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第二十一話「九尾の狐とブラックドラゴン、戦ったらどっちが強いのか正直気になるよね?」

 勇者パーティーでも何度か格上の魔物と遭遇した事があった。

 戦う力のない俺は勇者達に守られていた。

 冒険者の中でも死亡率が最も高い職種であるサポーター。

 実は剣士や魔術師よりも遥かに危険なポジションなのだ。


 ダンジョンの攻略の際には先頭を歩き、罠を解除して進む。

 魔物との戦闘でヘイトを管理する事も多い。

 俺が魔物に炎の球を飛ばして挑発し、魔物の群れを引き付けてから勇者達が狩る。

 意外と体を張って生きてきた俺だが、今回ばかりは駄目かもしれない。


 フローラは俺の隣で涙を流している。

 リヒターさんは俺達の背後に隠れ、俺の服の裾を握っている。

 ウィンドホースは俺達を見捨てて逃げ出そうか迷っているのだろう。

 アドリオン方面に向かってゆっくりと後ずさりをしている。


 視界にはステータスは映らない。

 という事は、九尾の狐の好感度は0%なのだろう。


 体長五メートルを超える銀の体毛に包まれた巨大な狐。

 肉体から強烈すぎる地属性の魔力がほとばしっている。


 口にはシルバーフォックスの毛皮を咥え、俺達を鋭い瞳で睨みつけている。

 どうやらオッドアイの個体なのか、右目は緑色で、左目は赤色の瞳をしている。


「シルバーフォックスを殺したのはお前か!?」


 九尾の狐が咆哮を上げると、全身から脂汗が噴き出した。

 これはまずい。

 俺の事をリヒターさんの仲間だと思っているのだろう。


 俺は慌てて正座をした。

 黒竜刀をベルトから引き抜いて地面に置く。

 まずは戦う意思がない事を知って貰わなければならない。


 九尾の狐の言葉はリヒターさんには理解出来ない。

 俺だけがこの場で彼女の言葉を理解出来るのだ。


「ちょっと待って下さい。俺はシルバーフォックスを見た事もありませんし、討伐した事もありません!」

「嘘を付くな! それならなぜその女と共に居る!? そいつはわらわの同胞を殺めたのだぞ!?」


 九尾の狐が巨大な顔面を俺の顔に近付けた。

 あまりにも大きすぎる顔と、剥き出しになった鋭利な犬歯が恐ろしい。


 相手の機嫌を損ねれば一撃で殺される。

 エリカの様に最初から僅かに好感度がある訳でもない。


「ラインハルトさん……どうするんですか……私、怖くて仕方ありません……」

「大丈夫、何があってもフローラは俺が守る」

『ラインハルト、そろそろ元の姿に戻してくれ』

「エリカ・武装解除」


 瞬間、黒竜刀が炎に包まれ、黒い鱗に覆われた巨体のブラックドラゴンが現れた。

 リヒターさんは呆然とエリカを見上げ、エリカはリヒターさんに対して咆哮を上げた。


「な……どうしてシュヴァルツさんの武器がブラックドラゴンに変化するんですか!? あなた、もしかして魔物の仲間ですか!? ブラックドラゴンの様な凶悪な魔物に都市を襲わせるつもりなんでしょう!?」

「いいえ、そんなつもりはありません。リヒターさん、正直に告白して下さい、保護対象法によって討伐禁止種に制定されているシルバーフォックスを狩り、イステルに密輸するつもりだったんですよね? ウィンドホースもあなたからシルバーフォックの匂いがしたと言っていますよ」


 九尾の狐はエリカを睨みつけながらゆっくりと俺達の周りを回っている。

 まさか、刀が突然ブラックドラゴンに変化するとは思わなかったのだろう。

 それでも流石に同ランクの魔物だからか、九尾の狐は一切後退する様子もない。

 鋭い瞳で俺達を見下ろし、戦闘を行うか立ち去るか考えているのだろう。


「リヒターさん、あなたが真実を話さないつもりなら、俺達はこの場から立ち去りますよ。あなたのために九尾の狐と戦う義理はありませんから」


 九尾の狐は九本の尻尾を激しく振り、リヒターさんを見下ろしている。

 どうやら敵は俺達ではなく、リヒターさんただ一人だと理解しているのだろう。


「こうなっては仕方ありませんね。九尾の狐と共にここで死んで貰いましょうか。シルバーフォックの毛皮なんて九尾の狐をおびき出すための道具にしかすぎませんし」

「は……? 一体何を言っているんですか?」


 リヒターさんは腰に差していたダガーを引き抜き、フローラの首に押し当てた。


「ラインハルトさん……」

「フローラ!」


 それからリヒターさんが左手を空中に向けると、闇属性の魔力が炸裂した。

 上空に黒い雲が発生すると、周囲からは黒装束に身を包んだ者達が現れた。

 敵の数は百人程だろうか。

 正確に数を数える事すら厳しい。


 スピアやクレイモア、ロングソードやクロスボウを持った者達が俺達を取り囲んでいる。

 嵌められたのか……?


「女を殺されたくなかったら九尾の狐にブラッドラゴンをけしかけろ! 九尾の狐が弱った時に私達も戦闘に参加してやる! もしお前のブラックドラゴンが負ければその時はこの女の首を切るからな!」

「卑怯者め……! だがお前は金属製の盾を切れるとでも思っているのか?」

「はぁ……!? 何言ってんだ、お前。駆け出しの冒険者風情が。私と心理戦でもしようってのか?」

「フローラ・武装!」


 首にダガーを当てられたフローラに左手を向ける。

 瞬間、フローラの体が輝いて金色のバックラーに変化した。

 闇属性魔法に耐性がある上級のマジックアイテム、闇払いの盾。


 俺達を取り囲んでいる者達は武器に闇属性のエンチャントを掛けている。

 恐らくこれまで大勢の人間を殺めてきた盗賊の様な輩だろう。


 フローラが突然盾に変わり、人質を失ったリヒターがあからさまに狼狽した。

 俺は闇払いの盾を持ち、九尾の狐を守る様に敵の前に立った。

 エリカは九尾の狐と目配せをし、静かに頷いた。


『ラインハルトさん……九尾の狐を助けてあげて下さい!』

『ああ、フローラ! 俺に力を貸してくれ! 敵はどうやら闇属性の魔法を使うらしい!』

『私がサポートします! ゴールデンスライムである私には得意属性の相手ですからね! この戦いに勝って九尾の狐も仲間にしちゃいましょう!』

『ああ、では行くぞ!』


 ウィンドホースが俺の前に停まると、俺は彼女の背中に乗った。


「ウィンドホース、危険な目にばかり遭わせてすまないな。イステルに着いたら好きな食べ物を何でも買ってあげるからな」

「私はこれくらいの敵は恐れないわ。さぁ戦いの時だ!」


 ウィンドホースが駆け出すと、敵の群れが一斉に攻撃を仕掛けてきた……。

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