暁の歩み
犬吉杯に出そうと思ったけど、間に合わなかったものです。
よろしければどうぞ。
「はぁ!? こんな奴が忍者!? 冗談じゃねぇ」
目の前の俺に向かってそう叫ぶ、見目の良い金髪の少年。蒼い瞳がギロリと睨みつけてくる。別に怖くもなんともないけど。
さて、ここで質問です。
皆さんは「お前が忍者? ありえねぇー」と言われた経験はありますか?
ねぇよなぁー!ってか、あったら逆に俺がびっくりするわ。
という俺だって、この世界にくるまではなかった。
……そう。この世界に来るまでは。
少し前。どんくらいだか忘れたけど、少し前。
俺は、この世界に“忍者の末裔”として召喚された。
なんでも、この国を作る前。
この世界に魔王が現れ、混沌の危機に陥ってた時に現れたのが、地球在住の暁さん。
言葉の通じない彼は、何故か唯一通じる「忍者」と「暁」だけを名乗ったそうだ。
その暁さんは、時には背後から、時には遠くから怪物を倒し、ついには魔王まで倒したそうだ。
そして、その時に一緒に行動していた人を王様にして国を建て、どこかへ消えたとのこと。
世界中、どこを探しても暁さんはいない。
この世界の人々は、それを「暁様が使命を終えられて自らの惑星へ帰られたのだ」と解釈した。
そして、暁さんの栄誉を称え、おとぎ話にした。
そして、暁さんが現れた時代から何百年と時が経った頃。つまり今だ。
新たな魔王が現れたらしい。
そのため、この国のお偉いさん方は忍者の末裔を召喚しようってことになったらしい。
で、召喚されたのが、忍者の末裔と現在疑われている俺こと「暁 昇」
ただ、今の俺は平和ボケした日本で暮らしてたから、すっごい弱い。それを知ってるのは、俺を召喚したときにその場にいた神官と、精霊の加護ってのがあって俺と唯一会話できる王子サマだけだけど。
そんなわけで、闇討ちで殺されないように強くなるのと、地位や名誉じゃなく、俺自身を信頼してくれる人を探すって意味で、魔王退治と称して旅をしている。
まあ、旅に出たばっかだけど。
まずは、小さいことからコツコツと。ってことで、なんか困ってる事があるらしい貴族さんに話を聞いてる最中だったんだけど……。
どうやらこいつ、俺の名声だけを信じて依頼してきたらしい。
文句つけんなら、忍者の末裔ってだけで依頼してくんなよ。そもそも、忍者の末裔かどうかなんて、俺ですらわかんねぇのに。
「といっても、もう依頼受けちゃったから、今からキャンセルしたらこっちが罰を受けないといけないし、そもそも忍者限定にしたのはお宅でしょ?それなら、文句言われてもこっちが困るんですけど」
そういって文句を吐くのは、毒舌鬼畜眼鏡……違った。我がパーティの保護者、魔法使い。名前は知らん。ちなみに、眼鏡はかけてないけど、鬼畜は眼鏡っていう俺の中の偏見で心の中ではこう呼んでいる。
眼鏡の言葉と冷たい視線に怯んだ貴族は、「うっ!……」と声を上げ、顔を俯かせた。
……なんか、俺たちが貴族の少年をいじめてるようにしか見えないんだけど……。……巻き込まれたくないから、帰っていい?
足を反転させ、そろりそろりと移動すると、腕をガシッとつかまれた。
「まぁまぁ。そういわずに。俺たちがその依頼された化け物を倒せばいいんだろ?」
「な?」と微笑みながら貴族の少年の頭を撫でる青年……いや、おっさんでいいか。おっさんは、俺たちの大黒柱、兵士。ガタイはいいってわけじゃなく、魔法使いと比べると普通。むしろ地味。しかし、背がすっげぇ高い。あと、子供に好かれる。
しかし、結構な苦労人で、苦労を少しでも無くすために誰かの気配察知とか、そういう技術が身についたらしい。俺よりも忍者に似合ってると思うよ。だから代わって。
まぁ、その気配察知のおかげかせいか、俺は今腕をつかまれてるんだけど。しかも腕いてぇ。
ギリギリと俺の腕が軋む。どんだけ力入れてんだこのおっさん。いや、この人20代だけどさ。
その間にも、貴族のガキに微笑みながら頭を撫でるのを忘れない。器用な奴だなぁー……。
このままいくと、俺の腕が折れそうで怖いから、さっきの位置に戻る。すると、掴む力を緩めてくれた。……離してくれないんだ。いや、まぁ、城で何十回も脱走してれば当たり前か。
「……ああ。別に、お前たちが倒せるなら、それで構わない……」
そういいつつも、頬を緩める貴族のガキ。あのおっさん、子供の扱い慣れてんだよなー。孤児院出身とかなんたらって言ってたな。だからか?
