買い物とダンジョンと家探し
前回の劇場の前でネタ晴らしをする迷惑な客マリコちゃん
劇場に行く。銀猫姫の物語にハマる。
劇場での感動も冷めやらぬままいそいそと宿屋に戻る。深夜に戻ると締め出されるらしい。
劇の感想をカノンちゃんと熱く語っていたら隣の部屋から壁をドン! ってされたので大人しく寝た。
朝になると自然に目が覚めたのでカノンちゃんと一緒に朝食を食べながら話をする。
「マリコちゃーん。今日はどうしよっか? ダンジョンいく?」
「先に服買いたいかなー洗わないと着替えが無いよ」
昨日着ていたカノンちゃんに貰った服から着替え、今は、元居た世界で着ていたおしゃれ着だった。着替えが無いのは、本当に不便だよ。
「じゃーまずは服屋さんだ! でもお昼前くらいにならないとお店開かないねー」
「それまでどうしよっか。ここでゴロゴロしてる?」
「一泊二食分しか払ってないから食べて少ししたら追い出されるよー」
「んじゃ少しぶらぶら歩こっか?」
「おー、ではこのカノンさんがここダラの町を案内してあげよー」
胸を張りちょっと偉そうにカノンちゃんがするので「ご案内よろしくお願い致します」っと、畏まってお願いする。
そうしてご飯が食べ終わったら準備をして町をぶらぶらする。
女神教の教会も案内してもらう、建物は白を基調とした立派な建物でなんか槍みたいなのがシンボルらしい、朝から白ビキニの女性や海パン兄さんが祈りを捧げに賑わっていた。
カノンちゃんもお祈りをして新しい白ビキニをゲットしている。
その後、しばらくカノンちゃんの案内のもと歩くと、急に立ち止り看板を見つめだす。
「どうしたのカノンちゃん?」
「んっと、この家借主募集中らしいのでちょっと興味がー。やっとの思いで手に入れた我が家も魔物に襲われるし。解約しちゃったし……」
小銭拾いと呼ばれるカノンちゃんだ。きっと相当がんばって手に入れた我が家だったんだろうなー。でも今の私達は小金持ちだ。
「ねーカノンちゃん、モンス倒した賞金もあるし借りちゃおっか? ふたりで暮らす家」
「いいのマリコちゃん!? やっぱりいいよね我が家!」
「相場が良く分からないけどトータルで宿屋借りるよりも安いんじゃないかな?」
「うーん、ふたりで住むなら……多分! 安い! マリコちゃん賢い! 早速中見てみよう!」
「っえ 勝手に中見ていいの?」
不法進入とかでお縄になるのはご免である。
「募集中の看板がある家は大丈夫! 無賃で泊まってるおっさんが居る場合があるけどそういう時は、衛兵さんに告げ口すれば大丈夫だし。よし! 中入ろう!」
やっぱり不法滞在とかあるのか! 募集中だからって自由すぎる。文化の違いを感じる。
「っていうか、ここ立地はいいの? 買い物が便利とかギルドが近いとかダンジョン近いと便利とかあるんじゃないの?」
「確かに! マリコちゃん賢い! ギルド近くの方がいいよ! ご飯食べるところもお店も一杯あるしダンジョン帰りに換金も簡単!」
「ん? ダンジョンの魔物は、魔石になるんだったよね? 魔石は、カノンちゃんが収納すればいいだけだし、毎日換金しなくてもまとめて換金すればいいだろうからギルドに近いよりもダンジョンに近い方がいいんじゃない?」
「ヤヴァイ……マリコちゃん賢者だ……」
異世界人からまたヤヴァイ頂きました。それに賢者とかちょっと考えれば分かりそうな気もするんだけど……。ちょっとうれしいけど。
しかしカノンちゃん既に家に入りたいモードの様だしここの物件は、見てみようかな。私も異世界物件に興味津々だし。
「とりあえずこの物件見てみようか? その後他も見ればいいんだし」
「うん! 入ろう! 入ろう!」
中に入ると石畳に白い壁で割りと普通の家だった。早々に切り上げてお眼がねにかなう物件を探すためダンジョン近くをうろうろして募集中の看板を探す。
下見をすること五件ほどでそこそここじゃれた物件を見つけた。
窓の鉄格子に施された猫の意匠が私達の琴線に触れたのだ。お風呂こそないものの洗い場が広いのでそこに桶とか置けばいいし立地もいい。
看板を確認すると不動産屋経由ではなく直接交渉のタイプだった。連絡先を覚えその場を後にする。
時間もお昼になっていたので昼食にする。
物件の募集主の家も近く、折角ダンジョンに近いのだからと、ダンジョン前の屋台街で食べる。謎肉の串焼きやジャガイモのバター焼きなどで日本のお祭りでも売ってそう。まぁ美味しかったです謎肉。
腹ごしらえも終わったので物件の募集主の家を伺う。
扉を見ると猫足のドアノックとか洒落たものがあるじゃないですか。あの物件主のセンスの良さが光る。
トントンっと、鳴らすと「少々お待ちくださいませ」っと返事があり、中から服を着る衣擦れの音が聞こえる。その後、淑女が出てくる。白ビキニだった……。自宅内全裸主義の人だ……。
「お休みのところ申し訳ありません。貸し出し募集中の家の看板を拝見してこちらにお伺いいたしました」
「いえいえ構いませんわ、物件の説明をしますのでどうぞ中へ」
白ビキニの淑女に物件の説明を受ける。
半年契約で二十五万円だそうだ、カノンちゃんの森にあった広い納屋付き一軒家で三十万だったので都会にあるこの家の相場は少し安く感じたのだが理由を聞いて納得した。
井戸が遠いそうだ。でもカノンちゃんが魔法で水を出せるのでなんの問題もない。喜んで契約することにした。
