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001

 打ち寄せる波。響く潮騒。穏やかな砂浜には、松、竹、梅が何故か順番にローテーションで植わっている。

 青い空の向こうには、虹色の山。下から七色に色分けされたいろんな意味でヤバそうな山が鎮座している。


『……ついに来た』


 足元ではしゃぐ仲間たちを見降ろしながら、トリコロールカラー改め白と黒の機体はぽつりとつぶやき――


『島回は、ロボット物の宿命とはいえ。

 ……ついに、来てしまった』


 絶望を吐き出した。




~これまでのあらすじ~


 人型機動兵器へと転生し、ファンタジーロボットの世界へと降り立ったロボット、機体名ゼフィルカイザー。

 邪神の封印の維持、ないし討伐というミッションを押し付けられたゼフィルカイザー。

 山の大陸辺境に降り立ち、すぐさまに出会った少年アウェルと蛮族娘セルシア、道中出会った賢者の少女パトラネリゼ、陰陽機甲忍者ペンギンハッスル丸とともに旅をしてきた一行は、トメルギア公国に策動する魔族の陰謀に巻き込まれ、これを打ち砕いた。

 そして南にある砂の大陸に渡ってきた一行は、かつてそこに栄えていた魔力至上主義を掲げたベーレハイテン帝国の遺産を巡る争いに巻き込まれる。

 勇者の血を引いていたセルシアの家系に代々伝えられていた剣、そこに眠っていた光の精霊機クオル・オー・ウィン、帝都の外れの工廠に住んでいた重金属製の技師の少女ツトリン・シキシマル、道中出会った凄腕の魔動機乗りシング・トライセル、その正体は魔王軍筆頭黒騎士ガルデリオンを仲間に加えた一行。

 彼らは帝都で開催された大魔動杯を勝ち抜き帝国の遺産、神剣アースティアを手にしかけるが、帝国残党に襲撃され、ゼフィルカイザーとアウェルは重傷を負う。

 だが、神剣アースティアを取り込みパワーアップして復活したゼフィルカイザーは、帝国残党を一蹴し、帝都を去ったのだった。


~あらすじここまで~




 帝都を去った一行は、ひとまず砂の大陸をこそこそとぶらついていた。とはいえ無目的だったというわけでもない。風と水の大公家の行方を探すためだ。

 光の精霊機であるクオルの証言によって、邪神の封印は地風火水の四つの大公家に伝わる巨大兵器、大魔動機グラン・マジカライザーによって維持されていることがわかっている。

 しかしトメルギアベーレハイテンの二家と違い、風と水は少なくとも現在の交易圏において家名が響いていない。


「どうも、風の大公家はこちらと同じ大陸にあったっぽくはあるんですよね。

 風というだけあって、飛行関係の技術や流通なんかを牛耳っていたとか、そういうのは文献に残ってるんですけど。

 ……たぶんですけど、魔の森が怪しいんじゃないかなーと思ってます。

 こちらの大陸で帝国以前から詳細が不明なのはあそこだけですし、リオ・ドラグニクスを修復したのもそこにいる連中って話ですし。

 ただ瘴気みっちりの地域なんで、魔族って可能性もあるわけで……いや、それならトメルギアと同じ状況って可能性も? むむむ……」


 パトラネリゼも、ただ帝都でぶらぶらしたり賭博に興じていたわけではなかったらしい。

 しかし砂の大陸辺境にある魔の森は、全盛期のベーレハイテン帝国も手を出さなかった土地だ。

 侵略価値がなかったと言えばそれまでだろうが、トメルギア辺境、怪奇植物生命体エルフと出くわしたトリセルの森などとは比べ物にならないだろう。

 いくらパワーアップしたとはいえ、他の装備はほとんど失ってしまった。なにより動力炉キモの小さいゼフィルカイザーだ。

 用心するにこしたことはないと、魔の森攻略の算段をつけようとした矢先のことだった。

 得体のしれない魔動機マジカライザーが、次々と襲ってきたのは。




 機体それ自体はヌールゼックやデスクワーク、他にもガンベルと起源を同じくしていそうな機体など、量産機ばかりだ。

 しかしその戦闘の腕は並大抵ではなかった。帝国軍残党、帝国魔動騎士団の空手形どもなど比べ物にならない連中ばかりで――しかも、敗れ去った後には自爆してのけるおまけつき。