だが、そんな子供に好かれるおっさんでも、絶対に懐いてくれない子がいる。
「…………ゅ……」
小さい声で何かを言った少女……いや、幼女こそ、この集団唯一の女子である召喚術師だ。
五歳くらいの子だが、これでも召喚術のスペシャリストらしく、俺も前に一回見せてもらったが、召喚したドラゴンの迫力ったらハンパなかった。ついでにそのドラゴンの破壊力もハンパなかった。
ただ、滅多にしゃべらず、しゃべっても単語になることの方が少ない。さらには、自分が好きな人物が自分の傍から了承なくいなくなると、「どこ」をずっと連呼して般若の形相で大量の強大な怪物を召喚して、破壊の限りを尽くすらしい。まあ、今の所一人しかいないらしいから、いいみたいだけど。
「ん? どうしたの? もうちょっとで終わるから、待っててね」
「…………ぅ……」
その幼女を諌めた少年が、幼女に懐かれている唯一の人物。役職は、普通の一般兵。
童顔で背が小さいくらいしか特徴のない、普通の少年。あと、黒髪黒目っていうのも珍しいか。黒髪黒目が多い地方から出てきた田舎者とのこと。
別に得意能力も何もないが、この幼女に好かれてしまったため、お偉いさん方が渋々入れたらしい。それなら幼女を入れんなといいたいが、それで俺の生存確率やらが上がるなら、しょうがないやとも思っていたりする。
とか思っているうちに、話し合いは終わったらしい。
結局、いかなきゃならないはめになるんだろうけど、僅かな期待をのせ、耳を傾ける。
「じゃあ、化け物退治は予定通り我々に頼むが、忍者様が信じられないので、自分もついていく……ということでよろしいですね?」
「ああ」
やっぱ行くのか。というか、こいつもついてくんの?明らかに俺に突っかかってくんのが見え見えなんだけど。今も俺に敵意バンバン寄越して来るしさ。めんど……。
「忍者様も、それでよろしいですか?」
俺にも聞くのかよ。もう完全に行く気満々のくせに。怪物退治した後、証拠の頭以外のものがどれくらい売れるかとか考えてるくせに。
かといって、ここで俺が返事をしないと、ずっとここに居続けることになるから、見た目的には普通に、中身的には面倒そうに頷きを返した。
というか、言葉の意味はわかるけどしゃべれない俺に聞くなっての。……いや、まぁ、王子サマがバレたら殺されるかもとかいうから、明かしてないのも確かなんだけど。
俺の頷きに魔法使いは小さく頷いてから、「じゃあ、内容確認を」と言って、依頼書を取り出した。
そして、読み始めた。
「怪物退治 ランク:C+
場所:王都郊外のランクリッド家所有地、バテリアの森
怪物種:No.61 タローン
依頼完了条件:タローンの群れ掃討、またはタローンリーダーの首を持ち帰る
必須条件:忍者パーティ限定、依頼主.テトラ・ランクリッドを連れて行く」
「以上で構いませんか?」といった魔法使いに、貴族のガキは頷いた。おっさんの手を握りながら。
こいつ、マジでついてくんのかよ。めんどぉー…。
そんなことを思いながら、俺は明日に備えるために宿への道のりを辿った。
まさかあんなことになろうとは露知らず……。ってか、タローンってなんだよ。
***
「う、うわぁぁぁぁぁぁああああ!!」
突然の叫び声に、俺たちは取り乱すことなく……いや、兵士の少年だけ肩をビクッと震わせてから、振り向いた。
木から長く長く伸び、貴族のガキの足に絡みつく緑の細長いもの。
何か甘い匂いがする液体でベトベトの貴族のガキ。
それに引き寄せられるように怪物たちが集まってくる。
……またか。と俺たちは頭を抱えた。
俺と魔法使いは露骨に嫌そうな顔をしながら、他三人は憐み、苦笑、無表情で貴族のガキに近づいていく。
魔法使いが魔法で怪物たちを倒し、おっさんが緑の細長いつたを切る。
