勇者としての一歩
次に訪れたのは、森に囲まれた小さな村だった。
人々の表情は暗く、俺たちを見ても笑顔を見せない。
「最近、森から魔物が現れて畑を荒らすんです」
村長らしき老人が、震える声で事情を話してくれた。
「兵士を雇う余裕もなく……このままでは冬を越せません」
俺は仲間の顔を見回した。
リオは拳を握り、カレンは真剣に頷いた。
「……わかった。俺たちがなんとかする」
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夜。森の中で身を潜めていると、低い唸り声が響いた。
黒い狼のような魔物が数匹、月明かりに浮かび上がる。
「リオ、合図で魔法を」
「了解!」
矢のように魔物が飛びかかってくる。
俺は剣を抜き、無我夢中で受け止めた。
重い衝撃が腕をしびれさせるが――踏ん張った。
「はあああっ!」
リオの放った炎が敵を包み、カレンが素早く剣でとどめを刺す。
息を切らしながらも、俺たちは一匹も逃さず討ち取った。
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村に戻ると、人々が歓声を上げて迎えてくれた。
「ありがとう、勇者様!」
「これで畑を守れる!」
笑顔が広がり、泣き出す子供までいた。
その光景を前に、胸の奥が熱くなる。
(……俺でも、誰かを守れるんだ)
初めてそう実感できた瞬間だった。
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その夜。焚き火を囲みながらリオが言った。
「勇者様、今日の剣、すごかったですよ! あの狼に押し負けなかったじゃないですか!」
「いや、俺一人じゃ無理だった。お前らがいたから勝てたんだ」
そう答えると、カレンが小さく笑った。
「ようやく少しは勇者らしくなってきたわね」
俺は照れ隠しのように頭をかき、火を見つめた。
その炎の奥に浮かんだのは――やはり真緒の笑顔だった。
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そのとき、村長が俺に一枚の布を差し出した。
「礼を言うよ……。けれど、覚えておいてくれ。森の奥には魔王の軍勢が潜んでいる。
これは、旅の商人が持ってきた旗に描かれていた魔王様の姿だ」
火にかざされた布に描かれていたのは――
長い髪をなびかせ、堂々と民を見下ろす女性の姿。
胸の奥が凍りついた。
その横顔が、記憶の中の真緒にあまりにも似ていたからだ。
(……まさか、そんなはず……)




