二章ー36 蹂躙
ギルドに着いた。
外見は何ともなく、いつものそれだ。
だが一転、中に入るとそこにあったのは、惨状だった。
惨状と一概に言っても、例えば阿鼻叫喚といったような、悲鳴やらが入り乱れるような、そんな現場ではなく、ただ静かに、ただ静かに絶望を迎えていた。
ギルドには、未だに人がいた。
そもそもここは冒険者の言わば拠点なのだから、それもそのはず。
慌ただしく業務に追われていた受付嬢、戦力の把握がまともにできておらず、頭を抱える管理職の人達、それから中央へは行かずに逃げ込んできた一般市民、みんなみんな、ただ眠っているようだった。
ユウは、頭で考える余地などなく、すぐに駆け寄ろうとする。
だが、それを予期してかマブロが静止する。
「・・・待て」
「っ! どうして・・・ですか・・・すぐに状態を見ないと・・・」
「状態を見て・・・その後はどうするんだ? 君は彼らを治せるのか?」
「それは・・・」
冷静さを欠いたユウには、マブロの冷静な言葉が強く刺さった。
口ごもるよりほかない。
しかしマブロもどこか平常ではなかったことを悟り、「すまない」とユウに一言謝りを入れ、そして自らギルド内へと進んでいく。
「マブロさん!」
「・・・君はここにいてくれ」
マブロは中に入り、最も手前にいた男性の元へと向かった。
しゃがみこみ、まずは男性の手のひらを上に向け、三本の指をあてて脈を調べているようだ。
その後しばらくそのままで、ようやく立ち上がったと思ったら、周囲を見回す。
そしてゆっくりこちらへ戻ってきた。
「・・・」
戻ってきて、しかしマブロは未だ黙っているので、ユウはどうしようかと様子を窺う。
「えっと・・・・・・どうでした?」
ユウは恐る恐る尋ねる。
するとマブロは何も言わず、ただ首を横に振る。
「・・・!」
「・・・どうやら毒ガスが撒かれたようだ」
「毒ガス!? そんなものが・・・どうして?」
「あぁ・・・ただ、今の技術では到底これを作ることはできない。賢者の作りしものだ」
「・・・賢者?」
「・・・この国のこの繁栄は、殆ど賢者によってもたらされたものだ。そして、賢者がこの地を去った今、それらはどうやっても作ることができず、我々はただ与えられたものを修繕しながら、使い続けているんだ」
確かにユウもこの国の発展度合に、また元いた世界で使われていたもの・文化が見られたことに、かなり驚いたが、まさかそれの殆どが賢者のもたらしたものだとは、賢者とはどのような人物なのか、ますます謎が深まった気がする。
「賢者は多くのものをもたらした。しかしやはり、それを理解することはできなかった。画期的な兵器に未知の物質、次世代のノウハウに・・・神の御業とも見紛うほどの魔ーー!!」
そこで、マブロは急に抜刀して駆け出した。
「何だ!?」
ギルドの裏手へ向かうマブロ、そしてその先に一つの人影を見た。
その後すぐにユウの視界からマブロが消えたが、しばらくして戻ってきた。
もうその手に剣は握られていなかった。
「クソッ・・・逃げられたか・・・」
「いきなりどうしたんですか!?」
「今、そこにヤザがいた」
「!!」
「もしかしたらこれは・・・彼の仕業、かもしれない」
「でも、一体なんの為に?」
ヤザ、未だに逃亡を続けている人物であり、極悪人とされている。
だがユウは、彼もエヴィリオと同じように、実は悪人ではないのではないかと思ったが、しかしここに現れたことで、どちらか判断がつかなくなってしまった。
「それは勿論、魔王のため、だろう」
「魔王の・・・」
ユウが考え込んでいると、中央から見て東から、恐らくマブロの手下と思わしき人物等がやってきた。
「マブロ様!」
「お前たち・・・丁度いいところに。例のは?」
「たった今、完了しました」
「そうか・・・他とも情報を共有、少人数で捜索部隊を組織、残りはお前たちも含め引き続き、元の場所に」
「了解です」
そしてすぐに、それぞれ散っていった。
「君も、この国で誰が糸を引いていたか、それはもう知っているんだろ?」
「!! それは・・・」
「城へ攻めよう。・・・それしかない」
マブロは真っ直ぐユウを見る。
迷いはまるでないようだ。
しかしユウはそうではなく、どうしたらいいか、それが分からない。
「・・・」
するとマブロは改めてユウの名前を呼び、そしてーー
「・・・君の力が必要なんだ」
この一言で、ユウは決断した。
必要だと言われた、それがただ嬉しかった、そんな単純な気持ちが原動力になった。
「さぁ・・・行こう」
こうして二人はいざ、魔王の待つ城へと向かう。
〜ラヴィア城・玉座の間〜
クラスレッド・アクアクロス
「< 赤魔術・水十斬撃 >」
クイック
「< 速射 >」
魔王は魔力のこもった水の斬撃を、縦に一撃、横に一撃、連続で放った。
しかしエヴィリオは単純な< 速射 >で相手の魔術行使とほぼ同時に発動、二撃とも防いだ。
(クッ・・・やはり強い・・・!!)
などと魔王が思考しているうちに、エヴィリオは急接近、魔王は焦りながらも咄嗟に反応し、やや後退して迎え撃つ。
クラスレッド・ファイア
「< 赤魔術・火炎 >」
クラスレッド・マブリ
「< 赤魔術・黒炎 >」
クイック
「< 速射 >」
初手で放って魔術は魔王に何とか対応され、しかし間髪入れずに放った次の一手は、しっかりと魔王の腕を捉えた。
これには魔王も対応が間に合わず、低火力ながらもそこそこのダメージが入った。
「速ーー」
「遅いわい < 剣技・刹那 >」
「!!」
そして魔王が文句を言う暇もなく、エヴィリオは更に剣撃をやや強引にねじ込んだ。
その斬撃は相手に防御の余地を与えず、そして魔王ですらそれを捉えることはできなかっただろう。
「お前さんは、昔から剣術がだめじゃったからのぅ・・・」
すると次の瞬間、またなにか異変が起きた、それをエヴィリオはまたすぐに察知した。
「今度は何じゃ・・・」
「・・・。時間ね」
魔王はにこやかに、そう言った。
また傷はもう既に癒えていた。
「魔物に攻撃司令を出しました・・・これで待機していたもの全てが、一斉に攻撃を開始します」
「何じゃと?」
「さぁ、蹂躙の時間よ」
〜東区〜
活気に溢れていたはずの場所、しかし今はそうではない。
そしてそこで、 ただ呆然と立ち尽くす男が一人いる。
「・・・何で・・・どうして・・・」
そんなことをずっと繰り返す。
今は幸い魔物は来そうにないので、他に何にも気にせず、繰り返す。
「どうして・・・」
男の足元には、さっきまで一緒に戦っていた、仲間の冒険者が、誰ひとり欠けることなく転がっていた。
「どうして・・・」
[雑談]二章は来月くらいで終わりですかね?
しっかりスキマ時間等使って執筆します!
[ブクマしましょう!!]
[予告]次回の更新は、22日を予定しています。




