ダンジョンは危険
前回の後輩冒険者に土下座されたマリコ様
風呂に入る。冒険者の世知辛さを知る。
バシン!
早朝のダンジョンの1階層、岩でできた広めの洞窟だ。
私のバットがスライムを叩き潰す。この潰れる感覚気持ちいい……。でも連続で潰すことが今日はできそうに無い。混んでる。
「カノンちゃんなんか混んでるね……」
「朝はおばちゃんたちが食材集めにくるからねー。仕方ないよー」
カノンちゃん曰く、スライムの核は、ヘルシーで女性に人気があるらしく自分で食べるために狩る人も居るし屋台で売るために大量に狩る人もいて大混雑するのだ。
麺棒とかすりこ木をもって沢山のエプロン姿のおばちゃん達がスライムを奪い合うように乱獲している。
モンスは、自然に湧き出るらしく枯渇はしないので良く湧く場所に本を読みながら出待ちするおばちゃんまでいる。シュールな世界が広がっていた。
1階層には、カタリナちゃんの戦闘経験のためやってきた。
小道具の銀の細剣に銀猫の衣装で見た目はいっぱしの剣士に見えるので周りの雰囲気との差が激しい。
銀猫の衣装なのは、新しい服汚したくないし着なれていて動きやすい、あと私とカノンちゃんの要望だ。
カタリナちゃんがあっさり銀剣を突き刺さし一撃でスライムを倒したので2階層に行くことにした。
一度行ったことがある人が居ればお付の人はボスとか倒さなくても下の階層にいけるのだ。一度入り口に転移して戻りカノンちゃんに引き連れてもらい2階層に転移する。
「カノンちゃんなんか混んでるね……」
「朝はおじさん達が食材集めにくるからねー。仕方ないよー」
同じだ……。カノンちゃん曰く、2階層のモンスはでっかい鳥で朝はおじさん達がドロップアイテムのモモ肉を狙ってやってくるのだ。
屋台で食べてた肉これだったのか。原価タダなら屋台の料理も安い訳だ。
一応一匹位倒してみたいので逃げ回る鳥を追い詰める。見た目八十センチくらい、ただのでっかいうずらで見た目が可愛い鳥だった。
バシン!
可愛いけど気にせずバットで一叩き。一撃で消滅。足の付いている鳥のモモ肉が地面に落ちる。シュール。
2階層もスルーして3階層に行く。
3階層もおっさんがいるけど三分の一くらいの人数になって少し空いている。
見つけたモンスは、でっかいネズミで一メートルくらい。
同じくバットで一撃で沈める。何処の部位かも分からない謎肉が残り気持ちが悪い。少し帰りたくなってきた。
3階層もスルーすることにした。
3階層までは洞窟みたいな造りだったけど4階層に行くと低い草や高い草がまばらに茂る草原っぽい所だった。
そして4階層入り口付近には、人が居なかった。
カノンちゃん曰く、数人はどっかにいると思うけど4階層はそんなに人気が無いそうでモンスはでっかいキノコ。毒とかもないとのこと。
少し歩くとちょっとした茂みからキノコお出まし。
カノンちゃんの家の近くにいたグレイトマッシュとかいうキノコよりちっちゃくて七十センチくらいの身長で手足が生えてるのは同じ、顔が漫画とかにでてきそうなニヤニヤした顔をしている。なんかイライラする顔だ。
「まずは私が腕試しするね!」
バシン!
私のバットがキノコの顔面を打ち抜くと五メートル程キノコが吹っ飛び消滅する。
なぜかドロップアイテムで三十センチキノコが落ちる。キノコの破片とか傘の部分だけの方がしっくりくるのだけど……。
とりあえず落ちてるキノコを拾おうと腰を曲げると。
ガサガサガサ! っと音が鳴り突然キノコが茂みから飛び出し私に頭突きをする! 突然のことでモロにドス! っと当たった。
「っいった!!」
お尻に当たる。
グーパンチで殴り飛ばした。
まだ隠れていないか念のため茂みを見ると屈んで身を隠しているキノコがいた。
見つかったキノコは頭突きをしてきたが体を捻って華麗によける。
二度はくらわん! っと思ったら逆の茂みからもう一匹が頭突きをしてくる。頭突きが私に当たる。
「っいっつぅ!!」
股間に当たる。
「こんのセクハラ生物があぁぁぁあ!!!」
バットを振り回し二匹のキノコを狩る。モンスが消滅しても私の悲しみは収まらない。乙女の尊厳が……。
「もう今日は帰ろっか……」
「もうちょっとがんばろーよー。一応魔物は討伐できてるんだしー」
「気持ちは分かります……でももう少しだけ頑張りましょう」
この階層では頑張れないと私がダダをこね、4階層もスルーして5階層に行く。あんなセクハラ生物の相手などしたくないよ。
5階層は、酒場で話しを聞いたウンバボ族が狩りしたり飼育しているというウンバボというモンス。
カノンちゃん曰く、初心者殺しの異名を持つので注意が必要らしい。
少し歩くと離れた所にいる獲物を発見するカノンちゃん「あそこにいるのがウンバボだよーわたしがしとめるねー」っと言い慎重に近づき弓矢を射る。
ッヒュっと矢が飛んで行きウンバボの目に突き刺さりそのまま倒れて魔石と肉を残して消滅する。
「カノンさん弓の腕凄いんですね!」
「うんうん、この前もゴブリン一撃だったし」
「ふっふっふ! 不意打ちならお任せあれ! これが冒険者の力! カノン先輩の力だよ!」
あっさり倒して見せてカノンちゃんが先輩風を吹かせている。
このウンバボという生き物は、先ほどまでのモンスと違いちゃんとモンスしてる感じがある、茶色でバッファローみたいな風貌で角が凶悪な感じ。
