表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

真緒と魔王

任務を終えた翌日、俺たちは次の町へ向かって街道を歩いていた。

 森を抜ける風が心地よく、会話も自然と弾んでいく。


「勇者様って、どんな世界から来たんですか?」

 リオが楽しげに尋ねてくる。


「俺か? ……剣も魔法もない世界だよ。毎日“電車”っていう乗り物に乗って、“会社”ってところで働いてた」


「でんしゃ……? かいしゃ……?」

 リオが首をかしげる。


 ふと何かを思い出したように、彼が声を上げた。

「そういえば魔王も、最初に現れた頃はそんな妙なことを口走ってたって噂、聞いたことあります!」


「くだらない噂ね」

 すかさずカレンが冷たく言い放つ。

「魔王の正体なんて誰も知らないんだから、尾ひれのついた話に決まってるわ」


「そ、そうですかね……」

 リオは肩をすくめ、それから急ににやりと笑った。



「じゃあ勇者様。そっちの世界で、好きな人とかいたんですか?」


「おいリオ」

 カレンが呆れた声を出す。

「子供みたいなことを聞かないの」


「だって気になるじゃないですか!」

 リオは悪びれもせず笑った。



 俺は一瞬迷った。けれど、胸に浮かぶのはただ一人。

「……真緒、って子がいた」


「……魔王!?」

 リオが飛び上がるように叫んだ。

「い、今、魔王って言いましたよね!? 勇者様が!?」


「ち、違う! “真緒”だ!」

 慌てて訂正すると、リオは照れくさそうに笑った。


「なーんだ……似てましたから。で、その真緒さんって、どんな人だったんです?」



 俺は少し空を見上げながら答えた。

「面倒見がよくてさ。俺が不甲斐ないときも支えてくれた。

 よく弁当を作ってくれて……卵焼きが俺の好物だって覚えてて、必ず入れてくれたんだ。

 でもたまに焦がして、真っ黒になることもあった。……それすら可愛かった」


 言葉にすると、胸の奥がじんわりと痛む。

 リオは目を丸くして聞き入り、カレンは黙って前を歩いていた。



 その夜、焚き火を囲んでいたとき。

 リオがぽつりと呟いた。

「勇者様って、やっぱり人間なんですね。……好きな人を大事に思う気持ちがある」


 俺は苦笑してうなずいた。

 けれど心の奥では――守れなかった俺が勇者なんて、と苦い思いが渦巻いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