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龍神愛詞  作者: バク
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7.優しい時間

城に戻った私と翡翠。

それになぜだか蒼龍と紅龍まで着いてきた。

2人の目的は同じく翡翠の事の様だった。

蒼龍は異性としての特別な感情を、紅龍は理想の強さをそれぞれ抱いていた。

私の機嫌はすこぶる悪かった。

2人ほとんどの時間を翡翠の寝ている部屋で過ごしていたからだ。

身体を動かす事の出来ないスーを、公務でいない間2人は看病していた。

翡翠の警護の事を考えれば、2人の強さは歴然で申し分ない事。

だが龍王には面白くなかった。



翡翠は城に戻ってからのスーは、何度か目を開けて弱よわしい笑顔を向けてくれた。

私がつけた傷は思いのほか深く、高熱で何日も下がらなかった。

私は公務の時間以外は側を離れず看病した。

そして何度も何度も謝った。

翡翠はその度、首を横に振った。

「もう自分を責めないで。お願い笑って。」

高熱で呼吸が荒い。

そんな中でも私に気を使い、優しい言葉をかけてくれる。

私は頭を撫でる。

触れた場所から、まだかなり熱が高い事がわかる。

「わかった。」

私は翡翠のほてったちいさな手を包み込む様に握りしめた。

そして翡翠の願い通り笑いかけた。

その時の笑顔は、困った様な本当の笑顔でななかっただろうが。

それでもその笑顔を見て。

「ありがとう。」

と、言ってくれた。

翡翠の言葉1つ1つが私の後悔という感情を、そのまま包んで癒してくれた。



一週間ほどするとやっと翡翠の熱が下がり始めた。

その姿を見ようと今日も蒼龍と紅龍は、翡翠の部屋に来ていた。

「いい加減に帰ったらどうだ?」

龍王は2人に向かって言った。

「スーが本当の笑顔に戻るまでは帰るつもりはありません。」

力強い口調、蒼龍の気持ちが伝わってくる。

「俺もスーに興味があるから、帰らないよ。」

紅龍もきっぱりと断る。

2人の返答に私は眉をしかめる。



3人が話している中、目を覚ます翡翠。

「龍王、そんな怖い顔してどうしたの?」

翡翠の優しい声で、みんな一瞬で笑顔になる。

みんな翡翠のベッドに近づいた。

「なんでもないよ。」

龍王は安心させるように手を握る。

「龍王はスーを独り占め出来ないのが気にくわないみたい。」

そこにすかさず蒼龍が言う。

「そうそう、そんな心の狭いやつより俺の事も考えてみてよ。」

と、紅龍の本音が飛び出す。




言葉は荒いが本当に言い合っている訳ではない。

なぜか温かい感情になるのはなぜだろう。

本当に怒っているなら、龍王の力なら2人とももうここにはいないだろう。

瞬殺されている筈だ。

多分前の龍王だったら、それを躊躇なくやっていただろう。

冷酷で非常な龍王。

他に何も関心を示さない。

無表情な顔で刃向うものには容赦はない。

そんな噂を聞いていた。

それがどうだろう。

今俺の前にいる龍王は別人の様に思われた。

この優しい表情。

翡翠の前では人間の様に感情を出していた。




蒼龍は思っていた。

まだ本当に龍王を信じたわけではない。

だがが龍王スーに向ける表情や、言葉使い、態度。

どれをとっても本当に大切にしている事が伝わってくる。

そして何よりスーがそれを受け入れている。

それは嬉しい事であり、又寂しい事でもあった。

だがスーの幸せを守る。

どんな事があっても、その笑顔だけは。

この先このスーへの想いが通じなくとも、この決意がぶれる事はない。




紅龍は今まで感じた事のない感情に戸惑っていた。

今まで強い力に魅入られてきた。

自分以外の者を排除する力。

強い力こそが俺が追い求めるもの。

物心ついた頃から、戦いの中にいて己の強さのみで生きてきた。

それが全てであり、それ以外を知らなかった。

しかしあの時、龍王を助けようとするスーの姿を見て愕然とした。

小さな身体、人間という儚き人種、弱気もの。

