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1‐5 金は埋蔵金を掘って返す

 一面緑のマップに表示される現在地とほとんど重なるようにして赤いピンが一つ立っている。吾妻屋が指示する通り、場所は間違ってはいないようだ。間違いなくこの近くに埋蔵金は埋まっている。それを奇跡的に不運な俺達が掘り起こせていないだけで、多分この男の言う通りの場所にはあるのだ。

 そこで俺は一つの考えに行き着いた。

 まだ、吾妻屋の指示で掘っていない所がある。

「な、僕は何一つ間違ってはいなかっただろう? 多分もうちょっとあっちの方だと思うんだよ」

 吾妻屋は数分前に自分が指していた方向とは反対の方向を指す。このトンチンカン、人に方向音痴だなんだと言うくせに自分が困らないことは適当にやりやがる。

 だが、俺の考えの通りなら吾妻屋が指していた両方の場所にはない。

 俺は吾妻屋にスマホを返した。自分の顔に両手を当てて目を塞いでいる大川の肩をポンと叩き「終わったよ」と声を掛ける。以前大川の目には不安が滲んでいた。今にも恐怖が爆発して、叫びだしそうな顔をしている。

 「なあ、吾妻屋」と俺は自分のスマホが無事に帰ってきて次の指示出しをしようとしている吾妻屋に呼びかける。

「なんだい?」

「俺は埋蔵金の在処が分かった。それからお前が本当に適当な仕事しかしないってことも同じように分かった」

「本当になんだい。僕はいつだって、最終的には完璧に仕事するだろ? 多分あっちだと思うんだよね」

「いやそっちにもあっちにもない」

 吾妻屋は怪訝そうに眉をひそめる。

「じゃあ、どこにあるっていうの?」

 俺はこの言葉を待っていた。ここまでのやり取りは全て吾妻屋からこの言葉を引き出すための前座だ。

 すうっと息を吸い、貯めていた空気を吐き出す。それから口を少し開いた。

「多分だけど、吾妻屋くんの下にあるんじゃないかな……」

 大川はポツリと呟いた。それは今までずっと言いたかったけど言えなかったことをこのタイミングに乗じて言ったという感じだった。

「へえ」

 俯いている大川には吾妻屋が今どんな顔で大川のことを見つめているのかは見えない。吾妻屋が自分の口元にスマホを当てて、眉を最大限に上げて驚いていることは大川が知ることはなかった。

 大川の言ったことは俺が今言おうとしていたことをまるきり同じだ。俺の考えでも埋蔵金は吾妻屋の下にある。場を整えて綺麗に探偵風にかっこよく決めようとしたところを横取りされたのは悔しく、若干の恥ずかしさも残る。だが、考えがお互い一致している心強さもあった。

「桐子もそう思う? 僕の足の下にあると思ってる?」

「ああ、思ってるよ。灯台下暗しってやつだ」

「灯台下暗しねえ。じゃあちょっとその穴埋めておいでよ」

「何馬鹿なこと言ってるんだ。お前がこっちに来たほうが早いだろ。飛び降りてこい」

 そう言って、自分が今いる穴を指差す。最初の穴こそ吾妻屋の指示通り五メートル近く掘られていたのだが、今自分達がいる穴は疲労のせいで二メートルもない。自分達の身長なら両手をつけばすんなり上がってこられるくらいの高さだ。

 「はあ……」心底嫌だ。汚れたくないという気持ちがそのため息に全て乗せられている。俺だって汚れたくもなかったが、そんなものはシャベルを持った瞬間から諦めた。今更吾妻屋だけが綺麗に帰るのは癪だ。どうせならこいつも道連れにして、車をどろどろにして帰りたい。

 吾妻屋はスマホを自分の尻ポケットに入れ、しゃがんで穴の中へ降りてきた。男が三人になった穴は窮屈でほとんど身動きが取れない。俺と大川はどっちが上に上がって掘るか視線だけでやり取りをした。

「俺が行くよ」と大川は視線だけで言うと、俺は黙って頷いた。大川は上に上がって四つめの穴を掘り始めた。

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