表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/11

立食食事会から公爵閣下の私室へ

先導する侍従のうしろを歩き、ちょうど別の歓談スぺースの前で腕を掴まれ引き込まれたのです。あ、と思った時にはソファーの上に。まるで打ち合わせしていたかの如く、ソファーの前に衝立を広げる侍従……。まぁ、本当に打ち合わせをしていたのでしょうね、これは


まぁ、こういう場合もあるかなと覚悟はしていたけれど。本当に他人を使ってまで接触してくるなんて、執念深いと言うか何というか……


隣に座り込んできたのは、葡萄伯爵嫡子。例のねっとり視線で私の全身を舐めまわすように見て、逃げられないように腕を掴まれ、あまつさえ足を踏まれています、なんという暴挙!!


「王家の一押しに、さっそくあの男に足を開いた訳か?」


処女になんて質問、こういう場合はあやふやな感じで答えを濁すのよね


「もう、私はあの方のものです。このような戯れはおよしになって下さいませ」

「あの方のモノねぇ……。正式に婚約を結んだのか?」

「事実上の婚約ですわ、察して下さいませ」


……あんまり濁せていませんわね、私。咄嗟に『事実上の』なんて言ってしまいましたが、『事実上の』ってなんなんだよと、自分でも自分の言い分に呆れてしまいました。だ、大丈夫かしら、これ……


「察して、ねぇ……。とんだ阿婆擦れだな、女」


『事実上の』ってそういう事になりますわよね、あれ、やはり拙かった?そう思っても、後の祭り


「何て言うとでも思ったか。そんなすぐ誤魔化しだとわかるような嘘を、伯爵家嫡子の俺に告げるとは。嘘を吐くなと親に躾けられなかったのか?」


しまった、言われていたわ。揚げ足を取られるからしゃべるなと……、お父様お母様、馬鹿な娘でごめんなさい


「嘘をついた詫びに、最終日の舞踏会にはエスコートさせろ。そしてそのギフトを俺の為につかえ、意味くらい解るだろう?」

「わ、わかりませんわ」

「それも嘘だ、『薔薇の淑女』」


なんて揚げ足取り、なんて高慢な物言いをする人なんだろう。この人は私を葡萄の犠牲にする気満々だ、ねっとりとした捕食者の視線を見た私は、うかつにもその場で気を失ってしまったのだった……。だって私、箱入り令嬢ですもの




気が付いたら知らない部屋で寝かされていた


馬鹿な私、男と二人きりの状態で気絶するなんて。もう手遅れなのだろうか、フワフワのベッドに寝かされているということは、純潔終了のお知らせですね……。ドレスも緩められて……、って、くつろげられているだけで、それ以上の異変は無いようで


側に人の気配がしたのでそちらに目を向けると、驚いたことにあの『梨の乙女』、公爵閣下の想い人だった。気が付いた私に近寄り、気分はどうですかと柔らかく問うてきた柔らかな印象のひと。そしてどうしても目が行ってしまう胸部の柔らかそうなお山……、うらやましくなんかありませんわよ……、うぅ……


それは置いておいて、どうしてこの人がいらっしゃるのだろうと、聞きたいけれども声が出ない状態


彼女は私が酷い衝撃を受け喋れないのだろうと悟り、今の状況を詳しく話して下さった


「こちらは公爵閣下の私室です。変な噂が立たない様、私に側に居る様に仰せつかりました。あと従姉殿と侍女の方を部屋に入れましたが、殿方は1人も入室していませんのでご安心を」

「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。姉さま……従姉は今どちらへ?」

「はい、兄上様に連絡してくると仰っていましたから、すぐに戻られますよ」


どうやら姉さまがすぐに駆けつけてくれたのだろう。しかし何故に公爵閣下の私室を、借りる事になったのだろうか?与えられている客間の方が、ホールから近かったのではないかと思われる。こんな感じで疑問は尽きないが、ひとまず安心だという事でしょう


そう思ったら一気に涙腺が緩み、ボロボロと涙が溢れてしまいました、どうしてこんな事になってしまったのだろう。こんな事になるのであれば、もっと第一印象を信じて肉食な感じでぐいぐい行けばよかった。梨の乙女は驚いて「待っていてくださいませ」と言って、慌てて人を呼びに行った


恐らく姉さまを呼びに行ってくれたのだろう、何から何まで申し訳ありません


ボロボロ泣いてしまった所為で、のどがカラカラです。側にあった水差しに手を伸ばそうとした時、ドアのノックの音が。てっきり姉さまだと思い、ぐったりした声でハイと返事をしたところ、姉さまと兄さま、梨の乙女様、公爵閣下、そして葡萄侯爵嫡子様と爺やさんが入室し大渋滞


「大口の契約と言っておきながら、のらりくらりとかわされて時間を取ってしまった。……まぁ、足止めをしているのだろうなと思ったので、公爵閣下に動いてもらったんですよ」