どれを考えても強さに比例するものはなかった。

しかしあの姿を見たとき、今までに感じた事のない大きな本当の強さを感じた。

これこそが、追い求めてきた本当の強さ。

力の強さではない、心の魂の強さ。

スーの中に俺の求める強さを見た。

それはスー自身への興味に通じていた。

この気持ちの名前を紅龍はまだ知らない。



穏やかな昼さがり。

昼食を終えたみんなは、翡翠の部屋でくつろいでいた。

「身体はもうすっかりいいの?」

「うん。

蒼龍も紅龍も龍王もたくさん心配かけてごめんね。

私はもう大丈夫だよ。」

蒼龍の問いに笑顔で答える翡翠。

その笑顔を見て3人は照れ隠しに下を向く。

この笑顔だ。

見たくて見たくて仕方がなかったもの。

それが今日も目の前で見れた。

手を伸ばせば触れる事の出来る距離。

他の2人に見せるのは勿体無いが、私のいない間寂しい思いをさせずに済んだ。

仕方がない、少しはいい思いもさせてやろう。




そしてこの時間が心地いいものだと思えていた。

翡翠と紅龍と蒼龍。

この者たちといるこの時間、空間。

これほど長く翡翠の他に身近に関わってくる者は久しくいなかった。

翡翠を自分の下へ戻す為、手にいれたこの破壊的な力。

余りにも持ちすぎた強力な力のため、容易く近寄る者などいなかった。

それを寂しいとは思った事もないが、ただ話す者もいない孤独は嫌な気がした。

孤独が嫌だいう感情。

これも翡翠が教えてくれた感情。

翡翠が戻るまでの時間。

孤独は嫌なもの。翡翠がいない時間が孤独という物を不快な物だと認識させた。

そして翡翠が戻り、他の龍たちが近くにいる。

孤独ではないという実感。

それだけでなぜか心は明るく、温かく感じた。




ゆっくりと流れる時間、空間。

スーは随分と元気を取り戻していた。

日常生活をするには困らないくらいには回復した頃。

いつもの王としての責務をこなす日々が戻ってきた。

まだ連れまわすまでは回復していない翡翠。

部屋に残して仕事部屋へと歩く。

翡翠の温もりを側に感じない虚無感。

なくてはならない存在である事を実感する。

少し前なら、翡翠がどんな状態だろうが離れる事はしなかっただろう。

しかし今はあの2人がいる。

あの2人は翡翠を絶対に傷つけたりはしないだろう。

なぜかそれだけは信頼できた。



腹を探り合う貴族たち。

隙を見せればいつねがえるかわからない。

地位を力を狙おうとする貴族たち。

今は巨大な力故に反論、反抗しない、そうまでして守りたい者。

少し前は全く自分の位など、地位など全く興味がなかった私。

その私が今までの考えを覆してまでも、欲しかった者。

翡翠はそんな、だれにも変わる事の出来ない存在。

かけがえのない存在だった。

私が力を失くした時、翡翠はまた違う者の下へ連れ去られる事だろう。

そんな事は絶対にさせない。

翡翠は誰にも渡さない。



今日もくだらない会議が終わり翡翠のいる部屋に戻ってきた。

ドアを開けると同時に聞こえる優しい声。

「おかえりなさい。」

私はその声で一瞬で気分が浮上する。

「ただいま。」

そう答えると、いつもの様にすっぽりと翡翠を腕の中に納める。

翡翠の体温、匂い、柔らかさ、どれもが私に癒しを与えてくれるもの。

腕を緩めると恥ずかしそうに笑う翡翠。

そしていつもの様に甘い口づけをする。

血だけでなく触れた場所からも、知らぬまにエネルギーを吸い取ってしまう。

その為気をつかいながら、本当に優しく唇に触れる。



このうえなく心地よく、安らかで優しい時間。

愛に包まれた幸せな時間。

こんな時間が永く続く事はない事はわかっている。

人間である翡翠と龍である私では時間の流れが違う事。

いつかは別れがくる事は分かっている。

それならばその時までは、共に時間を歩んで行きたい。

同じ時間を刻んでいきたい。

この時間を何よりも大切にしていきたい。



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