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011

 少し時は遡る。


「……で、いきなり逃げてきてどうしたのよ。魔力切れ?」


 戦場からほど近い木立の中、ミカボシのコックピット内でセルシアはシングに尋ねる。対してシングは、あわただしく機内のインターフェイスをいじっていた。


「実際魔力切れではある。今の俺の魔力じゃ、これ以上戦えない。だがそれ以上に、あの相手にアウェル達だけではまずい」


「じゃあどうすんのよ」


「確認だ。クオルさんは寝てるのか?」


「このとおりよ」


『すぴー……』


 寝息を立てて柄を傾ける聖剣にも眩暈を覚えることの無くなってきた自身に、逆に眩暈を覚えそうになる。


「……じゃあ、これから起こることを黙っていてくれ。俺は怪しげな敵の影を見つけたからそれを追って行った、とでも言っておいてくれ」


「まあ、わかったけど……でも魔力切れてんでしょ?」


「ああ。シング・トライセルとしてはな。じゃあ、頼む」


 普段のどこか間の抜けた感じが失せ、断固とした調子で言い切られるとセルシアもなんとも反論しがたい。


「……なんなのよ、ほんとにもう。しっかし、あたしもコレやら金物やら笑えないかしらねえ」


 微妙に熱を持った頬にため息をつきながらミカボシから駆け下りる。それを確認したミカボシが改めて立ち上がり――機体を、闇色の帳が覆った。


「うわっ、なにこれ、機道魔法、じゃないわよね?」


 帳の向こうでがしゃがしゃと物音がする。それ以上に、伝わってくる魔力の質がまるで違う。その魔力の波動は、数か月ぶりながら、随分と懐かしい。

 帳が開き、露わになったその姿。黒騎士エグゼディがそこにいた。


「……どうやったの?」


『契約魔法と召喚魔法と、まあいろいろな魔法の応用だ。準備はしていたが、実際に試すのは初めてでな。いや、うまくいってよかった。

 じゃあ――行ってくる』


 翠緑と紫苑が入り交ざったコアに魔力の光が灯り――漆黒の機影が、セルシアの動体視力すら振り切って消え失せた。空間転移だ。

 体積が消失した影響で風が逆巻く中、巨人の対決を見上げ歯噛みした。

 アウェルは戦っている。シング、ガルデリオンもだ。自分は何かできることはないのか。


「ま、あたしじゃ足手まといなのよね。こいつもそもそも寝てるし――」


『むにゃ……この、なんとも懐かしい気配は……どうかしたですの、マスター?』


「うわっ!?」


『……どうしたんですのマスター。戦場から離れてるようですし、何があったんですの』


 タイミングよく目を覚ましたクオルにあたふたするセルシア。クオルも様子がおかしいと感じたのか、突っ込んでくる。


「べ、別になんでもないわよ。シングはその……ウンコだってさ、ウンコ」


『ふっ、肉体を持つ者は不便ですの』


 このはぐらかしをシングが聞いたら、それはそれは複雑な表情になるだろうこと請け合いだ。


『――して、戦いは、ゼフ様はどうなってますの』


「あんな感じよ。あーなるとあたしじゃ手ぇ出せないわ」


『はっ、所詮はヘボマスターですの』


「あんたが寝ぼけてるからでしょうが。おかげでろくに特訓もできてないし!」


『おやそれは失礼しましたの。最適化、大方の部分は終わりましたの』


「へーへー、っとに役立たずはどっち――え?」


『だから最適化は大体終わりましたの。あとは実際動いて微調整となりますの――どうされますの?』


 聖剣に問われ、今代の主は巨人の戦いを、その中で爆光を散らす白と黒と灰の機影を見据えた。


「そりゃ――決まってんでしょ!!」




『ぐぐぐ……貴様、魔界の者か!?』


『いかにも。改めて名乗ろう、魔王軍筆頭騎士、ガルデリオン――魔界の者を騙る愚物を処断するため、ここに参上……破ッ!!』


 ゼフィルカイザーがあれだけせめぎ合った相手を突き飛ばしてのけるエグゼディ。ジ・オリジンも油断ならないと感じたのか距離を取ったところに、


『隙あり、サムライ光線!』


『ンアーッ!!』


 X字の光線がジ・オリジンを狙い撃った。流石にこれはたまらずと回避に専念するジ・オリジン。

 その間隙に息をついたガルデリオンは、ひとまず振り返り――


『死ねぇええええっ!!』


『うおおおおっ!?』


 魔剣イクリプスが、機神剣を受け火花を散らした。何が悲しいって、この反応が割と予想の範疇内だったことだ。




『ッ……これは……!?』


 打ち合った二振りの黒の剣。どちらもロングソードで拵えも似通っている。だが、刃の黒は別物だ。

 イクリプスは夜闇の色の刀身の中、刃先がほのかに明るく輝いている。見覚えがある。ソーラーレイのそれに近い。かつてトメルギアで、ガルデリオンはソーラーレイとイクリプスが共鳴し合うものだと言っていた。

