不意の刃
第21話 不意の刃
魔王城に足を踏み入れたあと、案内役の魔族に通されたのは、重厚な扉に守られた広い一室だった。
豪奢さこそないものの、壁は魔力の紋様で覆われており、まるで“客として歓迎するための部屋”のように整っていた。
「ここでしばらく休むといい。魔王様には、こちらから伝えておく」
案内役の魔族はそう言い、静かに扉を閉めて去っていった。
「……ついに、ここまで来たな」
俺は深く息を吐く。
リオは落ち着かない様子で室内を歩き回り、カレンは剣を外さず壁にもたれたまま目を閉じていた。
ほんのひと時でも、体力を取り戻す必要があった。
だが――
その安堵は一瞬だけだった。
轟音が室内に響いた。
扉が、内側へ向かって爆ぜるように吹き飛ぶ。
「ッ!?」「伏せろ!」
咄嗟に身を低くした俺たちの頭上を、凶暴な魔力の塊が通り抜け、壁を抉った。
白い煙の中から、数名の魔族が姿を現した。
彼らの目は血走り、まるで獲物を前にした獣のように笑っていた。
「勇者……だな」
「歓迎の挨拶に来てやったよ。ここで死んでいけ」
殺意しかない。
「話が違――」
と言いかけた瞬間、床が爆裂した。
魔族のひとりが魔力で床石を砕き、破片の嵐がこちらへと襲いかかる。
リオが炎の壁を張り、カレンが破片を切り払う。
「こいつら……最初から殺す気だよ!」
「くそっ、城の中でこれかよ!」
俺は剣を構え、前に躍り出た。
魔族の男が笑いながら突っ込んできた。
その腕が肥大化し、黒い爪が刃のように伸びる。
速度が尋常じゃない――!
剣で受け止めた瞬間、衝撃で体が跳ね飛ばされる。
壁に叩きつけられ、息が漏れた。
「勇者の名が泣くなァ!」
男が追撃に飛びかかる。
刹那――
カレンの斬撃が横から入り、魔族の肩を大きく裂いた。
直後、リオの火球が爆ぜ、男の体が炎に包まれる。
「ゆう!立てるか!」
「……ああ!」
だが敵は多い。
残る魔族たちが狂ったように魔力を溜め、床が黒く染まり始める。
嫌な気配が走る。
「避けろッ!」
次の瞬間、漆黒の槍が何十本も床から突き出し、部屋全体を貫こうとした。
俺たちは跳び退き、床石が原型を留めないほど砕け散る。
魔族のひとりが高らかに笑った。
「ここで死んでもらう……勇者。魔王様の前にたどり着く必要なんかないんだよ!」
その言葉の意味を考える余裕はなかった。
ただ、本能が叫んでいた。
ここでやられるわけにはいかない。
「行くぞッ!!」
「任せろ!」
「ええ、全力でいく!」
俺たちは息を合わせ、突進する。
リオが炎で視界を遮り、カレンがその裏から高速で踏み込み、剣を閃かせる。
俺はその一瞬の隙に魔力を集中させ、渾身の突きを放った。
刃が魔族の胸を貫く。
男が驚いたように目を見開き、崩れ落ちた。
残りの魔族たちも、カレンとリオの連撃に押されて後退する。
「この……化け物どもめ……!」
ひとりが憎悪を吐き捨て、魔力を暴発させるようにして煙幕を張り、その場から逃げ去った。
静寂が戻る。
床は抉れ、壁は焼け焦げていた。
「……なんで、いきなり襲われるんだよ……」
リオが荒い息で呟く。
「わからない。でも、ひとつ確かなのは――」
俺は壊れた扉の向こうを見つめた。
「ここは、安全な場所なんかじゃない」
胸の奥に、重い不安が沈んでいく。
魔王城に足を踏み入れたばかりだというのに、
すでに“誰か”の強い敵意が牙を剥いていた。




