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王城到着から品評会会場へ

正直、あんな紳士な人に会ったのは初めてだったから……


でも、彼は葡萄栽培家の嫡子様。薔薇と葡萄は同じ病にかかり、薔薇の方が先に症状が出るのです。だから葡萄栽培家は、葡萄の為に薔薇を植えるらしいと


『薔薇の淑女』たる私は、薔薇栽培に祝福をもたらすことができる。しかし薔薇の罹る病は、私の罹る病でもあるのです。薔薇の元気がなくなれば、その『淑女』である私にも影響が出るのを両親は心配している


そんな両親を悲しませてまで、彼の事を知りたいなんて思わない


はずなのに……






王都へ着き、そのまま王城へと入城した私たち。早速開かれた品評会は、肉食系貴族の集まりだと脅されていたが、表面上はとても穏やかなものだった。むしろ自分の作物の売り込みの方が熱が入っているようだと思ったものです


まぁ、大体声をかけて下さるのは殿方ばかりですけれども。私と姉さまの苺は大粒でとても甘いので、ご令嬢方にもたくさん声をかけて頂いた。持ってきた分は王家への献上用と試食用だったので、売買契約書にサインをしていただき後で品を送るというシステムだそうです


そんな中、かの方を見つけた


私の胸は再会に高鳴ったが、彼は可愛らしい黄色のドレスに身を包んだご令嬢に声をかけていた。そして彼女の持っていた試食用の果実、おそらく梨を試食しそのまま売買契約書にサインしたようだった。しかし、サインした後もにこやかにそのご令嬢とお話されていて……


「気になるのであれば、話しかけてきたら?気を使って私たちの側に寄らないようにしてくれているけれども、来る者は拒まなそうよ彼」


その様子を見ながら、姉さまはそう勧めてくれましたが勇気の出ない私は


「でも、あの梨の方と楽しそうにおしゃべりなさっているわ……。お邪魔になってしまいますから……」

「お見合い大会なんだがら、もっとガツガツいけばいいのに……。あなたは淑女なのよ、乙女に負けてどうするの」

「淑女だとか乙女だとか、関係ないですわよ……。言い方が違うだけですから……」


花系のギフトだったから『淑女』と称されるだけで、果実の『乙女』となんら変わりないのです。しかし、果実系の栽培家だったら、同じ果実系の乙女の方があの方にお似合いなのかもしれない。私の初恋のような淡い想いは、いとも簡単に破れる事となるようです……




馬鹿みたい、勝手に落ち込んでいるなんて


お見合い会場(正しくは品評会)の先、広い中庭に小さな薔薇のアーチが配されていたのを見つけた。さすが王城、とても元気に手入れされていて誇り高く咲き誇っていた。姉さまに見に行きたいと言うと、仕方ないわねと苦笑い。葡萄の侯爵家嫡子様と梨の乙女から逃げるように、中庭へと足を踏み出しました


薔薇たちは私が落ち込んでいたのに気が付いたのか、香しい芳香で私を包んでくれる


「ふふ、ありがとう。慰めてくれているのね、お礼にあなたたちに祝福を……」

「お前は『薔薇の淑女』なのか?」

「!!」


急に声をかけてきた男は、彼と同じように高価な衣服に身を包んでいた。背は高く美男子だと思われる青年、しかしねっとりとした値踏みするような視線が気持ち悪い人。これが、姉さまの言っていた肉食系貴族という人なのだろうか


やだ、こういうの生理的に無理……


怖気づく私を気にかける様子もなく、自分本位に口を開く肉食系貴族


「ふぅん、てっきり『苺の乙女』かと思ったがこれは良い拾いものだ。苺で有名なところと言ったら、伯爵家か子爵家だな……。名を名乗ることを許そう、お前は誰だ?」

「あ、……王都より北へ3日、苺の町の町長家の娘……。爵位は子爵……でございます」

「俺は王都より西へ1日、葡萄(・・)の町の町長家の嫡子、爵位は伯爵だ。まずは一口、わが町のワインだ。……飲めるのだろう?」


まさかの葡萄栽培家2人目、グラスを持たされワインを注がれる。ニヤニヤしながら飲めと命令され、それを口に含んだ。……お酒は飲めるけれども、強引な方です


「我が町のワインは上級品で、そう簡単に口には出来ない代物だ。子爵家ごときではボトルでさえも見たことはないだろう?どうだ?」

「……はい、甘くて飲みやすいと思います」

「お前ごときに味がわかるのか、『薔薇の淑女』。果実の乙女でもないのに、ククク」


何、この人。果実の乙女だろうが花の淑女だろうが、味覚には関係ないじゃないのよ。イラッとしながらも、最後まで飲み干す。本当に甘いワイン、まるでジュース。女だと思って甘口を用意したのかしらね?


