プロローグ
プロローグ
「ねえ、鹿羽根くん。君は、運命って信じるかな」
放課後、僕は夕日が射して見づらい時計をぼんやりと眺めていた。
「運命、ですか」
「そう、運命」
何もかも見透かしたような目でこちらを見る彼女と対峙していると、うっかり、本音を口走ってしまいそうになる。
「まあ、ロマンチックですよね」
「鹿羽根くん、君は運命って信じるかな」
・・・どうやら今のは返答として認められなかったようだ。
「運命を信じるわけではないですけど、この世界には、たまたま、とか、偶然とかで済ませるにはあまりにも都合の悪いことが多すぎるとは思いますよ」
どうやら、今度のは認められたようで、彼女は少し考えるようにしてから言った。
「煮え切らないなー、君は。そして相変わらずのペシミスト。全然ロマンなくない?」
「ロマンなら、初めて女の子に振られた時にうっかり失くしましたよ」
「それは残念」
彼女は肩を大げさに肩をすくめた。
「私はね、運命はあるともうな」
「年頃の女の子は、みんなそう言うんじゃないですか?」
少なくとも少女漫画とかでは、基本的にそんな感じだと思う。
「あははっ。どうだろなー、・・・でも、女の子は君が思ってるほど簡単じゃないよ」
それはつくづくよく聞くことだ。簡単な人間なんているわけがないのに、的外れなことだといつも感じる。
「・・・そうかもしれませんね」
「そうだよ。だから、私が言いたいこともとっても複雑なんだからね」
「知ってますよ。先輩の話は分かりづらいです」
「そうなんだ・・・。ショックなんだけど」
肯定してあげたのに何故か落胆している彼女のことは僕にはよくわからなかったが、とりあえず、話を進めることにした。
「で、つまりは何が言いたいんですか」
「うん、だからね、運命はあるよ。そうなるべくしてそうなるようにできている」
窓から浮きこむ風が、彼女の髪の毛を揺らした。
「最初から何もかもが決まっていて、結論づけられていて、わかりきってる。・・・でも、それでも、わかっていたところで、どうにもならないかな。最終的に、私のすることは変わらないのかもね」
さっきあんな事を言っていたけれど、彼女もどうして、僕以上にマイナスな考えだと思った。しかし、彼女らしいとも思った。
「だからね、鹿羽根くん」
「ーーーーーー」
彼女は何か大切な事を言った気がした。けれど、僕には聞こえなかった。
強く吹いた風の音で、かき消されたのだ。