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苺の町から王都へ

『《3の国》の葡萄の乙女と神殿騎士様のお話・なろう版』の過去話。ムーン版の改稿版の設定を使用していますので、微妙に設定が違う場合があります。ご了承ください。

近くて遠い4つの世界のお話


世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水

天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し

波紋は大地となった


波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて

それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している


これはそんな世界の《3の国》の話





忠誠と深秘の国、王を頂点とした国

王族・貴族・騎士・魔法使い・神官・庶民が生きる国


《3の国》といっても、さらにいくつかの国に分かれていて、そのなかでも順位になどこだわらず、のんびりとした国が私の住む国。農業大国と言われ、国民総農民といわれるわが国の苺栽培家に生まれた私は……


王城の公爵閣下の私室にて、初めて会ってから、まだ数日しか経っていない愛しい人に処女を捧げていた


あ、ちなみにお相手は部屋の主である公爵閣下ではありません。ここははっきりさせておかないといけませんわよね


話をもどして、どうしてこうなったかと言うと、それは私が王冠の女神様から賜った魔法属性に関係するのでした




私は王都から馬車で3日ほど離れた土地を管理する町長家に生まれ、爵位は子爵を賜っています。他国の方からはそれは領主ではないかと言われますが、わが国では侯・伯・子・男爵家は一律(?)町長家と呼ばれるのです


わが町では主として苺を栽培する『苺の町』、残念ながら私は家業の苺栽培に祝福を願える『苺の乙女』と呼ばれる魔法属性、いわゆる『守護女神のギフト』を賜ることは出来ませんでした


私が賜ったギフトは『薔薇の淑女』と呼ばれる魔法属性、薔薇栽培に祝福を願えるギフトなのです。まぁ苺もバラ科の植物ですからね……、一概に見当違いのギフトという訳ではありません


趣味程度に薔薇栽培をしていますが、私の最も得意とするものは生花をそのまま装飾品に加工する技術。兄が爵位を継ぐので、私はいずれどこかに嫁に出されるのではないかと思っていました。しかしわが町の近くには花栽培家が無く、一人娘である私をわざわざ遠方へ嫁がせるのも嫌だと両親が駄々を捏ね、微妙に婚期を逃しつつある今日この頃


「今度、王城で品評会があるから、多分年頃のあなたは招待されるわよ?」


ある日、従姉がそう教えてくれた。王城の品評会とは、自慢の農作物を王族の方々にお披露目し、有力貴族に売り込む会。各地から町の代表たちが自慢の農作物を持ち寄り、大試食会を開催するとの事


ちょうどわが町でも新種の苺をお披露目したいと思っていたので、参加してもいいかなと思っていたのですが


「まぁ、品評会って言っても、早い話が盛大なお見合い会なのよねぇ……」

「え、姉さま、それは一体?」


とても聞き捨てならない事を言う姉さま、焦ったような私の顔を見て、知らなかったの?と説明してくださったのです


「妙齢の貴族を集めて、王家主催の盛大なお見合い会。もちろん、かならず伴侶を選ばなければいけない訳ではないけれどね。でも高位の方と縁付く機会ってそうそう無いでしょう?出会いの機会を増やして、交流しようっていうのが真の目的。肉食系貴族が来るから、ヤられないように気を付けなさいよ~」


あなた可愛いから、油断しているとパクリよなんて言う姉さま


「なッ!!い、嫌ですわ、そんな集まりに参加するのは!!」

「王家主催よ、招待状がきたら断れないわよ?そして妙齢のあなたには必ず来るわ、断言しましょう」


姉さまはニヤリと悪い笑顔で断言したのですが、当の姉さまだって妙齢の女性なのに……。そして数日後、当然の様に品評会の招待状が届いてしまったのでした……


まぁ、必ず結婚しなければいけないという訳ではないので、私は苺の販売のみの為に行くことに決めました。えぇ、苺しか売らないわよ!!そう意気込んで、品評会へ持参する苺の選定に入ります。どの苺だってわが町の職人たちが大切に育てた可愛い子たちですが、特に美人さん達を連れていくことにしますよ