 対し、機神剣はゼフィルカイザーが取り込んだ神剣アースティアの趣を色濃く残している。僅かに緑がかった黒の中、角度を変えるごとに僅かに魔力光のラインが透けて見える。

 その二振りの激突がもたらした魔力の波動は、どこか柔らかさすら感じさせるものだった。少なくともゼフィルカイザーはそう感じたし、ガルデリオンもそうなのだろう、ゼフィルカイザーにも見て取れるくらいに、エグゼディの握りが緩んでいる。


「ここで会ったが百年目、ぶちのめしてやる……!」


 約一名、そんなもん関係なしにヒートアップしている阿呆がいるが。


『いいから落ち着けアウェル、この急場だ!』


 たしなめつつも、ゼフィルカイザーはゼフィルカイザーで困惑にカメラアイを明滅させる。


(くっ、やはりシングはガルデリオン、そう考えざるを得ん……!

 いやだがしかし、時系列を無視した特別編じみたこの状況、脈絡なくライバルが登場するのも自然なことなのでは……!?

 くっ、セルシア達に通信機を持たせておくべきだったか)


 これが別の、例えば砂の大陸で大魔動機でも相手取っていれば話は違っただろう。だがこの戦場にこの敵手――たびたび自身で口にしていたことだったが。

 端的に言ってこの転生機、忍者に頭脳をやられていた。


『貴様、何故ここにいる!?』


『この島に眠る者が邪神の眷属の類ではないかと思ってな。

 或いは――貴様らももう知っているだろう、大魔動機が我らの悲願、邪神の復活を妨げる楔となっていることを。

 この巨躯だ、これもその一つかと思えばどうやら違うらしい。

 加えて魔界を騙り、精を注ぐなどと不埒なことをほざきよる……!!』


(言っていることに筋は通っているが、なんで最後に一番力籠ってるんだ、やはりシングなのか……!?)


 悩むゼフィルカイザーを尻目に、その腕はイクリプスを弾き、黒騎士へと剣を突きつける。アウェルの手によるものだ。


「どうでもいい、やるのか、やらないのか、どっちだ!?」


『……今回は貴様とやるつもりはない。

 この先史文明の遺産は、放っておけば魔界にとっても害になる――アウェルと言ったな、セルシアの弟。手を貸せ。あの鬼を倒すぞ』


「勝手なことを言いやがる……! どうする、ゼフィルカイザー!?」


『この状況で余計な敵を増やせるか――信用していいんだな、黒騎士』


『魔王軍筆頭騎士の誇りに誓って、背後から斬りかかるような真似はせん』


(アウェルに対する嫌味かそれは)


「ッ……今回だけだぞ、スカし野郎――ッ!!」


 かざした粒子バリアが手裏剣を弾く。


「けど忘れるなよ! てめぇを倒すのはこのオレだからな! セルシアの前でギタギタにしてやるから、それまでやられるなよ!?」


(それライバルキャラのほうのセリフだってばよ)


『君、そういうこと言っている奴はやられるぞ?』


 不可抗力ながらゼフィルカイザーとガルデリオンの意見が一致し、


『……善処』


 黒の魔動機も聞こえるかどうかという小声で不承不承に頷き、


『ほうほう、この殺伐とした戦場に馳せ参じようと言うのか、漆黒の騎士よ。

 なれば――我が力を受けるがよい!』


 極彩色の鬼火の手裏剣がエグゼディを襲った。

 爆炎が迸り、漆黒の機影が覆われる。だが、


『それはこちらのセリフだ。最強最古の魔動機の力、受けて見ろ――機道奥義ライザーアーツ、次元斬!!』


 宙に浮かぶジ・オリジンの背後に現れた黒騎士が、次元の断裂を炸裂させた。流石に障壁も何もあったものではなく、ジ・オリジンが障壁ごと真っ二つに両断され――その像が、揺らぐ。


