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12/12

012 完

 戦場からほど離れた丘の上、待機組と合流した一行。倒れ伏したヌールゼックから這い出たレルガリアは骨と皮だけに成り果てていた。


「きっ、筋肉、私の、筋肉は、どこへ……」


「れっ、レルガリア殿がミイラに……!? 一体どういうことだ!?」


「やっぱり薬物投与と経絡秘孔を突くことによる一時的強化だったか。命にかかわらんうちに――破ッ!!」


「ぴょげ、ぴぎー」


 ムーが指で一突きすると、奇声をあげたレルガリアだったものは白目と泡を吹いて事切れた。


「ん? 間違ったかな?」


「なにやってるんですかムーさん!? ああもう、どこからどうやって手をつけたら……!」


 頭を抱えるパトラネリゼは、泥や煤にまみれている。余波や衝撃から逃げ回っていた代償としては軽いものだろう。

 その肩をぽんと叩く山羊娘。こちらも服や毛皮が汚れていた。


「たぶんここの人たちに診せたほうが早いでしょ。運んでったげるから、ほら――軽っ!? これ急いだ方がいいわね」


「すみません、お願いしますマルテアさん。私は私で――」


「ぎぼづわるっ、うっ、おぇっ……ひ、久々だったせいで反動が……あ、ちょっとげんか、げ、ぼぱっ」


「大丈夫かセルシア。ほら水」


『所詮ヘボマスターではこの程度ですの……ふわぁ……やはり起き抜けは、辛い、ですの……すぴー』


「診とかなきゃいけない人がいるんで……で、ゼフさん、いい加減元に戻ってくださいよ」


「驚異的な、擬態。興味深い……しかし、アウェル氏。やはり……」


 パトラネリゼがジト目を、クゼネミッツェが興味深そうな視線を向けていたのは、丘にでん、と居座る巨大な岩だ。否、岩にしては妙にところどころが鋭くなっている。


『感づかれたらまた佐助佐助と騒がれるわ!!』


 などと答えたのは通信機のほうだ。

 ジ・オリジンを仕留め、黒騎士が消え失せるのを見届けたゼフィルカイザーは光の尾を引いて天に消えた――ように見せかけて、空中用迷彩、地上用迷彩を使い分けて戻ってきたのだ。


「ふっ、変わり身の術とは流石にござるな、ゼフ殿。いや、佐助大明神と呼ぶべきでござろうか――」


『ごふっ』


「あ、ゼフさんがごふった」


 パトラネリゼが振り返ってみればそこには影鯱丸の姿。膝を着いた機体から出てきたのは、頑張を装着していない生身のハッスル丸と、忍び装束を煽情的にはだけたオクテットだ。

 怪鳥の表情の読めない眼光はいつものことながら、なにやら毛並みがツヤツヤしているように見えるのは気のせいだろうか。


「ハッスル丸さん、えらく気が充実してますね」


「流石でござるなムー殿。いやぁ、長年の因縁にも決着が着き、なんとも晴れやかな気分にござるな」


「何となくだけど、絶対そんな理由じゃないってことだけはオレにもわかる」


 ジト目を向けるアウェルの肩をぽんと叩く金属質の手。雑兵の攻撃を一しきり喰らったり爆発に巻き込まれたりした結果、服はズタズタ、ケーブル状の髪はアフロ状に焦げあがったツトリンである。

