仲間と、旅の始まり
村人たちは俺を「勇者」と呼び、手厚くもてなしてくれた。
食堂ではご馳走を並べ、子供たちは目を輝かせて寄ってくる。
だが俺の胸中は、落ち着かないばかりだった。
「……俺は勇者なんかじゃない。ただのサラリーマンだったんだ」
つぶやいても、信じる者はいない。
あの光る剣と魔物を一太刀で倒した事実が、村人たちにとっては“証拠”だった。
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「勇者様、どうかこの世界を救ってください!」
神官が深々と頭を下げる。
「魔王の軍勢が各地を荒らしています。各国の王も、勇者の出現を待ち望んでいるのです」
「……魔王」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
理由はわからない。ただ、心臓が強く脈打つ。
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翌朝、俺は村の広場で剣を渡された。
「勇者様、道中ひとりでは危険です。仲間をお連れください」
そう言われ紹介されたのは、二人の若者だった。
一人は小柄な青年で、杖を背負っている。
「リオです! 魔術の勉強をしてきました。勇者様のお役に立ちます!」
目がキラキラしていて、熱意だけは誰にも負けない。
もう一人は長身の女戦士。
「私はカレン。腕には自信がある。あんたが勇者だろうと何だろうと、守るべき者がいるなら力を貸す」
落ち着いた口調に、頼もしさを感じた。
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気づけば、俺の両隣には“仲間”が立っていた。
まるでゲームのパーティみたいに。
「えっと……俺、本当に勇者じゃないんだけど……」
弱々しく否定すると、リオは笑顔で言った。
「勇者様が勇者じゃないなんて、あり得ません!」
カレンは肩をすくめる。
「称号なんてどうでもいい。あんたが人を守れるなら、それで十分だ」
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俺はため息をついた。
流されるようにして剣を腰に差し、仲間と共に村を出る。
まだ自分が“勇者”だなんて信じられない。
けれど、あの日助けた少女の「勇者さま、ありがとう」という言葉が、なぜか心に残っていた。
勇者かどうかはわからない。
でも――俺にも守れるものがあるのなら。
そう思いながら、俺は仲間と共に一歩を踏み出した。
勇者としての、最初の旅路へ。




