二章ー38 選択
クラスレッド・ブラスト
「< 赤魔術・疾雷 >」
魔王の企み、それが何かはわからない。
だが少なくとも、人々やこの世界にとって、良い事をしようとしているわけではないのは確かだ。
だからこそ、エヴィリオはそれを阻止しようとする。
今、危険な液体が何かと反応を始める前に、
これは間に合った、ギリギリだが間に合った、そう思ったのだがーー魔術が発動しない。
何故だ、そう考える間にタイムアップ、その怪しい液体は地面との接触を果たした。
だがエヴィリオは諦めず、また改めて魔術の構築を開始、せめて少しでも相手の思惑を潰してやろうとするがーー
ブラスト
「ーー < 赤魔術・疾雷 >」
しかしやはり、何も起きない。
「魔術が発動しない、じゃと? もしや・・・優先実行権限ーーリソースの強奪、か? ということは・・・まさか、これはーー」
エヴィリオは何かに気づいた。
それは有り得ないと、自らの説を否定しつつもやはり、それが正しいとしか考えられない。
「不完全ではあるが、しかしそうとしか考えられない・・・」
「流石に博識ですね・・・なら分かっているかとは思いますが、もう何をしても無駄なので、あなたはそこで大人しくしていてください」
自分の中で説が二転三転、尚も珍しく混乱しつつあるエヴィリオに対し、魔王は
そしていよいよ何かが始まったようで、魔王の周囲に何か不思議で、幾何学的な模様が黒く、いや赤く、刻まれていっている。
それの外形は円であり、その中に、複雑な何かが刻まれているのだ。
「これも・・・見過ごしていいのか? まだ、なんじゃな?」
「・・・自問自答なら静かに、そして声に出さずにやっていてください」
するとエヴィリオは頷いて、いや、最早諦めてしまったのか、事の成り行きを何をするでもなく、ただ沈黙のままに傍観している。
一方の魔王はいよいよ模様の刻印が終わったようで、続いて詠唱へと入る。
「”風化 集積 相反 結合 刻削”」
一段目、円の周縁部の模様が反応。
不意に、世界が静まったような、まるで音という概念が消失したかのような、そんな不気味さが襲ってきた。
だが、エヴィリオはまるで魔王から、その事象から目を離さない。
「”魔獣 魔縁 魔王 魔剣”」
二段目、中央の模様が反応。
いよいよ何か強大な、得体のしれないものを感じる。
しかし同時に、一切の曇もないような、そんな清々しさを感じた。
「”進化 蹂躙 逆鱗”」
三段目、魔王の立ち位置周辺、まさに中央部が濃く反応。
先程までの不気味さがより一層深まり、またより一層の重々しさも感じるようになった。
「・・・・・・」
そして最後に、魔王はこう締めくくる。
カロ・パラジア
「< 召魔壊躙 >」
その瞬間、先程までの不快感がすべて吹き飛んでいった。
そしてまた、音という概念も特急気味に戻ってきたため、まだ少しの違和感が、エヴィリオの中にはある。
「終わった・・・ようじゃな」
まさにその通り、そして外では、顕著な変化が見られるようになった。
世界中から集められていた魔物、それらは今、数体のハイランクの魔物へと成った。
姿、そして体長はそれぞれで、しかしどれも、今までの比ではない程の脅威であることは、最早疑いようがない。
また、それから漏れた魔物たちは、それぞれ思うままに都市へと向かう。
ここで漏れたと言いつつも、その数およそ五百。
もうここまでくれば、笑うしかないのかもしれない。
「確かに凄まじいが・・・これだけではないんじゃろ?」
エヴィリオの指摘、これは鋭く事象を観察できているのか、それともただの思い過しなのか、しかし魔王は笑ってごまかす。
「さぁ、ではもう少しだけ、続けましょうか」
結局、有意な返答が為されないまま、魔王はまたエヴィリオとの攻防戦を開始させた。
〜中央区〜
中央区ーーその名の通り、王都の中央に位置する区域であり、名門の貴族やラヴィア城など、上流階級の人間の居住する区域となっている。
ユウとマブロ、二人はようやく中央区の入り口付近へと到り、城も視界の端にしっかりと捉えた。
すると、城よりもはるか手前、中央区と所謂城下町との境界に、人々が密集している。
そしてどうやら、中の人間と口論しているようである。
「おいっ!! ここを開けろ! 開けてくれ!」
「子供もいるんです! お願いします!」
「魔物が来てるんだ!!」
外の人間が必死に訴える。
「だから何だ! 普段、俺たちの金で国をまわしてんだ!」
「ならばそんな我々を敬い、身代わりとなるのは国民の当然の義務だろ?」
貴族たちの主張としては、大方この二つと同じだ。
「もしかして、というよりも、やっぱり・・・一般の人達が締め出されているな・・・」
そんな馬鹿なと、緊急時くらいは手を取り合うのかと思ったが、しかしどうやら貴族たちが、一般人を中央区へと侵入させないようにしているらしい。
「まったく・・・」
ユウは呆れて言葉も出ない。
しかしそれではいけないと、彼らの元へと歩み寄り、文句を言ってやろうとするが、それをマブロに止められてしまう。
「待て! 君が行っても多分状況は変わらない。武力で解決しようとしているのならばまだしも、まともな話し合いをしようとするのなら、それは時間の無駄だ。断言しよう」
「そんな事言われても・・・じゃぁ、どうすれば?」
するとここで、いよいよ魔王の準備が完了した。
魔物たちが、ようやく待ちわびたと言わんばかりに、侵攻を開始したのだ。
「魔物の気配が・・・これは・・・何だ?」
「・・・どうやら、いよいよ魔物が我々を滅ぼしにかかるみたいですね」
「!!」
問題は増え続ける一方。
人間が素直に協力し合えない、それが今仇となり、自らを窮地へと立たせたのだ。
そして、それが真実ならば尚の事、早く避難を完了させ、魔王の元へと向かわなければいけない。
さて、どうしたら最も効率がいいか、悩み決めかねていると、マブロは提案をする。
「ユウ君、君は先に城へ、魔王の元へと向かってくれ! そして、元凶を絶ってくれ! その間こちらは全力で人々を守ろうではないか! ・・・どうだい?」
「そう・・・ですか・・・?」
「あぁ。適所適材ってやつさ。貴族に口をきけるのは、貴族だけだしね」
迷っている余裕はない、ユウはすぐに了解した。
今、一体どのような状況なのか分からない。
なのでとにかく早期に解決することが目指されたのだ。
「じゃぁユウ君、できるだけ早く駆けつけるが・・・できればその前に終わらせてくれるとありがたい・・・お互いに頑張ろう」
こうして二人は、途中別々の方向へと走り出した。
〜東区〜
「ザックさん、結構頑張りましたね」
地面に臥すザックに、ランはそれを見下ろして、笑みを浮かべて投げかける。
しかしザックは息が上がってしまっている、返事どころではない。
「卑怯だとか、言わないで下さいね。僕たちだって、これで一チームですから」
「・・・強すぎるだろ」
この笑えない状況に、魔物の声とランの笑い声とはよく響いた。
[雑談]結構終盤のほうまで来ましたね〜
もうそろそろ! ですね。
[ブクマしましょう!!]
[予告]次回の更新は、28日を予定しています。




