銀猫姫
前回の主人公の座を友達に取られた感のあるマリコちゃん
冒険者になる。ウンバボ族のダチ公になる。小金持ちになる。
銀猫姫
それは、古代、戦乱の東大陸を救ったひとりの少女と2匹の猫の物語……。
少女は人族であったが人が信じられなかった。彼女は獣人のふりをして獣人の町の診療所で働いた。彼女は生まれつき卓越した剣の才能と多彩な魔法が使え、治癒魔法もそのひとつだった。
綺麗な銀髪と瞳を持つ美しい少女の献身的な治療に町人や冒険者達もすぐに魅了された。しかし無口な彼女は、誰にも心を開くことはなかった。それでも彼女は、充実した日々を感じていた。
そんな彼女には、ただひとつだけ誰にも言えない秘密があった。それは、銀猫であること。彼女は、特別な召還魔法が使えた。それは、彼女の側に常に居る二匹の猫の神獣。クロと呼ばれる黒猫は、外法とされる闇魔法で全てを破壊し、シロと呼ばれる白猫は、聖なる魔法で全てを癒した。
彼女は、夜になると青を基調としたフリルブラウスとドロワーズを纏い鼻から上を隠す銀仮面をつける。銀猫を名乗り悪者を退治して回っていたのだ。彼女は、夜の散歩と称し、なんの見返りも求める事無く沢山の人を助けた。
ある時は、母が病気で悲しむ少女のために薬草を探し、ある時は、奴隷商人を襲撃して奴隷達を解放したりと活動は、多岐にわたるものだった。しかし潰しても潰しても減らない悪にうんざりもしはじめていた。
彼女は、一計を案じる、貴族令嬢の危険を救った際に銀で作成した猫のブローチを令嬢に渡したのだ。手渡す時に呟やく「銀猫が見ているぞ」それはすぐに町中の噂となった。その後、彼女は、助けた人に銀猫のブローチを渡す様にした。ブローチは、誰もが欲しがる羨望の品となった。時にはブローチ欲しさに嘘の事件を起こす者もいたり、偽者を高額で販売する者もいたが問題ではなかった。
安価な銀猫ブローチが販売されるとあっという間にブローチが沢山の人の手に渡る。同時に「銀猫が見ているぞ」の言葉も広がり銀猫姫と讃えられ英雄視される様になる。悪党も萎縮し町の治安も目に見えて良くなった。
彼女の夜の散歩も減り、診療所で穏やかな日々を過ごした。
とある日、診療所での治療の甲斐なく一人の冒険者が亡くなった。診療者が亡くなることは診療所では珍しいことではなかった。しかし亡くなった冒険者は、まだ小さい女の子を残してしまったのだ。彼女は、孤児になってしまった少女の面倒を見ることにした。父を亡くしても健気に診療所の手伝いをする少女に次第に誰にも開くことの無かった心を開き始める。
しかし、少女との別れは一年ほどで訪れた。少女が新たに作られた開拓村の住民に選ばれたからだ。寂しい気持ちもあったが新しい生活で彼女が幸せになれることを願い少女を送り出した。
そんな願いは届くことなく、彼女は動乱の時代に身を委ねることになる。
少女の住む開拓村が獣狼王の侵略に遭ったのだ。彼女は、直に駆けつけた。誰よりも早く。しかし炎に包まれた開拓村に有ったのは、既に事切れた少女の亡骸だった。閉ざされていた彼女の心は一気に解き放たれた。悲しみという感情で。
その夜、彼女は銀猫となり獣狼族の王宮にひとりで潜入する。王の喉元に銀の細剣を突きつけた彼女は、王に訴える。失われた少女の命と王の命に重みに差があるのかと、殲滅された住民に罪があったのかと。彼女は自分の思いをぶつけ立ち去った。
王は、翌日獣人族への和平交渉の使者を送った。紛争に関する全ての保障と謝罪。そして二度とこの様な悲劇が起らなぬ様に開拓村に慰霊碑を建造すること。
獣人側もこれを受け入れる。銀猫姫が戦争を回避してくれたのだと和平に応じた。
だが一度動き出した動乱は止まらなかった。次は、黒牙王と黒猫族の連合軍が獣人族を襲った。
彼女は、紛争地帯に身を委ね戦い続けた。そして黒猫族の族長を追い詰め命の尊さを訴えた。黒猫族も獣狼王同様に謝罪し平和を誓う。一気に決着を付けるため黒牙王の王宮へ潜入する。そこで邪神の力を宿す黒牙族の騎士と相対した。黒牙の騎士は、邪神に従い獣狼族や黒牙王を洗脳し戦争を引き起こしていた元凶であった。銀猫は、苛烈な戦いを征し邪神の野望を打ち砕くことに成功する。しかしそれは大きな痛みを伴うものだった。クロを失ったのだ。