『なにっ!?』


『分身だ、気をつけろ――アウェル、右!』


「喰らいやがれ!」


 再起動したO-エンジンの力を受け、機神剣が粒子の斬撃を飛ばす。はたしてそこにはジ・オリジンの姿。しかしジ・オリジンは光背を手に取り、投擲体勢を取っていた。


『そちらこそ喰らうがいい、人の業を背負いし我が転輪を!』


 鬼火と共に投げられた百八方手裏剣は回転に応じるように伸張する。遠心力にしてはばかげているし、そもそも何でできていると言うのか。

 それが、数少ない例外を除きすべてを消滅させてきた金色のフェノメナ粒子とぶつかり、極彩色の燐光をまき散らし――金色の斬撃を、噛み砕いた。


「なっ……」


『ちぃっ、粒子ミサイル斉射!!』


 脚部ミサイルランチャーから、励起状態だったフェノメナ粒子ミサイルが全弾発射される。粒子の瀑布八連発をなおもこそぎ取るが軌道を逸らされ、鬼火の戦輪はゼフィルカイザーの背後、サムライビームチャージ中だったザ・クロスの眼帯ごと、頭部を斬り抉った。

 収束していた魔力が戦輪もろとも暴発し、たたらを踏むザ・クロス。人間ならばわずかな挙動に過ぎないが、それをこの大質量大体積でやられるのだ、大気がうねり風が逆巻く。


『グェーッ!! くっ……し、しかし、拙者らは既に無い物を失い、貴様は一つしかないものを失ったでござるな、邪鬼よ!』


『一つしかない? はて――だれがそんなことを言った?』


 ジ・オリジンが両の手を振るうと、巨体から失われたはずの戦輪が飛び出す。十二の戦輪は、今度はジ・オリジンの背後で輪を成した。まるで曼荼羅のように。

 だけではない。まるで曼荼羅に座する諸仏がごとく、十二の戦輪の前に像が結ばれていく。ジ・オリジンの分身だろう。

 鬼火燃え盛る曼荼羅を背負うジ・オリジンたちの姿は、なるほど、神仏と言うだけの格を確かに感じさせた。


『そっちの機体ではないが、一体どれほどの性能を持っているというんだ。

 まさか本当に神だとでも言うのか!?』


「忍者の、神様ってか?」


『……ひっ』


 ガルデリオンの叫びとアウェルの狼狽、そして増殖したジ・オリジンの姿に、ゼフィルカイザーの脳裏を最大の忍者トラウマがよぎる。


 ゼフィルカイザーの知る最凶最悪の忍者ロボとはなにか?


 いくつもの変形形態を持つ警察所属の機体、ではない。彼は試作型の兄弟機も含めて大好きだ。


 随伴機と合体する機体、でもない。質量保存則を無視している気がするが、何がマキシマムしているのだろうか。


 宿敵に腕を斬り落とされたシーンがやたら印象的な機体もやはり違う。むしろこの機体を思い返すとガルデリオンとエグゼディに目が行くのは何故だ。


 ならばやはり、経験値と隠しフラグと勝利条件を奪い去って行った機体か――否、違う。違うのだ。


 それはロボットSLGシリーズの番外編にラスボスとして登場した機体。極悪極まる特殊能力と補正効果、異常なまでの機体性能に狂ったような攻撃力、そして一回見たら忘れられない鮮烈すぎる戦闘アニメーション。

 何より、経験値スレイヤーは2回行動止まりに対し、こっちは地獄めいた3回行動だ。

 この敵と相対していると、その時苦戦した過去生がメモリーをよぎって仕方ない。

 背部フレームを冷却材が滴る感触を覚えるゼフィルカイザーの内心を見透かしてか、ジ・オリジンは睥睨しながら言い放つ。


『ふ、怯えるのも無理はない。三体がかりでこの体たらくなのだからな。

 否――このジ・オリジンの力は、貴様らの三倍ということか』


『墓穴を掘ったでござるな、ジ・オリジン! ゼフ殿、行けるでござる! 通常の三倍は忍者にとって死地にござる!』


『お前はもう黙ってでかいの抑え込んでろ!』


 言う間にも、己が敵を焼き払わんと鬼火を燃え盛らせるジ・オリジンたち。しかも、鬼火のように見えるだけでまったく異質な力だ。


『なんなんだあれは!? 魔力に熱に稲光に、それだけじゃない、エグゼディの機道魔法に僅かに反応が見えるあたり、空間や重力にまで影響が出ているのか!?』


「ヤバいのくらいオレでもわかるっての! くそ、このままじゃ――」


『フィヒヒヒヒ!! この魔界の業火で消え去るがいい、エロイムエッサイム――天上天下唯我――』


『臨兵闘者皆陣列在前!』


 ハッスル丸ではない、オクテットの艶を持ちながらも凛とした声と共にザ・クロスの刀が輝き、それに押されるかのようにジ・オリジンの分身体の像がほつれ、鬼火もその勢いを減じていく。


