異世界でとんでもない事になりそうです。
俺達が超時空コニビニでスキルを確認してると高校生らしい少年と少女が入ってくる。イブキちゃんとは別の猫耳少女店員さんが対応してるが語尾に「にゃ」はつかないらしい。
「サービスですにゃ」
「そう言えば最近繁盛してるね」
「天界がついにメイン・プレーンの人類の滅亡を決めましたにゃ。隣接世界の親人類派の神様達は人類の保護で大忙しですにゃ」
「何のスキルもなく異世界に放り出すのは無責任だけど、人数を確保するためにはチートな能力は与えられないか。神様もつらいところだね」
アキラさん達がいつものようにのんびりととんでもない事を話しているが俺はそーゆー場合ではないと思う。
「ヒビキさんみたいにアイテムでスキルのかわりになればいいんですがにゃ」
「俺の場合はアイテムより運が良すぎたと思います。それより天界の決定を止められないんですか?」
「無理だろうね」
「勇者さんに頼んでみるとか」
「彼は人類を嫌っているから無理だろうね」
「人類を嫌ってるのに勇者なんですか?」
「勇者が戦うのは世界の為で人間の為じゃないらしいよ。それに出身種族に肩入れする勇者は嫌われるし」
「そーなんですか」
勇者は人が世界の不安定要因であるなら人を滅ぼすのか。
「ところで試供品がありますにゃ」
「試供品?」
「スーパーアンホーリーウォーターですにゃ」
イブキちゃんが真っ黒な笑みを浮かべながら、レジの隣に謎の瓶を置く。
「アンホーリーウォーターの改良版ですにゃ。フタを開けるだけで効果が発動しますにゃ」
「効果ってなんです?」
「神々の加護の無効化ですにゃ」
それってすげーヤバくね?
「アンホーリーウォーターはヤバ過ぎて販売中止になったんだけどね」
「それと付与魔法無効化棒もありますにゃ。こいつは名前の通りほぼ全てのマジックアイテムを無効化しますにゃ。対巨大ゴーレム用ですにゃ」
「こんなものまで試供品で出てくるということは魔王が復活するのかい?」
「はっきりしたことは言えませんにゃ」
「禁則事項って奴ですか?」
「単純に知らにゃいのですにゃ」
「そろそろ帰らないといけない時間じゃないの?」
アヤさんとミオさんがかなり不機嫌そうだ。
「これはありがたく戴いておくから」
「またの御来店をお待ちしておりますにゃ」
「頑張って貯金しておくよ」
「お気をつけて」
別のネココミ店員さんが挨拶してくれる。名前はチハヤさんらしい。
「ありがとう」
というわけで、俺達は超時空コンビニから出て村に戻る。
「アキラさん、ゴブリン狩りに行きましょう」
せっかくスキルを手に入れたんだから有効に使わないとな。
「必要のない殺しは止めておいたほうがいい。精霊さんに嫌われるからね」
「精霊さんに好かれる事はそんなに重要なんですか?」
「そりゃ重要だよ。精霊さんに好かれると病気にかかりにくくなるし、怪我も治りやすくなる。老化も遅くなる。いい事だらけだよ」
アキラさんがにっこり笑いながら胡散臭い事を言う。
「本当にそれだけですか?」
「正直に言おうか、ヒビキ君」
「はい」
「僕は君に『力の持つ良くない面』に落ちてほしくない」
「はい?」
アキラさんは真顔だが、発言内容はいろいろとヤバい。ちなみに良くない面と暗黒面は違うようだ。闇も世界の形の一つであって悪ではないと言う事なのだろう。
「人は食べていくために必要な力があればいい。人は己が御しうる以上の力を持てば必ずと言っていいほど『力の持つ良くない面』に落ちる」
「なるほど……」
俺もコーホーコーホー言うのは嫌だしな。
「もし、君が世界を救うための力を望むのであれば僕も微力を尽くして君に助力しよう」
「そんな大それた事は考えてませんから」
当たり前と言えば当たり前だ。俺には世界を救うようなチートもないし。アキラさんが一緒にいた勇者の人は世界を救おうとしたのだろうか?
「勇者の人は世界を救おうとしたんでしょうか?」
「正直、彼の本音は判らないな」
「勇者さんって何者なんでしょう?」
勇者の利害関係が判れば本音も推測できるはずだ、多分。
「僕も同じ事を訊いてみたことがあるよ」
アキラさんが裏のない微笑みを浮かべてる。この笑顔ならダークな答えが帰ってくることはないだろう。
「勇者さんはどう答えたんですか?」
「彼は彼の父親と母親の息子であり、祖父達と祖母達にとっては孫であり、友人達にとっては友人であり、他者との関係と今まで為されてきた選択と自らが為した選択の集積が自分だと言っていたね」
ヤな奴だな、勇者。
「それはアキラさんの聞きたかった事ではないんでしょう?」
「突っ込んだんだけど説明できるほど詳しくは知らないそうだ」
「なるほど」
「問題なのは世界より目の前の事よねえ」
「アビゲイルさんを保護するんですか?」
「無理だよ。改宗する気がないみたいだし」
アヤさんとミオさんはアビゲイルさんが気になるらしい。アキラさんの口調では助けるつもりはないようだ。良く言えば世の無常を悟ってるのだろう。
「君はアビゲイルさんを助けたいのかい?」
「おそらく」
うう、アヤさんとミオさんの視線が痛い。お願いですから無言で圧力をかけないで下さい。ハーレム属性の奴はドMだな。間違いない。
「女性だから助けたいわけではなくてですね」
「おっぱいが大きいから助けたいんだろう?」
アキラさん! この場でそんな危険な事を言わないで下さい!
「全くないとは言いませんが……」
村の入り口でアビゲイルさんが立っていた。彼女は俺の顔を見るなりとんでもない事を言い出した。
「お願いがあります、ヒビキさん」
「どこで聞いたんですか、俺の名前?」
「どうか世界を滅ぼす……魔王になっていただけませんか?」