 そのまま置いたらアウェルの肩が砕けるのは必定なので気は使ってくれているのだろうが、しかしそこには、腕の重量以上の圧力がかかっている気がする。


「エルやんも成長したなぁ……で、ウチら合作の木造ガトリング砲は?」


「忍界山が崩れるときに行方不明になった。たぶんあいつが吹っ飛んだ時に一緒に消し飛んだと思う……はぁ」


 涙目で物惜しげに戦場跡を見るアウェルに、ツトリンも嘆息してそれ以上は言わなかった。

 ジ・オリジンが消し飛び、ゼフィルカイザーが飛び立った後には櫓が建ち、かがり火が焚かれ、怒号ともつかない歓声が飛び交っている。


「しっかし、櫓までソッコで建てて乱痴気騒ぎしとるなあ。えらい手早い言うか」


「あーいう手並みは感心するよなー。落ち着いたらKさんとこでいろいろ習いたいけど――」


『すぐ出るぞ!? こんな島にこれ以上いられるか!!』


 ゼフィルカイザーが悲痛とも言える声を上げた。


「つっても、どこへ行くんですか。目標もなにもないじゃないですか」


『……お前らは見えなかったかもしれないが、黒騎士が現れた。そして奴は言った。魔の森で待つ、とな』


「それは本当ですか、ゼフィルカイザー殿?」


 ケレルトが剣呑な表情で尋ねる。パトラネリゼも驚いている一方、ムーなどはなんのことかと首をかしげていた。


「魔の森、ですか。確かに、風の大公国があった可能性がある場所ですけど」


『ヴォルガルーパーの件からするに、大魔動機をどうこうするには正統な血筋の者か、でなければ勇者が必要なはずだ。

 クオル曰く封印そのものは保たれているようだし、風の大公家は存続しているもののガードが固く、別口で鍵を用意しようとしているのではないか?』


「むむむ……どう思いますかクオル」


『すぴー……』


「起きろ、起きなさいってば!」


『ぴぃっ!? な、なんですの?』


「ああもう、かくかくしかじか」


『これこれうまうま……なるほど、話は理解できましたの。確かに、筋道は通っているですの。自称賢者の割にはと褒めてやりますの、小娘』


「推理したのはゼッフィーやで?」


『流石ですのゼフ様!』


「うわぁ……で、でも魔の森って物騒って話だろ? どうすんのさ」


『確かにそうだが、砂の大陸には例の刺客どもがまだいる可能性もある。

 それならば、未踏破の危険地帯に赴くほうがかえって安全かもしれん』


「刺客って、アウェルが言ってた奴らか?」


「そーそー。腕は立つは容赦ないわ、もう散々だったぞ」


 くたびれた様子でぼやくアウェルだが、この程度の言いぐさで済むあたり、アウェルもタフになったものだ。


『……と、そういえばシングはどうしたんだ? さっきから見当たらないが』


「シング殿なら退き口の際、姿を消してしまったのです。一体どうしたのか……セルシア殿は一緒に行かれたはずですよね」


「あー、あいつなら……」


 息を切らしながら答えようとするセルシア。まるで間を合わせたかのように銀髪の長身が陸を駆けあがってきたが――


「いやー、すまない。敵の別動隊を見つけ」


「ウンコよウンコ。なんか長くなるからちょっとほっといてくれって言ってたわよ――あ゛」


 間が悪かった。何とも言えない空気を物語るかのように、風がひゅるりと吹き抜ける。


「アニキ、仕方ないことなのに、わざわざ言い訳するのはどうかと思うぞ」


「い、いや、違う、違うぞ!? 敵の別動隊を見つけたから追いかけて行ってだな!?」


 慌てふためく様子が本気で誤魔化しにかかっているようにしか見えない。その様に、ゼフィルカイザーはまたも己が推測を疑い始める。


(今度こそ黒騎士かと思ったが……シングの場合、恥じらいの閾値が他の連中より低いしな。本当にウンコかもしれん……やはり黒騎士ではないのか?)


 このロボットのカメラアイ、再構成の際にビー玉にでも交換されたのではなかろうか。場の空気は既にシングを説得しにかかる方向に向かいつつあった。


「そうじゃなくてだな、ウンコは別に恥ずかしがることじゃないだろ。なあセルシア?」


「そーねー。気にしてらんないわよ。ねえ、パの字?」


「いや女の子なんだから流石に気にしましょうよ!? そりゃゼフさんのおかげで道中気楽に済んでますけど」


「……ゼフィルカイザー殿、まさか厠まで内蔵しているのか?」


 何やら変な方向から矛先が向かってきた。


『違うわ!! そんなロボットがいてたまるか――いや、あったな、たしか』


 死ぬ手前くらいにやっていたロボットアニメだと、共通規格で全部トイレ付きだった。あの監督の妙なこだわりには感服した。

 そもそも戦艦などが変形するロボットもいるので、それもトイレ内蔵と言えるだろう。

 だが機能的にできるとはいえ、ゼフィルカイザーには搭乗者の糞便まで吸収する覚悟はない。機能的にはできるが、流石にそこまで行くと人間性が喪失しそうだ。機能的にはできるが。


