に居るじゃないか」

「そうだが……私は久しぶりに外の世界に出られたから、もっと毎日を満喫したいのだ……!」

「エリカは壺の中で一人で生きてきたんだよな。俺が出来る事なら何でもするから、その都度言ってくれよ」

「それなら……毎日私と一緒に眠るのだ……」

「え!? エリカと毎日一緒に?」

「そうだ! 何でもすると言っただろう? それともアナスタシアみたいな巨乳の女の方が良いのか……?」

「別にそういう訳じゃないけど……」

「それじゃ決まりだな! フローラはアナスタシアと一緒に寝て、私はラインハルトと眠る事にする」


 エリカは嬉しそうに微笑み、俺の肩にもたれかかった。

 やれやれ。

 ツンデレブラックドラゴンはどれだけ甘えん坊なのだろうか。


 だが。一人で年千もの時を過ごしてきたのだ。

 大半は眠って過ごしたと言っていた。

 それでも閉鎖的な空間に千年も居れば寂しさに耐える事は難しいだろう。


 今は少し俺に甘えたい時期なのだろう。

 暫くは彼女の我儘を聞いてあげよう。

 イステルに着いたらエリカの好物を沢山食べさせてあげよう。


 まずはイステルでリヒターを衛兵に引き渡さなければならない。

 盗賊に追いつかれない様に馬車の速度を上げ、急いでイステルに向かおう……。

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