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第十五話「旅に使う馬車を選んでいたらとんでもない幸運を体験した件について」

「どうですか!? 美しい馬車でしょう。今ならこの馬車を100万ゴールドでお譲りします!」

「え!? 馬車単体で100万ゴールドですか?」

「はい! この馬車さえあれば、宿が無くても野宿する必要もありません! 長期間の旅になればなる程、野営の生活というのは自然と肉体に疲労が蓄積されます。この馬車があれば旅の最中でも安全、清潔な空間で夜を過ごせますので、ますます冒険者生活が捗る事は間違いありません!」


 馬車が100万ゴールドもするとは思わなかった。

 だが、特殊な魔法が掛かったマジックアイテムなので、高額なのも納得だ。


「この馬車を牽く力がある馬も紹介して頂けますか?」

「勿論ですとも! それでは馬小屋にご案内します」


 商人に案内されて馬小屋に入ると、そこには調教された魔物達が居た。

 視界に無数のステータスが輝く。


『Lv.20 Dランク・ウィンドホース 好感度:5%』

『Lv.25 Dランク・ウィンドホース 好感度:10%』

『Lv.31 Dランク・ブラックホース 好感度:13%』

『Lv.22 Dランク・ホワイトホース 好感度:19%』

『Lv.22 Dランク・ホワイトホース 好感度:8%』

『Lv.45 Cランク・ユニコーン 好感度:15%』


 一頭だけ明らかにレベルが離れた魔物が居る。

 Cランク、聖属性のユニコーンだ。

 生息数が極めて少ないユニコーンがアドリオンに居たとは思わなかった。


 以前魔物図鑑でユニコーンの項目を見た事がある。

 確か頭部から角が生えた魔物だった筈。

 しかし、目の前に居る白馬の頭部には角が無い。


「風属性のウィンドホースは圧倒的な脚力で魔物をなぎ倒します。スケルトンやゴブリン程度の魔物なら一撃で仕留められる力がありますよ。性格も従順。勿論個体によって異なりますが、人間に友好的な個体が多いです。火属性のブラックホースは勇猛果敢で、魔物の群れも恐れずに突撃する精神力の高さがあり、聖属性のホワイトホースは冒険者を癒す回復魔法の使い手です。当店では以上の三種類の馬を販売しております」


 まさか、店主はユニコーンの事をホワイトホースだと勘違いしているのだろうか。

 明らかに一頭だけ異なる次元の魔力を秘めているのだ。

 俺はフローラとエリカの手を引き、二人に耳打ちをした。


「馬の中に一体だけユニコーンが紛れてるんだけど、商人はユニコーンの事をホワイトホースだと勘違いしているらしい。これは間違いなくユニコーンを選ぶべきだよね?」

「ユニコーンというと、確かCランクの魔物だったな。私が暮らしていた山でも何頭か見かけたが、知能も高いし、人間にも友好的だった。たまに果物なんかを与えると、喜んで私の顔を舐めていたぞ」

「ラインハルトさん! それってユニコーンがお買い得って事ですよね。ラインハルトさんしかユニコーンの正体に気が付いていないんですから」

「ユニコーンの相場は分からないけど、ユニコーンに馬車を牽かせている冒険者なんて見た事が無いよ。ノイラート王国の国王陛下が好んで乗っているという話を聞いた事があるけど」

「国王陛下が選ぶ程の馬という訳ですか……きっと他の馬よりも遥かに高価なんでしょうね」

「恐らく……」


 商人の無知に付け込んで、ユニコーンをホワイトホースとして購入する事も出来る。

 だが、俺は偽りの勇者の様な他人を騙す人間にはなりたくない。

 嘘をついて利益を得る事は容易い。

 だがそれはエリカとフローラの主としては相応しくない行動だ。

 目先の利益よりも自分が正しいと思う事をするべきだろう。


「あの……実は俺は全ての魔物を鑑定出来る力を持っていまして。今あなたがホワイトホースとおっしゃった魔物ですが、この子はCランク、聖属性のユニコーンなんですよ」

「はい? それはどういう事ですか? ホワイトホースがユニコーンですって?」

「はい。俺は冒険者ギルド・レッドストーン所属、ラインハルト・シュヴァルツと申します。突然こんな事を言っても信用して貰えないと思うので、一度ギルドカードを見て下さい」