『とにかく、あいつが言ってるのはちり紙のことだ』


 並びに生理用品もだが、流石にここでは言わないでおく。パトラネリゼはまだ不要だが、セルシアは当然ながら必要だ。

 なお、蛮族丸出しのセルシアだが、生理は普通にあるしそれへの対処も意外としっかりしていた。

 曰く、初潮のときに経血垂れ流して駆け回っていたらアウェルの母にそれはそれは怒られたのだとか。ゼフィルカイザー改|(27)は女子特有の話題を盗み聞きしてしまった男子中学生のような気分に陥った。


(つーか、アニメゲームじゃあ描写されんが荒野を行く系の話はこういうのあるから大変だよなあ……)


 なお、トーラーがリュイウルミナが卵から生まれたと言っていたように、人によっては卵生だったり有袋類だったり発情期があったり、しまいには超レアらしいが両性具有や単為生殖の形質も存在するのでこの辺も一様ではない。


(こういう下世話なんだか生物の授業なんだかな話は本筋ではできんしなー……ちらり)


「ん? どうしたんやゼッフィー?」


 なお、この金属生命体の代謝機構その他は一切合財が不明だ。食った質量がどこへ消えているのか、老廃物などは出ているのか、不可解なままだ。


(こいつも下手すると古代兵器の末裔とかなのかなあ……あの機体といい、なあ)


 思い返す。ジ・オリジンと名乗った機体を。

 結局のところその正体はわからないままに終わったが、戦って感じた強大さはヴォルガルーパーやリオ・ドラグニクスに匹敵、或いは凌駕していた。完全体ならば、それこそ皇帝機以上の強敵であっただろう。

 動力源も不明なまま。魔力も感じられはしたが、おそらくそちらは後付けた。神剣を取り込み、魔力を有するようになったゼフィルカイザーだからこそ、そう確信する。


(まあこの魔力、今のところじぇーんじぇん使い道がないんだけどなー)


 霊鎧装を殴れるのと、フェノメナ粒子の生成効率が爆発的に上昇した。だが、ゼフィルカイザー自身が能動的に魔力を扱うことは今のところ出来ない。

 そうした意味では、あの機体はゼフィルカイザーに可能性を提示していたとも言える。


(……一体、お前は何者だったんだ、ジ・オリジン)


 この星の古代文明に造られたのか、はたまた星の海を渡ってこの大地に堕ちてきたのか。さらには異世界から――断言できるのは、この世界の今の文明系統による被造物ではないということだけ。

 それが、やはり何らかの理由で壊れた結果があれなのだろう。


(……いや、仕様書通り完成した結果がアレの可能性もあるが却下。ない。流石にないから。

 あれか? 忍者の星で、忍者のあれこれを保存したり伝播するために造ったとか? 実際忍者絡みの情報は満載だったようだし。

 精を注ぐのに妙に執念を燃やしていたのも――いややめておこう。今俺のCPU温度何度あるのかな)


 熱暴走の火花が頭部を飛び交う感触に身もだえするゼフィルカイザー。

 一つ確かなことは、今の文明は神剣を執り神と呼ばれた何者かが育てたもので、あの機体はその何者かの敵だった。ならば、邪神同様、人にとって害ある存在だったのだ。

 それを倒したのは、新たな神剣の宿し手とそれを駆る操者、そして、かつて神剣を執った者を模した魔動機。


(こう考えると出来すぎの気もするが……まあいい、お祭り騒ぎと思っておこう)


「おや、こんなところにいたザマスか」


「闇に紛れるか、英傑らよ。祝杯を取りたまえ。此れなるは我らが血と汗なり。どうか飲み干さん」


「念のため言っておくがこちらの地酒だ。貴殿らには感謝してもしつくせん」


 などと現れたのはドウテイ3だ。


(三人ともボロボロ――なのはいいんだが)


 全裸マッチョのペナルティ部は無傷だがツヤがない。グリスが剥げたのだろう。それはいい。

 卜者スタイルのパンター号は装束が破れ、巨大な目玉が覗いていた。目が大きいのではない。頭が目玉だったのだ。

 ジ・インセクトも機体が破壊されたのだろう、のたうっている。ゼフィルカイザーのCPU熱量が危険域に突入した。


「これは重畳。しかし、でござるな。拙者らはすぐに発たねばならんのでござるよ。戦の最中に現れた、ゼフ殿らの本来の敵手を追わねばならん故」


 と、即座に返したのはなぜかハッスル丸だった。付き合いの長い者もそうでないものも即座に理解した。語調が強くしゃべりも早い。明らかに何かを焦っている。何を? 決まっている――


