1.再会
やっと彼女に逢える!!
私の身体の全てが熱く、激しく高鳴っていた。
この日をどんなに待ち望んでいたか。
どんなに待ち焦がれ、願ってきたか。
彼女を奪われた日。
私は失った者の存在の大きさを知った。
私にとって彼女がどんなに大切な人だったのかを知った。
酷い喪失感。
力の全てを奪われ起き上れない程の衝撃。
あの日の事は決して忘れる事はないだろう。
あれから5年。
私にあの時もっと力があったら、すぐにでも奪いに行けたというのに。
この面倒な龍王という立場と地位。
あの時それに見合う強い力がなかったばかりに、彼女には辛い思いをさせてしまった。
今日まで何度自分の力のなさに悔しい思いをしたことか。
あの頃、龍王になってまだ日の浅かった私。
その為、私の事を認める者は誰一人いなかった。
彼女を奪いに行くなどと、誰もそんな身の程知らずの行動を許す筈もなかった。
彼女の巫女として利用価値、その貴重な血を欲しがるたくさんな強欲な者たち。
その汚れた手によって、私から彼女を力づくで奪っていった。
力がものをいう世界。
強い者が勝者であり、弱い者はそれに従うしかない。
あの時の屈辱を力に、悔しさを力に今日まで生きてきた。
無力な私は何度となく、他の龍たちと闘い敗北する。
それでも彼女を諦めきれなかった。
どんなに傷ついても、想いは彼女と過ごした時間。
そしてあの笑顔だった。
どうしてももう1度我が手に。
この腕の中に取り戻したいと言う願望。
切望が私を戦いへと駆り立てた。
そんなある時、孤高の龍に出会った。
誰にも従わず、誰も従わせずただひたすら孤独を好む龍。
黒龍。
今の龍の中で一番高齢な龍。
闇の中に存在するらしい。
生と死を司ざるもの冥王とも言われている。
黒龍は私をいつも面白がる龍だった。
かなりの高齢の龍なようだったが、これまでの戦いにおいての経験と勘。
そしてそれに裏付けられた強さとスピード。
どれもその頃の自分には欲しくてたまらない強さだった。
他の龍たちに力で負け、彼女を奪われたばかりで気力と深い傷を負った私。
その龍は、その傷付いた私をなぜか自分の仮の住処に運び手当をしてくれた。
傷は良くなった後も、膨大な力を欲しがる私を鍛えてくれた。
私は黒龍の助けによって急激に力をつけていった。
体力の気力の全てを出し切る度に増大し、成長を続ける力。
戦い傷つき、疲れ果て眠る度に私の力は膨らみ続けた。
「お前の力はどこまで強くなるんだろうなぁ。
限界を感じない強さを見たのは初めてだ。
お前は面白いやつだ。
実に面白い。」
黒龍はいつもそう言って、さも面白そうに笑っていた。
あの時黒龍に会っていなければ、今日のこの日を迎える事は出来なかっただろう。
なぜあの時私を助けたのか?
