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第十二話「ダンジョンに放置プレイされた仕返しを果たしたので、これからは姫殿下のために働こうと思う」

 騎士を従えた第一王女の登場にギルド内が大いに盛り上がった。

 ファッシュの浮気相手と婚約者が遂に出会ったのだ。

 勿論、姫殿下はファッシュの浮気を知らない。


 これはファッシュの悪行を伝える良い機会だ。

 俺はクラウディア王女の前に跪いた。


「あなたは確かラインハルト・シュヴァルツ様……でしたわね?」

「はい。勇者様のパーティーで冒険者活動をしていました。Dランク、レベル25、ラインハルト・シュヴァルツでございます」

「先程の話は本当なんですか? 私の婚約者がダンジョン内でシュヴァルツ様をパーティーから追放したというのは。そしてソロモン王の宝物庫を発見し、ソロモンの指輪を入手したというのは」

「はい、全て事実でございます。これがその証拠です」


 ノイラート王国第一王女、クラウディア・ノイラート様。

 十七歳、綺麗なウェーブが掛かった銀髪のロングヘアが美しい。

 澄んだ青い瞳で俺を見つめると、二十台後半程の騎士に目配せをした。


 ミスリルのメイルに身を包み、ロングソードを腰に差している。

 恐らく第一王女が連れている四人の騎士の中で最も地位が高い者なのだろう。

 騎士が俺からギルドカードを受け取ると、愕然とした表情を浮かべた。


「クラウディア殿下、この者の主張は間違いありません。確かにソロモン王から加護を授かっております。国宝級・ソロモンの指輪。それだけではなく、ブラックドラゴンからも加護を授かっている様です。まさかAランクのブラックドラゴンと召喚契約を結んでいる者がギルドに加入すらしていないとは……! 是非我が騎士団に欲しい人材です」

「わかったわ。ロイ、これからすべき事は理解しているわね?」

「勿論でございます、クラウディア殿下」


 ロイと呼ばれた騎士が一礼すると、目にも留まらぬ速度でギルドを飛び出した。

 行動の瞬間すら見えなかった。

 圧倒的な存在感に、姫に対する美しい忠誠心を感じる。

 勇者よりも遥かに神聖な存在に見えるのは何故だろうか。


 フローラが俺の服の裾を掴み、心配そうに俺を見つめている。

 エリカは自分自身をブラックドラゴンではないと断言した女を睨みつけている。

 エリカの禍々しい殺意ギルド内に充満しているので、俺はエリカの頭を撫でた。


「エリカ、フローラ。いざこざはすぐに終わるからね。そうしたら三人で美味しい物を食べに行こう」

「ええ、すぐに終わらせて頂戴。さっきから腹が立って仕方がないわ。全く、人間はなんと愚かな生き物なのかしら。仲間同士でだまし合い、中傷し合い、お互いを信じる事すら出来ない。ラインハルトがどれだけ正しい人間なのか、今日ではっきりと理解出来たわ」


 俺はクラウディア殿下に目配せをすると、彼女は静かに頷いてギルドを出た。

 騎士が一人ギルド内に残り、残る二人の騎士が第一王女を守る様に傍に立った。


「何か私に話がある様ですね」

「平民の私が殿下を呼び出してしまって申し訳ありません。今伝えなければならない事があるんです」

「もう何を聞いても驚きませんわ。何でも言ってみて下さい」

「実は、勇者様は受付の女性と浮気をしています。私の冒険者登録を抹消した方です」

「……はい? え? 今、ファッシュが浮気していると言いましたか? 聞き間違いではありませんよね?」


 常に柔和な笑みを浮かべていた姫の表情が崩れた。

 流石に婚約者が浮気をしているとは思ってもみなかったのだろう。


「その宿の名前を教えて貰っても良いですか?」

「はい」


 俺は勇者と受付の女が密会に使用している宿を教えた。

 第一王女は青ざめた表情を浮かべながら、一人の騎士に目配せをした。


「事実確認に向かいます」


 二十台程の騎士が一礼した瞬間、彼は姿を消した。

 全くこの騎士団はどういうメンバーを揃えているのだろうか。

 俺では移動の瞬間すら捉える事が出来ないのだ。


「信じたくありませんが……私は間違った男に恋をしていた様です。彼とは舞踏会で出会いました。私が十二歳の頃です。初めて会った時から意気投合し、彼が冒険者として名を上げるに従って、私の恋心もますます加速しました。お父様もお母様も彼の事は好いていました。ミヒャエル・ファッシュはノイラート家の婿養子となり、次期国王になる事が確定していました」

