無限収納の罠
前回の最弱なスライムを虐殺して喜ぶマリコちゃん
家を借りる。ダンジョンに行く。リッチなご飯食べる。
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朝日の光で目が覚める。目覚ましに強制的に起こされるのとは違う心地よい目覚め。
爽やかに始まる異世界3日目。両腕を伸ばしてゆっくりと伸びをする。
そして、昨夜着替えの無い私が白ビキニを借りて寝たのを思い出してぐったりとうなだれる。
一日くらい我慢して同じ服で強行も考えたのだけどダンジョンで軽く汗をかいてしまったのが決定打に……。調子に乗りすぎた。
カノンちゃんは、まだ起きていなかったので朝ご飯を作ることにする。
台所に置いてあった芋をで鍋に入れ、水瓶に貯めてあった水を入れて適当に魔法を詠唱してコンロの炭に火をつける。
茹で上がった芋の皮を剥いていたら、カノンちゃんが起きてきたので塩と蜂蜜を出してもらう。混ぜながら潰して丸めてフライパンで焼く。芋餅っぽいのができあがり。
食べながら恒例になりつつある朝のミーティングをする。
「今日は、服を買いに行きます」
もうこれは、決定事項である。機嫌の悪い白ビキニ姿の私にカノンちゃんも「だね!」っと、肯定してくれる。
「お店が開くまでは、外には出ないで服の洗濯と家の掃除をしよ。この町には、誘惑が多いよ」
「今日は、服忘れない様にしないとねー。でも服買ったあとで洗剤とか日用品買わないとだねー。服、水洗いだけだと汚れ落とすの面倒だろうし」
「っえ!? 洗剤とかあるんだ! もしかして石鹸とかもあるの!?」
「わたしの白ビキニは聖衣だから汚れないし洗剤いらないけど普通の服は使うでしょ? 体洗う石鹸は雑貨屋さんに売ってるよー。わたしも買っちゃおうかなぁ」
おぉー洗剤も石鹸もあるのか! 良かった私臭くならないで済みそう。
しっかしこの白ビキニ高性能だ。寝る時も寒くなかったし汚れもしないとかカノンちゃんが愛用するのも分かってきた。
でも白ビキニで生活するのはお断りだ! 絶対にだ!
「んじゃ今日は、まるまるお買い物と洒落こみましょー」
「お友達とお買い物……クフフー。楽しみー」
ご飯を食べ終えカノンちゃんが食器を片付け私は、洗濯をする。
洗い終わって干す場所に悩むが外に干して盗まれるのも嫌なので洗い場で干すことにする。
カノンちゃんに話すといい感じの棒と紐を出してくれたので備え付けのランタンに乗っけたり紐を括ったりして洗濯物を干しす。
それでもお店が開くまで時間があったのでカノンちゃんとハーブティーを飲みながら駄弁る。時間を潰してから出かける準備をする。
洗濯物が乾いていれば着替えたのだけど半乾きだった。乾燥機が無いのが悔やまれるが仕方がない。
私達は、ふたりそろって白ビキニで町に出かけた。
「うう……恥ずかしい……」
「大丈夫だよー。マリコちゃん可愛いし」
モジモジする私にカノンちゃんが大丈夫と言うけど恥ずかしいものは恥ずかしい。
でも私達以外にも白ビキニで歩く女性もちらほらいて自分がマイノリティーなのかと文化の違いに苦悩する。
20分ほどでカノンちゃんのお勧めする服屋さんに到着した。
なんでも元冒険者の人が引退して立ち上げたお店だそうで「冒険者をしていた人が作る服なので冒険者にうってつけだよー」とのお墨付きである。
中に入ると角刈りマッチョなおっさんがいた。角刈りマッチョは、私達を見るなり苦虫を噛み潰したような顔をして声を出す。
「ねぇ、お前さん方、女神教の信者じゃないかい……家は服屋だよ。他をあたってくんな!」
「ですよねー」
思わず肯定してしまう。女神教の人服要らないよねー服屋の天敵じゃん。言われて気づいたわ! そしてこのプンプンしてるおっさんオネエ言葉じゃないか! でもそっち系の人ってセンス良かったりするので大丈夫かな?
「すみません。私着る服が無くって、仕方なくこの白ビキニを着る事に……」
「っうっう……。白ビキニしか着るものが無いなんて……可愛そうな子! 欲しいものがあったら何でも言って! お安くするわよ!」
感情の起伏激しいなこの人……。まぁそっち系の人って妙に男気あったり情に脆い。テレビで得た印象でしかないけど。
とりあえずお徳っぽいのでお店を物色する。これ可愛いーっとかこの色似合うー? っとカノンちゃんに見てもらいつつキャッキャしながら普通の服と下着を購入する。値段は、日本の半額くらい。
そしてこの店には、普通じゃない服もある。ドレスアーマーの中に着るドレスやら露出の危険な革の服だ。ボンデージ言うらしい、まぁ色々ある、こっちはお値段もお高めだ。
「ねぇ、お前さん、そこにある品物にお気に召すものが無いのならオーダーも受けるわよ」
「うーん、オーダーですか、お高そうですよね」
「まぁそれは生地やデザインにもよるわねぇ。お前さん、作って欲しいものあるのかい?」
悩む、巫女服作ってもらおうかなぁ。構造は簡単なので作ってくれそう。
でも巫女服で外歩くのもなぁ。白ビキニでうろついてるくらいなので今更平気っちゃ平気だ。
しかし今の私の主力武器バットだし巫女服に似合わないんだよなー。
そもそも巫女が戦うのってゲームやアニメくらいだし。
とりあえず相談して値段だけでも聞いてみるか。
店主に頼み書くものをお願いすると小さめの黒板を持ってきてくれたので書きながら「これが襦袢でこっちが緋袴、馬乗型って言いまして──」ってな感じで説明すると大喜びだったので神事で使う千早と小忌衣の絵も適当に描いてあげる。
こっちは、詳しい構造までは分からないけど。一通り説明が終わると店主のテンションはMAXになってた。
「これは、服屋冥利に尽きるデザインだわ。是非とも作ってみたい……いや作るわ!! 試作品も作りたい……20日……いや10日! 10日後には、でき上がるから見に来て頂戴! 気に入ったら買えばいいわ!」
「っあ、はい、分かりました」
店主のテンションに軽く引いた私達は、早々にお店を後にする。
出た後に気付く。しまった! 更衣室で着替えるの忘れた!
