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憧れのおねえさまは華麗に素敵な嘘を吐く~大正公爵令嬢×隻眼海軍少尉の秘密の花園~  作者: ゆきんこ


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#34 霧雨に煙る二人

「八重子をつけてきて正解だったわ!

 まさか、こんな大それたことを計画していただなんて。」



 突然、ものかげから躍り出てきたのは足首まであるドレスに黒のヴェール姿のうららでした。



「申しわけありません、お坊ちゃま。」



 八重子が緊張した面持ちで麗さまに目線を送ります。

 凍てついた空気の中、麗さまの手が伸びて私を背中に隠すとうららをけん制しました。



「もう、みつきには指一本触れさせない。」



「ああ、嫌! またこの女のせいなのね。」

 ヴェールの下でも分かるくらいうららは憤っていて、私を睨む目つきは怨念に満ちています。



「大人しく籠に入っていれば撃たれないのに!」 



 うららは拳銃のように人差し指と親指を立てると、私に向けてその照準を合わせます。

 本当に拳銃があるわけでもないのに、私の動悸は激しくなって息苦しく思えました。



「愛しさ余って憎さ百倍とはこのこと。ねえ、私を騙してその女と逃げる気?」



「騙す?」



 二人が対面する姿は、まるで月と太陽。

 美の女神に愛された対なる彫刻のよう。

 麗さまが急な心変わりをしてこのままうららと逃げてしまっても、私は仕方ないと思うでしょう。


 でも、麗さまは飄々としていました。



「ボクを先に騙したのはそっちだよ。

 紘次郎と共謀してみつきを監禁し、勝手に婚約破棄をしたことは言い訳できるの?」



「・・・あなたを愛しているからよ!」



 うららの悲痛な叫びが、雷鳴を呼びました。

 はげしく重苦しい愛の告白が、私の心までちりぢりに引きさきます。

 

 この熱情を、この純愛を誰が責めることなどできるでしょう。

 うらら以上に麗さまを愛していると張り合うことは、愚かな行為に思えます。


 ポツリとひとつぶ当たった雨粒に、私は全身の熱を吸い取られるような気分がして鳥肌がたちました。



「許さないから・・・。

 紘次郎を呼んできたら、あなたたちはお終いよ‼」



「うらら。」 



 麗さまがうららの目の前に立ちました。



「ボクはずっとキミになりたかった。

 母が息子よりも愛した従姉妹のキミに。

 だから、女装するときはキミのなまえの【うらら】を名乗っていたんだ。」



「ええ、もちろん分かっているわ。あなたは私、私はあなた。

 この世であなたの気持ちを一番理解しているのは、間近であなたたち親子の(いびつ)な関係を見てきた私よ。

 でも、残念ね。どれだけ麗が辛い思いをして生きてきたか、その女はわかっていないんだから。」



 麗さまは吐息をつくと「わからないからこそ、救われることもあるんだ。」とつぶやきました。



「キミはボクにとって自分のように大事で、鏡のような存在。キミを見ていると、母上を意識せずには居られないし、一緒に居るのは苦しいよ。

 ボクは誰でもなく、【麗】として見てくれるみつきを愛している。」



 私をオッドアイでしっかりと見つめながら宣言する麗さまが愛おしい。

 私は冷えた身体の芯の奥が、熱を帯びるのを感じました。



 麗さまを愛する気持ちで、負けるわけにはいかないわ。



「・・・嫌よ・・・認めない!」



 次の瞬間、うららが麗さまに突進しました。

 不意を突かれた麗さまが、そのままうららを受け止めます。



「ッ・・・。」



「麗は、わたしだけのもの。

 他の女のものになるくらいなら・・・!」



 一瞬、私には何が起きたか分かりませんでした。



「うららさま! ご乱心をッ。」



 次の瞬間、二人に駆け寄った八重子が背後から羽交い絞めにしてうららの身体の動きを封じると、すかさず麗さまがその手から鈍色に光る何かを奪い取ったのです。



「ハァ、ハァ・・・。」



 その手には、血がついたナイフ。

 麗さまの横腹からは血が滲み出ていて、ドレスにはみるみるうちに赤い染みが広がりました。


 私は悲鳴をあげました。



「麗さま!」



 身体を九の字に曲げ頭を垂れる麗さまを見た私とお父さまは、すぐに走り寄り身体を支えました。



「みんな不幸になるがいいッ‼」

 うららは暴れて八重子の腕を振りほどくと、身をひるがえして颯爽と逃げ去りました。



「待ちなさい!」



 八重子もその後ろ姿を追いかけて走っていきました。

 お父さまは麗さまの傷を確認すると、血相を変えて叫びました。



「ひどい出血だ! みつき、すぐに医者を・・・。」



「医者なら、ここにいるじゃないですか。」



 麗さまはショールを引き裂いて包帯のようにお腹に巻き付けると、苦しそうな呼吸をしながら笑いました。



「うららは何をするか分からない。もう、飛ぶしかない。」



「しかし、その怪我では!」



「この程度の刺創くらい、空の上でどうにでもできます。

 公爵、すぐに気球を飛ばす準備を!」



「天気も、このままじゃ持つか分からないぞ。

 ・・・心中するようなものだ。」



「覚悟の上です。」



「私も。」



「お前たち・・・。

 分かった、紘次郎にはお前たちが心中したと伝えよう。」



 私はお父さまと麗さまに支えられながらはしごに上り、なんとかゴンドラに乗りこみました。


 白かった私のドレスは薄汚れてしまいましたし、麗さまの身体もボロボロでしたが、ようやく心を許せる安全地帯にたどり着いたようで私はホッとしました。



 風に揺れる気球から、私はお父さまにお別れを言いました。



「お父さま、最後まで親不孝な娘をお許しください。」



「みつき・・・来世でも、私の娘に生まれてきておくれ。」



 私は何度もうなづき、涙で滲むお父さまを目に焼きつけようと必死に目をこすりました。

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