「次期国王ですか……」

「はい。ですが今日で全てを終わらせます。あなたの言葉を聞いてやっと目が覚めました。ソロモン王から加護を授かりし冒険者、ラインハルト・シュヴァルツ様。もしギルドの加入先がまだ決まっていないのなら、私がマスターを務める、王都ファステンバーグで最高の冒険者ギルド・レッドストーンに加入して頂けませんか?」

「姫殿下のギルドですか。噂は聞いた事があります。平均レベルが50を超える王都最強の冒険者ギルドだと」

「はい。これからは私のために働いて貰えないでしょうか? ファッシュにパーティーを追放されても生きる希望を捨てず、ソロモン王の宝物庫を発見し、偉大なる王から加護を授かった。そしてBランクのミノタウロスをたった一人で討伐出来る最高の冒険者。あなたの様な方ともっと早くに出会っていれば、私はファッシュに恋をする事もなかったでしょう……」


 姫殿下が手を差し出すと、俺は跪いて彼女の手にキスをした。

 まさか第一王女から直々にギルドの加入を依頼されるとは思わなかった。

 パーティーを追放され、フローラと出会い、エリカと出会った。

 俺にも運が向いてきた様だ。

 王都で最高の冒険者ギルドに加入。

 これからは姫殿下のために働けるのだ。

 こんなに光栄な事はない。


「喜んで加入させて頂きます」

「良い返事を聞けて嬉しいですよ。さて、そろそろ戻ってくる時間ですね」

「騎士様がですか?」

「ええ、噂をすれば見えてきました」


 ファッシュが受付の女を抱く時に使っていた宿に向かった騎士が俺達の前に着地した。

 彼は姫に耳打ちをすると、姫はあきれ返った笑みを浮かべた。


「宿の主人に事実確認をしました。ファッシュは受付の女性以外にも大勢の女性を連れ込んでいた様です」

「そうだったんですか……」


 こんな時に何と声を掛ければ良いのだろうか。

 婚約者が自分以外の不特定多数の女を抱いていたのだ。

 第一王女はウェーブが掛かった銀色の髪をクルクルと回しながら静かに怒っている。

 口元には笑みが浮かんでいるが、目は全く笑っていない。


「お待たせしました。クラウディア殿下」


 空から声が聞こえた。

 瞬間、勇者ミヒャエル・ファッシュを拘束した騎士が上空から地面に着地した。

 身体能力が高いだけではなく、あの勇者を僅か十分の間で探し出したのだ。

 国王陛下から勇者の称号を授かったファッシュが子供の様に扱われている。


「シュヴァルツ……!? 何故生きているんだ!? どうしてお前がダンジョンから生還出来たんだ!?」


 忌々しい男との再会。

 騎士が腕をひねり上げると、ファッシュが顔を歪めた。


「ファッシュ、悪いが俺はお前に追放された程度で死ぬ様な男じゃないんだ。お前の悪事を全て暴いてやったぞ」

「馬鹿な! Dランクのお前が死のダンジョンから帰還出来るなんてありえない! どういう事なんだ!? おい、クラウディア! どうして俺を拘束しているんだ? まさか、お前はシュヴァルツの言葉を信じるのか!?」

「ええ、私はシュヴァルツ様の言葉を信じます。ソロモン王から加護を授かった最高の冒険者様ですから。全ての悪魔を従えた偉大なる王が自ら加護を授け、指輪の使用を許可したお方です。あなたの様な偽りの勇者とは次元が違うんですよ。あなたは自分が置かれている状況を理解していない様ですね」

「ソロモン王!? 何を言っているんだ! お前達はみんなシュヴァルツに騙されいてるんだ!」


 ファッシュが王女を愚弄した瞬間、ロイさんがファッシュの左腕をへし折った。


「言葉は慎重に選べよ、小僧。お前の命は俺が預かっている事を忘れるな」


 ギルドメンバーや職員達が一斉にギルドの外に出てきた。

 全ての悪行を暴かれ、無様な姿を晒したファッシュには軽蔑の視線が注がれている。


「勇者、ミヒャエル・ファッシュ! あなたから勇者の称号をはく奪し、殺人未遂の容疑で逮捕します」

「待てよ……! お前ら全員シュヴァルツに騙されているんだ!」

「姫殿下をだまし続けてたのはお前の方だろうが!」


 ファッシュの胸倉をつかみ、全力でファッシュの顔面を殴る。

 ダンジョンで俺を追放し、魔物の餌食にしようとした忌々しい男。

 本当なら一発殴るだけで済ませられる問題ではない。

 だが、フローラやエリカの前でこれ以上暴力を見せたくない。

 これ以上人間の事を嫌いになって欲しくないからだ。


 それからファッシュ達三人は殺人行為の容疑で逮捕された……。

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