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憧れのおねえさまは華麗に素敵な嘘を吐く~大正公爵令嬢×隻眼海軍少尉の秘密の花園~  作者: ゆきんこ


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#23 ラブレター

「みつきさまのことを、陰ながらお慕いしておりました。」



 艷やかな長い髪をおさげにしたメガネ姿の少女は、たどたどしく私に告げました。

 

 

「どうか、私の【純愛】を受け止めてください!」



 ※



 五色家に足入れをしてから一ヶ月は経とうという頃。


 いつものように五色家から女学院に登校した私は、上履きを取ったはずみに何かが落下したことに気がつきました。



「あら、何か落とされましてよ。」



 それはパラフィン紙で包まれた桃色の封筒でした。

 ちょうど下駄箱に居合わせたようこが(かが)んでそれを拾って下さったのですが、その宛名を見た私たちはハッと息を飲みました。



「【愛するおねえさまへ】ですって・・・⁉」



 ようこは私に渡しかけた手紙を引っこめると、封に指をかけて開けようとしました。



「ようこ、待って。」



 くるりと回って私の制止を振り切ったようこは、もはや便せんの内容を検分しています。



「あーあ、差出人のなまえがないから誰かわからないわ。


【可憐なみつきさまへ。


 今日は、私の苦しい秘密と真実を、あなたさまだけに打ち明けたいと思います。

 放課後に天文台の下でお待ちしています。

                            

  あなたのしもべより。】


 やあね、こんなのラブで決まりよ。  

 告白の文ぢゃないの・・・。」



 私は恥ずかしい秘密を暴かれた弱者のように、うろたえました。



「もう! ようこったら。手紙を返して。」



「女学院の中では私とみつきさまがエスなのは周知の事実です。

 それなのに、この方はいったいどういうつもりなの?」



「さあ。でも、ちゃんと話を聞かなければわからないわよ。」



 ようこはいらだちを隠さずに地団太を踏みました。



「まさかこんな手紙でノコノコと誘われちゃダメですよ。

 みつきさまはお優しいから、情に流されてしまいそうです。

 この恋文はようこが預かりますからね!」



「でも・・・。」



「さあさあ、お急ぎになって。もう始業のベルが鳴りますわよ。」



 ようこに巧くあしらわれた私は、手紙を返してもらえません。

 ようこは番犬のように周囲を威嚇しながら、私と腕を組んで教室に向かいました。


 

 ※



 授業中、頭を占めるのはあの手紙のこと。

 


 私も【エス】の手紙をおねえさまに出すのは、とても勇気がいる行為でした。

 きっと手紙の少女も、たくさん悩んで勇気を出してこの手紙を書いてくれたんだろうと思うと、無下にできるはずもありません。



(話を聞くだけなら、不貞行為ではないわよね。)

 


 麗さまのお姿を思い浮かべながら、私は思い悩みました。

 でも結局、私は放課後に天文台の待ち合わせ場所へと向かったのです。


 もちろん、ようこには内緒で。



 ※



「ああ、みつきさま。来てくれて感謝します。

 この身が張り裂けそうなほど、お待ちしていましたわ。」



 待ち合わせ場所にひとり佇んでいたのは、生徒会長の【華乃まい】さまでした。

 【おねえさま】と書かれているからてっきり後輩だと思っていたのですが、女学院イチ品行方正な生徒会長だったなんて!



「私たち、面と向かって話すのは初めてですよね。」



「ええ。

 いつもは横にようこさまがいらっしゃるから話しかけにくくて。

 でも、卒業する前にどうしても、自分の想いを伝える気持ちになりましたの。」



 私のようなものが優等生に思われていたなんて光栄とは思いながらも、今まで接点のなかった彼女に対してどう向き合えばいいのか戸惑いました。

 麗さまのおかげで男性恐怖症は薄らいできた気がするのですが、暗くて引っ込み思案な性格は相変わらずなのです。




「どうか、私の【純愛】を受け止めてください!」



 顔を赤らめて頭を下げる華乃さまと、少しまえの私の姿が重なります。

 私は大きく息を吸いました。



「ご、ごめんなさい。

 実は私にはもう、心に決めた方がいるのです。」



「それは・・・婚約者さまのことですか?」



 私がコクリと頷くと、華乃さまの顔色がみるみる青く変わりました。



「困ります!」



 華乃さまの口調が急にとげとげしく変化して、その迫力に私はたじろぎました。



「困る?」 



「え? みつきさまは【シスタア】ですよね?

 なのに男性を好きになる? それとも、【シスタア】というのは嘘?

 よもや、私やようこさまを馬鹿にしておいでなのですか?」

 


「それは・・・。」



 矢継ぎばやの糾弾に、私は言葉を失いました。

 ほんの数か月前までは、婚約者との結婚に絶望して【おねえさま】との【心中】を夢見ていた自分。


 麗さまに出会ってからの私は、もはやエスの抜け殻のよう。

 こんな私を果たして【シスタア】と呼べるのかしら?

 


「ほんものの【シスタア】ならば、【エス】との【純愛】を貫くべきです。

 私ならそうします。」

 

 敬けんな修道女のように呟いた華乃さまは、次の瞬間、私の身体を押したおしました。

 不意を突かれた私は、馬乗りになった華乃さまの強い力に組み敷かれました。 



「な、何をするの、華乃さま。」



 華乃さまは制服のポケットから柄つきのナイフを取り出し、私の目の前でチラつかせました。



「みつきさまが悪いのよ。」



「・・・!」



 華乃さまはナイフを持たない方の手で、私の首を圧迫しました。



「くるし・い・・・。」



 この人は狂っている。

 視界に黒い線のようなものがチラチラと映って、私の意識はだんだんと遠くなるようでした。



「私は【シスタア】の【純愛】を全うします。

 【愛するうららさま】のために、あなたはこの世から消えて!」 



 うららさま? 

 くすんだ鈍色の軌跡が、弧を描いて私の顔目がけて振り下ろされ、私は覚悟して目を閉じました。



 バン!



 急に華乃さまに押さえつけられていた体が軽くなり、私は横にゴロリと転がりました。

 酸素を求めて肺いっぱいに深呼吸をすると、少し視界が良くなりました。



 何が起きたのかしら?

 地面にうつ伏せたままの私の耳に、聞き慣れた少女の甲高い声と華乃さまの悲鳴が響きました。



「みつきさま、大丈夫⁉」



 見上げると、華乃さまの腕をひねりあげたようこが私にウインクをしました。

「だから行かないでと言ったのに。手がかかるみつきさまですね。」


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