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#01.One_Summer_Day//あるなつのひ

 2005年の7月28日。夏休みまっさかりのこの日、あたしは同じクラスの友達実由と千里と、買い物に行く約束をしていた。待ち合わせ場所は、駅前の大きなポプラの樹の下。この街に住む日とは大体ここが待ち合わせ場所。街のシンボルである。そんな待ち合わせ場所に午前11時集合。私はギリギリ間に合う、10時54分に家をでた。一応結構気に入っている服装で。

11時ちょうど。ポプラの樹に着いた。まだ誰も来ていない。よかった。一安心して、木陰に入った。

ミーン。ミーン。ミーン。

セミが五月繩【うるさ】い。あんまり汗かきたくないから木陰にいるのにまるで出て行けと言ってるようだ。全く、だから夏は嫌いだ。と言っても仕方がないので、近くのベンチに腰掛た。一応日焼け止めは塗ってある。紫外線め、恐れ入ったか。

あたしがそんなコトを考えていると、ポプラの樹の陰に入って行く人影が見えた。実由かな?

もう一度、セミの合唱の中に入って、除きこんでみた。そこには見覚えのある男の姿がある。誰だっけ?

「あ、速河…おはよ」

「成島?」

同じ学年の成島だった。私服はお互いに初めてみる。結構センスあるじゃん、成島。

「ここで何してるの?待ち合わせ?」

あたしはセミに負けないように大きな声で言った。

「そう。柳瀬と松戸とな」

成島も大きな声で返した。おお、松戸君もくるのかぁ。なかなかいいチョイスじゃない、成島。早くこないかなぁ。

プルルルル。

突然、あたしのケータイが鳴った。実由からだ。

「ごめん!もう着いてるよね?今千里の家なんだケド千里が何着てくかで、ずっと悩んでるの。もう少し待ってくれる?」

いつものことだ。だから実由に迎えに行ってもらったのに、意味ないじゃんよ。

「わかったよ。なるべく早くね?それから服はきちんと選んだほうがいいよ、じゃぁね」

私は、もしかしたら松戸君たちに会えるとまでは言わなかった。しばらく独り占めできるかも。と考えたのだ。でも、二人が来ても、松戸君より柳瀬君のほうが、人気かも。クラスのあたし以外の女子、大体みんな柳瀬君に夢中だもん。まるで松戸君のよさはわかってないみたい。あたしだけならライバルいなくていいけどね。

ケータイをしまい、成島のほうを見るとそこには既に柳瀬君が立っていた。いつの間に。でもまだ、松戸君は来てないみたいだ。残念。

「おはよう、柳瀬君」

「あ、おはよう。速河さんも待ち合わせ?」

「そうだよ。でも遅れたみたいで」

「ああ、そうなんだ。早くくるといいね」

松戸君のほうが全然いいんだけど、柳瀬君が人気な理由は何となくわかる。何ていうか、誰にでも優しいし、それに、かっこいいのに控え目なところがクラスの女子を魅了してるって感じ。まぁ、かっこよさは断然松戸君が上なんだけどね。

「あッ!沙奈ちゃん発見〜」

駅と反対側のほうからそんな声がした。千里だ。棒のついたアメを食べながらこっちを指している。悩み悩んだ服装は結局いつものフリフリのついたスカート。まぁ、千里にはそれが一番似合うかも。

「柳瀬君と成島君もいるじゃぁん。どぉしたの?」

千里は成島に体を寄せて聞いている。成島は少しにやけた。全くもう。

「てか、ホントに何で柳瀬君たちいるの?」

千里を見てから、実由が小声で聞いた。

「ただ、そこにいただけだよ。待ち合わせなんだって。松戸君も来るんだよ」

「そうなんだぁ。よかったじゃない。私も柳瀬君いるし、このままデートでもしちゃう?」

「な、何言ってんのよ…!無理だよぅ」

そう言ったあたしの顔は激しい熱で赤くなっていた。不覚にも松戸君と手をつなぐシーンを想像してしまった。

「うわ、沙奈、顔めっちゃ赤いよ!」

「実由だって、柳瀬君見たとき超赤くなってたよ!?」

「そんなことないって!」

 お互い、柳瀬君と松戸君が好きなことは知っているけど、何だか恥ずかしい。もうすぐ本人が来ると考えると緊張もしてくる。手鏡で、一応確認しようかな。

「よし、大丈夫。あとは平常心だ。早河沙奈、頑張れ」

ちょうど、1年少し前の、部活の大会のときのことを思い出した。あの頃もそう言って何とか落ち着こうとしてたんだよね、あたし。でも、学校以外で松戸君に会うほうが全然緊張する。本当に、大丈夫だよね。服も、お気に入りだし。ああ、でも不安。

