木々の狭間
お久しぶりです。
もっと表現力が欲しい!と思う今日この頃。
「んっ、もう朝かー」
一度大きく背伸びをする。今日は確か日直だったはずだ。そのためいつもより早く家を出る必要がある。
「じゃ、行くか」
自分自身に気合を入れるかのようにひとことつぶやいてから支度を始める。
丁度上着を羽織った所で階下から大きな声がかかった。
「楓~、ご飯が出来たわよ!速く降りてきなさいよ!!
今日は透ちゃん迎えに来ないんだからね!!」
「わかってるって、今行く!」
大声で返事をして、階段を下りる。
近所ということもあり透とはいつものように登下校を供にするが、今日は楓が日直で朝早いため別べつに行くこととなったのだ。
(けどあいつ別々に登校するの嫌がってたよな。
もう俺もでかいんだから大丈夫だっつってんのに・・・)
その時の真剣な、むしろ泣きそうでさえあった透の顔を思い出す。
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「本当に、一人で大丈夫なのか?」
いつもの調子はなく、小さくぼそぼそと話す透に楓は笑った。
「そんな心配すんなよ!俺もう17歳だぜ?それに男だし。
だいたい、透は心配性すぎなんだって!!」
そう言って、透の肩に手をのせる。その肩は少し震えていた。
「・・・・・・なんだよ」
「えっ?」
肩に乗せていた手を思いっきりはたかれる。予想していなかった透の反応にたたらを踏んだ。
「なにも覚えてないくせに、そんなこと言ってんなよ!!!
あの時、おれは死ぬほど後悔したんだ。お前を一人にした事・・・・・・。
お前が誘拐されていた二ヵ月間、おれは生きた心地がしなかった。
そんな気持ちが、お前にわかんのかよ!!!!!」
「透。ーーーご、ごめん、俺そんなつもりじゃ・・・」
「いいよ、今日はもう帰るわ。
明日のことはわかったから、一人で行きたきゃ勝手に行けよ」
「・・・・・・・」
さっさと踵を返して去っていく透に対し、楓はどんな言葉をかけていいのかいつまでもわからずにいた。
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俺は当時の事は全く覚えてないけど、確かに透にとってはつらい過去だよな。
なにせ、一緒に遊んでて少し目を離したときに俺だけいなくなってたんだから、そりゃトラウマにもなるよな。
あんなに怒った透久々に見たし、今日学校いきたくねぇーなー。
そんな事を考えながらトーストを咀嚼していると、
「いつまで口の中に持ってんの、速く食べなさい!!」とまた母の叱責がとぶこととなってしまった。
ふとテレビを見ると「今日の星座占い」という天気のニュースおわりに流れているもの(いつも見ている)が始まっていて、かに座は最下位だった。
「ごめんなさい、今日の最下位はかに座の君!特に対人関係には注意が必要な一日になりそう。
でも大丈夫、そんな君のラッキーアイテムはピンクのハンカチ!ポケットにしのばせておこう!!」
俺、今日終わったわーーー。
俺ピンクのハンカチとか持ってないし、それ以前に持ち歩く度胸無い。
余計に学校へ行く気がそがれた楓だった。
それでも、学校へは行かなければならないわけで、母に急かされるように玄関の戸を開けた。
楓の家のすぐ傍には、通りに面していくつもの木々が植えられている。夏前という季節的にも樹の葉が生い茂っており、眩しいほどの太陽とは裏腹に樹の周りには深い影が落とされていた。
ーー家の前に誰か立ってる?
しかし、樹で出来た影が邪魔をして誰なのか判別することはできない。
ふと、先ほども考えていた昨日のことが脳裏によみがえる。
あれだけのケンカはしていても、もしかしたら迎えに来てくれたのかもしれない。
影が小さく手を振るのが見えた。
やっぱりーー!
「----透?透!!!」
走り出す。透と喧嘩別れはしていても、やっぱり昔からの付き合いなだけあり姿を見ると嬉しくなる。
一気に駆け寄る。足取りは軽かった。
近付くに連れて、影が薄れて相手の輪郭が正確にうつし出されていく。
「ーー・・・っ」
急ブレーキをかける。体がまるで自分のものじゃなくなってしまったかのように動けなくなる。
(と、透じゃない・・・?)
影の中から姿を現したのは・・・。
ーーーーーーガシっ。
手首を握られる。その力は細身な見かけからは想像もできないほど、強いものだった。
「そんなに僕に会いたかったの?秋山くん」
「お前っ、佐久真!なんでこんな所いんだよ!」
手を振りほどこうと腕を激しく振るが、佐久真は握る力を強め余計に離れなくなる。
「僕が秋山くんの家の前にいるのが、そんなにおかしい?」
「おっかしいだろ!なんでお前俺の家知ってんだよ!
俺、一回もお前に住所教えたことないよな!?」
「・・・・そうだっけ?」
「とぼけんな!
ーーだいたい、今の間はなんだ。絶対あやしいだろ!!」
はぁ、こいつといると疲れるから嫌だ・・・。調子狂う。
結局、透とはケンカしたままだし、朝からこんなヤバイやつに会うし、踏んだり地蹴ったりだ。
「そろそろ手、話せよ」
「ああ、ごめんね。ずっと握ったままだったね」
手首にしがみついて離れなかった手があっさりと離される。
うわっ・・・・。
手形がはっきりと残っていた。
どれだけ強く握ってたのか今更ながら思い、意識すると少し痛くなってきたように楓は感じた。
まるで、呪いのようだ・・・・・。
出てきた言葉が、まるで真実かのように心に染み込んでいった。
木々とともに影が揺れる。
ただ、あいつの影はそこに留まったまま俺を繋ぎ止めていたーー。
どうだったでしょうか?
面白いと思って頂けてればよいのですが・・・。
精進せねば!