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憧れのおねえさまは華麗に素敵な嘘を吐く~大正公爵令嬢×隻眼海軍少尉の秘密の花園~  作者: ゆきんこ


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#30 指輪と悲報

 公爵家の窓から見える木々の彩りは、日々移りかわります。

 色づいた葉は芳醇な秋の深まりを醸し出していますが、やがて訪れる厳しい冬への侘しさも持ち合わせているのです。


 私はうら寂しい気持ちを抱えながら、部屋の出窓に腰掛けています。

 私が紘次郎に軟禁されてから、早や二か月が過ぎようとしていました。



 ※



「みつき、寒くないですか?」



 外の風景に心が奪われていた私は、ビクッと体を震わせて振り返りました。



「紘次郎、いつの間に来ていたの?」



 緊張した私の肩に紘次郎がそっとショールをかけてくれました。



「つい先ほど。

 ノックにも気づかない様子でしたよ。」  



 いつもと変わらぬ温和な微笑みをたたえた優男。

 その腹のうちに隠された本心を知っている私は、しっかりと目を合わせることができません。


 うつむいたまま、私は小さくつぶやきました。

「ありがとう。」



 今でも信じられません。

 兄のように慕っていた紘次郎が、私と麗さまを引き離した上に自分との結婚を命令するような卑劣な男だなんて。



「昔からみつきは風邪をひくとすぐに寝込むから、気をつけてくださいね。」



 紘次郎は多忙な当主の仕事の合間に、毎日欠かさず私の部屋に来てたわいのないお喋りをしていきます。


 住み慣れた家、気のおける使用人と優しい紘次郎。

 穏やかな昔通りの生活は、麗さまに出会う前となんら変わらない、愛しい家庭の風景です。


 私の望むすべてのことを紘次郎は尊重してくれて、【自由】以外の【不自由】はひとつもありません。

 でも、それが果たして【幸せ】と呼べるのでしょうか?


 以前のほわほわした私なら、きっとこれが充実した生活なのかもしれません。

 でも、今の私は色を変えた紅葉と同じ。決してもとには戻れないのです。



「婚約破棄の書状を送ったのに、五色家からは音沙汰がなくてね。」



 不意に紘次郎の口から【五色家】のなまえが出て、私は思わず身を固くしました。



「さすが戦争屋だけあるというか【常識】がないという事実には、やはり驚かされます。

 あちらは不名誉な婚約破棄を受け入れるより、だんまりを続けて風化を狙っているのかもしれないですけどね。」



(麗さまと話をさせる気もないくせに、なにを勝手なことを・・・!)



 苛だつ私の気持ちを煽るように、紘次郎はさらに話を続けました。



「ただ、綾小路家としては正式な手続きはしているので、私とみつきの婚約式は()()()()来月に行う方針です。」



「来月ですって?」

 愕然とした私は青ざめて口を押さえました。



「帝国ホテルはおさえてあるので、週末にみつきのドレスを選びに行きましょう。」



「待って、そんなこと私は承知していないわ!」



 思わず声を荒げながら詰め寄ると、紘次郎がおもむろに目の前に(ひざまず)きました。

 そして、ふたを開けた小さな小箱からうやうやしく指輪を取り出すと、自分の手のひらに乗せて差しだして見せたのです。



「全国の宝石商の中でも最高級の物を用意させました。

 ダイヤモンドの石言葉は【純愛】」



 燦然と七色の光を放つ大粒のダイヤモンドが輝く指輪。

 その指輪を私の指に押しこむと、紘次郎は感極まった表情で私の手を握りました。



「この指輪の輝きにかけて・・・あなたを一生離さないと誓います。」



 重い・・・。


 指輪はこんなに小さいのに、まるで私を縛る鎖のように重いのです。

 私は手を握られたまま、紘次郎の背中の向こうの景色が霞むのを呆然と見ていました。



 ※



 婚約式が直前に迫ったある日、私は期待していた客人を部屋に招くことを許されました。



「みつきさま!」



 ドアを開けた瞬間、私に飛びついてきた愛しい親友を力いっぱいに抱きしめて、私たちは久しぶりの再会を全身全霊で喜びました。



「元気? 元気だった?」



「みつきさまがいない世界は味のしない食事と一緒。ようこは棺桶に片足を突っこんでいました。」



「なによそれ、ようこったら・・・。」



 いつも変わらない元気なようこの姿が愛おしく、私はひな子が同じ部屋にいるのも忘れてしまいました。

 その柔かい首筋に濃厚な口づけをして強く吸うと、ようこが「キャッ」と高い声を出しました。



「来てくれて、本当にありがとう。」



「みつきさま・・・すき。」



 ようこがお返しに私の首に唇をつけた瞬間、コホン、と小さな咳払いが耳に届きました。



「私は部屋の外に控えていますね。」



 顔を赤らめたひな子が部屋を出るのを確認すると、私たちは目配せをしてカーテンの中に入りました。



「ひな子を部屋から追い出すのに、【秘密の儀式】がうまくいきましたわね。」



「今日は紘次郎が出かけて居ないけど、ひな子の目があるから手短に話をしましょう。   

 私の暗号を解いてくれたのですか?」



「ええ。さすが私のワトソンですねッ。」



 ようこはニヤリと笑うと、私の手紙を鞄から取り出し、赤ペンで丸をつけました。



「前後が空白の文字をつなぎ合わせると


【こうじろうきけん かんきん たすけて れいにしらせて】


 と読めました。


 いつか『ホームズの作品が好きだ』とみつきさまに話して良かったです。

 すぐにでも助けに来たかったのですが奪回の準備に手間取ってしまい・・・遅くなってごめんなさい!」



「このままでは週末の帝国ホテルでの婚約式で麗さまとの婚約の上書きをされてしまいそうなの。

 麗さまは何か仰っている?」



「実は・・・麗さまとはお会いできていないのです。」



 ようこは申し訳なさそうにうつむき、上目づかいに私を見上げました。



「婚約破棄の通知が五色家に届いたあと、麗さまは偵察船の軍医として帝国軍に徴集されました。

 そして先日、公海で行方不明になったそうなのです。」

 

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