真緒と魔王
任務を終えた翌日、俺たちは次の町へ向かって街道を歩いていた。
森を抜ける風が心地よく、会話も自然と弾んでいく。
「勇者様って、どんな世界から来たんですか?」
リオが楽しげに尋ねてくる。
「俺か? ……剣も魔法もない世界だよ。毎日“電車”っていう乗り物に乗って、“会社”ってところで働いてた」
「でんしゃ……? かいしゃ……?」
リオが首をかしげる。
ふと何かを思い出したように、彼が声を上げた。
「そういえば魔王も、最初に現れた頃はそんな妙なことを口走ってたって噂、聞いたことあります!」
「くだらない噂ね」
すかさずカレンが冷たく言い放つ。
「魔王の正体なんて誰も知らないんだから、尾ひれのついた話に決まってるわ」
「そ、そうですかね……」
リオは肩をすくめ、それから急ににやりと笑った。
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「じゃあ勇者様。そっちの世界で、好きな人とかいたんですか?」
「おいリオ」
カレンが呆れた声を出す。
「子供みたいなことを聞かないの」
「だって気になるじゃないですか!」
リオは悪びれもせず笑った。
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俺は一瞬迷った。けれど、胸に浮かぶのはただ一人。
「……真緒、って子がいた」
「……魔王!?」
リオが飛び上がるように叫んだ。
「い、今、魔王って言いましたよね!? 勇者様が!?」
「ち、違う! “真緒”だ!」
慌てて訂正すると、リオは照れくさそうに笑った。
「なーんだ……似てましたから。で、その真緒さんって、どんな人だったんです?」
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俺は少し空を見上げながら答えた。
「面倒見がよくてさ。俺が不甲斐ないときも支えてくれた。
よく弁当を作ってくれて……卵焼きが俺の好物だって覚えてて、必ず入れてくれたんだ。
でもたまに焦がして、真っ黒になることもあった。……それすら可愛かった」
言葉にすると、胸の奥がじんわりと痛む。
リオは目を丸くして聞き入り、カレンは黙って前を歩いていた。
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その夜、焚き火を囲んでいたとき。
リオがぽつりと呟いた。
「勇者様って、やっぱり人間なんですね。……好きな人を大事に思う気持ちがある」
俺は苦笑してうなずいた。
けれど心の奥では――守れなかった俺が勇者なんて、と苦い思いが渦巻いていた。