クロは、前世で罪を犯した。それを償うために神獣として人助けを強いられていた。銀猫の始まりは、クロの罪を償う手伝いだったのだ。シロは、クロの罪滅ぼしの監視役だった。クロの死の間際、シロが「君の罪は償われた」と、言い、彼女も今まで自分に尽くしてくれたクロに別れの言葉を交わした。彼女はクロを埋葬すると診療所に戻り以前の様に穏やかな日々を送る。
しかし真の平和はまだ訪れていなかった。悪の元凶が滅ぼされ絆が結ばれた平和の訪れた東大陸に新たな脅威がせまる。北大陸から海を越えた四代目ウンバボ大帝の襲撃である。
ウンバボ族は、初代大帝の志した全ての言語の統一以外は、何も強要せず何も支配しない。しかし分かり合えない者には容赦などしない。暴力で言葉を教える。殴って立ち上がらせ殴って歩かせる。言葉の通じない相手を一方的に糾弾するのだ。獣人側も今まで接触の無かった別種族の襲撃に狼狽するものの全ての王族が連合軍となり集結する。戦火の火蓋は切って落とされる寸前となる。
彼女はこれを愁い、銀猫として人族に接触した。彼女は、人族の言葉も獣人達の言葉も理解できる力があった。彼女は、仲介役となり人族と獣人の王族達と会談を行うことにした。
そして会談の場で彼女はひとつの決断をした。人族と獣人の架け橋になるために。人族と獣人の王族が集まる中彼女は、今まで人前で外すことの無かった銀仮面と銀のつけ耳を外す。王族達がどよめく、獣人の英雄であるはずの銀猫が人族だったのだから。彼女は、語る。人が信じられなくなっていた事、獣人達と暮らし信じる心と命の尊さを学んだことそして自分が分かり合えたのだから人と獣人が争う必要など無いことを。
感化された王族達は、その場所に人族と獣人が共存する町を建設することにした。彼女は、その町を虹の橋と名づけ町の代表となり残りの生涯の全てを町の成長に費やした。
彼女が亡くなった後もその町は、成長を続けそれは国となった。そしてその国の中央広場には、銀で作られた銀猫姫の像がある。それは、美しい姫に二匹の猫が寄り添う平和を象徴するのに相応しいもの……。「銀猫がみているぞ」彼女の意思は、今も受け次がれて町の平和に貢献している……。
***
「おぉぉ……ううっうっう」
「うっう、いい……いい話だった……」
劇場から出る時には、カノンちゃん号泣。私ももらい泣きである。
「私、あの登場する場面好きだね「夜は猫の時間……銀色の猫が散歩していても可笑しくはないでしょう」」
私は、カノンちゃんに銀猫登場場面を再現したポーズを見せる。
「そこカッコよかったよね! 銀猫役の女の子もすっごい速さで相手をばったばたと倒す姿とかカッコ良かったー! 貴族令嬢に銀猫のブローチ上げるときのさり気なさとかーカッコよすぎ! いい場面沢山あったよねー」
「うんうん! 獣狼族の王宮に少女の仇に向かった銀猫が王に剣を突きつけるところの、涙を流しながら、復讐したい! でもそれをしてもなんの意味もなさない! っと、心の葛藤するところとか良く表現されてたよね!」
「わたしあの場面でもう涙が止まらなかったよー」
目をゴシゴシするカノンちゃん。思い出してまた泣けてきたようだ。
「アクションの一番の見所は、黒牙の騎士との戦いだよね! 舞台の上で縦横無尽に活躍する姿は、ほんと惚れ惚れしちゃったよ! 凄い! 軽業師って感じだったね!」
「あーあの後クロ死んじゃったんだよねーまさかクロが前世の罪を償うために戦っていたなんてビックリだったよー」
「いやー私はその後に出てきたウンバボ族にビックリだったよ! ここでウンバボ族かよ! って!」
ほんとウンバボ族にビックリさせられる。しかもあの部族、皇帝の呼び方がアニキ! なのだ。昭和のヤンキーか! 不意をつかれ噴出しそうになった。
「マリコちゃん! 四代目ウンバボ大帝の人族獣人会談は、古代遺跡にも文献がある本当にあった話なんだよ! その名場面! やっぱりウンバボ族ってすごい!」
ウンバボ族に興奮するカノンちゃん。手をワキワキしている。何を表現しているかは分からないけど興奮しているのが分かる。
「会談っていったらあの仮面を外すところも良かったよね! 沈黙の後におずおずと外すしぐさが可愛らしいのに仮面を外したその素顔も可愛いんだもん!」
「うんうん! そのかいあって人族と獣人の交わる町が作られるとかほんと胸が熱くなるよねー。しかも生涯を通じて貢献するとか! その町が今も国として残ってて意志が託されてるとかほんと感動だよー!」