ちなみに姉さまも一緒に行ってくれるとの事。姉さまは『苺の乙女』のギフト持ちだから、町から出すことはない人なので、純粋(?)に苺販売と私の監視に精を出すそうです


そして出発当日。王都まで馬車で3日かかるので早めに出発。父と母は泣きながら見送りをしてくれます、泣く程心配してくれなくても。さすがに高貴な方々の集まりだし、無理矢理手籠めコースにはならないと思うのだけれども。それでも心配な父は、泣きながら私を諭します


「いいかい、娘よ。あまり遠くの土地付男は駄目だし、一番気を付けなくてはいけないのは葡萄栽培家だからな!!」


母も泣きながら話を続けました


「特に気を付けなくてはいけないのは、王都近くの葡萄栽培家よ。あそこは伯爵位を持っているから、わが子爵家よりも力が強いわ。決して『薔薇の淑女』だとばれてはいけないわよ、苺を持っていれば勝手に『苺の乙女』だと誤解するからね。あなたからは絶対喋っては駄目よ?」

「そう、嘘だけは付いてはいけない。揚げ足を取られるからな。嘘吐いたから責任取れとか言われたら、子爵位のわれらには太刀打ちできないからな!!」

「そこ以外にも葡萄を売り込んでいる人には気を付けなさいね。お見合い大会ですもの、男から名乗るべきですわ。ツンとすましていなさいな」


確かにあまり社交などした事ないけれども、そこまで言われるほど私は危うく見えるのだろうか?とにかく自分からは名乗らず、葡萄をにおわす殿方からは距離を取ればいいのね


「わかりましたわ、お父様お母様。ギフトの事は言わずに、大口の買い付けをもぎ取って帰ってまいりますわ」

「買い付けなんかいいから、純潔だけはッ!!」

「もし捧げるのであれば、高貴で葡萄とは無関係の良い人を選ぶのよ!!」

「……イッテキマスワ」


両親は何度も何度も葡萄栽培家だけは気を付けろと叫び、はいはいと生返事をしながら王都へと出発したのでした






「妹たちよ……」

「見事に車輪がハマったわね……、兄さんのド下手くそ」

「ここでぼ~っとしていても解決するわけでもなし、馬車を押しましょう」


どうやら通り雨でもあったのか、荷馬車の車輪はぬかるみにつっこみ立ち往生


現在ここにいるのは護衛代わりの御者を務める従兄、姉さまの実兄と姉さまと私、力の限り荷馬車を押しても動くわけない。状態保存の魔法をかけた苺は、多少の振動には耐えられるので心配ないが、このままでは遅刻してしまうかもしれない


お見合いはどうでもいいが、苺が……そう思っていた時に


「車輪がはまってしまったのですか?」


そう声をかけてきた青年がいた


振り向くと立派な馬車が後ろに停車していた。御者席に御者と共に座っていた青年は、高価そうな身なりの人で私たちと同じく王都へ向かっていたと言う。道が狭いせいでぬかるみにはまって、立ち往生する私たちの荷馬車が邪魔で、あちらの馬車まで立ち往生してしまったのでした


本当に申し訳ないです


「この辺りは領地の境目で、道の整備が良くない所なんです。このような事が無い様、上に報告しましょう。まぁそれよりも今は……爺や、御者、馬車を押すぞ」

「はい坊ちゃま」

「了解っす」


そんな風に笑って荷馬車を押してくれたのでした。ぬかるんだ泥道だった所為で、彼等はびっちょびちょの泥だらけになりながら押してくださって、九死に一生を得たのでした。え、言い過ぎかしら?




この方が後に愛を捧げる人、その運命的な出会いの場面なのでした。え。、やっぱり言い過ぎでしょうか?

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