「手口からして、おそらく以前やり合ったハイラエラでの黒幕と同じでござる。

 糸を引いておるのはさらにその黒幕――ワンコルダー殿が言っておったラームゼサルとやらでござろう」


 ラームゼサル・ヴェニトリー。砂の大陸の西方にある大陸に存在する宗教国家ロトロイツ、そこに栄えるトライリング教団枢機卿にして、聖騎士団の団長を務めている人物だ。

 加えて、砂の大陸の覇権争いで漁夫の利を得ようとしていたらしい。伝聞だけで、ゼフィルカイザー達一行は直接の面識はないのだが。

 集落内でも容赦なく襲ってくる程度は序の口、ひどいパターンだと集落自体がトライリング教団に帰依していて村民が襲ってくる始末。

 帝都を出て半月、そんな風にのんびりする間もなく大陸中を転々としていた一行の前に、しかし突如、赤いくノ一型の魔動機が現れたのだ。

 ご丁寧に、急いで帝都を去ったため、帝都での拠点だったシキシマル工廠に置き去りにしてきた私物類を回収した上でだ。


「相当厄介な連中に目をつけられてるみたいだし、一度、この大陸を離れたほうがいいと思うんだけど」


 アデリーペンギンを早贄にしながら告げるオクテットにいざなわれるまま、一行は船に乗った。

 波に揺られること三日、一行はその地を踏むことになった。




「それにしてもすごいスピードでしたね、この船」


『まあな』


 感嘆するパトラネリゼに、しかしゼフィルカイザーの返答は淡々としていた。

 背後にある船を、しかしゼフィルカイザーは振り返ろうとしない。眼前の光景だってシャットダウンしたいが、後ろにも見たくないものが鎮座しているのだ。

 直径にして20mを超える船体。しかし船というにはスカスカの構造だ。ドーナツ状の外周部に、中心にある船体本体が吊られているという形状。

 ――ぶっちゃけると水蜘蛛の形をしていた。それに忍術で風を吹き込んでホバー推進するという、ハイテクというかローテクというか力技というか、なんかそんなものだった。


(俺が乗っても大丈夫だし、頑丈なのは確かなんだろうが)


 船体は木製、クッションというか、浮き輪部分に至っては植物を編み上げて作ってある。なんと木遁で、くノ一、オクテットがその場で作り上げたものだ。

 オクテットは、ハッスル丸の同郷の忍者で、曰く結婚の約束をしたらしい。だが、別にペンギンではなくいわゆる人間の姿をしている。

 ゼフィルカイザーから見て異世界であるこの世界では、人間も亜人も人語を喋る動物も等しく人間と見なされているのだ。ゼフィルカイザーも最近は慣れたが、この世界に降り立った当初は大変だった。


「しっかし、空気を送り続けて浮く船かー。発想としては単純やし、同じようなの作れへんかなあ。

 クーやんの時代には、こーいうのはなかったん?」


『すぴー』


「あらら、相変わらずおねむかいな」


 などという掛け合いをしている重金属グレムリンと鼻?提灯をふかしたリビングソードは、流石にあれは人間ではないらしいが。

 ともかく、オクテットの魔法、あるいは忍術の腕としてみれば並大抵のものではない。以前トリセルで見たエルフのそれよりも上だ。ハッスル丸が術の腕においては己を凌ぐと讃えるのもうなずける――デザインセンスはやっぱり忍者だが。

 そんな心情を気にした様子もなく、くノ一に背負われた簀巻きは駆る愚痴を叩く。


「本来、荒波には弱いものでござるが、拙者の水遁で押さえていたでござるからな……ところでハチ、いい加減解くでござる」


「やだ。どうせ逃げるでしょ」


「今更逃げやせんでござるって――ほかならぬお主の為でもあるしな」


「む……口だけは上手くなって」


 解けた縄から零れ落ちたアデリーペンギン、ほこりをぺしぺしと払い――


「では改めて。ようこそ、スッパアイランドへ」


『お、思ったよりまともな名前だな』


 ゼフィルカイザーにとって非常識なこの世界において、なお非常識な存在である忍者。島の名前が、まあなんとか納得できる範囲だったことに安堵し――


「この島に、拙者の育ったオメ賀(おめが)の里を含めた三つの忍びの里があるでござる」


『待てゐ』


 いきなり狂ったネーミングが出てきてゼフィルカイザーの視界がブルースクリーンに染まった。パワーアップ後の最適化がまだ完了していないゼフィルカイザーには刺激が強すぎたようだ。そんな相棒の心情を察してか、アウェルが追加で質問する。