「お客さん! 劇場の前でネタばらしは辞めてください!」
「「っあ!」」
劇団のおっさんに怒られた。
マリコ本編とは関係ございませんが銀猫姫の裏設定です。
興味のある方はご覧下さいませ。
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銀猫転生
少女は、人が信じる事ができなかった。学校ではいじめにあっていた。美しい容姿に男子が媚を売り女子が嫉妬し。無視される。物を隠される。彼女にとっては、それが幼少からの普通の日常だった。登校することを想像するだけで足が重くなる。中学生の時には、不登校になっていた。母が早世し父子家庭だった。父は忙しくすれ違いばかりだった。
でも彼女には唯一心の許せる家族がいた。彼女が生まれた日に拾われてきた黒猫。しかしそんな家族にも別れが訪れた。寿命だった。黒猫が死に彼女は悲しみの底に沈んだ。
このままではいけないとインターネットで検索した。ペットロスの治し方。そこに表示されたのは、天国へと続く虹の橋。死したペットが行く先だ。そこで毎日幸せに暮らしていると。飼い主が死ぬと天国に行く前にそこで落ち合い再開できると。しかし彼女の心のは沈んだままだった。会える楽しみよりも今会えない悲しみの方が大きかったからだ。彼女の心のよりどころは黒猫しか居なかった。
ある日、父親が不登校の彼女に学校に行けと促した。彼女は、それを拒否した。彼女は思った。普段は、自分に関わろうともしない癖にと。父は、言うお前の為に深夜まで仕事に行ってると。その言葉に彼女は考える。自分が居なければそんなに頑張らなくてもいいと。彼女は思い出す。虹の橋……死ねば黒猫に会えるかも……。彼女は、父が家から出て行くと静かにマンションのベランダから身を投げた。
彼女がたどり着いたのは、虹の橋ではなかった。地獄だった。彼女は、目の前に居る大きな鬼の様な異形の生き物を見て思う。閻魔大王が本当居たのだと。異形の者が審議をはじめる。そして、奥から鬼に連れたれた黒猫。彼女が黒猫の名前を呼ぶと黒猫も人の言葉で彼女の名前を連呼した。鬼が黒猫を蹴り飛ばす。彼女の悲鳴が響く。異形の鬼が言う、黒猫が飼い主を愛するばかり心を操作し死に追いやったと。黒猫は、うなだれ「ごめんなさい」っと呟く。異形の鬼が刑を言い渡す。魂が消滅するまで体を切り刻めと。彼女は、泣き叫び減刑を求めた。異形の鬼がそれに答えた。黒猫は人助けをすること、監視役に白い猫が側につくこと、彼女は、それを手伝うこと……。
そして彼女達は、異世界へと旅立った。世界を救う力を手にして。
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おまけ
銀猫:銀髪で琥珀色の瞳、銀の猫耳と銀の仮面をつけている。仮面の鼻は可愛らしい猫の鼻の意匠が施されている。銀を変形さる能力があり自作している。彼女の髪と目の色は、黒猫の刑が言い渡された時に絶望し瞬時に色素を失い薄くなったもので白髪に近い。フリルブラウスとドロワーズがお気に入り。魔法は詠唱が恥ずかしいのでなるべく使わず銀の細剣を愛用していた。猫マッサージ等の猫技術に卓越している。
黒猫:オス、ご主人のことが大好き。猫可愛がりされて育った甘ったれちゃん。異世界転生時に貰ったチートで自分の意思ででかくなれる。移動時には、銀猫を背中によく乗せていた。戦闘時には、闇魔法で爪を強化し引き裂く。闇のオーラのみを引き伸ばして手を伸ばすことも可能。広範囲には黒い稲妻を放つ。
白猫:メス、黒猫のダメだし役。銀猫の猫可愛がりにより出合って直に敬愛するようになる。聖魔法に長けており銀猫を目立たせる時には、光って照明役を頑張る縁の下の力持ち。戦闘もでき白い稲妻がだせる。戦場で治療する時には大きくなって無駄に神々しい姿になって歩く。歩くだけで周りが回復する。実は、目立ちたがり屋。
ウンバボ大帝:※少々ネタばれ有り デコトラに跳ねられ異世界転移した昭和ヤンキーの末裔。言語の統一に情熱を燃やす。初代大帝の拳で語れば分かりあえるの言葉にしたがいとりあえず殴ってから考える。尚、ヤツラは、日本の公衆無線LANにも侵略をしている。
獣人:○人と呼ばれる種族は人に獣耳がついてる亜人。
○獣:猫獣族だと猫の頭に人間の体。