第二十二話「九尾の狐を救って仲間に引き入れ、ハーレムパーティーを強化しようと思う」
ウィンドホースの背中に乗り、高速で森を駆けながら敵に魔法を放つ。
「ホーリー!」
体内に闇属性を秘める者を討つ攻撃魔法。
聖属性を持たない者に対しては一切の効果がないが、敵の大半は闇属性の使い手。
通常、闇属性を持って生まれてくる人間は居ない。
闇属性は他人を貶める犯罪を繰り返した者のみが習得出来る。
手っ取り早く二属性の使い手になりたければ犯罪を犯し続ければ良い。
生まれ持った属性の他に闇属性を習得すれば、一気に戦闘力が上がる。
ウィンドホースが敵の群れに突撃すると、俺は右手に炎を作り上げた。
借りるぞ……ブラックドラゴンの魔法。
「ヘルファイア!」
敵の群れに対し、ブラックドラゴンの固有魔法を放つ。
人間の俺が魔物の固有魔法を使用出来るとは思ってもみなかったのだろう。
恐れおののいて逃げ出す者も居れば、炎に焼かれて息絶える者も居る。
『ラインハルトさん! 後ろ!』
フローラの言葉が脳裏に響いた瞬間、俺は背中に焼ける様な痛みを感じた。
恐る恐る背中を見てみると、一本の矢が深々と突き刺さっていた。
九尾の狐は何とか敵の一斉攻撃に耐えている。
エリカは森を焼き尽くさない様に気を付けながら、炎の球を飛ばしている。
エリカのファイアボールが地面に激突した時、強烈な熱風が立ち込めた。
それからエリカは尻尾をでたらめに振って無数の敵を薙ぎ払った。
やはりブラックドラゴンは戦闘力が高い種族なのだろう。
まるで人間が蚊を叩き潰す様に、いとも簡単に敵を葬っているのだ。
「ラインハルト・シュヴァルツ! お前さえ居なければ私達は九尾の狐を討伐出来たんだ! なぜ人間のお前が魔物の味方をする!」
激昂したリヒターがダガーの一撃を放った瞬間、俺は瞬間的に盾で攻撃を防いだ。
闇払いの盾が強い輝きを放つと、リヒターの皮膚を焼いた。
フローラが盾の状態で魔力を放出すれば、敵に攻撃する事も出来るのだ。
「俺は魔物の力を借りて生きているんでね。お前みたいな人間に九尾の狐を殺させるつもりはない!」
「リヒター盗賊団に歯向かって生き延びれるとでも思っているのか!」
周囲から矢の雨が降り注ぎ、俺の足や背中に刺さった。
耐えがたい激痛が全身に駆け巡った瞬間、フローラの声が脳裏に響いた。
『リジェネレーション!』
瞬間、眩い光が俺の肉体を包み込んだ。
体からは矢が抜け落ち、怪我は瞬時に癒え、体は活力でみなぎっている。
やはりフローラの回復魔法の効果は抜群だ。
エリカは片翼がない状態で戦い慣れていないのだろう。
敵の攻撃を直撃すると、足から大量の血を流した。
「よくもエリカを……!」
俺は盗賊に右手を向け、ありったけの魔力を放った。
「ファイアショット!」
エリカから何十回もダメ出しを受けた攻撃魔法を放つ。
炎の球が目にも留まらぬ速度で宙を裂き、盗賊の背中を捉えた。
球が破裂した瞬間、盗賊の体が吹き飛んだ。
敵は状況が不利になりつつある事に気が付いたのか、後退しながら戦い続けている。
九尾の狐は巨大な岩を空中に作り上げて地面に落とした。
それから地面に対して意識を集中させると、無数の茨が伸びて盗賊の足に絡みついた。
あれは確かソーンバインドの魔法。
「シュヴァルツ! 何をよそ見している!」
リヒターがダガーで俺の腕を切り裂くと、俺は闇払いの盾でリヒターの腹部を殴った。
リヒターが悶絶した瞬間、俺はダガーを取り上げてリヒターの首元に突き付けた。
「よくも俺の仲間を囮にしやがって。お前をイステルの衛兵に引き渡す!」
盗賊達はリヒターの敗北を知るや否や、慌てて逃げ出した。
所詮犯罪者集団。
仲間が捕まれば見捨てて逃げ出す。
これでやっと戦いが終わったのか……。
戦いの終わりを実感すると、全身に無数の矢を受けた恐怖が蘇ってきた。
当たり所が悪ければ俺は命を落としていただろう。
そしてフローラが瞬時に回復魔法を使用してくれなかったら、俺は今頃死んでいた。
「フローラ・武装解除」
フローラを人間の姿に戻す。
彼女は今までに見せた事が無い様な、怒りの感情を露わにしている。
エリカと九尾の狐がリヒターを見下ろすと、リヒターは力なく失禁した。
視界の端でステータスが輝いている。
『Lv.82 Aランク・九尾の弧 好感度:100%』
九尾の狐が微笑みながら俺を見つめた。
「わらわのために矢を受けたのじゃな。今まで生きてきて、命懸けでわらわを守ろとした人間はお主が初めてじゃ」
「怪我はない……?」
「自分の体よりわらわの体を心配するとはな。お主の様な人間となら、わらわは召喚契約を結んでも良いと思うぞ」
「俺の仲間になってくれるのかい?」
「お主が望むならわらわがお主を守ろう。いや、お主に守られたのはわらわの方じゃったな」
「それなら、君を封印しても良いかな?」
「封印? ブラックドラゴンの様に魔物が人間に変わるという事かの?」
「そうだよ」
「わらわが本物の人間になれるという訳か……わらわらは昔から人間に憧れていたのじゃ。お主の召喚獣になって人間として暮らすのも良さそうじゃの」
九尾の狐は微笑みながら俺の頬を舐めた。
巨大な舌が俺の顔に唾液を付けると、九尾の狐は嬉しそうに尻尾を振った。
「わらわも自力で人間になれるのじゃが、どうも完璧な人間にはなれんのじゃ」
「人間に? 確か九尾の狐は変化魔法に長けているんだよね」
「そうじゃ。まずはお主にわららの力を見せてやろう」
九尾の狐が上空を見上げながら吠えた瞬間、彼女の肉体が徐々に小さくなった。
体長百五十センチ程まで小さくなると、彼女は狐の姿のまま二足歩行で歩いた。
まるで人間と狐の中間種の様だ。
銀色の体毛に緑と赤の瞳は変わらない。
彼女が俺の手を握ると、モフモフした手が何とも触り心地が良い事に気が付いた。
「どうじゃ? 少しは人間に近くなったじゃろう?」
「二足歩行する狐って感じだね」
「そうじゃ。わらわは変化魔法が苦手なのじゃ……昔から九尾の狐として人間に狙われ続けていた。もうそんな生活にも疲れ果てていたところじゃった。お主がわらわを本物の人間に変えてくれるのなら、これからはお主と共に生きたいと思うぞ」
「わかったよ……」
俺は小さな狐の頬にキスをした。
君の名前は……。
「アナスタシア!」
瞬間、周囲の木々がざわめき、心地良い風が頬を撫でた。
獣人化していたアナスタシアの体が輝くと、一糸纏わぬ美少女が現れた……。




