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魔王の街で

第12話 魔王の街で


 焼け跡に立ち尽くし、町娘の怯えた瞳を思い出す。

 また同じ悲劇を繰り返すわけにはいかない。


「……魔王城に行く」


 ようやく出せた言葉は、自分に突きつける刃のようだった。


 リオが拳を握り、強く頷く。

「勇者様が行くなら、僕も一緒に戦います!」

「軽口じゃ済まされないわよ」

 カレンが鋭く言う。だが、剣を握る手は決して離れなかった。

「……私も行く。逃げても後悔するだけだから」


 二人の眼差しを見て、胸の奥に確かな熱が宿る。

(俺は勇者だ。運命に選ばれたからじゃない。守りたい人を守るために、真実を見極めるために進むんだ)


 その決意を胸に、俺たちは夜明けとともに旅立った。



 数日後。

 山を越えた先に広がっていたのは、魔王の支配下にあるという街だった。


 だがそこは俺の予想を裏切り、穏やかな活気に満ちていた。

 商人が声を張り上げ、子供が駆け回り、人々は笑い合っている。


「……これが魔王の街?」

 思わず呟く。

 血と恐怖に染まった世界を想像していた。だが、そこにあったのは人間の街と変わらない日常だった。



「旅のお方、どうぞ!」

 幼い少女が駆け寄り、小さな包みを差し出してきた。

 その笑顔は誇らしげだった。


「これは?」

「魔王様からのお弁当です! 旅人や働く人たちに元気を出してほしいって。

 毎朝、魔王様がご自分で作ってくださるんです!」


 胸の奥にざわめきが走る。

(……本当にこの魔王が、人間を襲う命令をしたのか?)


 震える手で包みを開くと、丁寧に詰められた弁当の中に、黄金色の卵焼きが入っていた。



 一口、口に運ぶ。

 甘く、優しい味が舌に広がった瞬間――

 頬を伝って涙がこぼれ落ちた。


「……っ」

 袖で拭っても止まらない。


(間違いない……これは、真緒の卵焼きだ)


 高校時代、彼女が弁当に詰めてくれていた卵焼き。

 失敗して焦がしては笑い、成功したときには得意げに差し出してきた――あの思い出が、鮮やかによみがえる。



「おいしくなかったですか?」

 少女の不思議そうな声に、俺は震える声で答える。

「……いや。すごく、美味しい」


 涙の奥で、疑念は確信に変わっていく。

(魔王は……真緒だ)


 遠くに黒々とそびえる魔王城が見える。

 そこに彼女がいる。そう確信しながら、俺は涙をぬぐい、その影を見つめ続けた。

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