おっさんに抱えられて降ろされた貴族のガキは、感謝の一言もなく、「ふんっ」とそっぽを向いてから一人で歩き始めた。
……その時が、俺の、いや、俺と魔法使いの限界だった。
ブツリと何かが切れる音と共に、魔法使いが何かを唱える。
それが終わるとともに出現した透明にも近い蔦のようなものを使い、貴族のガキを手元まで引き寄せ、俺は腰にある短剣に手をかけ、引き抜いた。
短剣を胸の位置まで掲げ、切っ先を上にしていると、その真上に貴族のガキが引っ張られた。
脅すかのように魔法使いが、少しだけ蔦を揺らす。
切っ先が顎に僅かに触れ、そこからプツンと小さな穴ができ、血が少しだけ出てきた。
貴族のガキは、それを感じ取ったのか、小さく怯えの声を漏らした。
「どれだけ我儘言えば気が済むんですか? ここはあなたの家のように、あなたを敬ってはくれません。守ってはくれません。むしろ殺しに来ます。そんなところで勝手に行動されて、困るのは守れなかった私たちです。困らせたいなら困らせればいい。代わりに、死ぬことになりますが」
「おわかりですか?」と、いい笑顔で魔法使いは言葉を締めた。
貴族のガキは、その笑顔を、その言葉を受けても、俺の短剣が顎から離れても、頷くことはなかった。
目に涙をいっぱいにためて、今にも泣きそうなのに強がる貴族のガキ。それに黒い笑顔を浮かべる魔法使い。(たぶん)無表情で何するかわかんない俺。三つ巴状態の俺たちに声がかかった。
「おいお前ら、その辺にしといたらどうだ?」
「グレース……。……わかりました。今回はひきましょう。ですが、次あのように勝手に行動したら、依頼妨害でギルド本部に通達いたします」
おっさんの呆れたような、同情のような声がかかり、その声に諦めた魔法使いは、魔法を解いた。ってか、グレースって名前なのか。初めて知った。覚える気ないけど。
なんとか解放された貴族のガキは、おっさんに駆け寄った。
おっさんが貴族のガキの頭を優しく撫でる。それに安堵したのか、貴族のガキは声を押し殺しながら泣いていた。
「ロイドと忍者様が怖くて、悪かったなぁ」
そういわれた貴族のガキは、ふてくされた様にそっぽを向き、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
だが、次のおっさんの一言で、貴族のガキの表情は、凍りついた。
「でも、お前もいけないことをしたんだぞ」
さらに俯き、まるで反省したような貴族のガキに、呆れたように、しょうがないなぁとでもいう様に頭を撫でるおっさん。
そのおっさんの手を、貴族のガキは突然振り払った。
そして、何かを刺した。
「いっ……!?」
驚愕と、そして痛みに目を見開き、刺された右の手の甲を抑える。
おっさんが痛みを訴えたことに、わずかな罪悪感を表情にのせたものの、貴族のガキはお前が悪いとおっさんを責めるような表情に変わった。
俺らがポカーンとしている間に、貴族のガキはどこかへと走り去った。
たぶんあいつは、自分の親父さんとおっさんを重ね合わせたんだろう。確か、あいつの親父さんは死んでるって聞いたし。
そん時に、親父さんは「なんでもしていい」とかなんとか言ったんだろうな。だから、僅かでも貴族のガキが悪いって言ったおっさんは、反撃されたんだろう。
まぁ、普通じゃわかんないけど、走る時にあいつの口が『嘘吐き』って言ったのと、『なんでもしていいって言ったくせに』って変わったからわかったんだけど。
「あんのクソガキィ……!!」
その時、地響きのような怒りの声を、俺は耳にした。
思わず振り返ると、そこには怒りの形相に歪んだおっさん……いや、あいつはおっさんじゃないな。
おっさんにすげぇ似てるけど、おっさんは金目じゃない。銀目だ。……二重人格って奴か?
