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【裏話】魔術師公爵閣下の恋(前編)

忠誠と深秘の国、王を頂点とした国

王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国


《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでものんびり農業大国、国民総農民といわれるわが国の公爵家に生まれた俺


わが国唯一の公爵家当主様として、王冠の女神様から賜った魔法属性『接触分析』と言うギフトを駆使し、品種改良や新種の成分調査を行っている魔術師兼学者様なのだ。王都に隣接する公爵様の領地は研究農場として、多くの学者様が日々研究しているのだが、結局俺が一番忙しいと言う結果に


最近爵位を継いだばかりなので、領地経営の方も忙しいし。両親はここぞとばかりに旅行へ出発してしまい、とにかく忙しかったのだ


誰か俺に癒しを!!


「閣下、次の依頼主との面会時間ですが」

「ちょっとくらい休ませてくれ~」

「時間が差し迫っております、ちゃっちゃと働きなさいませ」


俺の乳兄弟にして秘書官が、ちゃっちゃとスケジュールを回してくる。あぁ、癒しを……切実に求む


「あの、閣下がお忙しいのでしたら、日を改めて……」

「駄目です、お嬢様。閣下を甘やかしてはいけません」


どうやら次の成分分析の依頼主は女性の様だ、優し気な声に机に向けていた視線を依頼主の方へむけると


「きゃあッ!!」


可愛らしい声をあげて、地面に投げ出していた給水用のホースに足を引っかけて躓く女性の姿が目に飛び込む。少しくすんだ黄色のドレスを纏っていた彼女は、ばたりと地面に倒れた拍子に俺に向かってゴロゴロと、黄色い球体が転がってきたのだった


「む、むねが!!」


取れて転がったのかと慌てて拾ったそれは……


「閣下、ありがとうございます。わたくしの家の新種の梨でございます」

「で、でかい」


俺の掌を隠すくらいの大きさの梨、正直彼女の胸が取れたのかと思った。いや、とれる訳ないよな、俺疲れすぎている……


「えぇ、交配を重ねできた子です。ぜひ見てやって下さいませ」

「う、うしろから……」


取れていない胸の方をついじっと見てしまい、アホな事を考えてしまった俺の足を踏んづける秘書官


「後背じゃねぇよ」

「クッ、お前心を読むな」

「読んでません、顔に出ていますよ。麗し系公爵閣下なんですから、顔に気をつけて下さい」


足を踏んづけられながら、小声で怒られた




彼女は『梨の乙女』、新種の梨の成分分析を依頼してきたのだった。大きな梨は6個、ランダムに採取された物を品質が均一かどうかを検査する。俺のギフトは『接触分析』、1つ1つ触って梨を分析すると


「糖度が高い、だからと言って甘すぎない……酸味も程程。遺伝子的な欠落も確認できない。とても、いい()たちだ」

「ありがとうございます、祖父と職人たちが丹精込めて育てた子たちなのです。なにも無くて一安心です……」

「えぇ、とても美味しいですね。俺はかなり好きかもしれない……」


接触分析が終わり、彼女自ら梨を剥いてくれた。シャクシャクと咀嚼しながら、彼女と話す。どうやらこの梨は、彼女が産まれたお祝いにお祖父様が交配を始めた種で、やっと安定して育つようになった特別品だそうだ


初めての品質分析で緊張していたのだろう、俺の言葉を聞いて安心したのか、今は笑顔で話してくれる乙女。改めて見ると茶色の柔らかそうな髪に、金に緑がかった瞳、まさしく『梨の乙女』の証拠。穏やかそうな笑顔に超癒され、俺の顔もつい緩むが秘書官にすかさず足を踏まれた


「いッ……。あ、えぇと、しかしこれだけ大きいと個数が減るのではないかな?手間もかかるし」

「これは贈答品用に考えられた梨なのです、公爵閣下。祖父が大きい方が印象強いだろうと」

「確かに衝撃だった……」


胸が取れたかと思ったくらい、彼女自身の胸も大きく立派だ。触ってみたい……





って、俺は何を考えているのだ?


「恋心か……」

「アホ、ただのエロ心だろう。し・ご・と・し・ろ」


彼女が帰宅した後、ずっとぼんやりとしていた為に秘書官にゲシゲシ足を踏まれた。それ以来彼女の事が忘れられない……、たったそれだけでとか思われるかもしれないが、一目惚れってあると思う!!そんな風に主張する俺に、秘書官の態度は非常に冷たいものだった


「おっぱい星人、次はこちらの分析ですよ。素早く正確にお願いします」

「……なんだその星人と言うのは」


秘書官の差し出した、調査抽出見本入りの箱を受け取りながら問うと


「《4の国》の言葉です。おっぱいの星からやってきた、おっぱいの事しか頭に無い人の事です。おっぱいさえあればご飯3杯いけるという」

「いや、胸ではなく彼女に、その、もう一度会いたいと言うかなんというか」

「ヘタレが……」


また《4の国》の言葉を使う秘書官。意味は分からんが馬鹿にされているのは解る、恐らく意気地なしとかそういう意味なのだろうな……。自分でもわかっているよ!!