『封印はまだ完全に解けてはいない、故に貴方の力も完全には発揮できないでしょう!』


『グ、ガ……!! おのれ、おのれ売女が……!!』


『はっ、処女おぼこ趣味の半可通がほざきよるでござるな。よほど他の男と比べられるのが嫌と見える――今でござる、ゼフ殿、アウェル殿! それに黒騎士!』


『なにか凄く釈然としないが――いいだろう、合わせろアウェル!』


 黒の魔動機が空間の歪みを帯び、


「おう、行くぞゼフィルカイザー!」


【O-エンジン ツインドライブ】


 白の機神が全身を金色に輝かせ、


『ぐ、が……なめ、るな……!!』


 負けじと、機械仕掛けの鬼は封印の呪縛にさいなまれながらも鬼火を再度たぎらせた。反動だろう、その駆体がひび割れていくにも関わらず、鬼火の曼荼羅を回転させ、その力を収束していく。


『もういい、精を注ぐは他の血でやり直すのみよ!! 消え去れ、我が忍法の奥義と共に――!!』


 撃たれる前にと急ぐ白と黒の二機だが、わずかにジ・オリジンのほうが早い。しかし――




『「――――祓え』」




 アウェルとガルデリオンの耳にその呟きが届いたのは、偶然か、それとも佐助大明神の加護か――

 慌てて振り返った二人、そしてゼフィルカイザーも、確かに見た。光を喰らい闇を砕き、己を慕う聖剣が顕現した姿を。エグゼディもまたその姿を捉えた。己の末裔たる、太陽の乙女を。




「うっぷ……でもなんか、前より違和感減ってる感じがするわね」


『とはいえヘボマスターでは長くは持ちませんの――故に、一撃ですの』


「ええ。あんだけハデにやってくれてたら、狙う手間も省けるってもんよ――使う時、なんて言えばいいんだっけ?」


『驚きですの。蛮族が、儀礼に興味を示すとは』


「まあ殺すのに技の名前言うのも間抜けっちゃ間抜けっぽいけどさ。けど、あいつらには格好つけときたいのよ、あたしは」


『――さらに驚きですの。あの蛮族が、そんな乙女のようなことを言うとは――ならば、行くですの。祓え――』




『「ソーラーレイ!!』」


 大地が太陽と化したかのような爆光とともに、極太の光条が、天地を貫く。

 慌てて避けた二機をかすめ、全ての穢れ不浄を祓ってのける太陽の刃が、巨体ごとジ・オリジンを薙ぎ払った。


『が――光、光だと……!? バカな、我こそが、我こそが真の光――』


 鬼火が蝕まれ、消えていく。偽りの光が朝日に溶けゆくがごとく。

 照射はごくわずか、二秒か三秒あったかだ。鬼火と、それを燃やす光背すべてを砕かれたジ・オリジン本体はそれでも健在だった。不可視の障壁が本体を守り、本体も呪縛の反動こそあれ、あの大聖剣の光瀑には傷一つ受けていない。

 しかし、陽光の輝きに視界を奪われたのは十分致命的だった。僅か一足のところには、既に黒の騎士が次元の刃を構えていた。


『機道奥義――次元斬!!』


『ぐっ、がああああああっ!!』


 次元斬を叩き込み、しかしガルデリオンは瞠目した。ジ・オリジンは未だ原型をとどめていた。あらゆる物質を両断し、さらには余波で微塵に砕くエグゼディの奥義を受けたというのに。障壁が威力を減じたのか、ならばあの障壁は空間を隔てるほどの力を持っていたのか。

 だが――障壁は両断され、砕けた。その守りが失われたところに、粒子光を纏う機神の剣が閃いた。


「せいりゃああああっ!!」


 金色の刃がジ・オリジンに突き立ち、フェノメナ粒子が機神を分解せしめていく。朽ち果てる鬼の赤い仮面が、白の機神のツインアイと交錯する。貫かれた胸を見て、金色のフェノメナ粒子を、機体から湧き出る蒼い焔を見て――鬼は、天を仰いだ。その先には、太陽に霞む双月がある。