「であるからして、これにてさらば――」


「させないわよ」


 がしり、とハッスル丸の首を掴み絞り上げたのは、先ほどまでぐったりとしなだれていたオクテットだ。忍び装束はいたるところがはだけ、網目部分も破れ、そこからのぞく柔肌は何とも言えぬほてりと艶を帯び、ほんのりと湯気が立っている。

 濡れた髪をたらしたオクテットの顔には、それ以上の艶気があった。その艶姿に、シングなどは慌てて顔を背けている。


「あんたのせいでまだまだ足りないのよ。寝かさない――そんで、それが終わったら祝言よ」


「グギェッ、せ、拙者抜け忍でござるぞ!? かような無理が――」


「よくやったハッスル丸よ!」


 旋風を巻き起こし現れる四つの影。開戦の折に訓示を述べた三頭領、ならびに学園長だ。


「オメ、賀、ノ、誇リ、ギギ。上忍スラ役不足。伝説ノ、超忍ノ称号ヲ許ソウゾ」


「その褒美として追討令を正式に下げ、娘との婚姻を許そうではないか、我が義息むすこ、超忍ハッスル丸よ!」


「忍者は、ガッツだってばよ!」


「「「「では、さらば!!!!」」」」


 いきなり現れた頭領sが祝電を述べて風のように去って行った。


「許しももらったことだし、じゃあ行くわよ」


「グギェー!! せ、拙者の自由が、自由がぁああああ!! おのれ、放せ、放すでござるハチ――グェッ!?」


 勢いよく投げ落とされたハッスル丸が、釣り上げられた魚の様にバウンドして転がる。慌てて起き上がったハッスル丸の表情はいつも通りで読めない。そこに浮かぶのが解放への喜悦なのか、困惑なのか。それとも、泣き腫らすオクテットへの慚愧なのか。


「なによぅ……祝言上げてくれるって言ったのに……」


「……言うとらんでござるが」


 そこだけは譲れないのか、ぼそりと呟くハッスル丸。だが、泣く子には勝てないのか、所在無さげに首をきょろきょろとしていた。


「……ひっぐ……あの時の術だって、ちゃんとできるようになったのに……」


「む、あの時の、とは」


 尋ね返すハッスル丸に応じるように、オクテットが印を組む。だがその手は震え、どこかおぼつかない。


「――――っ、えいっ」


 術が完成し、オクテットが煙に包まれた。煙が徐々に晴れ、見えてきたのは魚の尾だ。見事な形の尾びれに、整った紋様の鱗。

 そして煙が晴れきった、そこには――


「……なんていうか、人面魚?」


 代表してパトラネリゼが突っ込んだ通り。そこには顔だけオクテットの魚が、びちびちと跳ねていた。


「あ……ああああ……また失敗した……こんなんだから、ハッスル丸も私のこと――ハッスル丸?」


「……ク」


「えっ?」


「クエエエエエッ!!」


 目つきこそそのままながら、クチバシを全開に絶叫したハッスル丸。両ヒレが神速で印を結ぶと、霞のように細やかな網が放たれ、シーウーマンと化したオクテットを捕えた。


「きゃあああっ!? は、ハッスル丸!?」


「ふ、ふふ……この原初の昂り、忘れられようか……!!

