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狂気の刃

第14話 狂気の刃


 魔王城へ続く山道は、どこまでも静かだった。

 風の音だけが、やけに大きく響いている。


「……嫌な感じするな」

 カレンが小さく呟いた。

 リオも不安そうに杖を握りしめている。


 その直後だった。


 ――ズン。


 地面が揺れ、木々の影から“それ”が現れた。


「……へぇ。やっと来たか、人間ども」


 歪んだ笑み。

 赤黒い鎧。

 剣には、まだ乾ききらない血が滴っている。


「ガルド様の命令? ああ、そんなのどうでもいい」

 男は心底楽しそうに笑った。

「でもさ――人が死ぬ瞬間って、最高に綺麗なんだよ」


 ぞっとするほど純粋な狂気だった。



「来るぞ!」

 俺が叫んだ瞬間、男はすでに間合いに入っていた。


 カレンの剣が弾かれる。

 リオの炎は、笑いながらかわされた。


「遅い遅い!」

 男はわざと隙を見せ、反撃に合わせて急所だけを正確に狙ってくる。


「く…っ!」

 カレンの脚が裂けた。

 リオの肩が斬られ、血が噴き出す。


 そして――

 俺の脇腹に、冷たい感覚が走った。


 遅れて、激痛が来る。


「ゆうッ!!」


 視界が一瞬揺れた。



「ほらほら、いい顔になってきたじゃないか」

 男は恍惚とした表情で、剣を構え直す。


 こいつは――

 最初から殺すために、なぶるために戦っている。


 このままじゃ、全滅する。


(……守るんだ)


 真緒の顔が、一瞬だけ浮かんだ。


「リオ! カレン! 次の一撃で決める!」


「……っ、わかった!」

「死んでも、こいつだけは倒す!」


 リオの炎が男の足場を焼く。

 わずかな隙。


 俺は全身の痛みを無視して、前に出た。



「……っは!」


 狂気の男の剣が、俺の肩を深く裂いた。

 骨に当たる感触。


 でも――構わない。


 そのまま、俺は踏み込んだ。


「これで……終わりだ!!」


 カレンの剣が横から貫き、

 俺の剣が、男の胸を貫いた。


「……あぁ……最高だ……」


 男は、満足そうに笑ったまま崩れ落ちた。



 地面に倒れ込んだ俺たちは、しばらく誰も動けなかった。


 血。

 痛み。

 息の荒さ。


 生きている実感だけが、やけに重かった。


「……全員、生きてるな」


 俺の言葉に、カレンが乾いた笑いを漏らす。

「当たり前でしょ……誰がここで死ぬのよ……」


 リオもふらつきながら立ち上がった。

「勇者様……生きてて、よかった……」


 だが、誰の傷も深かった。

 このままでは、次の戦闘まで持たない。



「……山を越えた先に、小屋があったはずだ」


 俺は歯を食いしばりながら言う。

「とりあえず、そこまで逃げる」


 3人は、互いに支え合いながら歩き出した。


 命を繋いだばかりの足取りは、驚くほど重かった。



 黒く沈む空の下、

 遠くに、かすかな灯りが見えた。


 それが、次の出会いの場所になることを、

 この時の俺たちは、まだ知らない。

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