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苦しみの追憶

作者: まさき

それは....家族旅行でとあるホテルに宿泊した夜の事....


1日中はしゃぎ回って疲れたのかいつもより早い時間から眠りについた5歳の息子

わたしは1人時間を満喫しようと、寝ている息子を部屋に残し、大浴場を堪能して部屋に戻ると、暗闇の中ブツブツと何かを呟くような声が聞こえて来ました

息子が目を覚ましたのかと覗きに行くと、自分の足元を照らすために付けた携帯のライトに浮かび上がる布団に横たわる小さな息子の姿

わたしは息子の異様な言動にちょっと息を飲みました


息子は目を大きく見開き、空中の何かを凝視し、毛布の縁を握りしめながら「みずがのみたい、みずがのみたい、みずがのみたい」と呪文のように繰り返していたのです


初めて見るまるで息子ではないかの様なその表情と、まるで大人の男の人のような低く苦しげなしゃがれた声にぞくっと背筋が凍る思いでした


寝ぼけてでもいるのかと、わたしは息子の側にひざまづき、名前を呼んでそっと肩を揺さぶりました


「どうしたの?大丈夫?起きて」


わたしの声に、それまで空中を凝視していた視線がゆっくりとわたしに向けられました

目が据わっているとはこういう事を言うのかと心の奥底で冷静に思うほど、こちらに向けられた視線はわたしに定まることはなく、ただただ空を彷徨っていました


「みずがのみたい、みずがのみたい、みずがのみたい」


そのつぶやきは止まる事なく、呪文の様に繰り返され続けます

わたしは縋るような思いで枕元に置いてあったミネラルウォータのボトルを手に取ると、そっと息子の頭を持ち上げ、「みずがのみたい」とつぶやき続けるその口に水を流し込んであげました


ごくっと喉がなり、息子が水を飲み込み、途端、まるで何事もなかったかのように、息子はわたしの腕の中で静かに寝息を立て深い眠りに戻っていきました



後日談になるのですが、あのホテルでは何年か前に火災があり、数人の客が逃げ後れ、燃え盛る炎の中、亡くなられたという話を聞きました

もしかすると、あの夜息子には火災で苦しみながら亡くなられた男性の霊が最後の望みを叶える為に取り憑いていたのかもしれない....そう思うとやりきれない思いでした


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