表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

品評会1回目から2回目を経て食事会へ

「ごれいじょう、とんださいなんだったな」

「王太子殿下とは知らず、大変失礼をいたしました」


王宮内の公爵閣下の私室へと招かれ、少年、いえ王太子殿下の前に膝をつきお礼を言う。えへんと得意げな顔で胸を張るのが可愛らしい殿下の横には、公爵閣下がつく


「いいんですよ、苺の方。殿下はまだ大々的なお披露目をしていないおこちゃまなのでね、知らない方が普通です」

「ふん。まじゅつしは、ばのくうきをよむのがうまくなくてはいけないのであろう?アイツ、チョ~キモかった!!」

「またそんな《4の国》の言葉を使う……。キモいっていうのは、気持ち悪いの略語?……だそうですよ」


公爵閣下の侍従の方が、わざわざ姉さまと兄さまを呼んできてくれました。……あぁ、姉さまがすごく怒っているわ、まるで猪の様に突進してきます。兄さまはあきれ顔で姉さまの後をついてきます


王太子殿下と公爵閣下のお2人を紹介し、事のあらましを説明したところ、姉さまの雷が落ちました


「あれほど葡萄栽培家のボンボンには、気を付けろと言ったのにィ~!!」

「まぁ、不可抗力ってやつだろう妹よ。無事でよかったじゃないか、手籠めコースじゃなかっただけひとまず安心だ」

「兄さん、お子様(でんか)の前で下品な発言は止めてッ!!」


与えられる姉さまの鞭に、兄さまの飴。まぁ、姉さまの鞭は兄様にも与えられていましたが……

 

「心配かけてごめんなさい、兄さま姉さま……」

「とにかく一人歩きはもう禁止よ、必ず私がついて行きますから。……いえ、もう部屋から出ない方がいいかもしれないわね、仮病を使いましょう!!苺たちは不本意だけれども兄さまに託しましょうね」

「俺『神殿騎士』、不本意なんて言われる方が不本意なんだけど」


嘆く兄さまに姉さまは思いっきり無視、見かねた公爵閣下が間に入って下さいました


「さすがにそれは無理だと思いますね、苺の乙女。俺に良い考えがあります、……あ、その前に苺を売ってくださいませんか?」


そして公爵閣下の良い考えとは……


「……ご令嬢、何故閣下とお知り合いに?」

「……侯爵嫡子様」


葡萄栽培家の侯爵嫡子様と、このようなかたちで再会する事になるとは




公爵閣下のいい考えとは、私と葡萄侯爵嫡子様がお互いに一目惚れをしビビビと最後までしちゃいました作戦。…………だそうです、最後までってなんですか、最後までって


「ふりだけでも駄目かね?あの葡萄伯爵嫡子君は、言葉は悪いが『お手付き』に興味なさそうだから、多分」

「あぁご令嬢、アイツに目を付けられるなんて、さぞや辛かったでしょう……。アイツ、目つきが気持ち悪いですからね、顔がいいだけになおさら痛々しいキモさ。純真な乙女には目の毒です」

「お前の言い方が酷い」

「結構まろやかな表現にしているではないですか」

「痛々しいキモさって、まろやかか?」


公爵閣下と葡萄侯爵嫡子様は、あの葡萄伯爵嫡子とお知り合いなのでしょうか。葡萄侯爵嫡子様は同じ葡萄栽培家なので、知り合いの可能性は高いですね。お2人の話し合いの最中、姉さまは渋い顔で「肝さって?」と呟いていましたので、小さな声で教えると納得したかのように頷いていました


「どうせ芝居なら、公爵閣下にやってもらえばいいんじゃないすかね?葡萄侯爵嫡子様じゃ、禍根残しそうだし……」


なんて兄さま、爆弾発言


「確かに私が貴女を奪ったとしたら、あちらも葡萄栽培家、遺恨を残してしまいますね。貴女ももっと嫌な思いをするかもしれない、悩ましいところです……」


チラリと公爵閣下を見るも、またもやため息


「閣下が相手だともっと面倒くさい事になりそうです、別の意味で……えぇ、別・の・意味・で」

「そうだな、それはすごく困る」

「愛しの『梨の乙女』にとっとと求婚すればいいのに、とんだヘタレ公爵閣下ですね。人に話しかけさせておいて、いい感じに紹介しろってなんなんですかね。地位は公爵、王家の縁戚で、見目も麗し、頭もいい魔術師でしょう、有名人過ぎて皆知っていますよそれくらい」


そもそもすでに顔見知りではないですかと、呆れ顔で宣う葡萄侯爵嫡子様


公爵閣下は視線を彷徨わせながら、生まれは選べるものではないなんてブツブツ呟いていらっしゃった。どうやら葡萄侯爵嫡子様が話しかけていた『梨の乙女』様は公爵閣下の想い人のようで、縁を取りもって欲しく彼に頼んでいたらしい。そんな事を聞いて少しほっとしてしまった私……


でもだからと言って、ガツガツいくのは恥ずかしいのです。葡萄侯爵嫡子様に、ぜひお願いしますなんて


「もっといい人物を紹介しよう。私よりも高貴な方で、誰も文句がつけられない方を」

「だ、誰ですか?」


公爵様より高貴な方って、まさか国王陛下か?


「ぼく」


王太子殿下ですか!!




