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龍神愛詞  作者: バク
5/13

5.醜さと傲慢さ

調べるのに時間かかるとの事で、その日はこの国に留まる事になった。

用意された部屋に通される。

青で統一された部屋。

派手差はなく、昔ながらの紋様で色付けられた家具や調度品。

私は大きな椅子にゆっくりと座った。

翡翠も静かに横に座ってきた。

ただ手はずっと私の服を掴んだままだ。



翡翠は王子が自分の身の上話をするのを他人事の様に聞いていた。

頷くでもなく、悲しむでもなく、ただ静かに見守っていた。

なんの反応もせず、出来ず、ただただじっと。

しかし2人きりになってすぐに、翡翠は顔を上げ私を見つめてきた。

呪に抗いながら、それでも伝えようと必死に言葉を放つ。



「きらい・・に・・ならな・いで。」

無表情な筈の顔が、なぜか今は泣きそうに見える。

絶対に嫌いにある訳がないのに。

自分の生い立ちを聞いた私が心変わりをするのではと、不安になったのだろう。

私は優しく翡翠の頭を撫でる。

「私は何があってもこれから先、翡翠を手放す気はない。」

そして柔らかな表情で包み込む様に抱きしめた。

すると今度は、無表情な筈の翡翠が微かに笑った様な気がした。

途端に私の心に安らぎが生まれた。

もっと笑顔がみたい。

翡翠の本当の笑顔が。



しかしそんな私の小さな願いさえを打ち砕く音がした。

終止符を告げる音。

トントントン。

静かな部屋にドアを叩く音がした。

開いたドアから入って来た2人。

それを見た翡翠の身体が小さく震えた気がした。



確かあの男。

あの時翡翠を連れてきた男だ。

翡翠に対する酷い態度、手を上げようとした事を思いだした。

1人はがっちりとした体形。

黒い着物の様な簡単な簡素な服を着たその男。

瞳だけが異様に開けられ気味の悪い笑顔でそこにいた。

もう1人は整った顔つき、男が好きそうな色気を振りまく女。

他の男なら欲望の対象になりそうな体つき。

それを狙ってか、生の身体の影が見え隠れする服を着ていた。

顔は綺麗に化粧され妖艶な笑み。

目は笑ってはいない。

あれは何かを誘うような欲を含んだ目だ。



「お久しぶりでございます。

あの時は挨拶もなく失礼いたしました。

私はその子の父親で呪術師の長をしておりますかいと申します。

そしてこの子はりん

スーの義理の妹になります。

この度は不肖な娘が自分の立場をわきまえず、龍王様の巫女などと。

あの子はあなたには相応しくないと存じます。

こちらの手違いで本当に申し訳ない事をしました。

その子の変わりに鈴をあなた様の巫女にお召しいただきたくお願いにきました。」




気持ちの悪い笑顔を見せながら話す男。

翡翠の変わりにこの女だと。

勝手なことばかり。

私の巫女は翡翠だけだ。

腕の中で脅えている様に翡翠は身体を小さくした。

「スーが私の巫女に相応しくないと言いたいのか?」

鋭い目で見返す。

その場が一気に殺気だった。

「その言葉の通りでございます。

この子は呪術師の長の私よりも、強い力を持っています。

今は存在意識の中ですが、恐ろしい程の力を持っています。

これでは私が長として示しがつかないという事でございます。」



「何が言いたい!」

「はっきりと申しましょう。

私はスーの存在を消したかった。

私にとって呪術師の中での1番を不動の物にする為には、スーは邪魔な存在なのです。

だがなぜかあなたがスーに執着してしまったので、殺す事は出来なくなった。

だからその変わりに、呪をかけたのです。

それも解ける事のない様に2つの言の葉で。」

なんと呪をかけたのは実の父親だったのか。

だから翡翠の本当の名前を知っていたんだ。

命の名前を知っていたんだ。



「お前は自分の子供に嫉妬したのか?

自分よりも大きな力をもっている事に。」

「その通りです。

私は私よりも強い力を持っているスーが憎い。

呪術師の中で強いのは、私だけで十分なのです。

私が1番強くなければならないのです。

しかしなぜか厳重にかけていた、その呪も解けかけている。

だからもう1度かけ直す必要があるのです。」

なんと傲慢な考え。

なんという身勝手な考え。

自分の子供にこんなむごい事をするとは。

人間の親は子供を愛おしむ者ではないのか?



「スーの呪の言の葉を教えてもらおうか!」

だが私にはお前の傲慢な理屈など関係ない。

私が心を動かすのは翡翠の事だけだ。

キッ!!!

その男は私の殺気の籠った睨みで身体が硬直する。

一種の催眠術。

言いたくないのに言葉が勝手にこぼれ出てくる。



””ひすい””

スーの命の名前。


””すべてにあらがうな””

どんなものからも抵抗する事を許さない。


””あいしている””

翡翠に心からの愛情をもってこの言の葉を告げよ。

愛情のない空の言の葉は一切受け付けるな。


最後の呪に込められた事柄。

翡翠を愛するものが現れないと思ったか。

この男。

まかりなりにも父親でありながら、翡翠を受け入れる者が決して現れないと思ったのだろうか?