「葡萄伯爵嫡子は、こいつが魔術師だという事を忘れているようだな?ご令嬢が目印をつけていたから、すぐにわかったよ」


目印と言ってベッド横にあるサイドテーブルの上の、あの薔薇の髪飾りを指さす公爵閣下。私の念が入っていますからと葡萄侯爵嫡子様、念って魔力のことでしょうか。それよりもこれからの事を


「そんなに葡萄栽培に『薔薇の淑女』が必要なのでしょうか……。望まれる事は喜ばしい事なのでしょうが、私はあの方が怖いのです……」

「私も見たわよ、あのキモ葡萄野郎を!!あれは駄目よ、絶対利益の事しか考えていないわ!!」

「そんなに利益が欲しいなら『葡萄の乙女』こそではないのでしょうか、何で私なのでしょうか」


姉さまも公爵閣下と共に私救出の場にいたそうです、その時に葡萄伯爵嫡子を観察した感想を荒ぶりながら吐き出します。葡萄に『キモ』まで付けられて、葡萄侯爵嫡子様は複雑な表情。まぁ、自分の家も葡萄栽培家ですからね、解っていても複雑な気持ちなのでしょう。私だって苺の悪口を言われたら、怒りますもの。薔薇の事も、もちろんですよ


「『葡萄の乙女』は神殿で管理されているから、モノにするのは無理だと思うな。『葡萄の乙女』の『祝福』は他の乙女達と違って、大きな利益につながる。彼女たちの『祝福』を受け育てたワインは、原材料が一段落ちていてもそこそこの物に仕上がる」


公爵閣下はそう説明してくれた、葡萄侯爵嫡子様もうなずいて言う


「葡萄達は『葡萄の乙女』を愛しているから、頑張ってくれるのです。だから、そこに付け込もうとするやつもいるって事で」

「君の家のワインだって美味しかったけれど?」

「わが町は神殿から遠い田舎なので、『葡萄の乙女』を仕込みにお呼びする事もできません。途中で何かあったら大変ですから。家のワインを美味しいと思って下さるのは、職人と騎士の努力の結果です。私も葡萄達の為に何か出来る事はないかと、学び舎で学んでいたのですけれども」


あの葡萄伯爵嫡子は、神殿で管理されている『葡萄の乙女』よりもお手軽な私を選んだみたいですね。私は神殿で保護される『神官』とは違い、ギフトを持ちつつも神殿には入らなかった『准神官』。一般的に貴族女性のギフト持ちは家が守って下さるので、神殿に入る必要はないのです


庶民出身の『神官』は、今私の置かれているような状態を避けるため、幼いうちに神殿に入るそうですよ


それまで黙って見守ってくれていた兄さまが、手をあげて意見を申し出ました。いわく……


「じゃあさ、もう良いヤツの方の葡萄君に足開いちゃえよ!!」

「馬鹿兄貴ッ!!」

「げふッ!!」


兄さまのびっくり発言に一同沈黙の中、姉さまが鞭をしならせ兄さまに一太刀(?)浴びせます。いつのまにか本物の鞭を入手していた姉さま、初めてとは思えない鞭使い。そして私は天啓に導かれたように、声をあげました。えぇ、この時の私は確かに神がかっていたと!!


「そうよ、開けばいいのよ!!葡萄侯爵嫡子様ッ、お願いしますわ!!」

「え、えぇぇぇぇッ?」

「あのキモ葡萄野郎にヤられるくらいなら、ガツガツいけばよかったのです。第一印象を大切にしなかった私の馬鹿ッ!!」


そう、なんでこんな単純な事に気が付かなかったのだろう


天啓よ、天啓!!そんなある意味神がかっている私に、公爵閣下から「落ち着いてご令嬢、そこは俺のベッドで……」なんて、つまらない忠告をいただきましたが、閣下はお呼びではないのです


「公爵閣下はご遠慮くださいませ。葡萄侯爵嫡子様、早く私を奪ってぇ!!」


そう叫びつつ、ベッドの上から葡萄侯爵嫡子様に両手を伸ばす。誘うように、急かすように。彼は私と同じように手を伸ばし、指を絡めあいそのままベッドと私に乗り上げた。荒々しい口づけとともに私の足の間に陣取り、腰を擦りつけてくる彼の腰に両足を絡ませる


あまりの急展開に周りの人々は唖然とした後、(若干、女の方がノリノリな)激しい絡み合いに悲鳴をあげた姉さまを兄さまが担いで退出


次いで真っ赤になって固まってしまった梨の乙女を、お姫様抱っこで公爵閣下退出


最後に天蓋をするするとおろし、お呼びの際は呼び鈴を鳴らして下さいませと、爺やさん一礼して退出




そして『事実上の』婚約をしたのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