1‐6 埋蔵金伝説なんてさあ、正直ね
ザクザクと大川がリズム良くシャベルが穴を掘る音だけが聞こえていた。吾妻屋はふてくされたようで、もう汚れることも構わずあぐらをかいて座っている。俺はただ見つかりますようにとそのことだけを願っていた。
しばらくして、大川は歓喜と悲鳴が入り混じった声で叫んだ。
「あった! あった! 絶対これだ!」
「ふん」
大川の叫び声を聞いた吾妻屋は大げさに鼻を鳴らした。そして、立ち上がり尻についた泥を手で払うと穴の外へと黙って出ていった。
吾妻屋が穴の外に出たあと俺も続く。とてつもなく長い時間平坦な地面に触れていなかったような気がする。実際には一時間にも満たない時間なのだが、何年も穴で暮らしていたような閉所的な空間がもたらす精神的ダメージは俺を静かに疲弊させていた。
「大川くんいつまでそこにいるんだよ。早くそれ持って出ておいでよ。それで早く帰るよ。帰ってそのお金をまるまる然るべきところに返さなきゃならないんだから」
果たして埋蔵金とはどういうものなのか。一目見ておきたい。俺は二メートルほど下を覗き込んだ。こちらの背を向けている大川の腕に抱かれているそれは、小さなボストンバッグだった。旅行でサブバッグとして使うような一日分の着替えしか入らないようなやつ。ところどころ泥が付着しているが、腐ってはいない。ここ最近に埋められたことが分かる。
俺は吾妻屋を睨んだ。吾妻屋は俺のその視線に気づいていたが完璧に無視を決め込んでいる。
「大川帰るぞー」
とうとう安堵から泣き出してしまった大川。無理もないだろう。ずっと死の不安に耐えていたのだから。だが、これ以上穴から上がってこないなら引きずってでも大川を連れて行くことになる。まだ依頼は完了していないのだ。お金を手に入れることが出来て初めてスタートラインに立つ権利が与えられたに過ぎない。あとはこれを無事に返済しなくちゃならないのだから、感動で時間を食っている場合じゃない。
「うん、うんありがとう。ありがとうよお。埋蔵金伝説なんて俺正直信じてなかったけど。正直吾妻屋とかいう胡散臭い貸し屋とかも信じてないけどさあ、まだ信じていけるかもしれねえよお」
「おい、依頼人の分際でそれは失礼だろ。僕は仕事はちゃんとするって決めてるんだよ」
大川はそう言い、鼻水と汗と涙でぐしょぐしょになった顔面で這い上がっきた。もちろん腕の中にはボストンバッグを生地に食い込むほど握りしめて。
まあ、とりあえずは本当に良かったと思う。
「中身は確認したか?」
「いや、まだしてない。そうだよな。確認は大事だよなあ」
と何かを思い出したらしく、大川は腕で顔を豪快に拭うとボストンバッグのチャックを開けた。かみ合わせもよく、滑らかに滑っていく。
「ふん。どこまで僕を疑えばすむんだか」
「確認だろ、確認」
吾妻屋は一歩引き腕を組みながら俺達が確認するのを冷ややかに見つめていた。
結果は分かりきっている。
少なくとも俺は吾妻屋の依頼に対する真摯さを信じているからだ。
だから、大川がボストンバッグの中にあった五つの札束のうちの一つを手に取り、また泣き出しても俺の中にある吾妻屋に対する感情は何一つ変わらないままだった。