「……どうせ後で聞くハメになるだろうし、今のうちに聞いといたほうがいいよな。

 他の二つはどういう里なんだ?」


賀ンマ(がんま)の里とシグ魔(しぐま)の里でござる。

 それぞれオメ賀流機甲道、賀ンマ兵法G零型、シグ魔式宿曜法を伝えており、これら以外にも個々に秘伝を伝えておる家もあり、例えばドア隠れさん家なんかは蕎麦打ちを――」


「ごめんもういい。オレも頭痛くなってきた……」


 アウェルもげんなりしながら、ゼフィルカイザーの足に手を置いた。


「んでどうするのよ。とりあえず腹減ったから何か食べたいんだけど。魚飽きたからできたら陸のもんで」


『相変わらずはしたないですのー……すぴー……』


「クーやん、相変わらずおネムなんやなぁ……これはヤッてまう好機――」


『ぴぃっ、させないですの! きぃぃぃぃ!!』


「ああもう暴れるんじゃないわよこの……!!」


「クオルさん、前より元気になったなあ、どうどう」


 鞘から勝手に伸び出てツトリンとぶつかりあう聖剣をなだめる銀髪の美青年、シングは、やたらとげんなりしていた。

 なんとも言い難い表情のオクテットがとりあえず音頭を取る。


「――――とりあえず腹ごしらえなのね? そんじゃ、行きましょうか」




「さーぁ、安い、安いよー! 我が家秘伝の生薬を練り込んだ兵糧丸だよー!

 一粒3000㎞、死人も走りだす栄養価だよー! 生きてる奴が飲むと死ぬよー!」


「近海で取れた海苔だよー! 畳一枚分、漁師が絞め殺されそうになりながら捕まえた大物だよー!」


「地元で取れた猪鹿蝶だよー!」


 所狭しとならぶ露店の、にぎやかしい活気が広場に満ち溢れている。だが売られているのは珍品というかゲテモノというか。広場入口手前の駐機場に立つゼフィルカイザーは、カメラ越しの映像にドン引きしていた。


『大体なんなんだ、「ようこそいらっしゃいませ すっぱあいらんど たのしいにんじゃむら」って』


「いやぁ、様変わりしたもんでござるなぁ。観光自体は昔からやっておったでござるが、もっとサツバツとしておったんでござる。

 三つ巴で事あるごとに殺し合いやっておったのに、どうしたことでござるか」


「大体あんたのせいでしょうが、ハッスル丸」


「あのー……ところで、あの妙な動物、なに?」


 セルシアが若干青ざめながら、屋台に並ぶ〆られた謎の生物を指さす。


「ああ、ありゃ猪鹿蝶でござる。美味いでござるよ?」


『猪鹿蝶って、おま』


 それが猪のボディに蝶の羽、鹿の角、みたいな外見ならば、この世界の生態系的にはそう不自然ではなかっただろう。

 だが。はたしてそれは、猪ヘッド、鹿レッグ×6、蝶ボディのクリーチャーだった。クリーチャー度で言えば過去最悪の代物ではなかろうか。なにせ、とりあえず食うが信条のあの蛮族娘が尻込みしているのだ。だがこれでは蛮族が廃るとばかりに覚悟を決め、軒先に歩み寄る。


「へ、へー……まあ物は試しよ、食って――」


 最後まで言い終わることなく、セルシアの額に猪鹿蝶の口が突き刺さった。なんということだろう、二本の牙の間、渦を巻くように収縮していた管状の口が伸張したのだ。

 セルシアの反射神経を振り切る恐るべき速度、セルシアの皮膚を貫徹する恐るべき鋭さの口は、ごっきゅごっきゅと何かを吸っている。余りの衝撃に、あのセルシアが反撃も忘れて目で疑問を投げてきた。


