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第十六話「明日から冒険の旅に出るので、今日はとことん飲もうと思う」

 すっかり得をした俺達は新品の馬車に乗り、街を進んだ。

 今日からこの馬車で寝泊まりする事にしたのだ。

 家具も全て揃えたので、そこら辺の安宿よりも遥かに快適に過ごせるだろう。


 適当な酒場の裏手に馬車を停め、宴のために酒場に入る。

 十五歳で成人を迎えてから、お酒は数える程しか飲んでない。

 だが今日の様な記念すべき日は盛大に祝うべきだろう。

 明日からは王都ファステンバーグを目指して旅の生活を始める。


 カウンターに様々なお酒が並べられた酒場の奥の席に座る。

 ウィンドホースも早めに封印して人間に変えよう。

 性別はメスなので、人間化した時にどんな女性になるのか楽しみだ。


 天井付近には火の魔石が浮かんでおり、室内を幻想的に照らしている。

 俺とフローラはソーセージとエールを頼んだ。

 エリカはサイコロステーキと葡萄酒。

 やはりブラックドラゴンは肉食なのか、一日に大量の肉を摂取する。


 テーブルに料理とエールが運ばれてくると、フローラは目を輝かせてエールを見つめた。

 ゴールデンスライムの彼女はまだお酒を飲んだ事が無いのだ。

 エリカは以前ソロモン王と葡萄酒を飲んだ事があるらしい。


「ラインハルトさん……お酒って初めてなので緊張します……」

「まずは一口飲んでごらん。そういえば、スライム系の魔物って毒を体内に取り入れても解毒出来るって聞いた事があるけど、本当なの?」

「どうでしょう。基本的にどんな物でも食べますよ。私、好き嫌いとかあまりないんです」


 フローラはゴブレットを持ち上げ、豪快にエールを飲み始めた。

 やはりゴールデンスライムの彼女はお酒が強いみたいだ。

 まるで水を飲む様にエールを飲み干した。


「エールって爽やかで美味しいです! 何杯でも飲めそうです!」

「馬と馬車は無料で手に入ったし、お金には余裕があるから、好きなだけ食べて飲んでくれよ」

「はい! エリカさんは葡萄酒が好きなんですか?」

「べ、別にソロモンの事を思い出しながらお酒を飲んでた訳ではない……ただ、ソロモンとお酒を飲んだ事が懐かしかっただけだ」

「きっとソロモンさんはエリカさんにとって大切な人だったんでしょうね」

「まぁ、片翼の私を救ってくれたが、私を千年も壺の中に閉じ込めた張本人でもあるからな。感謝もしているけど恨んでもいる。壺の中がどれだけ退屈だったか……幼いお前には想像も出来ないだろう?」

「はい……ですが私もずっとダンジョンで暮らしていたので、孤独は他の種族よりも知っているつもりですよ」

「ゴールデンスライムは生息数の少ない魔物だからな」

「はい……エリカさんは私達と出会ってからの生活は楽しくなりましたか?」

「ああ。なかなか悪くないぞ……」


 エリカが恥ずかしそうに微笑むと、フローラは優しい笑みを浮かべてエリカを見つめた。

 徐々に二人の距離が縮まりつつある。

 仲間同士、仲が良いのは良い事だ。


 俺も久しぶりにエールを飲んでみる。

 勇者のサポーターをしていた時は、翌日の仕事に響かない様にお酒を控えていた。


 冷たいエールが心地良く喉を刺激する。

 爽やかな麦の風味の後に弱いアルコールを感じる。


 ドレスで着飾ったエリカと、グレーのワンピースを着たフローラ。

 二人の美少女と共に居られる事が何よりも嬉しいが、緊張もする。


 彼女いない歴イコール年齢の俺には二人の存在はあまりにも輝いている。

 いつも近くに居てくれるが、こんな俺のどこが良いのか全く分からない。


「ラインハルト。正直私はお前がユニコーンの正体を商人に伝えた時、ラインハルトと出会えて良かったと思ったぞ。自分の利益を追求し、商人を騙してユニコーンをホワイトホースの価格で購入する事も出来た訳だろう? それでもお前は素直にユニコーンの正体を告白した。赤の他人の利益を優先出来る事は本当に凄いと思うぞ」

「私もそう思います。流石私達のラインハルトさんです」

「商人も喜んでたし、結果的に俺達も得をしたからね。やっぱり、正直にユニコーンの正体を伝えて良かったよ」

「ラインハルトは私が唯一心を許している人間なのだから、これから更に良い男になるのだぞ。お前にはまだ私を守るだけの力はない。度胸と清い心だけではどうにもならない状況もあるのだからな……」


 エリカがテーブルの下でそっと俺の手を握った。

 彼女の力強い火の魔力が体内に流れる。

 俺の弱々しい魔力とは大違いだ。

 こうして触れ合うだけで途方もない実力差を実感する。


 人間の俺がブラックドラゴンのエリカよりも強くなれるかは分からない。

 だが、俺はソロモン王から加護を授かり、強くなる機会を得た。

 これからはますます強さを求め、鍛錬の生活を続ける。


「ラインハルト、ステーキを食べさせてくれ」

「もう一人で食べられるだろう?」

「いいから、早くするのだ!」

「エリカさんだけずるいです! ラインハルトさん、私にも食べさせて下さい!」

「やれやれ……」


 こんな平和な時間がずっと続けば良いと思う。

 魔物を封印して人間化し、更に仲間を増やして最高のパーティーを作ろう。


 まずはウィンドホースを封印しなければならない。

 ウィンドホースはシュルスクの果実を好んで食べる。

 シュルスクはマナポーションの原料になる聖属性の果実。

 リンゴよりも一回り小さな赤い果実だ。


「明日からウィンドホースの餌付けを始めるよ」

「私達みたいに、彼女も人間になるんですね」

「恐らくね」

「ちょっと気になったんですが、ソロモン王の加護があれば全ての魔物を封印出来るのでしょうか?」

「いや……それは違うと思う。実はミノタウロスとの戦闘時には好感度は表示されていなかったんだ」


 魔物を見た時、自動的に好感度が浮かぶ相手は封印出来る。

 好感度が表示されない相手は封印出来ない仕組みになっているのだろう。

 封印後には相手の好感度を見る事は出来ない。


 俺はサイコロステーキをフォークで差し、エリカの口の中に入れた。

 エリカはルビー色の瞳を輝かせながら俺を見つめ、ゆっくりと肉を食べ始めた。

 ただ食事をしているだけなのに妙に色っぽいのは何故だろうか。


 フローラは無邪気な少女といった感じだが、エリカは小悪魔的だ。

 続いてフローラに肉を食べさせると、垂れ目気味の目を細め、明るい笑みを浮かべた。

 二人ともそれぞれ異なる魅力を持っている。

 勇者から見捨てられた俺がハーレム状態になるとは思ってもみなかった。


 それから俺達は二時間程語り合ってから酒場を出た。

 外で待っていたウィンドホースが退屈そうに俺を見つめている。

 つぶらな瞳と栗色のたてがみが可愛らしい。

 頭を撫でると、嬉しそうに舌の先端で俺の頬を舐めた。


 俺達は馬車の家に戻り、ゆっくりと夜の時間を過ごす事にした……。

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