「あ、松戸君〜来たんだぁ、おはよぉ」

千里がそう言った。目線の先には、松戸君。やばい!かっこいい…。

「お、おはよう…」

あたしは実由の体に隠れて言った。心臓が痛い。

「あ、おはよう。早河」

松戸君は微笑んだ。「早河」じゃなくて、「沙奈」って呼んで欲しいな。…って、あたしは何考えてるんだ。恥ずかしい。

「じゃぁ、トリプルデートしよっかぁ」

あたしが実由に完全に隠れると、ずっと成島と話してた千里がセミのように大きな声で言った。

 ちょっと千里…!そんな勝手に、何決めてんのよ。急にできる分けないじゃない。それに成島はよくても、松戸君が嫌だって言ったらあたしは深い傷を負うよ?

一瞬にして、頭の中は混乱寸前になった。急にデートなんて…。

「俺はそれでもいいケド?」

松戸君が口を開いた。良かった、深い傷は負わないで済みそうだ。でも、緊張するなぁ…。無理だよぅ。

「でも俺たちと千里ちゃんははいいケド、市村さん【みゆ】たちは?大丈夫?」

松戸君に続いて柳瀬君があたしたちを見て、聞いた。実由は、「千里はちゃん付け、私は苗字…」と後ろにぴったりついているあたしにしか聞こえないようにぼやいてから、「私は全然いいよ」と言った。実由、ちょっと怖い。

「早河は?」

松戸君が聞いてくれた。あたしは肯定の意味で二回、首を縦に振った。突然の対応はそれが限界だった。でも松戸君はそれを見て微笑んでくれた。よかった。

「じゃあ、千里の特別ルールで行こぉ!」

千里が元気よく人指し指を空にかざして言ったが、あたしを含むそれ以外の人は、目を丸くして千里を見た。

「何だぁ。知らないのぉ?せっかく千里がさっき考えたのにぃ」

「それで知ってたらすごいよ、千里」と、あたしと実由と柳瀬君と松戸君は苦笑した。成島だけが、「どんなルール?」と聞いた。すると千里は、背伸びをして成島の耳元で何かを言った。

「よし。じゃあ、千里ちゃんの特別ルールで行こう」

成島は聞き終えてすぐに言った。

「だから、どんなルールだよ」

松戸君が突っ込んだ。あたしも気になる。

「えっと、まず、男女二人づつになって、デートして…」

「時間になったら組み合わせ変えるの!」

成島に続いて千里が答えた。

「それじゃあ、二人っきり!?」

あたしと実由は驚いて言ってしまった。それじゃあ、緊張して何にできないよ。あ、でもみんなとデートってことは松戸君が好きってことがバレないかも。

「そりゃあ、二人っきりだよ」

千里がブイサインを向けて言った。

 よし、頑張れ、あたし。こんなチャンスもうないんだから。ダメだったらそのときはそのときだよ。

「…じゃあ、その千里のルールでやろう!いいよね?柳瀬君、松戸君」

あたしは覚悟を決めて、二人に言った。二人とも、頷いてくれた。まじで頑張ろう。松戸君、覚悟!

「じゃあ、早速順番決めよう。そっちから1、2、3、4、5、6ね」

みんながやる気になったところで、成島があたしたちに番号を割り当て、高そうな腕時計を見た。誰になるだろう。最初が肝心っていうし、終りよければ全てよしっていうし。

「よし、決まった」

だめだ。心拍数が上がる…。

「まずは1の人!」

「あ、それ千里のばんごぉ」

ちなみにあたしは5だ。ここで6がでれば千里と成島になる。とにかく、3【まつどくん】はでちゃだめ。

「1の人は、6!だから俺!」

成島は嬉しそうに言った。千里も喜んでいる。あたしも密かに嬉しい。

「次、2の人!」

「あ、俺だ」

柳瀬君が手を挙げた。5【あたし】になるか、4【みゆ】になるか…。

「2は…4の人です!」

実由はあたしに笑顔を見せて喜んだ。ということは、あたしは松戸君とだ!最初が肝心なんだ、きっと。

「よろしくね」

松戸君があたしの前に立って言った。うぅ、軽い目眩…。

「それじゃあ、行動開始!…あ、2時にここに戻ってきて」

成島が言った。もう千里と手をつないでる。「あたしたちも手をつなごう」と言う言葉が喉で詰まった。いや、でも今日しかもうないよね。こんなチャンス。千里に感謝出来るように、頑張らなきゃ。ようし。

「行こう、松戸君」

あたしはそう言って、手をさしのべた。もう、恥ずかしさは、心の奥に隠すことにした。今こそ頑張りどきだもん。

「うん。行こう」

松戸君の手があたしの手と、重なった。すごく、特別な感じがする。

 もう、はなしたくないです。


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