「猪鹿蝶、吸血生物だから気を付けてね」


「セルシア殿だから皮で止まったんでござるよ? 他の者だったら頭蓋を貫かれ脳を吸われ――」


 言い終わる前に、ぢっ、と、擦過音の連続が遮る。そして猪鹿蝶が木端微塵に斬り裂かれた。


「……まず生きたまま吊るしとくんじゃないわよ、こんなの――なによ?」


「生き〆のほうがうまいからだよ。で、嬢ちゃん、お代」


 蛮族、スッパ島の異文明の前に膝を着いた。


「……誰か金貸して」


「む、セルシア――」


「ほい」


 シングの機先を制して、待ってましたというように財布を取り出すアウェル。半分ほど取り出して、


「こんだけの範囲でなんとかしろよ」


「……ケチ」


 恥じらうように呟きながらも小銭を受け取るセルシアだが、アウェルは感じ入ることもなく、困ったように深いため息を吐き出した。


「オレ以外まともに金持ってないんだから自重しろ、自重。アニキも無理しなくていいから」


「うぐぐぐ……!! 素寒貧の我が身が寒い……!!」


「あんた、あたしに賭け事やんなって説教しといてそれって」


「ごふっ……!!」


「みんな決勝戦で全ぶっこみしてましたからねえ……」


 帝都で行われていた大会、大魔動杯の決勝。ゼフィルカイザー、アウェルと、かつて帝国を滅ぼしたと言われる最強の例外イレギュラー、渡九郎。

 だが次の一合で決着というところで、帝国残党が乱入してきたのだ。


「ほんっとに、乱入とはとんでもないことですよ。あれ、賭け金とかどうなったんですかね。闘技場も崩壊しちゃいましたし」


「胴元の総取りかもなー。

 でも、その胴元がおっ死んでまったでなあ。ワンコのおっちゃん――」


 その争いの中、意地と無念の果てに死んだ恩人を重い、しんみりとするツトリン。だが、視線の先にあった看板にはて、と首を傾げた。


「なぁ、赤シャチはん、なんなん、あの「天然ものの手裏剣」いうのは」


 赤シャチとは、ハッスル丸の冒険者時代の異名だ。港町ハイラエラの抗争を一夜にして治めた、血染めの赤シャチ。

 なおシャチなのは、ペンギンの存在を知らなかった当人と周囲が、シャチの幼体ではと誤解していたせいである。その元シャチ現アデリーペンギンは、変わらない表情で感慨深そうな声を上げた。


「おお流石地元。手裏剣も天然ものがあるでござるな。いやー、養殖も悪くないでござるが、手間がかかるでござるからなあ」


「ちょっと待った。手裏剣ってあの投擲武器だろ? 天然はともかく、養殖って……え゛」


 屋台の隣に植わった木に、手裏剣が生っていた。


「土壌の金属を吸収してああいう実を造る植物なんでござるよ。

 いやー、旅の間は手持ちの種を木行術で促成栽培しておったんでござるよ。

 それに大陸で冒険者やっておったころは、種もったいないし、土壌が痩せてていい手裏剣が育たない故、鉄で手裏剣を偽造しておったんでござるよなあ、造花のごとく。

 とはいえ金行術での手裏剣の生成は大気中にそれなりの重金属粒子が要るわけで」


「わかりません……ハッスル丸さんが何を言っているか、何にもわからないです……!!」


『理解しようとするな、理解したら飲まれるぞ――セルシア、それは!?』


「や、とりあえずまともっぽいもんを買ってきたんだけど」


 この蛮族の早業はいつものことだから置いておくとして。その手にあるのは竹筒だ。


「おお、飯竹めしだけでござるか」


『ひょっとして、あれか? 青竹に米を入れて炊き火に突っ込むと米が焚けるという』


 ロボット専門ながらそこは日本人。なけなしの忍者知識で解を迫るゼフィルカイザー。

 だが調子が戻りきってないのか、セルシアはなにか諦めたように竹筒をぱかりと開いた。


「――割ったら中に温かいのが入ってたんだけど。しかもやたらカラフルなのが」


「おお、五色米ござるか」


『なにそれ!?』


「竹の中にいろんな飯が詰まっておるんでござるよ。で、割ると同時に炊き上がるんでござる。五色米はレアでござるよ」


『いや、五色米ってあれだろう!? 米を食われないように染色して目印にする――』


「あ、うまいわこれ。コメっていうの?」


『え゛ぇーーーーー!?』


「通じない、常識が、何一つ……!! どこかにまともなお店、お店は……!!」


 通信機を手にしたパトラネリゼが視線を巡らせた先――みずみずしい青物が並ぶ屋台があった。一見したところ、特に変なものは並んでいないようだ。


「さーぁ、運賃かかっとるでちぃっと割高やけど、新鮮なメアドラの野菜やでー!」


 そして見覚えのある法被はっぴ一丁の白カワウソが、ハリセンをばんばんやっていた。


「ほら、レリーも声を上げて」


「あ、あー、野菜、どうですかー?」


 そしてさらに見覚えのある二人が、売り子をやっていた。


「……ムーとレリーじゃん、なにやってんのさ」

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