それは今でもわからない。
だが、この出逢いによって私の願いは叶えられた。
黒龍は私が本当の龍王としての力と地位を手に入れた時期に、いつの間にか姿を消してしまった。
””今度会う時があったら、礼を言わなければな
龍王は思う。
そしてあれから5年の月日が流れた。
今では自分に刃向う敵は誰もいなくなった。
短いようで長い月日の中で膨大な力を半ば強引に周りに見せつけてきた。
私の力を認めさせる為に。
自分の力を知らしめる為に。
早く彼女を自分の元に取り戻す為に。
逆らう事を許さない。
絶対的な力。
力でねじ伏せる圧倒的な力。
奪われた者は我が手で奪い返す。
大切な者をもう一度我が手に。
断固として、揺るがない願い。
誰にも反抗をさせる意志さえ与えない。
絶大な力を見せつけ、反論を許さない存在。
今では恐怖し、私の前で話をする者さえいなくなった。
みんな私の目を見ず、恐怖に脅え萎縮する者たち。
それでいい。
反論する事は許さない。
彼女さえ私の側に帰ってくるのなら。
彼女のあの光輝く笑顔を独り占めできるのなら。
私はこの日の為に生きてきたのだから。
彼女との出会い。
私は彼女を待つ間、あの初めての出会いを思い起こしていた。
ここは私が統べる龍族が住む国。
青龍、黒龍、白竜、赤龍、、そしてそれらの頂点に龍王。
私は龍王貴族の直系。
産まれ堕ちた時から、次期龍王として育てられた。
産まれながらにして龍王になるべき地位にいた存在だった。
しかしそれは、自分自身が望んだ物ではなかった。
前王が亡くなり私が後を継いだ。
ただそれだけの事だった。
まだ力のない私は周りにあまり良い様には思われてはいなかった。
力の強さがものをいう龍の世界。
私は疎まれた、ただの龍王という名の人形だった。
力も意志もなにもない、ただ親の力だけでそこにいる存在だった。
””お前なんか、すぐに誰かにその地位を取って変わられるさ。
””そうだな、それも時間の問題だ。
そうささやかれる毎日。
周りはいつ、その地位を奪いさってやろうかと狙っている者たちばかりだった。
私はその頃、地位などに興味はなかった。
だからそんな意地悪い言葉も、気にも止めず聞き流していた。
””奪うなら奪ってくれ!
投げやりな無気力な私は、いつも心の中でつぶやく。
ある日宮殿に一人の巫女が連れて来られた。
巫女の顔合わせという事で何も知らず、人間界から連れてこられた少女。
しばらくの間、宮殿で暮らす事になった。
前にも何人もの巫女という人間が連れて来られていた。
””またか。
どうやっても、周りの貴族たちは早く子供が欲しいらしい。
私の龍王として血を持った、次の龍王の誕生がお望みらしい。
私は本当に貴族らの人形だな。
人間を蔑みの目で見ていた貴族たちはその少女を、いつものように酷い態度で扱った。
それは寒い日の事だった。
私は何気なく窓の外を見た。
空からチラチラと降り始めた物。
””ゆきか。
景色を白一色に染め初めていた。
ゆっくりと外の変わり行く景色を見ていた私は、その雪の中に何か動く物に目が止まる。
それは人だった。
雪の降る中、箒で雪で湿った枯れ葉を掃く姿。
小さい少女は、吹きすさぶ木枯らしの中に手を足を身体を寒さで震えながらそこにいた。
なぜあんな所に?
何をしているんだ?
寒くはないのか?
気になって仕方がなくなった私は、そのまま外に飛び出した。
外は凍えるように寒かった。
人の姿になると、本来の姿よりは寒さを感じるようだ。
私はその少女に近づいた。
ザクザクと歩くたびに聞きなれない音が響く。
少女はその音に気が付き、ひきつった表情で私を見ていた。
寒さと恐怖で動けないようだった。
「怖がらせてごめんね。」
少女に始めてかけた言葉は、自分で驚くぐらい優しい声色をしていた。
そしてなぜか、その少女に謝っている事に気付く。
私はなぜこんなに、この少女に優しくしているんだろう?
自分の中に分からない感情が流れる。
感情自体ない筈の私に何か変化が起こっていた。
だがこの感覚、嫌ではない。
それよりも、むしろ心地よいものだった。
身体の中から溢れる温かい何か。
これは一体なんだ?