 今でも鮮明に思い出せる、お主がこの姿を拙者に晒したときのことを……!!」


「でも、この格好は失敗――」


「なにを言う――この姿だからこそ、いいのでござる――いざ」


「ど、どこへ行くの!?」


「この火照りを鎮めによ。付き合ってもらうでござる」


「あ、だ、駄目、手も足も出ないのに……」


「あの時のようにかわいがってくれよう……クエエエエエッ!!」


 そしてペンギンは、人面魚を抱えて何処化へと飛び去って行った。


「……うっぷ。つまりあれか。あのエロ海鳥、前にもああやって手も足も出なくなったところに無理矢理に――」


「言うなはしたない!」


「エロいことをした、そして今からもエロいことをするんだな。アニキの顔で大体わかった」


 セルシアのぼやきに突っ込むシングは、赤面のままにアウェルを睨み付けた。


「とりあえず謎が解けました。海っぽい形質の娘しか興味ないって言ってたハッスル丸さんが、どうしてオクテットさんとあーいう風だったのか。

 ……未だかつて、ここまで知りたくもないと思った真実があったでしょうか。高度な魔法のはずなのに知りたいとも思えません。うう、また寒気が……」


 知識の亡者(パトラネリゼ)、おぞましさに改めて身震いした。


「しっかし、なんか失敗した言うとったけど、どういう風に変身するつもりやったんやろうな」


『……多分人魚のつもりだったんじゃないか? 下半身だけ魚とか、そういう』


「見事也、大明神」


「流石ザマスね大明神」


「感服しましたぞ大明神」


『違うわ……!!』


「にしてもよくわかりましたね、ゼフさん。私には鯉っぽいくらいしかわかりませんでしたけど――」


『あまり詮索するな。知りすぎる危険もある』


 いつもなら既存のロボット物を思い浮かべるゼフィルカイザーだが、今回はいろんな意味で余裕がない。敵に回してはいけないものもあるということだ。


「……それでどうするんだ、ゼフィルカイザー?」


 シングの問い。確かに、いつまでもここでこうして縮こまっているわけにもいかない。というか、これは好機ではなかろうか。


『どうにもこうにも……砂の大陸に戻り魔の森を目指す。落ち着いたら、いや今すぐに発つとしよう。なんだっていい、奴を置き去りにするチャンスだ!』


 ゼフィルカイザーは歓喜していた。これで厄介の種を始末できると。


「いやでも、魔の森って物騒なんだろ? あいつがいたほうが何かと助かるんじゃあ――」


『気にするなアウェル。ハッスル丸君には、性事を司る新しい忍者をやってもらって――』


「失敬」


 風が巻き起こり、忍者が現れた。確かバレット・正といったか、佐助神社の宮司をしている老爺だ。隣にはやはり忍びの姿の老女。どちらも、あちこち傷ついている。

 余程の相手と戦っていたのか、二人とも全身傷だらけで息も絶え絶えだ。だが、眼光鋭くゼフィルカイザーを見上げている。


『……何用か』


「いや、今一つ尋ねたき義があり申してな。

 邪鬼めを倒し、これから、忍ファイトはどうなっていくのでござろうな」


『知らん。どうせ何らかの形で続いていくのではないか?』


「然り――忍びとは、戦わずにはいられぬ生き物なれば。されど、過ちを正すこともできる」


 どこか超然と口にして、


「いや実は拙者ら、ヨリを戻すことになり申してな」


「これも大明神の御利益だえ。ありがたやありがたや」


 唐突な惚気に、座ったままコケるという器用な真似を晒すゼフィルカイザー。


『それこそ知らんわ……!! 老いらくの恋なら余所でやれ、余所で!』


「まあまあそうおっしゃらずとも、大明神。

 貴殿らにも、島の者ら総出で歓待の宴を用意しておるそうな。ほれ、参ったぞ」


 バレット・正がうながした先、土煙を上げながら迫ってくる忍者の群れ。


『なっ……!?まっ、待て、私たちはすぐに島を去る――』


「祝いの宴は当分続くゆえ、島からは出られぬと思ってくだされ――では」


 老いた二人の姿が掻き消えた。

 忍者どもが、すぐそこまで迫っている。

 現実から目を逸らすように空を仰ぐゼフィルカイザー。抉れた天津橋の向こうには満月が上っている。

 どこからか、怪鳥けちょうの啼く声と魚怪の嬌声がこだましている。


『おのれ……おのれ、あの光るおっさんめぇええええ!! もう忍者はこりごりだああああ!!』


 光る超存在への恨みを怨怨怨とわめき、ゼフィルカイザーは駆け出した。ゼフィルカイザー、どこへ行く。




「アウェル、白いのどっか行っちゃったけど――なによ、えらい疲れた顔して」


「だってハッスル丸と初めて会ったときといい、今回といい、なあ?

 忍者はともかく、忍者でおかしくなったゼフィルカイザーはもう、こりごりだ」


 それにはまったく同意とばかりに、全員がうなずいた。

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