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1‐4 金は埋蔵金を掘って返す

 手つかずの裏山といえば怪しい大人たちがトランクを運び込んで何かを隠蔽するシーンがまず頭に思い浮かぶ。その次にかろうじて残る少年心がきのこ狩りを思い出させ、それから底の方にいる歴史の授業の残りカスが徳川の埋蔵金と認識させるのだ。

 千両箱に詰まった小判は見つけたらそれはそれは夢があるものだろう。だが、現実的に考えてそんなものは現代日本において存在せず、じゃあ俺達は今裏山でシャベルを握りしめて何を掘っているのかと聞かれるとやはり埋蔵金を掘っているとしか言いようがなかった。

 「そうそうその辺りを五メートルくらい掘るらしいよ」

 一人シャベルではなくスマホを握りしめて指示出しという一番楽な役割をわざわざ買って出た男吾妻屋は圧倒的支持率の低さでこの場を誰よりも張り切りながら取り仕切っている。

「その辺りってどこだよ。お前その辺りっていうけど俺達もう三つも穴掘ってんだぞ!」

 既に五メートル掘られた三つの穴は吾妻屋の周りを取り囲んで足の踏み場を順当に無くしていっている。

 この穴の数だけ俺と大川の汗と努力の証がある。そこに吾妻屋の指示出しの功績の一つもは含まれていない。あいつは本当になにもしていない。ただ、偉そうにしないだけまだマシとは言える。

 吾妻屋は一人涼しい顔をしてまだ掘り返されていない地面を指さした。つまり、吾妻屋の指示通りその穴はまた吾妻屋の足元の近くである。

「そうは言ってもさあ。本当にこの辺なんだけど。僕のグーグルマップが仕事しないの」

「お前もしかしてマップにピン打ちしてそれを見ながらだいたいこの辺とかいう適当に指示出してるだけなのか?」

「うんそうだよ」

 あっけらかんとそう答えられてしまえば、俺は文句の一つも言えない。この状況にまるきり悪気を感じていなさそうな無邪気な善意が腹立つほど憎らしい。最終的にはなんとかなるを本能で知っている男の顔だ。

 自分のことのみならず他人の明日の命すらも足掻けばどうにかできるではなく流れに身を任せていれば全てが解決されると思っているのだ。

 大川なんかもう呆れてため息すら吐けず、その場でじっと座り込んでいる。明日全身筋肉痛が確定した体は一度座り込んで全身を脱力してしまえば次の瞬間には立ちたくなくなる。俺も出来ることなら尻をつけて座りたいが、シャベルを地面に突き刺してそこに体重を預けるだけで耐えている。

 「スマホ貸してみろ。俺が見てみるよ。あと大川も」

「嫌だよ。人のプライバシーが詰まったスマホを見せるなんて君、人通りで脱げと言っているのと一緒だよ。僕ははっきり嫌という意思を桐子に表示する。嫌」

「馬鹿。その画面を見るだけだから大人しく貸してくれたらいいんだよ」

 今更吾妻屋にプライバシーなんてあるわけない。俺は吾妻屋が自分のスマホにパスワードを何一つかけていないのを知っているし、自分の名前と誕生日をどこのサイトでも共通して使っているのも知っている。この世で最も不用心という言葉が似合うのは吾妻屋しかいないだろう。そんな奴に今更人通りで脱げと言っても自分からはだけているようなものだ。

 穴の底から手を伸ばし吾妻屋の足首を掴む。白いパンツに跳ね返った泥と俺の手形がしっかりと付着する。この生地のパンツは洗っても綺麗に取れないだろう。

 吾妻屋は自分の足首を掴んでいる俺の手を振りほどこうにも八方塞がりでどこにも行けないため地面から少しだけ足を浮かせようとした。だが、上に持ち上げる力よりも下から掴んでいる方が圧倒的に楽なので吾妻屋は最終的に根負けすることになった。

「いいよ。そこまで言うなら桐子になら見せてもいい。だけど大川くんには嫌。まだ僕達そんな仲ではない」

「何を言っているのか──」

「分からないというなら素直に僕の気持ちを伝えてあげるけれど、もし桐子がなにかの手違い、ミスで危うい画面、情報を見たときに困るのは大川くんだと僕は思うね」

 つまり、見たら怪しい大人がわんさかやってきてコンクリで詰めて海に投げ捨てられるようなものがある──かもしれないというのが吾妻屋の言い分らしい。

 「俺は別にそこまでして見たくないよ。古州だけ見てそれで確認してくれたらいい。あと望むならなるべく早く埋蔵金が見つかることを願ってる。本当それくらい」

 今が人生で最もどん底にいる大川にとって、俺達が些細な喧嘩をしている時間でさえ自分の寿命が縮んでいってるのだ。吾妻屋に疑いをかけているわけではないが、早く見つけて生命の危機から救ってやらなくちゃいけない。

「俺だけ見る。大川は目瞑ってくれてたらいいよ。それでいいよな吾妻屋」

「いいよお。桐子だけなら何も恥ずかしくないね。僕ら親友だから」

 にこっと効果音が付きそうなほど、いい笑顔だ。言ってることはまるで可愛くないが。

 吾妻屋は手のひらの上に自分の大切なスマホを載せた。俺はぎゅっと手のひらを閉じて落としてしまわないようにさっと自分の胸元に引き込み、表示されている画面を確認した。

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