表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

第四章 海上の人さらい(三)

 もう肉眼で見える距離まで小船が近づいてきた。向こうからもこっちが見えているだろう。それでも近づいてくるのは、もしかしたらこの船をうばおうとしているからかもしれない。

 そのとき、パンっと音がした。船のすぐ近くで水しぶきが上がる。男たちがいかくで銃を撃ってきたのだ。

「アラン! 大丈夫か!?」

「大丈夫! 作戦どおりいくよ!」

 小船はもう数メートル先だ。ダレンは手すりにひらりと飛び乗り、剣を抜いた。

「やぁ!」

 そしてそのまま小船に飛び移った。男たちはまさかダレンが飛んでくると思わなかったようで、ひょろりとした男はダレンにけり倒されてしまった。

 それでも反撃しようと、銃をダレンに向けようとする。太っちょの男も加勢しようとした。

「おまえの相手はこっちだよ!」

 アランの声がひびいたかと思うと、太っちょの男の顔が赤く染まった。太っちょの男は一瞬きょとんとしたあと、「うわぁぁ!」とおたけびを上げて船を転がりだした。

「タバスコ砲だよ! どうだ!」

 タバスコが目に入ったのだろう。太っちょの男はなんとか体勢を整えようとするが、立ち上がったところでまたバランスをくずし、海に落ちてしまった。

 アランが「よし!」とガッツポーズしたところで、キンっとかん高い音がひびいた。

 船上を見ると、ダレンの短剣がひょろりとした男の銃に止められていた。

「お兄ちゃん!」

「はっ!」

 ダレンはこんしんの力で銃を突き放す。力くらべになったら、子どものダレンの方が不利だ。それでも持ち前の剣さばきで男と対等にやり合っている。

 女の子ははらはらしながらなりゆきを見守っている。そのとき、後ろにしばられた手になにかがふれた気がした。そっとふり返ると、そこにはリィがいる。

「リッ」

 リィは黙ってろ言わんばかりに短く鳴くと、また女の子のロープをとき始めた。

「助けてくれるの? 優しいのね」

 女の子にほほえまれて、リィのほっぺが赤くなる。

 ロープがほどけたところでアランが縄はしごを投げた。

「はやくこっちに!」

 ダレンと男が戦っている隙に、先に女の子を船に上げてしまった。

 アランはオールを手にする。

「お兄ちゃん! いいよ!」

「おう!」

 ダレンは短く返事をすると、短剣を握りなおした。目の前に剣がせまって、男は思わず目をつぶった。その隙に逃げる作戦だ。

「あっ、わたしのカバン……!」

 逃げようとしたダレンだったが、女の子の言葉に置いてあったカバンを手にした。そしてひらりと縄はしごにつかまると、あっという間に船に上がってしまった。

 アランが掴んでいるオールをダレンも握った。

「せーの!」

 オールの先は小船の下にある。二人がてこの要領で力を込めると、小船はひっくり返ってしまった。

 小船の上に残っていた男も、海に放り出されてしまった。太っちょの男と共に、ひっくり返った小船にしがみついて「ちくしょー!」と声を荒げている。

「やったー!」

 二人は叫ぶと、右手をパチンと打ち鳴らした。

「さ、逃げるぞ!」

 アランは縄はしごをしまい、ダレンは帆を張る。風を受けた船は、あっという間に小船から遠ざかっていった。


 穏やかな波間で、一行は甲板の上で顔をつき合わせていた。

「助けてくれてありがとう。わたし、ルカ」

 金髪の女の子が言う。ダレンが取ってきたカバンはとても大事なものだったようで、肩からななめに下げている。

 ルカにほほ笑まれた三人は、顔が真っ赤になってしまった。まるで天使のようなほほ笑みだったのだ。

 ダレンがせき払いをして口を開いた。

「俺はダレン。こっちは弟のアランに、サルのリィ。一緒に冒険してんだ。ルカ、あれって人さらいだよな?」

「うん。一人で海に出てたんだけど、いきなりあいつらが現れてつれてかれちゃったの。あのままだったら海賊船に乗せられるところだったから、本当に助かったわ」

 ルカの言葉にダレンたちは目を丸くした。

「子ども一人で海に出たのかよ……」

 ルカは「あら」と目を細めてダレンに目を向けた。

「わたし、これでももう十四才よ? それにあなたたちも子どもじゃない」

「俺らはいいの! 夢があるから!」

「お兄ちゃん。船旅には夢もいるけど、航海術とか戦う力とかの方が必要だよ……」

 弟のたしなめる言葉は、ケンカを始めてしまいそうな二人には届いていないようだ。

 ルカは腕を組んでダレンに向きなおった。

「あら。わたしにだって夢はあるわよ?」

「へぇ? なんだよ」

 ルカはカバンを開けた。取り出したのは一冊のスケッチブックだ。

 スケッチブックを開いて、ルカは三人に突きつける。

「わたし、画家になりたいの」

 そこに描かれていたのは、海と青空だった。違った種類の青い絵の具を使ってあって、一口に青といってもそれぞれ深みがある。

「きれー……」

 思わずアランのため息がもれたほどだ。

「わたしはね、世界中を見て回って、その景色を描きたいの。それなのにパパがダメって言うから……」

「なるほど。それで一人で海に出たってわけか」

 納得がいった。

 ダレンも父のような冒険家になりたいとずっと思っていた口だ。アランにずっと反対され続けてきたけれど、今はこうして海に出られている。

 夢を反対されることは、悔しいものだ。

 ダレンはパンッと膝を叩いた。

「おっし! じゃあ俺たちと行かないか?」

「え?」

「俺たちは世界をまたにかける冒険家を目指してるんだ。俺らはいろんなところを冒険するために海に出る、ルカはいろんなものを見て絵を描くために海に出る。一緒に行けば、一石二鳥じゃないか!」

 ダレンはルカの方へ身を乗り出して語った。その勢いにルカは目をぱちくりさせる。

「お兄ちゃん、一石二鳥なんて言葉知ってたんだ……。じゃなくて、まだアジサイ島までしかいいって言ってないよね僕!」

 アランの反論に、ルカは今度はアランの方を見て目をまたたかせた。

「あなたたち、アジサイ島に行くつもりなの?」

「おう! 俺たちの父さんがむかし冒険家をしてて、その仲間がアジサイ島にいるらしいんだ」

「僕らはその人の持ってる航海日記を探しにきたんだよ」

 ルカはあっけに取られているようだった。

「わたしね、家はアジサイ島にあるの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