私は次に震える少女を見て、自分の大きな温かい服の中に包み込んだ。
途端に匂うこの少女自体の優しい香り。
氷に触れているかのように、冷たく固く丸くした身体。
私はその匂いと少女に触れたい衝動に駆られ、思わず抱きしめる。
今まで自分から誰かを抱きしめた事などなかった。
自分の腕の中に入り込ませるなどと、思った事もなかった。
だがこの少女はすんなりと何の壁もなく入ってきた。
何の隔たりもなくすっと入り込んできた。
素直のまま、素顔のままに。
「ここで何をしているの?」
私の腕の中、少女は私を見つめた。
幾分か体温が上がってきた身体。
少し赤身を帯びた顔。
大きな瞳が揺れていた。
「ここの枯れ葉を全部綺麗にしなさいって言われて。」
初めて聞いた少女の声。
ゆっくりとしたリズム。
少し舌足らずのしゃべり方。
少女から奏でる音色のなんと気持ちいい事か。
「また、あいつらの嫌がらせか。」
いつも巫女がくると、貴族たちはこぞって嫌がらせをしているのを見てきた。
それをいつもは黙って見ているだけだった。
「部屋に入ろう。
ここはお前にとっては寒すぎるだろう。」
そう言って建物の中に入ろうとする私。
しかし一緒に動く気配がない。
「私はいけません。
言いつけが終わるまでは帰れないのです。」
「なぜ?」
「そうしないと、私はまたひどいめに・・・」
良く見ると服から出ている肌には、たくさんに傷の跡が刻まれていた。
それを見た私の心はなぜかひどく苦しくなった。
この少女を助けたい。
これ以上傷つけたくない。
私は自分の右腕をその少女から離すと頭上に高々と上げた。
そして次の瞬間一気に降り下ろした。
バーン!
シューッ!!
凄まじい風を切る音が聞こえた。
思わず目を閉じた少女が次に見た景色。
それは枯れ葉もその上に降り積もっていた雪も、全て消え去った風景だった。
何事もなかったかの様な、いつもの風景が広がっていた。
「これで文句はないだろ。
ここが綺麗に片付けばいいんだろ?」
私は驚いた瞳で見つめる少女に問いかける。
””この人は私を助けてくれたんだ
怖い顔してるけど、ほんとは優しい人なんだ
ゆっくりと建物の方へ移動する2人。
少し後ろを歩く彼女。
「ありがとうございます。」
礼の言葉に振り向く。
そこには感謝と共にくれた満身の笑顔があった。
その笑顔を初めて見た私。
自分自身の身体の、急激な熱の上昇に戸惑った。
激しい鼓動が耳にうるさく響く。
その笑顔は今まで生きてきた中で、一番の輝きに見えた。
身体の全てから力が溢れ出す感覚を覚えた。
生まれて初めて胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
感謝の言葉を聞きながら、私は一度離した右手で抱きよせた。
その少女の名はスー。
本当の名前はあるのだが、それは決して明かされる事はない。
命の名前、本当の言の葉で付けられた名前。
それを教える事はその人の命を捧げる事に繋がるのだ。
命の名前で命令されれば、その者を意のままにする事が出来るのだ。
それだけ名前はとても大事な物だった。
スーはあれ以来よく笑うようになった。
相変わらず貴族たちの嫌がらせは続いていたが、いつも私には笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見る度に優しく穏やかな、そして熱い思いが心を占める様になった。
愛おしい。
甘い愛情。
独占欲
激しい愛欲。
束縛。
あの頃愛らしく、私の側で無邪気に甘えていたスー。
あの頃は本当に子供だった。
私の大人の欲望など、白い純粋なままの彼女の前では全て浄化された。
曇りのない笑顔で笑ってくれていた。
くるくる変わる表情が私の心をとらえて離さなかった。
彼女の成長した姿はさぞ美しく光輝き、周りの人を惹きつける事だろう。
感情の起伏をほとんど表に現さない龍族。
私の中に初めて””愛しい””という感情がある事を彼女は教えてくれた。
人間の様な温かい感情。
ずっと見ていたい。
いや、ずっと側におきたい。
龍王の巫女という絆に、繋がりに、未来をも含んだ束縛に私は感謝していた。
誰にも渡さない。
今も未来も、彼女とともに、ありのままでいたい。
そう望んだ日々。
親子でも友達でも恋人でもない関係。
