二章ー45 北区
三人は、徐ろに情報共有を始めた。
「まず始めに、我々はギルドの職員です・・・とまぁ、そんなことはいいでしょう」
彼らはギルドの職員であり、それは正しい。
しかし「どうしてここに?」、そう思うかもしれないが、彼らは例のギルド内での毒ガス事件の際、偶々中央区へと送り出されていたため被害を受けずにすんだのだ。
次に本題、東西南北の状況についてだ。
「東区と北区は、まだ調査してないがーー」
「東区は・・・今うちの組長が戦っとるわ」
「組長?」
「あぁ・・・まぁ、そこはあんま気にせんといて」
「そうか・・・で、どうなんだ? 持ちこたえそうか?」
「どうやろな・・・あんま言いたくはないが、正直五分五分や」
本当ならば「何も心配ない」と、堂々と言いたい気持ちを抑え、ここは冷静に、主観を排除する。
「で、他はどうなんや?」
「えっと・・・南区は恐らく大丈夫です」
後輩(パワハラを受けていた方)は、そう断言する。
「疑うわけやないがーー」
「安心してください。別に我々の願望を述べたのではありませんので」
「・・・余程そこに戦力を割いたようやな。百人くらい冒険者が集まっとるんか?」
「いや・・・そこにいるのはたった一人だ」
「はっ? 何かの冗談か? そんな一人でなんて・・・」
最初、残留意思表明ヤクザは自分の耳を疑った。
しかしこの下位互男達の目を見る限り、嘘をついているとは思えず、大人しく話を聞くことにした。
「そこにはあのアフォスと互角に戦える、そんな冒険者を配置していますし、実際彼の戦いぶりを見てきた私が断言します。あそこは大丈夫です」
「そういうことなら・・・だが、そんな冒険者は都市伝説くらいでしか聞いたことがーー」
「ーーそうです、まさにそれで合っています。そして彼は、都市伝説ではなく確かに実在します」
都市伝説の男まで出されては仕方が無い、ここは信じる以外他にない。
残留意思表明ヤクザはただ「そうか・・・」と呟き、そして納得したようだ。
「次に、問題の西区ですが・・・」
「・・・どうしたんや?」
後輩はそう弱々しく、そして何か不安げであるため、また下位互男も同様の様子であるため、残留意思表明ヤクザは疑問を抱いた。
「実は・・・我々が現地へと赴いたところ、何にもなかったのです。西区には、それなりの人数を配置したはずなのですが・・・しかし人も魔物も、どちらも認識することができませんでした。仮に彼らが全滅した場合、血痕などの形で何かしらの痕跡が残っているはずなのですが・・・残念ながら発見できず・・・」
「・・・じゃぁ、あの魔物は何や?」
「分かりませんが、西区から侵入したと考えるしかなく・・・」
西区ーーマブロの軍隊が、援軍としてやってきていたハズなのだが・・・しかしどうやらその姿すらもないらしく、また彼らはそもそもマブロの軍隊の存在など知らないため、この謎が、想像以上のものだということに、気がつく由もない。
「まぁつまり、西区は今、がら空きっちゅうことか?」
「えぇ・・・まぁ・・・。ただ、魔物もいないので、あそこは戦線から離脱したと、無関係だとしたほうがいい、そういう結論です」
「魔物がいないっちゅうのはーー」
「言葉通り、外にもいませんでした。恐らく全てが既に侵入していた、つまり西区における魔物のストック分は、大方我々が狩り尽くしてしまったため、もう考えなくてもいいかと・・・」
「・・・そうか」
外にも中にも、魔物の姿はない。
つまり西区における魔物のリスクは限りなく零だと、そう判断したようだ。
それを踏まえてーー
「これからどうしますか?」
「・・・まずは、北区を見に行ったほうがええんちゃうか? 西区はもうないものとして、南区は百パーセントの信頼があって、残りの東区も、まぁ何とかって感じやし、一応北区見に行って、それから東区に応援に行くか決めればいいんちゃうか?」
「そうだな・・・ならばそうしよう」
こうして三人は、北区へと向かった。
〜北区〜
さて、三人は早くも北区へとやって来た。
ここは当初、ユウが単体で防衛し、その後はマブロの部下がそれを引き継いだが、果たしてーー。
今、三人は例の入口ーー防衛ラインーーに到るため、その手前の市街地を歩いているのだが・・・まさにひっそりと静かな、閑静な街である・・・のだがしかしーー。
「これは・・・これが凄惨ってやつか・・・」
「ウッ・・・先輩すいません・・・吐きそうです・・・」
彼らの前に広がる光景、比率で言えば、黒と赤とがそれぞれ四割を占め、また建物も派手にやられている。