白ビキニのまま買い物を続ける私達、二軒隣の靴屋に入ると可愛い革のブーツがあり即購入。足首まで紐で縛れるので冒険にも向いてそう。
そして見る、カノンちゃんの靴を。
この子白ビキニに丸っこい木靴を履いているのだ。前から気になっていたんだけどなんかダサイ。
お店の商品をみて良さそうなを探す。
「ねぇ! カノンちゃん! このサンダル可愛いよ! これ買いなよ!」
「おぉーこの紐の部分が可愛いねー」
そんな分けでカノンちゃんも、あみあみな革のサンダルを購入。
足首まで紐を結べるので戦闘で動いても脱げたりしないし安全だ。
靴屋を出るとお昼だったのでご飯を食べに行く。
カノンちゃんが「風僕で食べよー」と言うの言われるままに着いていくと先日泊まったやたらと名前の長い宿屋だった。ランチ百円でお安い。
お昼を食べた後も買い物を続ける。
雑貨屋で日用品を買いその後は、当ても無くお店を回ってぶらぶらする。
木製の家具屋さんがあったのでなんとなく入るとカノンちゃんが商品をじっと見ていた。
「二段ベットだね」
「うん! 初めてみた! これカッコイイ。欲しい……でも我が家には、既にベット二台あるしここは、我慢だね」
カノンちゃんは、可愛いものも好きだけど造形の面白いものや不思議なものを好む傾向があるので二段ベットは、かなり気に入ったとみた。
でもちゃんと我慢している。いい子だ。
そして今度は、私の目に可愛いチェストが映る。
「このチェスト可愛いー」
「お客様さんいい目してるよ! それお父さん自慢の作品なんだよ! 収納力も高いしお勧めだよ」
「うんうん一杯入るしいいですね」
お店のお姉さんが接客トークしてくる。そのやり取りを見たカノンちゃんが一言。
「わたしの収納魔法があるからいらないよー」
「っあ、そうでした。すみません」
バッサリだ、でも確かに言う通りである。私には、可愛い家具などきっと今後もご縁はない。
お姉さんもしょんぼりしてしまったので早々に家具屋さんを出る。
そういえば今日のお買い物ずっと手ぶらで楽チンだ。カノンちゃんの無限収納は本当に便利で助かる。
その時、私はある事に気付きカノンちゃんに気軽に話す。
「そういえば、カノンちゃんの無限収納って大きい岩とか入れられないの? 上から落とすとかすればモンスとか倒すのにも使えそうだし戦闘でも役に立つんじゃない?」
その言葉を聴いたカノンちゃんの顔が真っ青になった。
そして俯きながら涙を流す。突然のことでビックリする。
「っごっごめん! 私なんか変なこと言っちゃったみたいで!」
「……マリコちゃんは、変なこと……言ってないよ……わたしそれやったことあるんだ。ちっちゃい子供だった時に面白半分で……お父さんを驚かそうと思って……」
それを聞いて私は、絶句する。
それってお父さん殺してしまったって事なんじゃないかと……。
カノンちゃんは、言葉に詰まりながら話を続ける。
「大きな岩がっひゅって消えるのが楽しくって……沢山無限収納に入れて……遊んでたんだ。そこにお父さんが来たから……目の前にドン! って……出したら……落ちた衝撃で岩が、割れて……わたし下敷きになっちゃって大怪我したんだ……何人も何人も大人が来て泣き喚くわたしを助け出して代わる代わる治療してくれて……治ったあと物凄くお父さんに怒られたんだ……」
よかった……父親殺しではなかった。ほっと肩を撫で下ろす。そりゃちっちゃい子供が大岩に潰されたらトラウマになって当然だよ。私は、そっとカノンちゃんを包み混むように抱きかかえ、頭を優しく撫でてあげる。
「カノンちゃんが無事でよかったよ」
「うん……でも、今でも大きな岩が私の収納に入ってる……怖くて取り出せないけど入ってるのは分かるから時々怖くなるんだよ……」
「ほら! 無限収納は、カノンちゃんの最高のとりえなんだから苦手意識なんてしないしない! 胸を張れ! 小銭拾いのカノン!」
「うん、そうだね! マリコちゃん、ありがとう」
そして私は気付く。道の真ん中で白ビキニで抱き合う私達……。周囲の注目の的だった。
ちょっとテンションが下がり賑やかなところに行きたくなる。
夕日も傾いてきたのでちょっと早いけど夕食に向かう。
夕食はギルドの酒場ですることにする。あそこは賑やかだ。