そんな曖昧な甘い、そして信頼で繋げられた関係。
いつか彼女が大人になって、私を受け入れる日を待つ時間。
とても優しく、切なく、大切な時間。
だが、彼女が13の誕生日を迎えた日。
彼女は宮殿から無理やり離れる事となる。
これまで顔合わせで何人かの巫女たちがここに来たが、私は全て相手にしなかった。
興味を示さなかった。
しかし彼女にだけは、反応を示した。
自分から彼女を遠ざける事が出来なかった。
したくなかったのだ。
こんなか弱い人間の女に、興味を持ってしまった。
欲しいと思ってしまった。
初めての欲求、執着、独占力。
龍王の血を受け継いだ子供の誕生を望んでいた貴族たち。
それよりも龍王から気に入られたという、巫女として利用価値。
そして稀にみる濃い巫女と呪術師との間に産まれたスー。
その貴重な血を欲しがるたくさんな強欲な者たち。
様々な欲が絡み合い別れの日やって来た。
翡翠との別れの日。
自分の命の名前。
””ひすい””
である事を教えてくれた。
その時人に本当の名前を教える事が、命の名前を告げる事がどんなに大事な事かを知った。
相手に教えるという事は、教えた相手から何をされてもいいという意志の表れなんだと。
命を捧げたのと同じ意味なのだと。
その命の名前で命令されれば、どんな事でも従ってしまうのだから。
相手の想いのままになってしまうのだから。
翡翠はそれを承知で、また必ず再会する事の約束として私に教えてくれた。
その頃力を持たない私は、周りの貴族たちにいいように扱われた。
強制的に離ればなれにされ、私は彼女を人質にされる形となってしまった。
自分たちの言う事を聞かないと彼女の身がどうなるかと。
私はその時、自分が誰よりも強くなる事を誓った。
そして初めてはっきりとした自分の意思で、自我で決意し行動を起こした。
何度倒れても脅されても、決して屈しない意志。
変わる事のない意志がそこにはあった。
彼女もまた、産まれ出た時から龍王の相手として決められた運命にあった。
彼女の家系は、巫女の血を濃く受け継いでいた。
あの頃何人かいた巫女の中で、一番濃い血を受け継いでいたのが彼女だった。
また龍王の巫女は昔から巫女の血の濃さと儀式で選ばれる。
巫女の一人一人に龍王の血を一滴、口に含ませる。
そしてその反応を見るのだ。
龍王の血は人によっては、死の危険さえある。
拒否反応しだいでは、生死を彷徨う。
しかしスーはその血の儀式で私の血にほとんど拒否反応がでなかったのだ。
これは驚くべき事だった。
龍の理性を保たせているもの。
それは人間の遺伝子、血の存在。
野生の力だけでは龍族は滅んでいただろう。
それを繋ぎとめたのは、人間の豊かな感情。
表情豊かな、暖かな想い。
理性を力を得る為に、本能のまま昔から龍は巫女に子供を産ませていた。
か弱き者に宿る命。
それは種を絶やさない為の行為。
今の龍族の中で子供を宿す事の出来る異性はいない。
彼女は子孫を残す為、人間から生贄として選ばれた巫女の家系だった。
そしてその変わりに人間は龍族から守られる事となる。
龍王の子供を産むだけの存在。
龍族と巫女との間には稀にしか女は産まれない。
人間をただの生き物としてしかみていない貴族たち。
その目的の為だけに、自由を束縛された巫女たち。
龍の国では、巫女たちの扱いは酷い物だった。
前の龍王である父は、巫女を奴隷の様に使い、何人もの巫女たちが命を落とした。
人々が騒ぎ始める。
やっと到着したようだ。
大広間。
少し落ち着いた色合いの朱い絨毯。
龍の鱗を真似た模様が幾重にを織り込まれている。
その上にそれとよく似た朱い色の細長絨毯が道を作るように、部屋の奥まで続いている。
左右に、たくさんの家臣たちが行儀よく並ぶ。
その先に一段と高い場所、細長い絨毯の行き着く先。
龍の頭が形造られた豪華な金色の椅子に静かに竜王が座っている。
そこにいるだけで、強い力を誇示している龍王の存在感。
座っているだけなのに、この威圧感。
今か今かと、じっと入り口を見ていた。
待ちに待ったこの日が来たのだ。
どんなに待ち望んだ事か。
彼女を半ば監禁していた貴族たち。
あの頃とは逆の立場。
逆らえないほどの絶大な力を持った私の命令。
とうとう彼女を解放したのだった。
彼女を戻さなければどうなるか?
