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第二話「ゴールデンスライムが可愛すぎる件について」

 荷物を置いて料理道具を取り出す。

 二十キロを超える鞄の中には様々な食料や道具が入っている。

 勇者が好んでスパゲッティを食べていたので、作り置きしたソースの瓶が随分重い。


「ラインハルトさん、いつもこんなに重たい荷物を運んでいたんですか?」

「そうだよ。俺はサポーターとして料理と荷物持ちを担当していたから」

「私、人間の食べ物は初めてなので楽しみです。一体どんな料理を食べさせてくれるんですか!?」

「そうだね、今朝作ったトマトソースが残ってるから、まずはスパゲッティを食べようか」

「スパゲッティ!? 何ですか? それは」


 ゴールデンスライムには人間の常識を一から教えなければならないのだ。

 俺は鞄からスパゲッティの麺と鍋を取り出した。

 それから水の魔石を左手で握り、右手を鍋にかざした。

 魔石の力を借りて鍋を水で満たす。

 ゴールデンスライムは興味津々といった表情で鍋を見つめている。


 それから大理石の床に火の魔石を置く。

 平らに加工された魔石の上に鍋を置き、魔石に対して魔力を込める。

 暫く待つと水が沸騰し始めた。


「人間はこうやって料理をするんですか!?」

「野外ではね。麺を入れてごらん」

「鍋に麺を入れたらいいんですね」


 ゴールデンスライムは目を輝かせながら熱湯の中に麺を入れた。

 俺はこんなところで何を呑気に料理などしているのだろうか?

 だが五年間もこんな生活を送っていたのだ。

 ダンジョンで料理をするのが当たり前になっている。


「あの……ラインハルトさん。私に名前を付けて貰えませんか!? ゴールデンスライムでは呼びずらいですよね」

「それもそうだね……ところで、本当に俺と一緒に居てくれるの? 俺みたいな低ランクの冒険者と一緒に居ても幸せになんてなれないと思うけど」

「そんな事はありません! だってラインハルトさんはミノタウロスから私を守ってくれましたから!」

「そうか……まずは名前を付けなければならないね。かつて本で読んだ大魔術師の名前が確かフローラだったな。君の名前はフローラ。どうかな?」

「フローラ……今日から私の名前はフローラなんですね!? ラインハルトさんが名前を決めてくれたなんて嬉しいです!」


 俺が彼女に名前を付けた瞬間、フローラの体が光り輝いた。

 まさか、魔物の姿に戻るのだろうか?

 金色の神々しい光が輝くと、光の中から美しい盾が現れた。


「命名すると防具に変化するのか!? これがソロモンの指輪の力!?」

『ラインハルトさん、聞こえてますか? 私、ラインハルトさんを守りたいと念じていたら盾になっちゃいました』

「これは……念話なのか?」


 フローラの心地良い声が脳内に響く。

 金色のバックラーが俺の左手に向かって飛んでくると、俺は盾を掴んだ。

 まるでフローラに触れている様な、神聖な魔力を感じる。


 これは通常の防具ではない。

 いわゆるマジックアイテム。

 強力な魔力を秘めた特殊な装備なのだ。


 きらびやかな美しい盾を見ていると、俺はふと疑問を抱いた。

 どうすればフローラを元の姿に戻せるのだろうか。


「変化解除」


 どうやらこの言葉ではない様だ。

 まさか、ずっと盾の姿のままではないだろう。


「武装解除」


 俺の言葉に反応した盾が再び輝くと、盾がフローラの姿に戻った。

 ソロモンの指輪は好感度が100%を超えた魔物を人間化する力を持つ。

 そして魔物に命名すれば、人間化した魔物を武器化する事が出来るのだ。


「偉大すぎる……ソロモン王が俺に力を貸してくれているんだ……!」

「ラインハルトさん。私、盾になった時、ラインハルトさんと一つになっている気がしました! もしかしたら私の魔法も使えるかもしれないです!」

「え? フローラの魔法を?」

「はい!」


 人間化した魔物を武器化するにはどうすれば良いのだろうか。


「変化! 武器化! 武装!」


 瞬間、武装という言葉に反応して再びフローラが盾に変化した。

 便利すぎる。

 一度ギルドカードをステータスを確認してみよう。


『Lv.15 Dランク サポーター ラインハルト・シュヴァルツ』

 属性:【火】【聖】

 魔法:ファイア ファイアショット ヒール ホーリー キュア リジェネレーション

 召喚獣:Cランク・ゴールデンスライム

 加護:ソロモン王の加護(言語理解・魔法習得・魔物封印・武器化・全属性魔法効果上昇・全属性魔法耐性上昇・呪い無効)

 装備:国宝級・ソロモンの指輪(魔力回復速度上昇) 上級・闇払いの盾(闇属性魔法耐性上昇)


 俺が聖属性の使い手?