俺がそう想像していると、おっさんに似た誰かは、おっかないその顔を、貴族のガキが逃げて行った方向に向け、怒りの声を上げた。
「あいつ……ぜってぇただじゃおかねぇ…………!!」
「あ、この人、仲間に裏切られると別人格が出てくるんです。まぁ、その程度なんで気にしないでください」
「えぇ!?」
たぶん、今一番理解できてないのは兵士の少年だろう。お疲れ様。
***
はい。今俺は森の中にあるとある洞窟の前に来てます。
で、今何が起こっているかというと……
「は、離せぇ!!」
「おいっ!そのガキを殺すのは――ガッ!!」
「はい。あなたは使い物にならないので気絶、お願いします」
あの貴族のガキが一人で逃げて、勝手につかまりました。しかも、俺たちの討伐対象、「タローンの群れ」の「タローンリーダー」に人質にされて。
そのため、俺たちは……いや、俺とおっさんと兵士の少年と幼女……実質、魔法使いは手を出せない状態だ。俺?俺は魔法使いに戦闘開始早々に少年兵と共に戦力外通告を受けたよ。あと、別人格になって今にも貴族のガキを殺しそうな金目の人は、魔法使いに気絶させられ、幼女は戦う気がないらしい。
なんとも、ダメなパーティだ。
いや、それを忍者様って崇め奉られている俺が戦闘ダメって時点で、わかってたはずだけどさ。
俺、皆忘れてるかもだけど、日本人だぜ?あの平和ボケした国の一般国民だぜ?そんな簡単に戦えるわけねぇだろ。
一つだけ、俺の背中にかかってる剣に宿ってる精霊の力を使えば、特定の条件を満たせば技が使えるんだけど、その技が『敵が縦に二匹以上並んだ状態で、その前方に人一人分の空間があること』が条件だから、非常に使い勝手が悪い。せめて横にしてほしかった。でも、あのオカマ精霊の力借りたくないから、使わなかった気もするけど。
魔法使いが、余裕で魔物を倒している。
そして俺は、その倒された魔物の持ち物を漁っている。これじゃ、どっちが忍者でどっちが魔法使いわかんねぇな。服装でわかるけど。
いやー……それにしても、お仲間さんが強いと、楽だなぁ。戦闘とか、ずっと魔法使い任せでいいかなぁ……。いや、俺の身の安全のためにも、戦闘はやっとかないといけないか。……必要最低限。
そんなことを考えていると、いつの間にか魔法使いが戦っている反対……つまり、洞窟の後ろ側に来ていた。
結構この洞窟、広かった気がしたんだけど、いつの間に後ろまで来たんだ?
そう思いつつ、魔法使いたちの方へ戻ろうと足を反転させると……俺の視界の片隅に、何か光るものが見えた。
落ちているため、しゃがんで拾うと、それはなんと、この世界の通貨だった。
……初めて手にした通貨が、拾って手に入れたものってどういうことだよ。
そんなことを思いつつ、「……ラッキー」と呟きポケットに入れると、洞窟の奥の人一人が腹這いで進めそうな奥の方に、またまた光るものを見つけた。
……罠?罠なのか?これは。いやでも、俺、この真っ暗な洞窟に入っても、結局見えなくなるだけだし、入っても意味がないっていうか『ピコン!スキル:暗視とスキル:鷹の目を手に入れました!』……何?脳内アナウンスでさえも俺を罠に嵌めようっての?この世は敵ばかりか!
だが、目先の欲に駆られた俺は、『スキル:暗視』を使って洞窟の穴に入っていく。世の中、金だよね!好奇心を忘れちゃいけねぇよな!
その穴を潜り、広いところ出ると、俺は立ち上がった。
湿っぽく、変な臭いがする。辺りを見回すと、木を燃やした跡があった。たぶん、タローンの群れが焚き火でもしてたんだろう。
とりあえず……と、俺はお目当てのものを手にする。すると……それは、缶バッチだった。しかも、不思議なところてんみたいな感じのキャラクターが描かれた。
なんでだよっ!なんで金じゃねぇんだよ!!釣られた俺がバカみてぇじゃねぇか!バカだけど!!
投げたくなるのを必死で抑え、ポケットに入れる。ポイ捨てはいけない。けど、こいつはゴミ箱あったら絶対捨ててやる。その思いを胸に秘めて――。
ドゴンッ…………!