逆らえば死を意味するという事実。
自分の命と彼女では、答えは明白だった。
ドアが大きく開かれた。
自分の目の前に彼女と1人の男が現れた。
大きな布をすっぽりかぶり、金色の刺繍が施されたベルトを後ろに結んでいる。
口には豊かな髭が綺麗に切り添えられていた。
隣の彼女は、同じく大きな白い布を頭からかぶり、腰には色とりどりの組みひもで作られたりぼん。
長い髪を後ろで結いあげていた。
少し大人になった彼女は、女性としての美しさを感じさせた。
想像していた以上に綺麗に、成長した姿。
彼女は少し伏し目がちに歩く。
連れてきた男に、強引に引っられる様に連れて来られた。
歩くたびに靴についた小さな鈴が響く。
目の前までくると、男に無理やり床に頭をこすりつける形で頭を押さえつけられる。
「約束通り連れてきました。」
なすがままな彼女。
悲鳴1つもあげる事はない。
あんなに力強く引っ張られて痛いだろうに。
そしてあの傲慢な男の態度。
私は男を睨み、それ以上の言葉を黙らせる。
私は自ら椅子から降り、彼女の側に近づく。
その行動にどよめく貴族たち。
私はそれを人睨みで沈黙させる。
恐怖で顔色を失う人たち。
龍王の逆鱗に触れない様に皆一応に頭を下げた。
人の気配を感じた彼女が顔を上げた。
久しぶりに目があった瞬間、何も宿していない目に驚く。
光のない死んだような淀んだひとみ。
自分を映していない感情のない表情。
驚くほどにあの頃の光輝く笑顔はなく、まるで別人のようになってしまっていた。
一体何があったというんだ。
5年という月日は、彼女をこんなにも変えてしまうものなのか。
会えなかった時間に、翡翠の身に何かあったに違いない。
あんなに待ち望んでいた笑顔は今はもうない。
数百年、長ければ数千年は生きるといわれている龍族。
龍族にとっては、たかが5年という短い時間の流れ。
しかし人間にとっては、長い刻の流れ。
「スー」
彼女にそう呼んでみる。
昔みんなからその愛称で呼ばれていた。
少しは反応してくれる事を願いを込めて。
しかし全く反応はなく、自分の事を呼ばれているのさえ分からない。
自分を映し出すでもなく、遠くを見つめる瞳。
何かに魂を囚われた瞳。
「返事をしなさい!」
連れて来た男は私のすぐ横で、無謀にも乱暴に彼女に手をあげようとした。
いつもそうやって日常茶飯事に暴力を奮っていたのだろう。
彼女に危害を加えようとする、この男に怒りを感じた。
私はすかさず振り上げた腕を掴み、いとも簡単に身体もろとも放り投げる。
男の身体は大きく飛ばされ壁に激突した。
激痛で動けない男。
私はそれには全く興味を示さず、彼女を軽々と抱きかかえた。
彼女の暖かな体温が抱えた腕に伝わってくる。
触れられた事の喜びで、先ほどの男の行動などすっかり忘れてしまった。
やっとこの腕に戻ってきた。
ただただその喜びだけで、身体が震えた。
私はそのまま自室へと向かった。