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流通中継地点村から王都へ

泥だらけのまま自分の馬車に乗り込んで、共に王都へ目指すこととなった


早い話が、道が狭くてわが荷馬車を追い越せなかっただけの話なんですけれどもね




そんなこんなで宿泊予定の村に到着


ここは町と町との間にある流通を司る大事な中継地点村。『村長』と呼ばれる男爵位を賜る貴族が運営している、宿泊施設や大きな倉庫があるところです。ザ農民という私たち栽培家が治める町とはちょっと雰囲気の違う領地となっています


主な仕事は配達や荷物の管理、旅行者の休憩所運営などなど。私たちの大切な苺も、荷馬車ごと倉庫へと搬入し、預かってもらえるのです。倉庫は巨大な魔法装置となっているので、品質を損なうこともないので安心です




さて、恩人である青年の元に、ちゃんとお礼をしなければと姉さまと兄さまと共にご挨拶。宿泊施設のロビーで改めてお礼を言う事にしました


「先ほどはお助けいただき、誠にありがとうございます。この場は私にお支払いさせて下さいませ。そしてご迷惑でなければ、わが町の苺を召し上がって下されば幸いでございます」

「あぁ、苺の方でしたか。ぜひ味見をさせて下さい。今回の品評会では研究の為に、多くの果物やスパイスを購入しようと思っていたのです、うれしいなぁ」


彼は朗らかな笑顔でそう答えたのだが、横からサッと彼の爺やが進言する


「坊ちゃま、その前にまずは身だしなみを整えましょうぞ。ご令嬢の前でそのような身なりでは、失礼でございましょう」

「そうだな、さすがにこのままではね。……では夕食をご一緒しませんか?爺や、夕食の手配を」

「御意」


確かにドロッドロのままでは、食事も何もないでしょう。私たちも身だしなみを整え夕食までの時間を、これからについての作戦会議にあてたのでした


「あの方、研究って言っていましたわね」

「学者さんということは魔術師なのかもしれないわ。乗っていた馬車も高級品だったし~、何かを載せている感じもなかったから葡萄関係者ではないのかも?でも、荷物だけ先に先行させた可能性もあり」


現在のわが国での優秀な魔術師さまと言えば、守護女神様であらせられる、王冠の女神様の下位神に当たる『愛と豊穣の神』の大神官様が有名。『神官』の称号は女性聖職者のものなので、大神官様は女性です。ちなみに男性聖職者の称号は『司祭』となっています。これはただ単に呼び名が違うだけなんですよ


次に有名と言えば公爵閣下でしょうか、こちらは男性です。公爵閣下は王都と隣接する領地を賜る方なので、このような場所にいるわけがない、多分。後は王太子様、しかしまだ少年なので年齢が合いません、そもそもこのような場所には以下略です


「少し葡萄の香りがしましたわ、姉さま……」

「そうだったかしら?どちらかと言えば、スパイス系の香りがしたと思ったのだけれども……、なんなのかしら。これは夕食の時に詳しい話を聞きだして、葡萄関係者だったら、さりげなく逃げましょう」


どうやって逃げるのかはわかりませんが、葡萄栽培家の方だったら……。しかし、己の事を気にせず泥だらけになってまで助けて下さったその心に、私は……


「下心アリアリで助けたのかもしれねぇぞ、うちの妹たちは可愛いからなぁ」

「兄さん、そんな下種な心持でよく『神殿騎士』やってられますわね」

「仕方ないだろう、独り身の貴族男性が俺だけしかいないんだから。本家のにぃちゃんは結婚しちまったし……、嫁さんの腹ん中の子が男の子だったら俺もお役御免なんだけどな!!」


ちなみに本家のにぃちゃんとは、私の実兄の事ですよ


「兄さま姉さま、喧嘩はおやめになって。『神殿騎士』はただの独身貴族男性の称号ですから、少なくてもわが町では何の役割もないですし」

「一応、大使的な仕事をしているんだけど……。酷い、妹たちがいじめる……」


そんな感じで兄さまがしおれてしまっていると、かの方の爺やさんが部屋へとやってきました。宿屋の一階にある食事処に用意させていただきましたと、爺やさんは言う


「さすがに先程知り合ったばかりの妙齢の男女が、個室で食べるのはどうかと思いまして普通席にしましたが、変更も可能でございます。いかがいたしましょうか、お嬢様方」

「普通席で構いませんわ、お気遣いありがとうございます」

「では、こちらへ」


先導してもらった先には、かの方がニコニコと待っていた。爺やさんは姉さまの、彼は私の椅子を引いてくれ、初めて令嬢っぽい体験をさせていただきました。……やはりこの方、かなり高貴な方なんだろうなと姉さまに目配せしたのでした