「癒されたい、お嫁さんが欲しい……」

「お嫁さんではなく、巨乳が欲しいのでしょう?」

「乳目的じゃねぇし!!」


そんな風にもやもや(ムラムラでは決してない)していると、学び舎の同期で葡萄栽培家の嫡子がやってきた。魔力は少ないが、それを集中力と効率で補っている秀才君だ。本来であれば卒業と同時に、故郷である葡萄の町に帰る予定だったのを、もう少しこちらで働かないかとスカウトした男である


秀才君は手に持つガラスケースを掲げ


「閣下、『聖別』終わりましたよ。確認してください」

「確認するまでもないだろう、いちいち聞かなくていいから植えてあげて」

「そうはまいりません、失敗して責任取らされるのは嫌ですから」


ガラスの中には野菜の苗、これは昔『始まりのギフト』持ちと共に産まれた野菜の子孫。『始まりのギフト』とは女神様から贈られる魔法属性『ギフト』の中でも特別な、《3の国》にはなかった作物の種を抱いて産まれる人の尊称。本当に手に握りしめて生まれてくるのだそうだ


主に王族女性に多いギフト、まぁ命を産みだすのは女性だからというのもあるだろう


この野菜の種と共に産まれた『始まりのギフト』持ちはすでに亡くなってしまったので、これが最後の繁殖機会となる。何とか《3の国》に根付かせてあげたいと、わが研究農園でお世話中なのだ。『始まりのギフト』持ちは『姫』と称され(男でも姫と称されるらしい)、『乙女』や『淑女』よりも作物との絆が深くなる。『姫』亡き今、栽培が非常に難しくなっていて頭が痛い状態


「正直諦め時か……。こういう時、男って役立たずだよなぁ」

「種蒔くだけですからね」


下ネタだろうか?いまいち判断が付かなかった……






3ヶ月後、王城より招待状が届いた、近々品評会を開くらしい。品評会と言いながら、実際の所お見合い会なんだけど今回は……


「閣下、あの『梨の乙女』がいらっしゃいますよ」

「え!!」

「今回の品評会は、ヘタレ閣下の為に開かれる催しです。是非、根性出して彼女をモノにしなさいとの国王陛下のお言葉です」


まさかの俺用品評会(おみあい)だった


「ちょ、まて!!そんな……、彼女に悪いだろう……、彼女にだって好みってものがある……だろうし」

「麗し系爵位持ち金持ち名誉持ち、振られろ」

「言っていることが、むちゃくちゃだぞ秘書!!」

「葡萄侯爵嫡子様もいらっしゃるそうですよ、例の野菜の生育状況を相談したらどうでしょうか?」


葡萄侯爵嫡子の秀才君は、さすがに実家からの帰って来いコールに先月帰郷を決めたばかりだった。まぁ、嫡子だからヤツも結婚を急かされているのかもしれない、品評会へ参加するため慌ててこちらにとんぼ返りだそうで大変迷惑そうだったと秘書官が言う


しかし開けてみれば驚きの出来事が、秀才君は王城へ向かう途中ある女性と知り合ったそうだ。ただ残念ながら、その女性は『薔薇の淑女』だったそうで、縁が無かったと力なく笑う秀才君


「薔薇か……、それは残念だとしか言いようがないな」

「えぇ、まさに淑女で大変好ましい女性だったんですけどねぇ。薔薇と葡萄は同じ病気にかかりますし、しかも薔薇の方が先に……。葡萄の病気の早期発見の為なんて思われるでしょう、ここは諦めた方が良策ですよ……」


穏やかで可愛らしい女性(ひと)だったのになぁと、秀才君は残念がっていた。彼が葡萄の為に他の物を犠牲にするような男ではないのはわかっているが、相手側に、特に女性の一族の方々に理解してもらえるかはわからない


お互い難儀な恋をしてしまったものだと、ため息をつくと


「閣下は全然難儀な恋ではないと思います、えぇ、まったく、全然楽勝です」

「そうですよ、ギフトが泣きますよ?何のためのギフトですか?」

「ギフト関係ないし!!」


秀才君と秘書にボロクソ言われた、俺、公爵なんだけどどういう事?

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