地響きのようなその音が、外の、魔法使いたちが戦っている方から聞こえてきた。
なんだ。そう思って俺は『スキル:鷹の目』を使った。逆に鳥目で見えねぇんじゃねぇかとも思ったけど、『スキル:暗視』を発動しているから大丈夫らしい。なんじゃそりゃ。
だが、それで見た光景に、俺は思わず息を呑んだ。
息が上がり、肩で息をする魔法使い。
倒れる、幼女とその召喚獣らしき巨大な獣。
今にも泣きだしそうな、それでも守ろうとおっさんと幼女を抱える少年兵。
それに迫る、一匹のタローン。
俺は、何をやっていたんだろう。
仮にも仲間だろう。なのに、その仲間を放っておいて、一人金に目がくらんで……。
ふと視線を横にずらすと、そこには剣を貴族のガキに突き付けているタローンリーダー。
きっと、こいつが貴族のガキに剣をつきつけているから、魔法使いは攻撃できないんだろう。魔力切れって線もあるけど。
後ろからこいつを切れば……。いや、ダメだ。俺じゃ敵わない相手なんだぞ?戦力外通告を出されたのを忘れたのか。俺は。
たぶん、後ろから切ろうとしてもバレて、たとえ切れたとしても、貴族のガキを道ずれに殺されるのがオチだと思う。
その間にも、一匹のタローンは一番殺しやすそうな少年兵に近づいていく。
魔法使いは、そちらを見ることなく、タローンリーダーの方を見ている。目をそらしたら、たぶん殺されると思っているんだろう。知能は確実に自分達より劣っているはずだから、貴族のガキを殺す可能性も否めないって奴か。
ドン
ドン
ドン ドン
タローンは近づいていく。
少年兵の目に、涙が溜まっているのがよく見える。気丈に振る舞う、その姿も。
どうする。 どうする。 どうする。 どうする。
考えるんだ。思考をめぐらせ。状況を把握しろ。あいつは―――俺の仲間だろう。
『敵が縦に二匹以上並んだ状態で、その前方に人一人分の空間があること』
何故か、それが頭の中に浮かんだ。
タローンリーダー。そして、その一直線上に、タローン。人一人分開けて、少年兵。
いつの間にか俺は、剣を引き抜いていた。
「……おい、精霊。頼みがある」
『な~にぃ~? 昇ちゃんから話しかけてくるなんて、珍しいじゃないっ! で、どうしたの? あたしのご主人様は昇ちゃんなんだから、なんでもいっていいわよ♪ お前の声が聴きたくなってっていう方が、あたしは嬉しいけど』
「あの技、使えるか?」
そう問いかけると、精霊の声が途切れた。
そして、真剣そうな声が、俺に問いかけてきた。
『できるけど、何? 昇ちゃん、自殺願望でも出てきたの? あなた、浸食されてこの世界に溶け込むのはまっぴらごめん。って言ってたじゃない』
「ああ。それは今でもかわんねぇ。けどさ……何もしない、できない自分に、嫌気がさしてさ」
そういって肩をすくめると、そいつは呆れたように笑った。
そして、言った。
『じゃ、カウント行くわよ♪』
「お前がやんのかよ。……締まらねぇな……」
前を見据え、腰を落とす。
初めてやるというのに、自然とやるべきことがわかってくる。
剣を肩から真横に伸ばすように持ち上げる。
少年兵の表情は、今にも泣きだしそうで……でも、負けてなかった。
3
タローンが止まった。
2
剣をゆっくりと持ち上げた。
1
少年兵が目を閉じる。
『準備、かーんりょっ♪』
その声と共に、俺も目を閉じる。
呟きながら。
「デス・ウォーク」
***
目を開けると、ポカーンとした状態の少年兵がいた。
横に目を向けると、これまた同じような顔をした魔法使い。
後ろを振り返ると、またまた同じ顔をした貴族のガキと……倒れ伏したタローン。
貴族のガキの近くまで行き、タローンリーダーの首を切り落とす。
きもちわるっと思いながら、それを魔法使いに投げる。
「……任務、完了」
そして俺は、よく俺の爺さんが読み聞かせてくれた、絵本の忍者の真似をした。
***
その後、依頼は無事終了した。
いや、俺の心的には無事じゃないな。
なんせ、魔法使いに黒い笑顔で「なぜ最初からやらないんですか?」と詰め寄られ、貴族のガキには「忍者ってすごいんだな! 暁!」と言われた。
仕舞いには、あなたを雇わせてくれ的な人たちとか、私たちをやとってくれ的な人たちがめっちゃ来た。すっげぇうざかった。
唯一の心の救いは、少年兵が「ありがとうございます!」って純真無垢な笑顔でお礼を言いに来てくれたことかな。ああ……俺もあんな弟が欲しかった……。
まぁ、なんやかんやあったけど、なんとかなってよかった。
命は大事ってのを改めて知らされた一日だったね。
そういや、一つ変わったことが。
あいつらが、「忍者様」じゃなくて「暁」って呼ぶようになったってことだ。
少年兵は「暁様」って呼ぶけど、他のみんなは「暁」って呼ぶ。
これも、仲間って認められた証拠かねぇ。
のんびりと歩きながら、ふと、そう思った。
「暁ー! ぐずぐずしていると、置いていきますよー!」
いつの間にか先に行っていた俺の仲間たちが、少し先で俺を見ていた。
「暁」
その言葉に何故か笑みが浮かんできて、それを隠すように、俺は俯いた。
笑みをけし、再び顔を上げると、そこには暁月夜が昇っていた。
さぁってと、お仲間さんの所へ、行きますかな。