ここには三階建ての家なんかもチラホラと見られるが、しかしそんな家も、酷いと屋根が抉られているなどしており、とてつもなく荒らされている。
三人はその中央の大きな道を、光景を噛み締めながら、後輩はほとんど目を瞑りながら、一歩一歩ゆく。
左右どちらを見ても、市民の姿が目に映る。
至る所に散らばっており、また個体差はあれど武器のようなものを手にしたまま息絶えている、しかし近づけば今にも襲ってきそうな、そんなリアリティの体現のような状態だ。
それらの間を慎重に抜け、ようやく目的地へと到着した。
やはりここも、街と同様だ。
しかしこの場はそれほど酷くなく、恐らくここで魔物と戦っていただろう人も寧ろかなりきれいな状態で、まるでただ眠っているかのような感じでもある。
「おいっ! 何だよこれ!? 話と、話と違うだろ!!」
すると唯一人、生存者が。
「!! あのっ! 大丈夫ですか?」
後輩はすぐさま駆け寄ろうとする、が、それを下位互男が咄嗟に止める。
「一旦止まれ」
「なっ・・・何でですか!? だって目の前にーー」
「見てみろ・・・何か様子が変だ」
ヤザも下位互男の意見に賛成、三人ともその男からやや離れた所にて待機する。
周りに魔物の姿はない。
すると男は地面に尻餅をつき、しかしその態勢のまま後退りして、前方に何かあるのか、一心不乱に払い除ける動作をしている。
「クソッ・・・来るな!! あぁぁぁ! 自由に人を殺していいって、魔物のせいになるからいいって、だから・・・だから!!」
突如、そう犯罪じみたことを、罪の自白とも捉えることのできる文を、大声で叫んだ。
その後何とか立ち上がり、後方を気にしながら、何かから逃げるように全速力で駆け出し、そしてーー突如胸部から出血、まるで噴水のように血が外へと排除され、彼は自らの血溜まりに倒れ込んだ。
「・・・死んだ・・・のか?」
「今・・・今何が!?」
男の意味深な発言、恐らく何か、隠蔽された何かがあるのだろう。
しかし今はそれどころではない。
あれだけ怯えて、そして突如致命傷を受け、絶命。
三人の目の前で起きた不可解な出来事、彼をあの状態へと追いやった何かをまるで認識することができず、なにか手がかりはないのかーー三人は男の向いていた方へと目を向ける。
「・・・何もないな」
「そういえば、ここにも魔物全然おらんな」
そう、この周辺にも魔物の姿はない。
あれ程いたはずの魔物は一体どこへと消えてしまったのか、消えてくれるに越したことはないが、しかし気がかりで仕方が無い。
「ん? 何だ?」
「・・・どうした?」
するとここで、後輩が何かを発見したのか、ある一点を見つめている。
「ほら・・・あそこに・・・」
そう言って指を指す、その方向には何もない。
「・・・お前何が見えてーー」
「ほんまや・・・なんかおる」
「あなたまで・・・ここには何にもな・・・い・・・ん? 何だ?」
さっきまで、どうしても捉えることができなかった、そこにはなかったはずの何かが、気がつけばそこに。
「あれは・・・子猫やな」
「しかし黒い猫なんて、少し不気味だな」
ーーチリンーー鈴の音とともに、猫が「にゃ」と一回鳴いた。
ーードサリ
横を向くと、後輩が地面に寝転がっているのが見えた。
それを見て、「何してるんや」と少し微笑むと、次第に自分もそうしたい気持ちが強まり、いつの間にか自分も、仰向けに、地面に寝転がっていた。
ーーチリン、チリンーー
見上げると、彼らの目に映るものーー美しい夜空、ポラリスだろうか、際立って輝く光の周囲を、薄っすらとした光が、それが一面に広がっている。
明るい星、やや霞がかったように見える星、それらが点在し、しかしどこを見ても、凄く穏やかだ。
「きれいな、夜空やな・・・」
「・・・そうだな・・・さっきまでの事が、まるで嘘みたいに、心が満たされる・・・な」
下位互男はヤクザに同調し、そして後輩へと話を振る、がしかしーー。
「こいつ、寝てやがる・・・」
「ははは・・・まぁ、仕方ないやろ。こんないい景色、人生初やし・・・あぁ、生きてて良かったわ」
「・・・それも、そうだ」
「それに俺も、瞼が重くなってきて・・・きっとぐっすり寝れるわ」
そうしてヤクザは大きくあくびを、それにつられて下位互男も小さくあくびをする。
ーーチリン、チリン、チリンーー
「ほな・・・しばしおやすみ・・・」
[雑談]明日は一応ハーフアニバーサリー的な記念日なので、更新しようと思っています。
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[予告]次回の更新は、16日を予定しています。