 だが、ゼフィルカイザーの中枢回路には寂寥感があった。精霊機とは異なる、意志を持った機動兵器。おそらく果てしない昔に造られ、存在意義も遂行目的も見失っただろうこの鬼と、友となることはできなかったのだろうか。


『この、力……!! そうか、そういうことだったのか!! 忍法とは、転生とは……!!』


『うるさい虚無に還れ……!!』


 やはり会話が通じる相手ではないと、通じてはいけない相手だと、ゼフィルカイザーは機神剣に力を込めた。

 だが、ゼフィルカイザーのセンサーがそれまでにない大規模な反応を捉えた。上ではない、下からだ。二つの巨体が混ざり合い、そこに膨大なエネルギーが生じていく。


『これは一体何事でござるか!? ハチ!?』


『くっ、式神は制御下にあるけど、その式神たちでも制御できてない……!!』


「一体なにが――」


『あの巨体は我の一部よ』


『ッ……自爆するのか!?』


『よく御存じだ。流石は、奴に託されただけはある――故に、ここで散れ!』


 下に生じているのと同じ規模のエネルギーが、消滅しゆくジ・オリジンに収束していく。その圧力に、ゼフィルカイザーは機神剣ごと押し返された。障壁が再展開したのだ。


『ははは、貴様も我も消えるのだ、終焉の彼方に――!!』


「ど、どうするゼフィルカイザー!?」


『手はあるが、そのためにはもう一度奴に近づかねば――』


 その肩を叩く、力強い手があった。


『任せろ』


 そして、カメラアイが捉える映像が歪み、一瞬にして切り替わった。焼失した位置座標データが再取得されるが、そんなものを見ずとも、ゼフィルカイザーはジ・オリジンの背中を捉えていた。

 ならば話は早い。ゼフィルカイザーは鬼を捉え、全出力をブースターに回した。


『なっ、貴様……!!』


『出力が同じなら、ぶつけ合えば対消滅するはず……!!』


「んな乱暴なのでいいのか!?」


『お約束だ、そして他に思いつかん……!!』


 そして、島の忍者たちは見た。鬼を捕らえ逆堕ちる光り輝くほうき星を。それこそは伝説の忍法……!!

 混ざりゆきもはや制御できぬ泥の中から飛び出した機影、影鯱丸がその技の名を呼んだ。


『あれは……忍法、飯綱落としでござるか!! やはり、ゼフ殿こそが佐助大明神!!

 行くでござるゼフ殿! 貴殿のカラテを見せてやるのでござる!!』


『違うわぁあああああッ!!』


 叫びとと共にさらに速度が増し、ジ・オリジンがボロボロと朽ちていく。フェイスマスクが砕け、そこに笑みのようなひび割れが走る。


『――これでいい』


『ッ、貴様、なにを――』


『この魔界に我らの居場所無し。潔く還ろうぞ――』


 そこには酩酊から覚め、己の滅びを見据えた機械の末期の言葉があった。

 最後と言うようにジ・オリジンは首を傾けた。赤いマスクが砕け、露わになった視覚素子がゼフィルカイザーを捉え、


『佐助ェ!! お前こそが我にとっての新たな――』


『言わせるかあああああっ!!』




 ほうき星が泥の中に落ちるのを、誰もが目にした。そして泥は収縮を始め、金色の光と共に炸裂した。

 流れ落ちる砂粒が忍界山のあった場所を埋めていくが、もはやそれはただの砂だ。

 しかしその中、地に降り立った白と黒の機械神に誰もが息を飲み――やがて讃えだした。

 新たな伝説が、ここに生まれたのだ。




(……うん、数々の主人公が、なんでラスボス仕留めたら姿を消すかよくわかった――この島には二度と来ない、絶対にだ)


「ゼフィルカイザーも忍法とか使えたのな」


『違うからな!? いや、違わなくもないが、あれはどちらかというと体術というか……そもそもロボットでやるなら大気圏突入しながらやるべきだし――』


『――――見事だ』


 空からの声に、慌てて機体を切り返す。そこには黒の剣を掲げた漆黒の騎士がいる。


「ッ……やるつもりか!?」


『生憎と消耗したのでな。また次の機にしよう。そして次こそは、セルシアを頂いていく』


「ほざけ、なんなら今すぐ――ッ」


 ゼフィルカイザーが膝を着く。やはり、限界だ。そして黒騎士も魔力の衰えからして限界なのだろう。


『ではさらばだ――魔の森で待っているぞ、アウェル』


 そう、最後に告げて、黒の騎士は転移した。

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