 元々ファイアとファイアショットの魔法しか使用出来なかった。

 それなのに新たな魔法が四種類も追加されている。


 そして召喚獣の項目にはフローラが表示されている。

 更にはソロモン王が加護まで授けてくれている。

 あらゆる魔物や悪魔を従えた偉大なる王が俺に加護を授けてくれているのだ。


 ソロモンの指輪は国宝級のマジックアイテム。

 フローラが変化したバックラーは上級のマジックアイテム。

 マジックアイテムは低級、中級、上級、支配者級、国宝級の五種類に分類される。

 上級はギルドマスタークラスの冒険者でもなかなか入手出来ないと聞いた事がある。

 勇者が使用していた剣は中級の物だった。


 支配者級のマジックアイテムは地域を支配する程の力を持つ。

 そして国宝級は一国の命運を左右する力を持つ。

 俺が国宝級と上級マジックアイテムの持ち主になるとは……。


『ラインハルトさん! 私の魔法を使ってみて下さい!』


 脳内にフローラの声が響くと、俺は右手を適当な空間に向けた。

 体内に流れる聖属性の魔力を手の平から放出する。


「ホーリー!」


 闇属性を打ち滅ぼす金色の光が輝くと、俺は呆然と立ちすくんだ。

 魔物を武装した状態なら魔物が習得している魔法を使用出来るのだ!