契約方法は、紙に内容を書いてサインするだけだったのでカノンちゃんにちょちょいとやってもらう。
そして、帰り間際にカノンちゃんが猫足のドアノックのことを褒めると同じものをプレゼントしてくれた。小銭拾いの名に恥じないお宝ゲット術である。
足取りも軽くさっそく新しい我が家に行く。
「やったー! 新しい我が家ー!」
「私も初めて家借りたからなんか感慨深いよ!」
部屋割りを決めてカノンちゃんの無限収納で前の家から持ってきた家具を配置する。
ベットは、カノンちゃんの要望により一緒の部屋に置き同じ部屋にチェストや本や小物を置く。
調理場に調理道具置いてからハーブティーを入れて人心地つく。
「うーん、いいね我が家って、引っ越してきたばかりだけどなんか落ち着くよ。それに今日の夜はどんなに騒がしくしても壁ドンはされないよ」
「くふぅ! 昨日マリコちゃん壁をドンってされた時、ビクゥー!! ってなってたよね」
カノンちゃんが昨日の事を思い出してケタケタ笑い出した。
「もー笑いすぎだよー」
「凶悪な魔物にも立ち向かうマリコちゃんが隣の人に壁をドンってされたくらいで怯えるのは、面白すぎるよー」
「もー忘れてって! そうそう、まだ日が落ちるまで時間あるけどどうしよっか? 引っ越し祝いで豪勢な料理作るなら買出しいく? っあ! 物件探ししてた時に見つけたお洒落な料理屋さんも捨てがたいね!」
「わたしあんなお店入ったことないよ! お値段ディナーで千二百円! 高いけど美味しそうだった!」
「まぁ確かに屋台なら百円しないもんね。でも私達小金持ちだし平気だよ」
一緒にいて判ってきたのだが、カノンちゃんは貧乏性である。百円の銀粒1つで結構出し渋る。十円の胴貨、一円の胴粒、この辺が小銭と言われてるらしく小銭拾いのカノンちゃんは、百円単位でも結構渋るのだ。
「マリコちゃんが言うんなら大丈夫だよね!? わたし豪華なご飯食べても大丈夫なんだよね!?」
「うん! 大丈夫! 安心して」
「それじゃー夕飯までダンジョン行こっか?」
「っえ! そんな直に行って帰ってこれるの?」
「1階層のボス倒すくらいだったらそんなに時間掛からないから大丈夫ー」
***
バシン! バシン!
軽快にバットを振る音が鳴り響くダンジョンの1階層……私は、早速スライム相手に無双する。
スライムは、80センチ位の透き通る青色の水の塊だ。中にふよふよと浮かぶ野球のボールくらいの赤い核がある。
核に攻撃がヒットするとパシャン! っと、小気味良い音が鳴り弾けて消える。癖になりそうだ……。
スライムを倒すと1センチ程度の魔石を落とす。でもこれ一円とのこと。他にも半分位の確立でスライムの核が割れずに残る。
これは、味はしないけど食用らしい。カノンちゃんがどこで拾ったのかお酒の空き瓶にちっちゃい魔石を入れ籠を背負い核もせっせと拾う。
私は、視界に入ったスライムを全て倒す。ボス部屋の前に到達する頃には、張り切り過ぎてほんのり汗もかいていた。
「マリコちゃんいよいよボスのお出ましだよー。雑魚と違って触手で攻撃してくるよー。あと黒い」
「押し通る! 我が銀剣に貫けぬもの無し!」
「キャー! 銀猫様ー!」
バットを突き出し、昨日見た劇のワンシーンをノリノリで再現する。カノンちゃんもノリノリだ。緊張感は欠片もない。扉を開けてボスと戦う。
「エイヤー」
私が一撃いれるとパシャン! っと、鳴って弾けて消える。ボス、一撃か……。
カノンちゃんも「っあ! もう終わっちゃった!」っと、残念そうだった。
そんな感じで1階層の探索が終わる。ボス部屋の魔法陣で2階層に転移した後に同じ魔方陣から入り口に転移した。
私のダンジョンデビューは、超楽勝だった。
ダンジョンから出ると夕日がかなり落ちていた。でもカノンちゃんナビの最短ルートで2時間居なかったと思う。
「では、カノンちゃん引越し祝い&初ダンジョン祝いにリッチなご飯を食べに行こう」
「やったーすっごく楽しみだよー」
ルンルン気分でお洒落なお店に着く。混んでるじゃないですか……。そりゃディナータイム、混んでて当然ですよねぇ。
私とカノンちゃんは、待合室の椅子に腰掛けて待つことにする。
そこそこ待っていたけど銀猫トークで盛り上がっていたので問題なかった。
テーブルに着くと次々に料理が運ばれてくる。出てくる料理の全部が見た目も綺麗で味も美味! 日本で食べていた料理よりも美味しく感じる。
ひとつだけ違和感がある。箸で食べる。食べやすい……でもムースとか箸で食べるの凄く違和感が……。まぁスープについてるスプーンで食べればいいのかな。
美味しいディナーを食べた私達は、愛しの我が家に真っ直ぐ帰る。あの店予約もできる事が分かったので次は、予約してから行こう。
歩いて帰っていい感じに腹ごなしも終わっており早速お風呂を沸かす。カノンちゃんが水出して私が温める。適当に魔法唱えるだけなので非常に助かる。
カノンちゃんが先に入り私が次に入る。私が後に入ればお湯が冷めても温められるから。
「あー異世界生活マジ楽しい……明日は何しよっかなーダンジョンの2階層制覇かな……」
一人ぼそぼそっと独り言を呟き明日の計画を考える。
「っあーーー! 着替え買いに行くの忘れた!」
私は、白ビキニの洗礼を受けることになった。