「学者もどきと言うところでしょうか。魔力は一般人より少し多いだけで、結局『聖別』と『状態保存』と『遠耳』の魔法しか使えませんでした。『聖別』は研究開発には欠かせない魔法という事で、公爵閣下の研究農場で働かせていただいていました」

「まぁ、公爵閣下の。閣下は大神官様に次ぐ偉大な魔術師だとお聞きしています、その研究農場で働いていたのですから、とても優秀なのですね」

「そんなことはありません、学び舎の同期が縁で働かせていただいていたのです。そろそろ実家に戻ろうと思っていまして、研究道具なんかを実家に運んでいる最中だったんですよ。そうしたら今度は王城へ品評会だと呼び出されて、あわてて王城へととって返した所なんです」


わが国唯一の公爵家当主様は『接触分析』と言うギフトの持ち主で、品種改良や新種の成分調査を行っている魔術師兼学者様なのです。王都に隣接する公爵様の領地は研究農場として、多くの学者様が日々研究なさっていると聞きます。コネとはいえ、そのような場所で働いていた彼はやはり優秀な方なのでしょう


高貴で優しく優秀、ちょっと出来すぎな感が否めない人です


「あぁ、紹介が遅れましたね。私は王都から北へ8日、葡萄(・・)の町の町長家の嫡子、わが家は侯爵位を賜っています」

「え?」

「ぶどッ?」


さらりと言われて、私と姉さまは一気に顔が引きつる。しかし、両親が忌避しまくっていた葡萄栽培家は、たしか伯爵位持ちだと言っていたはず。彼はなんと言った?


「こ、……侯爵家の方です……かッ?」

「……あ、もしかしてご令嬢は『薔薇の淑女』のギフト持ちですか?」


あっさりばれた、どうしましょう姉さまッ!!


姉さまを見ると、意外と落ち着いて食事を進めていた。……いえ、動揺を隠しているようでわずかに手が震えている。先程、ついとばかりに「ぶどッ」なんて言ってしまった姉さま、平静を装っているようですね。ちなみに兄さまは動揺もせず、普通に食事を進めていた。兄さまの場合、空腹を満たす方が優先なのね……堂々としたものです


動揺する私と姉さまに、侯爵家嫡子様は困った顔で謝ってくれた


「すいません、怖がらせてしまいましたね……。安心できるかわかりませんが、わが町では葡萄の為に薔薇を植えてはいません。わが町は勤勉な職人たちと『葡萄の騎士』が多く住んでいますので、その様な事はしなくていいのです。しかし不快に思った事でしょう、折角お知り合いになれましたが、私たちはここでお別れする方がいいようです」


せめて食事だけは楽しみましょうと、進めて下さったが食事が喉を通りません……。心持ち急いで食事を終了し、嫡子様は苦笑いをしながら席を立つ


「あ、苺は売って下さい。とても大粒で薫り高いですね、果実漬け葡萄酒の研究に使いたいのです」


そう言って彼は従者たちと共に、すぐに宿を発って行ってしまいました




「……なんだかムカつくくらい紳士な人だったわねぇ。立つ鳥、跡を濁さず的な?どうせ王城で再会するんだから、今はひとまず引いたとも考えられるけれど……」

「夜に馬車を走らせるなんて、ぬかるみにはまったりしないかしら。夜が明けてからでよかったのに……」

「頭の回転も速いし、空気も読んでいたわね。あなたに嫌な思いをさせたくなかったのか、関わりたくなかったのか。……まぁ、あの様子じゃ前者ね。無理に嫁にしたいとは思わなかったみたい」

「……えぇ、お優しい方でした」

「いやいや、それが作戦なのかもしれないわ!!」

「姉さま……、穿ち過ぎではありませんか?」


すっかりしおれてしまった私に、兄さまと姉さまは呆れたように言います


「…………なに~、もう惚れちゃったの?」

「ちょろすぎるぞ、妹よ……」

「えぇッ!?な、なんで、惚、惚れてなんかッ」


どうせ王城で再会できるわよ、その時までにどうしたいか考えなさいと姉さまは言った。

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