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第六章 クジラの島(一)

 アジサイ島からヒマワリ島に向かうには、北のルートを通るといいらしい。風向きと海流の関係で、西側を通るよりも早く着くというのだ。

「こっちのルートだと二日でヒマワリ島に着くみたいだね。行きもこっちを使えたらよかったのに」

 甲板で海図を広げながら、アランが言った。ダレンもそれをのぞき込む。

「潮の関係でムリなんだろ? それに、あっちを通ったからリィにもルカにも会えたんじゃないか」

「まぁ、たしかにそうだね」

 しかしこっちのルートには、ヒマワリ島に着くまで他の島がない。今夜は海の上で過ごすことになりそうだ。

「そういやベッドルームができてたよな。ベッドとハンモックとあったけど、おまえらどっちがいい?」

「わたしハンモック!」

「えぇ! 僕もハンモックがいい!」

 今朝出港してからハッチに下りてみると、キッチンのある部屋の他にもう一つ部屋ができていた。アジサイ島でいろんなことを学んだから、船が成長したのだろう。

 新たな部屋の扉を開くと、そこはベッドルームになっていた。二段ベッドが一つと、天上からぶら下げられたハンモック。そして小さなテーブルの上にはクッションが乗っていた。クッションがリィ用だろう。

 ハンモックなど使ったことがないアランとルカは、一つしかないハンモックをねらってにらみ合いを始めた。

「はいはい、交代で寝ればいいんだから今日のところはじゃんけんででも決めとけ」

 こういうものは一番に使いたがりそうなダレンは、年下の者たちをいさめた。珍しいこともあるものだなと思いながらも、アランはルカとじゃんけんをすることにした。

「じゃんけんぽん!」

 グーとパー。ルカの表情が明るくなる。

「やったー! 今夜はわたしのものね!」

「くっそー……」

 アランは本気で悔しそうな顔になる。

「よーし、じゃあハンモック使う代わりに、今日の昼飯作るのはルカが手伝うんだな」

「えー!? そんなこと言ってなかったよね!?」

「なにごとにも対価が必要だ。メインは俺がやるから」

 ルカはしぶしぶといった様子でうなずいた。ハッチを下りるダレンに続く。

「僕はここでリィと見張りをしとくよ」

「リィ!」

「よろしくね」

 そう言ってルカも下りていった。


 二日の航海だから、アジサイ島から卵も持ってきた。ルカの母親から今日中に食べるようにきつく言われている。

「さーてなにを作ろっかな」

 ダレンは卵を片手に食材庫をあさる。

「ダレンは普段から料理をしてたの?」

「あぁ。俺たちの父さんは船を下りたあと、島でレストランをやってたんだよ。俺はその手伝いをよくやってた。父さんが死んでからは母さんの妹のサナおばさんが店の切り盛りをしてたんだけど、俺もキッチンに立つことが多かったんだよ」

 父親が死んだと聞いたところで、ルカの表情が曇った。そんなルカを見て、ダレンはさびしげな表情を浮かべる。

「そんな顔をするなよ。俺はルカの親父さんの持ってた日記を読めてよかったと思ってるんだ。あそこには父さんがたしかに生きてた証拠があった」

 もう思い出の中にしかいなかった父。残されたのは一冊の日記だけだった。それが他にも残されている。兄弟の希望はそれだけでもふくらんだ。

 ダレンは火をつけてフライパンに油をしいた。せっかく卵がたくさんあるのだ。オムレツを作ることにした。

「俺は包丁を握ってた時間の方が長いけど、アランは本を持ってる方が長かったんだよ。母さんは科学者だったから、アランは母さんに似たんだな」

 よっとダレンはオムレツをひっくり返す。ルカが皿を取り出してきて、ダレンはぽんとオムレツを乗せた。人数分のオムレツを次々に作っていく。ダレンたちは卵二個ずつで、リィのだけ卵一個だ。

「おっし、俺特製チーズ入りオムレツ完成っと! ルカの母さんのライ麦パンとよく合うと思うぞ。パンうまそうだなー」

「今朝焼いたばかりだから、そのまま食べられるわよ」

 ライ麦パンは、日が経つと固くて食べられなくなってしまう。焼かないといけなくなるのだ。そんなことを話しながら、ダレンとルカが昼食を甲板に持っていこうとしたときだった。

「お兄ちゃん! 大変!」

 アランがキッチンに飛び込んできた。その顔にはあせりが浮かんでいる。

「どうした!?」

 アランは説明するのももどかしそうだ。

「とにかく上に来て!」

 ダレンは皿を置いて走り出した。


 甲板に上がったダレンたちが見たものは、海上に浮かぶ黒いかたまりだった。大きさだけで言えば、小さな島とも言えるかもしれない。

 しかし地図上ではこの海域に島などないはずだ。ダレンたちは口を開けてぼう然とそれを見上げた。

「海図が間違ってた、とかか……?」

「わかんない。黒い点が見えたと思ったら、あっという間に近づいてきたんだ」

 とりあえずは帆をたたみ、碇を降ろした。ぶつかっては元も子もない。

 四人は甲板で円になって考えこんだ。

「上陸してみるか?」

「でも、なにがあるかわかんないよ?」

「わたしはダレンに賛成! 危なかったら引き返せばいいよ」

「リィ!」

 リィはルカの肩にぴょんと飛び乗った。ルカたちに賛成ということらしい。

 三人の視線がアランに集まった。三対一だ。アランはぐうと押し黙ってから、小さくため息をついた。

「僕は船の見張りをしとくから、三人で行ってきてよ。絶対にみんなはぐれちゃダメだよ!」

 三人の表情がぱあっと輝いた。

「おう!」

 勢いよく返事をして、三人は黒い島へと向かった。

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