次の日の品評会。私は姉さんと共に苺の入った籠を持ちながら、王太子殿下と王女殿下に懐かれていた。王太子殿下は昨日の事を知っているので、側に居て下さっているのだが


「いちごだいすき!!わたくし、しょうらいはいちごのおとめになるの!!」


と元気に話して下さる王女殿下。残念ながら(?)王女殿下は『椿の淑女』のギフト持ちなので、その夢は残念ながらかなわないことでしょう。本物の『苺の乙女』である姉さまは、苦笑い中。私たちの新種の苺を殊の外気に入って下さって、こうやってお2人から懐かれている状態。恐れ多い事です


遠くから例の葡萄伯爵嫡子が、ジロジロこちらをうかがっているのが見えます


やっぱり、生理的に無理……。目を合わせない様、伏し目がちにしていると足音が聞こえてきました。まさか声をかけられるのでしょうか、びくびくしていると王太子殿下が声をあげた


「ぶどうの、こっちにこい。ごれいじょうをしょうかいしてやるから、ふらふらするな」

「これはこれは、王太子殿下からのご紹介ですか?名誉な事ですね」

「そろそろ、みをかためてはどうだ?こきょうへもどるのであろう?」

「はい、家業を継ぐ準備をしている所です」


礼を取ったのは、葡萄侯爵嫡子様。王太子殿下の計らいで、2人でお話をする事に。自然な流れで中庭へ行きベンチへと座る私たち……。まぁ2人きりと言っても、少し離れたところに姉さまと王太子殿下と王女殿下と爺やさんが、こちらをうかがっているのだけれども……。完全なる『やらせ』のお見合い開始です


「品評会と言っても、実際はお見合い会ですから。こういう紹介もあり得ます、ご安心を」

「そう、ですの?」

「はい。むしろ今回の品評会は、公爵閣下の意中の方との出会いの場として開催されたものなんです。完全な出来レースでして」


どうやら公爵閣下の想い人である『梨の乙女』は、新種の成分分析を閣下の研究農園に依頼しに来た時に、見初められたそうです。だから余計に、私が葡萄伯爵嫡子に目を付けられてしまったのを、不憫に思って下さったのでしょう


「夜の立食食事会にはお気を付けください。あちらに殿下方(こども)は参加できませんから、なにかしらのお誘いがあるかもしれません。私が迎えに行きますので、それまで爺やを派遣しましょう」

「……はい、何から何まで申し訳ありません」

「いえ、これも縁なのでしょう。貴女の様に穏やかで美しい人と知り合いになれるのは、誉ですよ」


手を取られふんわりと微笑んだ彼、やはりこの方だと嫌じゃない……。ほんの少し強く握りしめ、もう一度感謝の言葉を述べたのでした




こんな感じでしたので、すっかり油断していた私。葡萄侯爵嫡子様がいらっしゃるからと安心していたのですが……。夜の立食食事会は、柱の多いホールで開催された。壁際にある柱と柱の間にはソファーが配置され、ちょっとした商談や会話のできる歓談スペースとなっているのです


少し陰になっているので内緒話に最適な場所で、まずはここで様子を見ようと葡萄侯爵嫡子様とソファーに座っていると、無粋にも話しかけてきた男性が1人


「葡萄の買い付け……ですか?」

「えぇ、主人が試食品を殊の外気に入り、是非買い付けをしたいと仰せになりやってきた次第です。是非別室までご足労下さいませんか?」

「……無粋ですね、これから女性を口説こうとしているのに商談とは」

「主人は明日朝、町へと帰還いたしますのでその前にと」


話しかけてきた彼は、貴族の侍従と思われる壮年の男性。その侍従はかなり大口の契約数を葡萄侯爵嫡子様に提示してきた。正直びっくりするくらいの大口依頼、しかし葡萄侯爵嫡子様は不機嫌さを隠さず、さりげなく拒否なされようとしている


「葡萄侯爵嫡子様、私の事はお気になさらず。貴方様の葡萄が褒められているのです、それは栽培家としてとても喜ばしい事ですわ」

「今は貴女の側に居たいのに?」

「っ……、そのお気持ちだけで私は十分でございます。なので、そちらを優先してくださいませ」

「せめて姉上殿の所までお送りさせてください」


そう言い、姉さまの所へ足を踏み出そうとした。すると侍従が行く手を遮り、にっこりと笑顔でこう言った


「僭越ながら、私がお送りいたしましょう。わが主人は鶴の間にてお待ち申し上げております」

「一体どこのどなたなのか、常識を疑いますよ。私の美しい人、他にも常識外れの輩がまだいるかもしれません。お気を付けて」

「葡萄侯爵嫡子様も……」


そういって彼は懐から箱を出す


手のひら大の箱、一体どこにしまっていたのでしょうと疑問に思う。箱の中には薔薇の髪飾り。それは艶々の絹で作られていて、生花かと見間違えるような瑞々しい花弁、素晴らしい品に目を奪われた


「本当は後で渡すつもりだったのですが、商談がどれくらいかかるかわかりませんので、今贈らせて下さい」

「こんな素晴らしいものを、よろしいのですか?」

「もちろん、これは貴女にしか似合わない」


高く結われた薔薇色の髪に、彼自らがそれをつけてくれた。そのまま手の甲で頬を撫でられ、「また後で」と微笑んで彼は商談相手の居るらしい鶴の間とやらに足を向けたのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