異世界でコンビニに遭遇しました。
異世界で超時空コンビニに遭遇しました。
正午は過ぎているが日はまだ高い。俺達は森で狩ったスライムをゴミ袋につめて村に帰る途中である。アキラさんが近いうちに河口の村に行こうと言ってくれたので、俺は正直浮かれていたのだが……。
「河口の村に行く前に覚えて欲しい事がある」
「なんでしょう」
「屋台で買食いしない事。下手すると死ぬよ」
「……はい」
屋台で買食い禁止とか小学生じゃあるまいしと思ったが後半が洒落になってない。地球でも非先進国に旅行すれば似たような状況とは言え、この世界は無駄にハードモードだ。
正直な話、引っ越せるものならもう少し楽な世界に引っ越したい。
「食事は屋根があって日本語の通じるお店で、よく加熱して、と頼めばまず安全だから」
この条件で食中毒になれば日頃の行いが悪かったとしか言い様がない。
「はい」
「一年ぐらいすれば屋台で食べても死ぬような事はないと思うけど、今は止めておいた方が無難かな。確実にお腹を壊すだろうし」
「解りました」
「後、日本語が通じない女の子とは遊ばない事」
「はい」
後ろを歩いてるアヤさんとミオさんの殺気が半端ないんですけど。
「あまり言いたくはないんだけど、現地の人はどんな病気を持ってるか判らないからできるだけ接触しない方が安全だよ」
「抗生物質とかは無さそうですしね」
神聖魔法はあるらしいが病気にならないに越したことはないだろう。魔法を無料でかけてもらえるわけではないらしいし。
「それから少々の不条理は見て見ぬ振りをする事」
「少々ってどのくらいですか?」
飲み物を口にしている方はとりあえず飲み干して欲しい。
「アラブ系の方々が欧州系米国人やユダヤ系の方々を火炙りにするぐらいかな?」
「アレだけやりたい放題すれば仕方ないかもしれませんね」
薄情かもしれないが、他人の家に土足であがり込むような真似をすれば報復されるのは仕方がない。この世界では先進国の住民は少数派だしな。
「剣を持ってる奴は場数を踏んでない素人だと思っていい。打撃系の武器を持ってる奴には注意すること」
極端な意見な気もするが刃物で人や亜人を斬れば血糊もつくし刃こぼれもする。血糊を落とすための水を持ち歩くわけにはいかないし呪文で水を作るには魔力が惜しい。この世界ではそんな器用なことは不可能だけどな。
しかも斬って刃こぼれがひどくなれば研ぎ師に研いでもらう必要があるが砥ぎ料だって安くはない。その結果、剣や刀はめったに鞘から抜かない騎士様が財力を誇示する道具になるわけだ。
「最後にスペルリフレクティングデバイスの有無も確認せずに、いきなり投射型呪文撃ってくる馬鹿は怖くない。先にパーティの防御力上げて感知系呪文でこっちの装備を調べてくる奴は速攻で無力化しないとかなりまずいよ」
「どうやってヤればいいんでしょう?」
魔法使いを速攻で無力化しろと言うのは簡単だが実行するのはかなり難し
い。そうされない為に前衛がいるわけだし。
「勇者がいた時は彼が遠隔攻撃であっさりやってくれたからなあ……。前衛が軽そうな時は押し倒して短剣で喉笛切ったかな。マジでヤバそうな連中の時は魔法無効化の巻物使って突撃したっけ。あんまり言いたくはないけど、前衛の鎧に油かけて火をつけたこともあったと思う」
鎧に油かけて火をつけるとか相変わらず嫌すぎる。
アキラさんの経験はこの世界の出来事ではないのだろうと信じたい。俺はこの不便ではあるが安全な世界に転移した事を心から神々に感謝した。
「でもアキラさんとヒビキ君が一緒に村から出るのは止められるでしょうね」
「えーー」
「やっぱりどちらかは村にいてもらわないと不安よね、ミオ」
「うん」
「しょうがないね」
「はい」
どうやら河口の村へのお出かけはお流れになりそうだ。魔王でも復活しないかと思ったが確実にフラグになりそうなので止めておく。
せっかく平和な世界に転移したのに魔王退治とか絶対に遠慮したい。
「ん?」
「あれ?」
「どっかで見たことのある建物が……」
「いつの間に異世界にまで……」
森の外にコンビニが出来ていた。
「どうします?」
「もちろん入るよ。超時空コニビニが来るのは久しぶりだし」
「お金はあるんですか?」
「ポイントが結構貯まってるから安いモノなら大丈夫だよ」
「円は使えるの?」
アヤさんが半信半疑でアキラさんに訊いている。
「確か大丈夫なはずだけど」
「アキラさんは超時空コンビニを利用した事があるんですか?」
「この前魔王を倒した時にお世話に……。ごめん。今の言葉は忘れて欲しい」
やっぱりアキラさんは魔王を倒した事があるようだ。
「とりあえず超時空コンビニに行きましょう」
やたらハイテンションなアヤさんに引っ張られて俺達は超時空コンビニに入る事になった。面倒なことにならねばいいが。
「いらっしゃいませ」
本物の猫耳店員さんキターーー! 歳は十八歳くらいだろう。身長は百六十センチ前後か。かなりの美少女である。ちなみにもう一人、大柄な男性の猫耳店員さんが商品の補充している。
「あ、アキラさん、お久しぶりですにゃ」
「ひさしぶり。イブキちゃんも相変わらず美人だね」
「アキラさんも相変わらず正直者ですにゃ」
「お姉さん達は元気?」
「……元気ですにゃ。ところで、ただ今キャンペーン中でカードを作ると百ポイントプレゼントしてますにゃ」
「つくります!」
「……つくります」
「どんなメリットがあるの?」
さすがアヤさん年の功、言いかけたが何とか言わずにすんだ。
「買い物ごとにポイントがたまりますにゃ」
「それで?」
「貯まったポイントでこのスキル&チートクジが引けますにゃ。ちなみに一回百ポイントですから、登録していただければ一回引けますにゃ」
「どんなスキルがあるの?」
「勇者から初級生活スキルまでいろいろありますにゃ。ちなみに勇者はもう出ませんにゃ」
「なんで出ないの?」
「アキラさんが引いたからですにゃ」
「それなら仕方がないわね」
「ちなみにこっちには十八禁バージョンもありますにゃ」
イブキさんが足元から別の箱を取り出す。
「ヒビキくんとミオちゃんは残念だったわね〜」
アヤさんがなぜか上から目線だ。とりあえず申込書にボールペンで記入していく。記入事項は名前に種族に性別に年齢で、住所と連絡先はない。冒険者なら住所不定で連絡先はないから仕方がないのだろう。
「誕生日が来てるはずだから私は十八歳です」
ミオさんの言葉に俺達はちょっとだけ固まった。