 商人にギルドカードを見せる。

 あらゆる魔物や悪魔を従えたソロモン王が俺に加護を与えている事を確認した様だ。


「まさか……! ソロモン王が冒険者に加護を授けるなんて! 先程の話は本当の様ですね。というよりも、ゴールデンスライムの様な神聖な魔物と召喚契約を結べるお方が、商人相手に嘘を付くとも思えません……!」

「はい、信じて貰えると助かります。俺は魔物の力を借りて何とか生きていますから。魔物の種族を偽って、あなたから安くユニコーンを買い取る様な真似はしたくないんです」

「お客様……! 私はこの商売を始めて二十年になりますが、客というのは無茶な値引きばかりするものだと思っていました。ですが……お客様はユニコーンだと知りながらも私に真実を伝えて下さいました。こんな事は初めてです……」


 商人が嬉しそうに手を握ると、瞬く間に街の商人が集まってきた。

 鑑定魔法に長けた一人の商人がユニコーンに対して魔法を掛けた。

 瞬間、空中に光の文字が浮かんだ。


『Lv.45 Cランク・ユニコーン』


 商人達が一斉に歓喜の声を上げると、俺はあらゆる商人から称賛された。


「お客様! あなたはユニコーンの値段をご存じですか!?」

「いいえ、ホワイトホースよりは高額だとは思いますが……」

「ユニコーンは去年から絶滅危惧種に指定されており、市場でも殆ど流通しておりません。一頭500万ゴールドから700万ゴールドで取引されている程、希少価値が高い魔物なのです! そしてホワイトホースは80万ゴールド前後が現在の相場です!」

「一頭500万ゴールドですか!?」

「はい。角を失った状態のユニコーンでも480万ゴールド程度の値段が付くでしょう! 皆さん! ソロモン王が加護を授けた冒険者様は他人を騙すどころか、私に富をもたらして下さいました……! 私は山で見つけたユニコーンの正体を知らず、ホワイトホースとして販売してしまうところだったのです!」

「いえ……俺はただあなたに損をして欲しくなかったので、ユニコーンの正体をお教えしたまでです。称賛される様な事は何一つしていませんよ」


 商人が涙を浮かべながら俺の手を握った。


「彼は冒険者ギルド・レッドストーンの冒険者様です。これから王都ファステンバーグに向けて旅の支度をされるそうです! 私は彼の善行に対し、シュタイン式幌馬車を贈呈する事に決めました!」

「え? 馬車を頂けるんですか!?」

「はい! 馬車だけではなく、お好きな馬を一頭差し上げます!」

「そんなに頂いても良いんですか……?」

「勿論ですとも! ホワイトホースだと思って調教した魔物がユニコーンだった! こんなに幸せな事はありません! さぁさぁ、お好きな馬を選んで下さい!」

「それではお言葉に甘えて……ウィンドホースを頂いても良いですか?」

「かしこまりました!」


 馬小屋に集まっていた商人達が熱狂的な拍手を送ってくれた。

 俺がユニコーンを転売していたら400万ゴールドは儲かったのだ。

 だが惜しい事をしたとは思わない。

 なぜなら俺は馬と幌馬車を無料で頂ける事になったからだ。


 それから俺は商人達に旅に必要な物を聞いて回った。

 馬小屋でのやりとりを見た商人達が格安で旅に必要な荷物を用意してくれた。

 保存が利く食料や寝具。

 クロノ大陸の地図や、護身用の武具。

 馬車の中で使うソファーは上等な物を選んだ。


 魔力を回復させるマナポーションは箱単位でまとめ買い。

 魔法訓練のために大量のマナポーションを使うつもりだ。


 商人達は親身になって旅の知識を授けてくれた。

 そうして旅の準備が済んだので、俺達は旅立ちの前に宴を開く事にした……。

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