 これはどんな偉大な魔術師にも出来ない芸当である。

 召喚獣を増やして武装すればいくらでも魔法を使用出来るという訳だ。


「武装解除」


 フローラを元の姿に戻してからギルドカードを確認する。

 ギルドカードには一切の変化はない。

 という事は、好感度が100%を超えた魔物を命名すれば魔法を習得出来るという訳だ。

 魔法は通常、魔導書を読み解いて習得する。

 だが、ソロモンの指環は好感度100%の魔物の魔法を一瞬で習得出来るのだ。


 十七歳までで二種類の魔法しか使用出来なかった俺が、一気に四種類の魔法を習得した。

 魔術師を目指すのも良いかもしれないな。

 様々な属性の魔物を仲間に出来れば、あっという間に強くなれるだろう。


「反則的だな……道理で冒険者達がソロモンの指輪を探し求めていた訳だ」

「ラインハルトさんが聖属性の使い手になってくれて嬉しいです!」

「ああ。俺が回復魔法の使い手なんて不思議な気分だよ! まさか、二属性の使い手になるなんて……」

「二種類の属性の使い手は少ないんですか?」

「ああ、ほとんど居ないよ。鍛錬を積んだ魔術師は複数の属性を持っているけど、通常は一種類の属性しか使えないんだ」

「そうなんですね……ラインハルトさんがますます強くなったみたいで嬉しいです!」

「ありがとう、フローラ。まずは食事の用意をしようか」

「はい!」


 フローラがエメラルド色の瞳を輝かせて俺を見つめた。

 あまりにも美しいフローラを見ているだけで心が和む。

 男物のシャツを着ているからか、胸の部分が窮屈そうに盛り上がっている。

 推定Eカップ程だろうか。


 鍋から茹で上がった麺を取り出し、軽量化した金属製の皿に載せる。

 ビンに詰めたトマトソースの容器を両手で握り、火属性の魔力を込める。

 冷え切っていたトマトソースが温まると、麺の上にソースをかけた。


「美味しそうな匂いがします! 早く食べたいです!」

「スパゲッティはフォークを使って食べるんだよ」

「フォーク? この三つ又の槍の事です?」

「いや……槍じゃないけど……」

「以前エキドナが大きなフォークを持ってました!」

「きっとそれはトライデントだね。こうやって使うんだよ」


 フォークで麺とトマトソースを絡ませ、麺を巻いて見せる。

 フローラは意外と器用なのか、一発で綺麗に麺を巻いた。

 まさか、ダンジョン内でゴールデンスライムとスパゲッティを作る事になるとは。


 勇者のために作ったトマトソースは抜群に美味しかった。

 フローラは初めてのスパゲッティに感動し、何度もおかわりをした。

 口の周りにソースを付けながら夢中にスパゲッティを食べる彼女は子供の様で可愛い。


「美味しいです……! 毎日でも食べたいです!」

「喜んでくれて嬉しいよ。いつでも食べさせてあげるからね」

「はい!」


 フローラはシャツの胸の部分にトマトソースをこぼした様だ。

 俺はソースをタオルでふき取ると、シャツ越しに彼女の豊かな胸の感覚が伝わった。

 あまりにも大きくて柔らかい。


 そういえばフローラはブラジャーを着けていない。

 一応パンツは男物を履いて貰っている。

 ノーパンで過ごすよりはマシだと思ったからだ。


「ラインハルトさん……あまり激しく触ってはいけません……ゴールデンスライムの体は敏感ですから……」

「ごめん……」

「いいんです……でも少し恥ずかしくて。ラインハルトさんに触って貰えるのは嬉しいんですが……」


 フローラの豊かな胸の感覚に思わず胸が高鳴った。

 人生で初めて女性と二人きりで食事をしている。

 彼女居ない歴十七年。

 告白された回数もゼロ。

 勇者パーティーを追放された悲しき無職童貞。


 だが、俺にもやっと青春が始まった様な気がする。

 宝物庫の外で待ち構えているミノタウロスさえ居なければ最高なのだが……。


「沢山食べたら眠くなりました」

「眠る前に口の周りを綺麗にしようね」

「はい! ラインハルトさんは優しいです。本当にラインハルトさんと出会えて良かったです」


 フローラの口の周りを拭くと、肉厚な唇に指が触れた。

 近くで見るとまつ毛も随分長くて美しい。

 肌はシミやシワとは無縁の様な、透明感のあるスライム肌。

 スライム肌という言葉はたった今考えた。

 よく「もち肌」という表現をするが、スライムの方が遥かにもちもちしているのである。


「おやすみなさい、ラインハルトさん」

「ああ。暫く休むと良いよ」


 フローラが俺の膝の上に頭を乗せた。

 髪は細くて艶があり、思わず触れたくなる透明感ある肌が美しい。

 ゴールデンスライムが人間化したら絶世の美少女になるのだな。


 こんな時間がずっと続けば良いが、食料が尽きる前に帰還しなければならない。

 勇者達と共に何とか降りてきた七階層。

 ここから俺とフローラだけで帰還しなければならないのだ。


 だが、ソロモン王の加護があればこんな最悪な状況でも覆せる様に思える。

 更に魔物を人間化し、武器に変えて装備し、ミノタウロスに挑む。

 だがこの宝物庫にはフローラ以外の魔物は居ない。

 魔物が居れば新たな魔法を習得し、武器を増やせるのだが……。


 瞬間、真鍮の壺が大きく揺れ動いた。

 恐らく、壺はソロモン王が指輪の継承者に贈るために用意していた物だろう。

 偉大なる王が俺のために残した壺。


 恐る恐る壺に近付くと、壺が俺に反応して僅かに揺れた。

 壺の中から何か声が聞こえる。


「お腹空いた……肉が食べたい……いつまでこの中に居れば良いんだ! 私はいつ出られるんだ……!」


 まさか、壺の中に人間でも封印されているのだろうか?

 俺は慌てて壺を魔法陣の中から出した。

 瞬間、壺が破裂して爆発的な炎が発生した。

 宝物庫の中央で炎が炸裂し、炎の中に黒い肉体をした魔物の陰が見えた。


「起きろ! フローラ! 魔物だ!」

「ラインハルトさん……もう食べられません……」

「寝ぼけている場合じゃない! 早く起きてくれ!」


 フローラが目をこすりながら起きると、背後から禍々しい魔力を感じた。

 恐る恐る振り返ってみると、そこには全身が黒い鱗に包まれたドラゴンが居た……。

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