「『薔薇の淑女』、お前に役割をやろう。役割を与えられるのは《3の国》の人間として、最高の誉れだろう?……最終日の晩餐ではエスコートをしてやる、光栄だと思え」


何言ってるのこの人?最終日の晩餐会のパートナーだなんて、婚約と同じじゃないの。あまりの傲慢さに気分が悪くなってく目の前が歪んでいくよう。葡萄の伯爵嫡子は私の側にゆっくりと近寄り、手を伸ばしてきた。情けない事に気持ち悪さに足が震えて、避ける事も逃げ出すこともできない


どうしよう、どうしたらいいの?


絶望的な状況の中、まさかの光が


「ごれいじょう、さきほどいちごをもっていたごれいじょうですか?」


薔薇のアーチの側の茂みから、小さくも気品あふれる男の子がにょっきり出てきて、私に話しかけてきた。葡萄伯爵嫡子の前に躍り出て、私のドレスをちょんちょんと引っ張り更に言葉を紡ぐ


「ぼくにいちごをうってくれないかい、ごれいじょう。いもうとが、いちごがだいすきなのだ」

「……何だこの子供?」


葡萄伯爵嫡子は急に出てきた少年に、胡散臭げな視線を向ける。私はこれ幸いと、少年の話にのった


「わが町の苺をご所望ですか、貴き方。試食程度であれば、すぐご用意できますが」

「いもうとにあげるのだ。でもいもうとはまだちいさいから、そんなにたべられないかもしれない……。だれかにそうだんするので、しばしまて」


少年はくるりくるりと回りながら、声高らかに何かを告げる。……もしかして魔法なのだろうか、空を指さし「きたれ、血縁の大人。暇そうなやつ!!」と叫ぶ。呪文にしても、かなりひどい言い草


でも、そんな適当な(?)呪文でも目的の人物はやって来た。少年の血縁と思われる大人が、中庭に面するバルコニーから落下してきたのでした。茂みの上に落下したため多少は衝撃を吸収したようで、背中をさすりながら立ち上がり少年を怒ります


「いってぇ、馬鹿者!!引っ張る魔法なんか使うな!!」

「いちごをかいたい、どのくらいのりょうがてきりょうか?」

「偉そうに言いやがって、……いや偉いんだけどさ。俺、君の魔術の師匠だよね?少しは敬ってくれよ……。で、苺の買い付けをしたいのか?どちらの方が苺の方なんだい?」


血縁と思われる大人さんは、私と葡萄伯爵嫡子を交互に見て、私の方だとわかったようです。まぁ、葡萄伯爵嫡子はワインのボトルを持っていますからね、ボトルを持参しているなんて、売り込みかよっぽどの酔っ払いのどちらかですよね


落下してきた青年は、すっと姿勢を正し話しかけてきた


「突然申し訳ない。私は王都より北へ四半日、研究農場の主。爵位は公爵です。不肖の弟子が迷惑をかけ申し訳ない、いまどのくらいの苺を用意できますか?ご確認していただければ幸いです」

「……は、はい公爵閣下。早速確認いたしましょう、どちらへ伺えばよろしいでしょうか」

「あ~、お子ちゃまが面倒なので、一緒に行きましょう。葡萄伯爵嫡子、話の腰を折ってしまって申し訳ないが、王太子殿下(・・・・・)の仰せだ。ご令嬢はいただいていくよ」


葡萄伯爵嫡子は不機嫌な顔を隠しもせずに、ただ「御意」とだけ言った。どうやら公爵閣下は私たちの微妙な空気を読んで、彼から引き離してくれたのだろう。これでエスコートの話は無かった事に……なりますでしょうかね……。あのねっとりとした熱くて冷たい視線、これで諦めてくれなさそうな嫌な予感がひしひしとします。

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