大きさがポニーくらいだけどあの角で突かれたら流石に無事ではいられないと思う。
それを狩るカノンちゃん冒険者って感じだ! 私もカタリナちゃんに先輩風吹かせたい! やる気がでてくる。
「次は私が殺るね」
「マリコちゃんなんか目が怖いよ!? 接近戦は危険だから気をつけてねー」
見渡すとさっそくウンバボを発見する。
無言でダッシュして近づいたが当然気づかれこちらにウンバボが突進してくる。 私は怯まずそのままジャンプして上から勢い良く振り下ろしバットをお見舞いする。私のバットはウンバボの角に命中した。
ゴバァン! っと音が鳴り角が折れ飛んでいく。
勢いが殺しきれず中を舞う私は、体を横に半回転させ土煙を上げながらズサーって着地して勢いを殺す。前から一度やってみたかったズサーが美しくきまる。
角の折れたウンバボは、初撃でバランスを崩して倒れていたので追撃して留めを刺す。ヤヴァイ! 私、今最高に冒険者してる! テンション上がる。
「さすがマリコちゃん! 初心者殺しも余裕だったね!」
「凄いですマリコさん! カッコよかったです!」
もっと褒めて! 「大したこと無いよー」っと言いいながらニヤニヤする私。今のはいい戦闘だった。
「次はカタリナちゃんやってみる? 無理にやれとは言わないけど」
「やります! でも危なかったら助けてくださいね」
「あたりまえだよーでも無理しちゃだめだよー」
ちょっと歩くと直にウンバボ1匹を発見した。
カタリナちゃんが深呼吸してからウンバボに突っ込んで行くとウンバボも突撃してくる。
ッハイ! っとカタリナちゃんは横に避ける。なんかマタドールみたいでカッコイイ。
ウンバボの突撃を避けると同時に首に銀剣を突き刺す! ウンバボは、地面に突っ込むように倒れて消滅した。
なんか私よりスマートに倒してるんですけど……。
「カタリナちゃんすごーい。かっこいいー! わたしより強いよー」
「そんなことありませんよ。舞台のために剣術を習ってたのできっとそれが役にたったんですよ」
「いやそれでも凄いと思うよ! これならこの階層でバンバンモンス狩れるよ!」
そんな訳でウンバボの乱獲を始める。
私がバットで叩きのめしカタリナちゃんが銀剣で突き刺しカノンちゃんがアイテムを拾う。そんな感じで40体位のウンバボを倒す。
複数いても危なげなく狩れる。
いい感じに稼げそうと思っていたらボス部屋の扉が見えたのでそのまま入ることにした。
「カノンちゃんここのボスってどんなの?」
「普通のウンバボよりも少し大きくて角がデカイよー。あと黒い」
扉を開けるとそこに鎮座するのは黒いウンバボで大きさはサラブレットくらいあって結構迫力がある。
私達に視線を合わせると立ち上がり後ろ足をッガッガっと蹴り上げるとこちらに突撃をする。
黒いウンバボは、私の目の前まで迫ってくる。
かわそうと身構えると急に勢いを殺し角を横に振り上げた。
私はそれをバットで受け止める。体がちょっと浮いた。危な! ギリセーフ!
角を受け止めるとその隙にカタリナちゃんが首に銀剣を突き刺した!
パキン! っと音が鳴り途中まで刺さった銀剣が折れる。
黒いウンバボがカタリナちゃんの方を向く。危ない!
「させるかぁ!!」
私は、バットでアッパースイングで顎をぶったたく! 黒いウンバボがグモォウっと鳴いてよろめく、振り上げたバットを私は、そのまま振り下ろしてこめかみを砕き留めをさした。流石にボスちょっとひやっとさせられた。
「ふぅー結構怖かったね。ボスって感じだったね」
「いやいや! マリコちゃんボス2撃で倒してたよ!?」
「私の剣折れちゃました……マリコさんの力ってどだけなんですか……」
なんかやり過ぎたらしい。すっかり私、巫女じゃなくてパワーファイターになってる……。
いやそんなことよりカタリナちゃんの銀剣だ。折れちゃったしなんとかしないと。
「私の謎パワーは今更なのでそっとしといて。それよりもカタリナちゃんの銀剣どうしようか」
「わたしの収納にもう一本ウンバボスティック入ってるから使う?」
「お借りしてよければ何でも大丈夫です!」
カノンちゃんがバットを取り出しカタリナちゃんに渡そうとする。
いやいやこれはダメだ! 私の心の銀猫姫はバットでモンスを殴打なんかしない! これはアウトだ!
「ちょっとまったー! そろそろお昼だろうしご飯食べてから武器買いに行こう! 剣も剣先が折れただけだし部分交換とかできるかもしれないし!」
「そんな……唯でさえお世話になりっぱなしなのに武器まで買ってもらうなんて……」
「気にしないでいいよー。わたしのウンバボスティックも先輩の冒険者にもらったんだよー。カノン先輩がカタリナちゃんに武器をプレゼントしてあげよう。高いのは無理だけどー」
「ご迷惑かけてすみません。ありがとうございます。」
そんな感じで屋台でご飯を食べて武器屋に向かうことにした。
ダンジョンは序盤アレだったけど後半はなかなかファンタジーしてて楽しかったなー。次は、異世界の武器屋……いったいどんなところなんだろう。
光線銃とか私のファンタジー感をぶち壊すものが出てこないといいんだけど……。
一抹の不安を残しながら私は、ボス部屋を後にしダンジョンを出る。