これで解けないとでも思ったか。

なんと浅はかな事を。

私が翡翠の全てを受け入れるやる。





身体の硬直が解けた男。

「今度は私の番ですね。」

何かを仕掛けてくるつもりか!

挑戦的な態度をとる。

「私から簡単にスーを奪う事が出来ると思っているのか!!」

声を荒げる私に男は余裕の笑みで答える。

「簡単になどと思ってはいません。」

男は1度目を閉じると大きな声で叫んだ。

「解!」

すると男の身体が異様に赤く光りはじめた。

服から出ている肌の部分から得体の知れない文字が浮かび上がっていた。

自らの身体に呪をかけているのか。

「それなりのリスクがないとあなたには敵わないでしょうから。

自分の寿命と引き換えに時間稼ぎをさせてもらいます。」



そう言うと突然、男は立ち上がり私に突撃してきた。

そして一瞬、身体に触れる。

なに!!

動かない!!!

身体が動かない!!

その隙に私の腕からするりと、男は翡翠を奪い取った。

言葉さえ発せない。

””翡翠にどこへ連れ行く!!!”

心の叫び、絶叫は声にならず消えた。

男はスーを連れて素早くそのまま出ていってしまった。



残ったのは翡翠の義理の妹の鈴と名乗る女。

翡翠の妹だというその女はさも嬉しそうに慣れなれしくも、私の腕に自分の腕を絡めてきた。

よほど自分の身体に自信があるらしい。

くねくねと身体を摺り寄せてきた。

色仕掛けなど私には通用しない。

ただ気持ちが悪いだけだ。

同じ巫女だというのに、この女からは嫌悪感しか感じない。



しばらくすると何とか言葉は発っせられるようになってきた。

「スーはどこだ。」

私はその女を睨みつけて言った。

「スーをどこへやった!」

地を這うような低い声。

女は父の呪術の力をよほど信用しているのか、私の言葉にも余裕な態度を崩さない。

そしてなお、俺の怒りを逆なでする事を言ってきた。

「スーは大丈夫ですよ。

紅龍様がスーをかわいがってくれるそうですから。」

紅龍だと!!!



「スーよりも私も方が満足させられると思いますよ。」

身体が動かないのをいい事に私の身体に触れてくる。

最初は遠慮がちに触っていた手が頬、首筋、唇、肩、お腹と大胆に撫でていく。

頬を両手で支えられ無理やり口づけをしてくる。

気持ち悪い感触。

ぞわぞわと不快な得体の知れない怒りの塊が身体の奥底から湧き出てくる。

私を浸食するように舌が口の中に入ってきた。

まるで私の欲望を駆り立てるかの様に。

だが私にとっては反対におぞましいだけだった。

私に触れていいのは翡翠だけだ。

なおも女は妖艶に笑い私を誘う。



そしてその手がもっと先へと伸ばした頃、私の怒りは頂点に達した。

パキン!!!

何かが弾けるような音が聞こえた。

それはあの男にかけられた不愉快な術を破った音。

「どけ!!汚い手で私に触るな!!」

私は自由になった腕で女の身体を思い切り突き飛ばす。

鈴は強く床に叩きつけられた。

そして尻もちをつき、息さえ出来ない程の衝撃でうずくまったまま身動きが取れない。



あの戦いしか興味を示さない龍が、なぜ翡翠を欲しがる。

しばらくして身体の自由を取り戻した私。

外に出た私は本来の姿、龍に戻った。



見据える先は翡翠が連れ去られた紅龍のいる国。

ゴオー!!!

ゴオォー!!!!

震える空気。

尋常じゃない程の振動と熱。

空気中のわずかばかりの水分さえもその熱で蒸発し燃え上がる。

大地が、空が、大気が、全てが怒りに満ち満ちていた。

怒りで目を真っ赤に染め、ピリピリした振動で身体全体が震えていた。

怒りを身体にまとった龍王。

今は誰の言葉も聞こえない。

思いはただ1つ、優しいスーという存在。

龍王は凄まじい勢いで飛びだした。



地面が揺れ、建物が壊れるような嫌な音がした。

城の中の人たちと蒼龍は驚いたように外に飛び出した。

龍王の腕にスーがいない事に気が付く。

そして本来の姿で荒れ狂う姿。

どうなっているんだ。

先ほどどうしても娘に会いたいとスーの父親が訪ねてきた。

龍王が一緒だから下手な真似は出来ないだろうと通したが。

もしかしてあの男がまたスーに何かしたのか?

何があったというんだ。

何かあったのなら、安易に考えて会わせてしまった自分のミスだ。

蒼龍も龍王の後を追う。


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